今日の話は、昔書いたブログの改訂版です。長崎県五島沖の海域を韓国とどう分け合うかという問題です。

 

 日本と韓国との間には、この海域の大陸棚を分け合う協定があります。日韓大陸棚南部協定というものです。1978年に発効し、50年の効力があります。当時の国際法の考え方は「自然延長論」でして、沿岸国は自然に延長している大陸棚に権原を有するという考え方です。分かりやすく言うと、韓国は日韓の中間線を越えて沖縄トラフまでがうちの大陸棚だろ、と交渉で主張しました。そして、最終的には中間線から日本側だけに共同開発区域を設けました。当時の国会審議はさすがに大荒れに荒れて、複数回の国会審議を経てようやく承認されております。画像で見てもらうとよく分かります

 

 ただ、その後、国連海洋法条約が合意され、「中間線」をベースに考えるのが衡平な解決だという方に移っていきます。嚙み砕くと、海底地形にかかわらず、分け合いのベースは中間線から始めましょうという事です。国際司法裁判所の判決も概ねこの方向に沿ったものになっています(つまり、日韓大陸棚南部協定締結時の考え方は古くなったという事)。さて、上記に「50年の効力」と書きました。協定終了3年前から、協定を終了させる意思(+再交渉する意思)を通告する事が出来るようになっています(つまり、2025年)。この協定をどうするかは、そろそろ考え始めなくてはなりません。

 

 さて、この画像が一番現状を理解しやすいのですが、正確性には欠けるので、私は自分で南部協定第2条の点をすべてGoogleマップ上に打ってみました。そして、中間線に当たる部分の日本側基点は何処かと距離を測ってみたら、長崎県の肥前鳥島(の北小島)でした。この島が無いと仮定すると、使える基点は男女群島か福江島になるので、もっと日韓中間線は日本寄りになってしまいます。

 

(注:一昔前は条約に書いてある地点を自分で打って作図しようなどと思いもしませんでしたが、Googleによってこういう事が可能になりました。)

 

 ここまでは冒頭の過去ブログにも書きましたし、実は外務省も比較的情報が出やすかったです。しかし、同じような視点で(大陸棚ではなく)日韓漁業協定を語り始めると急速にガードが上がりました。1999年に発効した日韓漁業協定では、竹島を含む海域を暫定水域として領有権の話を切り離しています。画像で見ていただくとよく分かります。この過程で韓国側から「竹島を暫定水域に入れる代わりに、(本来中間線から日本側であるはずの)好漁場である大和堆を暫定水域に入れてくれ。」と言われ、実際に含めました。暫定水域は日韓双方がそれぞれのルールできちんと漁をする事が前提なのですが、韓国の漁業関係者はあちこちでムチャクチャやって資源枯渇を招いています。例えば、鳥取県境港市の港に韓国漁業関係者が放置した膨大なカニ籠の残骸が積んであるのを見た事がありますし、歴史的に大和堆で漁をしていた石川県等の漁業従事者の方が非常にご苦労しておられます。

 

 そして、この図の中でもう一ヵ所暫定水域を設けている場所があります。長崎県沖です。こちらについても、日韓漁業協定第9条2にある暫定水域の点をすべてGoogleマップ上に打ってみました。打ってみるとよく分かるのですが、長崎県沖の日韓漁業協定暫定水域は、その大半が日韓中間線の日本側です(僅かながら韓国側にはみ出している部分があります)。こうなった理由について私は交渉経緯を知らないのですが(本当に知りません)、竹島の領有権棚上げへの対価ではないかとも言われています。

 

 そして、ここからが重要なのですが、この暫定水域について外務省に聞いた所「境界線に関する双方の主張が異なることから、双方の主張を勘案しつつ、暫定水域を設定した。」との回答でした。もう一度繰り返すと、この海域での日本の基点は肥前鳥島です。要するに韓国側が肥前鳥島を基点とする境界線の設定を受け入れず、それを勘案して、(肥前鳥島を基点とした中間線から日本側に入った所に)暫定水域を設けた、という事を言っているように聞こえます。

 

 では、その韓国側が肥前鳥島が基点である事を受け入れない理由は何かと言うと、恐らくは国連海洋法条約における島の定義を拠り所にしているはずです。というか、これ以外に考えられないのです。

 

【国連阿海洋法条約】

第百二十一条 島の制度
(略)
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 

 つまり、韓国は「肥前鳥島は岩だから、漁業協定を締結する根拠となる排他的経済水域を有しない。なので、漁業協定の中間線を測る時には考慮に入れない。」と主張したのではないかと推察されます。そして、それを日本がある程度受け入れたという事になったのではないかと懸念しています。

 

 ここで、冒頭の日韓大陸棚南部協定に戻ります。仮に日本が延長せず再交渉になると仮定する時、もう韓国が自然延長論を主張して来る事はないでしょう(あるかもしれませんが)。そうではなくて、「肥前鳥島は岩じゃないか。だから、日本側が主張する中間線ではなく、もっと日本側に寄った場所で中間線を引くべきだ。」と言って来るような気がします。上記のような思考を巡らせてみると、どうしてもそんな懸念を持ってしまうのです。

 

 韓国はかつて中国との間にある暗礁「離於島(イオド)」は、排他的経済水域や大陸棚を持つ領土だと主張していました。しかし、この(荒唐無稽な)主張はもう取り下げています。そして、返す刀で沖ノ鳥島や肥前鳥島は「岩」だと主張してくるような気がしてなりません。あえて、ここで強調しておきますが、「沖ノ鳥島(の法的ステータス)」にも波及するテーマです。

 

 纏めると「今後5年以内に日本と韓国との間で大陸棚を分け合う協定の再交渉があるかも。その時、長崎県五島沖にある肥前鳥島が(国際法上の)『島』なのか、『岩』なのかで激しい議論になるだろう。そして、ここで引いたら日本のダメージは甚大なものがある。」という事ですかね。本件、日本では全く議論になりませんけど、韓国側はかなり意識している感じがあります。近々、韓国報道関係者が私の所に取材に来られますので。