「ラグビーのゲーム性」 | 井上正幸のブログ

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ラグビーとは、ゲームであるために「相手に勝つためにプレイを選択していくもの」であるが、相手に勝つよりも自分たちのプレイの精度にこだわって、相手がどうであれ自分たちが「これをしたい」と考えるチームが多いように思う。

相手に対して自分たちはどう戦うのかと考え、ゲームの早い段階で相手の意図を読み取り、自分たちでプレイを選択していく必要がある。すなわち、相手と駆け引きをしながら戦っていかなければならない。
駆け引きとは、局所的には「サインプレイにおける駆け引き」といったものがありそれには馴染みがあると思う。簡単なもので言えば、今流行りのダブルラインといったものがあるが、そういった駆け引きはゲームに大きな影響を及ぼさない。なぜなら防御が組織化されているので1回のゲインがトライに結びつかないし、ダブルラインではどちらにパスされてもいいように両方ノミネートするという具合に局所的な駆け引きは対応しやすいものであると言える。

では、ここで言う駆け引きとはどういったものであるか。
具体的な事例を挙げて紹介していきたいと思うが、昨シーズンのトップリーグのセミファイナル「神戸製鋼対サントリー」 の試合において、サントリーは前半、シェイプという攻撃システムを用いて、インサイド(ブレイクダウンからスタンドオフまでのスペースを攻撃して順目側のインサイドのポジショニングを遅らせてスライドシステム(防御が内側から外側にターゲットを変えていくシステム、ドリフトディフェンスとも呼ばれる)が機能しない状況を作り、速い段階でミッドフィールド(スタンドオフからアウトサイドセンターまで)やアウトサイド(アウトサイドセンターより外側)へボールを運ぼうとしていたが、神戸製鋼のアウトアイドセンターのジャックフーリー選手が、アンブレラディフェンスという内側の防御より外側の防御が飛び出すことで外側のパスを封じるシステムを用いて、前半サントリーの攻撃をことごとく封じていた。
サントリーは前半30分、プレッシャーのかかっているミッドフィールドやアウトサイドを攻撃せずに、プレッシャーのかかっていないインサイドに攻撃を集中させるためにハーフをブレイクダウンからボールリサイクルの速い日和佐選手、スタンドオフに自身がランナーとなって防御を突破できるピシ選手に交代させて、連続的なインサイド攻撃から完全に防御を崩して逆転に成功した。
また、神戸製鋼の防御はサントリーの攻撃が順目側に集中しているために、防御も順目側に集中させていたが、それを逆手にとって逆目を攻めるオプションでも2本サントリーはトライを取ることに成功した。
相手の攻撃や防御の意図を読み取り、それを駆け引きの道具として逆手に取って戦ったサントリーは神戸製鋼よりも一枚も二枚も上手であったと考えれる。前半、サントリーのチャンスの芽を潰していたフーリー選手が後半も出ていたとしても、攻撃オプションが変わっているので同じような活躍はできないと考える。