オーヤマサトシ ブログ
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2023年に観たもの聴いたもの



写真は、北とぴあの展望スペースから望む北区の町並み。



いま振り返ると、エンタメ的にも私生活でも色々ありすぎて、率直に言ってなかなかしんどい1年だった。

本当は例年通り特によかったエンタメについて簡単に振り返ろうと思ってたけどそれすらも億劫になってる始末。リストもとりあえず作成するだけで疲れてしまって、表記ゆれを直す気力すらないのが情けない。話したいことは山ほどあるけど、なかなか言葉になっちゃくれないよ。藤原基央の言葉に今さら深く共感してしまう。

そんな年だったからこそ、2023年もエンタメにたくさん救われた。各所に足を運んで、さまざまな表現やエネルギーを浴びることで、なんとか息継ぎしながらやり過ごすことができた。
来年はやり過ごすだけじゃなく、自分にできること・自分がしたいことをもう少しちゃんと考えて、行動にうつしていきたい。さすがに認めるけど、俺には自分を信じる力がなさすぎる。きっと大丈夫だよ。そろそろがんばれ。



最後にひとつだけ。鎌田さん、やっぱ早すぎです。舞台を観てあんなに笑い転げること、この先あるんだろうか。ナカゴーもほりぶんももう観られないの、いやだ。

~~~~~~~~~~~~~~~
1/3 香取慎吾「WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-」@ 渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールA
1/7 THE GREATEST SHOW-NEN 舞台『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』東京グローブ座
1/15 『ザ・ビューティフル・ゲーム』 @ 日生劇場
1/21 香取慎吾LIVE『Black Rabbit』 @ 有明アリーナ
1/22 香取慎吾LIVE『Black Rabbit』 @ 有明アリーナ
1/29 絶対♡福井夏 vol.3 @ スタジオ空洞
2/4 大竹伸朗展 @ 東京国立近代美術館
2/7 JUNK20周年記念イベント①爆笑問題カーボーイ25周年ライブ~ついでに馬鹿力~ @ LINE CUBE SHIBUYA(出演:爆笑問題、ゲスト伊集院光)
2/9 Buffalo Daughter @ 晴れたら空に豆まいて
2/11 木ノ下歌舞伎『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』 @ あうるすぽっと
2/18 東葛スポーツ公演『ユキコ』 @ シアター1010/稽古場1
2/25 やっと会えるね!『NAKAMA to MEETING Vol.2』 @ 国立代々木競技場第一体育館
3/3 POLYSICS「POLYSICS 25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~」 @ 渋谷CLUB QUATTRO
3/4 POLYSICS「POLYSICS 26th Anniversary Live ~P2P~」 @ 渋谷CLUB QUATTRO
3/5 『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』 @ SO TABLE KOBE 0330(リモート)
3/11 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』 @ KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
3/25 ミュージカル『おとこたち』 @ PARCO劇場
3/26 2022年度 ENBUゼミナール卒業公演『皮』 @ 『劇』小劇場
3/27 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST LIVE TOUR 2023 POWER』 @ 横浜アリーナ
4/1 吾妻光良『ブルース飲むバカ歌うバカ(新装版)』発売記念 サイン会+トークショー+ミニライブ @ タワーレコード渋谷
4/5 オノ セイゲン&晴豆 presents 11MHz DSD/Nu 1 試聴体験会 vol.6~feat.Buffalo Daughter @ 晴れたら空に豆まいて
4/8 香取慎吾LIVE『Black Rabbit』 @ NHKホール
4/12 ボブ・ディラン "ROUGH AND ROWDY WAYS"WORLD WIDE TOUR 2021 - 2024 @ 東京ガーデンシアター
4/22 明日のアーの新喜劇「親切な寿司屋が信じた『3000万あるんですけど会ってもらえますか?』」 @ 木馬亭
4/22 こまつ座『きらめく星座』@ 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
4/23 ジャニーズWEST「虹会」@ オンライン
5/3 ナカゴー 特別劇場『ひゅうちゃんほうろう(再演)』@ 北とぴあ 14階 カナリアホール
5/3 ナカゴー 特別劇場『もはや、もはやさん(再演)』@ 北とぴあ 15階 ペガサスホール
5/4 夜叉ヶ池 @ PARCO劇場
5/6 J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S CHRIS PEPPLER EDITION @ 六本木ヒルズアリーナ(ao、Ichika Nito & The Toys、君島大空、Cornelius、Bialystocks)
5/10 ドレスコーズ/小西康陽 @ 渋谷CLUB QUATTRO
5/13 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST LIVE TOUR 2023 POWER』 @ 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
6/3 日比谷音楽祭 2023 @ 日比谷公園(WONK、四家卯大ほか)
6/24 【未来につなぐもの】Ⅲ 楽園 The Blissful Land @ 新国立劇場 小劇場
6/25 伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展 @ 弥生美術館
6/25 横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes @ ギンザ・グラフィック・ギャラリー
6/25 坂本慎太郎 LIVE2023 in HIBIYA @ 日比谷公園野外大音楽堂
7/8 Buffalo Daughter「Buffalo Daughter 30周年記念企画第三弾・京都編」 @ 京都メトロ(出演:Buffalo Daughter、空間現代 Guest:山本精一)
7/15 EPAD Re LIVE THEATER in PARCO ~時を越える舞台映像の世界~「NODA・MAP番外公演「THE BEE」Japanese Version ジャパンツアー」(2012年上演/デジタルリマスター上映) @ PARCO劇場
7/16 EPAD Re LIVE THEATER in PARCO ~時を越える舞台映像の世界~「笑の大学」(2023年上演/8K+立体音響上映) @ PARCO劇場
7/29 香取慎吾LIVE『Black Rabbit』 @ ぴあアリーナMM
7/29 範宙遊泳『バナナの花は食べられる』 @ KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
8/5 チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』 @ 吉祥寺シアター 劇場
8/6 MOTコレクション 被膜虚実 @ 東京都現代美術館
8/6 被膜虚実 特集展示 横尾忠則―水のように @ 東京都現代美術館
8/6 生誕100年 サム・フランシス @ 東京都現代美術館
8/6 ZAZEN BOYS「MATSURI SESSION」 @ 日比谷公園大音楽堂
8/9 SHIBUYA CLUB QUATTRO 35TH ANNIV. “NEW VIEW” ヒカシュー結成45周年記念ライブ ~ヒカシューの凸凹ヒストリー全方位LOVE日和~ @ 渋谷CLUB QUATTRO ヒカシュー 日比野克彦によるスペシャルインスタレーション 共演:纐纈雅代 / 大友良英 / マリアンヌ東雲 / 高木完 / 立花ハジメ
8/11 エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと @ 東京芸術劇場 シアターイースト
8/12 メルセデス・アイス MERCEDES ICE @ 世田谷パブリックシアター
8/20 SUMMER SONIC 2023 @ ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ(ジャニーズWEST、CIMAFUNK、ケンドリック・ラマー、リアム・ギャラガー、柳家睦とラットボーンズほか)
8/23 小西康陽「小西康陽・東京丸の内」 @ COTTON CLUB
9/10 The Condition Green vol.2 @ 晴れたら空に豆まいて(Buffalo Daughterほか)
9/30 Cornelius 夢中夢 Tour 2023 @ LIQUIDROOM
10/1 サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ2023」ライブ・ビューイング @ TOHOシネマズ ららぽーと富士見
10/13 Cornelius 夢中夢 Tour 2023 @ KT Zepp Yokohama
10/14 LIVE AZUMA 2023 @ 福島県あづま総合運動公園(電気グルーヴ、思い出野郎Aチーム、YOUR SONG IS GOOD、きゃりーぱみゅぱみゅ、羊文学ほか)
10/22 アー「アーの9」 @ 東京都大田区西糀谷2丁目22−2
11/3 「横尾忠則 寒山百得」展 @ 東京国立博物館 表慶館
11/5 宇川直宏展 FINAL MEDIA THERAPIST @DOMMUNE @ 練馬区立美術館
11/5 「THE FINAL MEDIA DOMMUNE」~SPECIALライヴストリーミング11 <公開生収録!!>FINAL MEDIA THERAPIST @DOMMUNE audible Presents 「DOMMUNE RADIOPEDIA」【大百科109】〜 超文化大百科!! season 5-5 聴く文化融合!! 菊地成孔と大谷能生の「XXX et XXX」〜DOMMUNISM的接続【第5巻】「バート・バカラックと世界のデパート」 @ 練馬区立美術館
11/6 FRUE presents Tim Bernardes / 坂本慎太郎 @ WWWX
11/17 『POLYSICS,四星球 ツーマンライブ ~炸裂!秋の夜長にトイス&ブリーフ!~』 @ 下北沢CLUB Que
11/21 Buffalo Daughter 30th Anniversary Final x Essential Tremors Tokyo @ (Buffalo Daughter + ゲスト(小川千果、松下敦、茂木欣一、小松正宏)/tamanaramen/Party Dozen(from オーストラリア) DJ: 山本ムーグ VJ: onnacodomo)
11/25 『NOISES OFF』 @ EX THEATER ROPPONGI
12/9 城山羊の会『萎れた花の弁明』 @ 三鷹市芸術文化センター星のホール
12/22 スキマスイッチ 20th ANNIVERSARY "POPMAN’S WORLD 2023" & スキマスイッチ 20th ANNIVERSARY "POPMAN’S WORLD 2023 premium" @ 日本武道館
12/24 菊地成孔 3DAYS デュオ with 大友良英 @ 新宿ピットイン
12/28 DEPAPEPE「今年も急でごめんね忘年会ライブ2023!!」 @ 原宿ストロボカフェ

ジャニーズWEST『むちゃくちゃなフォーム』――真駒内で神山智洋の歌にぼろぼろ泣いた日のこと



<アルバム『POWER』における7人のボーカルの貢献>

アイドルという人たちは、そのキャリアの中で多種多様なジャンルの楽曲を歌う。ジャニーズWESTの現時点での最新アルバム『POWER』にも実にバラエティに富んだ楽曲たちが収録されている。そしてメンバーたちは当然のようにそれを歌いこなすことを要求される。

「歌いこなす」とはどういうことか。シンプルに言えば、その楽曲が要求するボーカルをボーカリストとして提供するということになるだろう。そしてそれは『POWER』のすべての楽曲において着実に達成されている。



ところでグループのメンバーであり優れたソングライターでもある重岡大毅さんは、自身が手掛けた楽曲のレコーディングに際してメンバーひとりひとりに楽曲に込めた想いや意図を手紙で伝えるのだそうだ。その詳しい内容は明かされてはいないけど、メンバーは重岡さんから受け取った言葉も重要な指針として、レコーディングに臨むはずだろう。

とは言え、どんな言葉を受け取ったとしても、最終的に歌うのは各メンバー自身である。楽曲に対して自分の持つスキルをどう使ってどう表現するか、その結果生まれたボーカルは、歌い手による楽曲に対する批評でもある。つまり各メンバーが「楽曲をどう解釈したか」、その回答が実際に録音されたボーカルに表出しているのだ。

今回重岡さんが作った『むちゃくちゃなフォーム』という楽曲において、7人の歌の貢献度はとても大きいのだけど、そもそもこの曲はメンバーにとって、決して簡単に歌いこなせるものではなかったのではないか。

例えば歌割りひとつとっても、冒頭で最年長の中間淳太さんに<いま 僕は大人になれますか>というある種の未熟なナイーブさを、その直後に最年少の小瀧望さんに<無茶をする歳じゃないし>という老成した焦燥をそれぞれ歌わせていて、ふたりに年齢的立場で言えば逆のメッセージを歌わせている。

またラストの大サビまでメンバー同士のユニゾンがなくソロパートのみで繋いでいく構成もこれまでにないもので、この曲は色々な面でメンバーにまた新たなフェーズのハードルを課した構成になっていると思う。

では結果的にどうなったか。完成した録音物を聴けば、この曲を成立させるうえで7人の歌の貢献度の大きさがよくわかる。この曲を血の通った音楽として成立させているのは、紛れもなく7人の歌の力である。



中でももっとも驚いたのは、神山智洋さんの歌だった。

「器用」「マルチ」「何でも出来る」という枕詞を与えられることの多い人だけど、グループでの歌唱や自身が作る楽曲、また『LUNGS』『幽霊はここにいる』といった舞台を通して彼の表現に触れるたびに、彼の中には強烈な表現の核のようなものがあって簡単なことでそれは揺るがない、本質的にはむしろそういう不器用な性をもった表現者であると俺は感じている。(その上で「何でもこなせる器用な才人」でもあり続けていることが実は凄いのだけど)

ジャニーズWESTの表現において、彼が担うものはとても大きい。特にボーカル面では、アルバム『POWER』においても「突出して」と言っていいほど、彼の歌のスキルがアルバムの完成度を何段階も押し上げている。

その上で、というかだからこそ、あえてこの言い方をする。彼ならもっと丁寧に、もっと巧く歌おうと思えば、いくらでもそのように『むちゃくちゃなフォーム』という曲を歌えたはずだ。

でも、彼はそれをしなかった。ハナから巧さを捨てたのではない。自身の巧さやスキルを総動員しつつ、同時にそれらを手放しているようでもあるのだ。

どこまでもシリアスで、どこまでも切実。あれほど正確なピッチを保って歌える人が臆面もなく曝け出す、生々しい声のゆらぎ(まあそれでもピッチは全然保っているんだけど)。端的に言って『むちゃくちゃなフォーム』における彼の歌は、神山智洋という人の不器用さが過去最高に表出したテイクだと俺は思う。少なくとも俺はこんな彼の歌を、この曲で初めて聴いた。そして彼の歌にこんなにも心を揺さぶられたのも、これが初めてだった。



<『POWER』ツアー横浜公演で聴いた『むちゃくちゃなフォーム』の変容>

今年の3月の終わり、アルバム『POWER』を引っ提げたツアー『ジャニーズWEST LIVE TOUR 2023 POWER』を横浜アリーナで初めて観た。そのとき『むちゃくちゃなフォーム』はアンコールの3曲目、ライブの本当の終わりの終わりで歌われた。

以下、記憶を反芻しているので相違あるかもしれないけど、1番が終わったあたりで重岡さんが「おい、みんなあっちで座って歌おうぜ」というようにメンバーを促し、後方にせり上がったステージに全員で横一列に腰掛けて2番を歌いはじめた。

もちろん、そのあとに続く2番のサビは神山さんが歌った。で、その日のライブが終わって、スマホのメモに俺はこう書いた。

<むちゃくちゃの神ちゃんソロ、音源とまっっったく違った 笑顔、柔和、やさしいたくましさ 音源の切実さとはほんと違ったな>

そう、俺がこの日聴いた神山さんの歌う『むちゃくちゃなフォーム』は、音源のそれとは全くと言っていいほど違ったのだった。

実はこの日俺は制作開放席というステージ向かって上手のステージの真横、というかむしろ真横より微妙に後ろから観る席だったので、2番を歌う彼らの姿はほとんど見えず、この日2番を歌う神山さんの表情も俺にはほぼまったく見えなかったのだけど、その歌声は明らかに笑顔が思い浮かぶ、とても柔らかで朗らかとすら言っていいものだったのだ。

その歌を聴いて俺は、「そうか、ライブを経るとこの曲はこんなふうに柔和なものとして表現される曲となったのか」と、驚きとともに新鮮な納得をしたのだった。

後日ネット媒体のその日の公演のライブレポートに載った7人が横並びで座って歌う姿は、まさに神山さんの声を聴いて俺が思い浮かべた彼らの姿そのものだった。1列にならぶ、7人7様の笑顔。その光景は彼らを好きな人ならグッとこないわけにはいられない、ほんとうに素敵なワンシーンだった。

その朗らかさは俺が音源から受け取っていたものとは違ったのだけど、<ライブは生き物であり、ライブで曲は変化し成長する>ーーという使い古された定型文も、これはこれで揺るがぬ真理なのだということを痛感した瞬間でもあった。

<真駒内で神山さんの歌を聴いたときのこと>

それから2ヶ月足らず。陽光に恵まれた、5月の爽やかな風が吹く北海道・真駒内で行われたライブでも、『むちゃくちゃなフォーム』はやはりライブの最後に歌われた。

ただ、横浜で観たときと、明らかな違いがあった。2番に入っても重岡さんから特に呼びかけられることはなく、メンバーはステージ上で散り散りのまま歌い続けたのだ。

てっきりあの横並びで座るのは決まった流れというか演出だと思いこんでいたので(それだけグッとくる良いシーンでもあったのだ)、俺は「あれ? あのみんなで横並びに座る流れ、なくなったんだ?」と少し驚いた。そして曲の通り、神山さんが2番のサビを歌い出した。

彼が歌う、最初のワンセンテンス。それだけを聴いて、すぐに涙が滲み出た。そして、ああ、俺はこの声が聴きたかったんだ、と思った。

他の6人がステージ前方に並んで客席に向かって大きく手を振るなかで、神山さんは上手の端の端に置かれた岩を模した足場の上に胡座をかいて、ひとりで、歌っていた。

それはソロパートだからひとりで歌っているのだという意味ではなく、ステージ上では間違いなく7人でいるのだけど、不思議とあの時間だけは、神山さんは「ひとり」で歌っているように、俺には見えた。

時には前に屈んで、時には彼方を見つめ、時には顔をぐしゃぐしゃにしてぎゅっと目を瞑ったりしながら、彼は歌った。横浜で観たときの、笑顔が思い浮かぶ柔和さとは全く違う、音源で何度も何度も何度も何度も何度も聴いた、あの胸を掻きむしられる、どこまでも切実な歌声で。

俺はマスクの下で嗚咽を抑えるレベルでどんどん涙を涙を流しながら、彼のその声と姿を受け止めた。

横浜からこの日のあいだに、いつどのようにしてあの横並びで座って歌う演出でなくなったのか俺は知らないし、そもそもあの横並びが毎回の決め事だったのかどうかも知らない。けど、少なくとも俺が観た2回のライブでは確かに違った。そしてその違いは、とても大きいことだった。

これは優劣の話では全くないことを断った上で明言するが、横一列に並んで「みんな一緒」という見え方で歌われるのと、ステージの端の端でひとりで歌われるのとでは、シンプルにやっぱり全然違った。なんというか、楽曲そのもののちからに加えて、「その楽曲をどう歌うか」によってこんなに歌が変わることがあるのかというちょっと驚くほどの気づきがあった。

で、なぜ今回俺が落涙するほど心を揺さぶられたのかというと、このときの神山さんの歌を聴いて、『むちゃくちゃなフォーム』という曲はつまり「ひとりひとりが、それぞれひとりひとりのままでいてよい」という曲なんだと、初めて気づいたからなのだ。

<『むちゃくちゃなフォーム』が描く、ひとりがひとりでいることの尊さ>

そもそも彼らは「個性的」なんてひと言で表現するにはあまりに不十分なほどそれぞれに異なる魅力を放っていて、それこそ7人それぞれに全く違うフォームを持ち寄ってジャニーズWESTというひとつのチームとしての表現を作り上げている。

各々の違いを無闇に整えたり間引きするのではなくて、むしろ違いを最大限尊重しつつチームをやり続けるというなかなかにハードルの高いトライアルをし続けている。それが俺の目に映るジャニーズWESTの姿だ。

『むちゃくちゃなフォーム』のサビのフレーズは、最後の最後でだけ<むちゃくちゃなフォームで生きている>と現在進行形に、そして<僕らはやれるんだ>と複数形になる。これはジャニーズWESTというチームのことでもあり、俺やあなたを含むいま・ここに存在する全てのひとりひとりのことを指しているのだと思う。

それぞれがそれぞれのフォームで生きている、そのことこそを愛そうとすること。自分と違うフォームで生きる他者のことを尊重し、「いつか会えますか?」と呼びかける、そういう決して簡単じゃない、たからこそ掛け替えのないこと。

あの日真駒内のステージで、フロアに向かってめいっぱい手を振る6人と、ひとり顔をくしゃくしゃにして『むちゃくちゃなフォーム』を歌う神山さんの姿と歌声は、まさにそういうものの具現化に見えた。

ひとりでいることは、ひとりぼっちになってしまうことと同義ではない。むしろ、ひとはみんな根本はひとりである、そのことを認めるからこそ、自分でない誰かを尊重し愛することができる。7人で作るステージの上で神山さんがひとりで歌う歌声の切実さに、俺はそういうアティチュードを受け取った。もっと言えば、曲の大半をメンバーのソロ=ひとりひとりのパートで繋いで、最後にやっとユニゾンになるという構成も、この曲にとって必要不可欠なものだったのだなと今では思う。

“ひとりひとりがひとりひとりのまま7人で共にいる”、そういうジャニーズWESTがあのときステージのうえに立ち現れた。そのことにどうしようもなく泣けたのだ、俺は。

で、そのことは、神山さんにそういう歌を歌わせてしまう力が、『むちゃくちゃなフォーム』という曲にあった、ということでもある。

神山さんのこの曲のボーカルのアプローチは楽曲に対してすごくストレートで誠実で、そしてやっぱり不器用で。それこそが彼なりの「むちゃくちゃなフォーム」の表現であって、重岡さんから託された楽曲に対する彼なりの批評なのだと思う。

そして、その結果がこのすさまじい切実さであるということも含め、なんで俺は『むちゃくちゃなフォーム』の神山さんの歌声にこんなにも心を揺さぶられていたのか、その理由が真駒内のライブを観てやっとわかった気がしたのだった。

優れた楽曲とは何か? その条件はいくつもあるけれど、「歌い手の未知のポテンシャルを引き出す力」というのも紛れもなく楽曲の持つ力で、俺の中でソングライター・重岡大毅への信頼もまたひとつ深まることになった。これまで何度も思ってきたけど、つくづくすごい曲を書く人だ。



最後に。今回俺は『むちゃくちゃなフォーム』という曲と、そこでの神山さんのボーカルについて書いたわけだけど、実際はこれが×7同時並行で起きているのがジャニーズWESTというチームのすごさだ。去年初めて彼らのライブを観たときのツイートを引用する。

<初めて生でジャニーズWESTのライブを観て感じたのは、7人が各々異なるプロフェッショナリズムを持ってライブに臨んでいて、互いの違いを尊重&許容し合いながらひとつの表現を作り上げてるのだなということで、なんというか調和と歪さがいい塩梅で同居するのが魅力的なチームだなと思った>
https://twitter.com/oddcourage/status/1535958696873689089

この印象は今でも全く変わっていないどころか今回のツアーを経てより深まるばかりだ。実際、他の各メンバーに細かく言及しようとするとこの数倍の文字量になるので今回は割愛したけど、例えば『むちゃくちゃ~』で言えば、桐山さんの「この涙」のニュアンスは横浜と真駒内でまったく変わっていて驚愕したし、藤井さんと重岡さんの『ぼくらしく』も実は演出というか歌われ方がガラッと変わっていて、それにもとても驚かされたし、いくつもの発見があった。

だからつまり、俺がまだ気づけていない7人=チームジャニーズWESTの魅力というのはきっとまだまだ、たっっっっっっくさんあって、それは×7どころか今後も無限に生まれてくるはずだ。『POWER』のライブを経てそういう確信が俺にはある。

で、俺はその変化と進化を観続けていきたい。変わること、進むことを止めない歩みのその先にこそ、いまを超える刺激的で豊かなジャニーズWESTの表現がきっと待っているはずだから。

あの日真駒内でソロパートを歌い終えた神山さんは、それまでのシリアスな表情を崩して、やっと、ふわっと笑った。きっとあの笑顔も、神山さんなりの『むちゃくちゃなフォーム』という曲に対する批評だったのだと思う。ジャニーズWESTのライブにはこういう、「ああ、この場に立ち会えてよかったな」と心底思える瞬間が、いくつもあるのだ。



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ミュージカル『おとこたち』ーーそりゃ悲劇。だけど、俺は励まされました



PARCO劇場で「ミュージカル『おとこたち』」を観た。

 

2014年初演のハイバイの劇団公演『おとこたち』が、主宰の岩井秀人の手でミュージカル化された作品。俺は2016年の再演を観ていたが、その記憶は遠い彼方へ…。今回かなり新鮮な気持ちで観た。

演劇は大好きだけどミュージカルには疎い俺だけど、2023年はなぜか縁がありすでに今年2本目のミュージカル。とは言え、1月に観た『ザ・ビューティフル・ゲーム』も面白かったけど、同じミュージカル枠でも『おとこたち』はまた全然違った。本作は所謂ミュージカル然としたミュージカル(例えばシーンの最中にいきなり歌い出すというような感じ)をあえて茶化すというか皮肉るような演出もあって、それを確かな技術をもった俳優陣がやり切るのが面白い。逆に言うとミュージカル感はそんなになかった感じもする。

ただ、実は俺が今回いちばん心を動かされたのは、本作の中でも最もミュージカル度が高いシーンとも言ってもいいだろう、一幕のクライマックス大原櫻子のソロパートだった。

演劇的なモノローグに音階が加わり、やがて歌唱となっていくあの時間、おれはマスク越しでも床にこぼれるほどの涙を流した。すごかった。『おとこたち』と冠された舞台で大原櫻子演じるあのシーンがもっとも心を揺さぶったことは、7年前に再演を観たときと比べて俺のなかでもっとも大きい変化だったと思うし、それは間違いなく大原櫻子という人の表現とあの楽曲のパワーだった。ミュージカルの王道からするとかなりオルタナティブかつ歪な気もするけどそれでも、ミュージカルってすげーなあ…、そう痛感したシーンだった。こう言い切っておく、すごく感動した。

本作の稽古場レポートの記述によると、本作は「悲劇」なのだそうだ(少なくとも作者はそう言ってる)。確かに登場する4人の“おとこたち”が辿る人生は、決してというか全然ハッピーではない。本作を観て彼らのような人生を送りたいと思う人はまずいないだろう。それでも、というか、だからこそ、俺はまさにその悲劇の締めくくりであるラストシーンで歌われた楽曲に救われたし、励まされた。

というのも、本作を観た日はおれの誕生日だったんだけど、ここ最近おれは色々あってひどく落ち込んでいて、なんか、ここまで生きてきたけど、結局いまのところ俺って全然ひとりぼっちじゃん、孤独じゃん、明け透けもなく言うとめちゃくちゃ寂しいじゃん、おれなんか生き方間違えたかなあ……なんかそういう気持ちで迎えた誕生日だったんです。

先月くらいからけっこうずっとそういうメンタルだったので、この状態で観る作品として本作ってどうなんだろう…前観たときけっこうハードな印象もあったし…観て余計落ち込んだりしないかなあ…と若干心配だったんです。

でもラストナンバーを歌う彼ら・彼女らを観ていて、あーそうか、なるほどなるほど、やっぱそうだよな、そうだよね、そうだそうだ、結局ひとりなんだ、じゃあもう、どうでもいいのでは?どうせひとりぼっちになるんだったら、それまで好きにやればいいのでは?と、なぜか謎に元気が出たのだった。それが今の俺にとってよいことなのかはわからんけど、とにかくあのときの、そして今夜のおれの素直な気持ちはこれなのだった。

なんか、7年前の観劇時もけっこう衝撃を受けてたつもりだったけど、まだまだ全然他人事だったんだなあ。あのラストでやる気出るなんて俺の人生どんな人生だよ。まあただのヤケクソなのかもしれないけど。とりあえず2023年の俺にとって、とっっっってもでかい作品でした。観られてよかった。

最後に。1幕ではほぼ歌わなかったユースケ・サンタマリア、2幕での歌唱のすばらしさに驚いた。というかこんなにいい俳優だったんだ。今更ですがファンになりました。というか出てた人、知ってる人も初めましての人もみんなよかった。ステージ上の生演奏も至福。ミュージカルとしても舞台作品としてもかなり変わってるとは思うけど、多くの人が観て色々動揺するべき作品だと思います。東京は4/2まで、大阪・福岡にも回ります。ぜひに。

アイドル×演劇の理想形。『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』感想【Aぇ!group】



●東京グローブ座でAぇ!group『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』を観た。<ひゃーーーーおもしろかった!こんなに面白いとは思わんかった えらい すごい>。これは観劇直後にメモ帳に思わず残した一文だけど、いま思い返しても実際そういう作品だった。
ラストあたり、まだ物語を続けたがる末澤に対して「や、けっこう満足度高い内容やったと思いますよ?」みたいな小島の台詞があったけど、「たしかにそうだったなあ…」とおれは素直に納得しました。

~あらすじ~

壮絶な死闘の末、ラスボスを倒した勇者一行。世界に平和を取り戻した喜びをぞんぶんに分かち合い、エンドロールも流れ、ではそろそろ解散…となったのだが、主人公の勇者が「まだ冒険を続けたい」と言い出して…。


●いちばん感動したのは、「アイドル舞台」として、そして「演劇」として、それぞれの面白さがとことん突き詰められ、しかもそれがどちらもちゃんと両立・成立していたということだった。
これ、かなりアクロバティックなことだと思うし、だからこそのすさまじい満足感だったのだと思う。

●多彩な演出家や劇団とともに“本気の舞台”を作るテレビ番組『THE GREATEST SHOW-NEN』の満を持してのリアル公演。そのうえヨーロッパ企画とタッグを組んだ時点で、本作を「ちゃんと面白い演劇」として成立させることは言うまでもなく最低条件だったはず。

●一方でメンバー全員出演(というかメンバーのみ)という性質上、「アイドルAぇ!groupの魅力」を観客に味わわせることも否応なしに求められる座組でもある。グレショーではあえてアイドルとしての存在感を出さないアプローチの作品もあったけど、さすがに初の生舞台ツアーでそこまで振り切るのか?という話でもあるし。

●実際、本作ではしっかりアイドル舞台らしく、芝居以外にダンスも歌も、ほぼコントなアドリブパートもたっぷり。「ガチでネバーエンディング」というタイトルに込められた最後のオチも、現在進行形のリアルなAぇ!groupの物語に重ねられた。彼らのファンにとっては、控えめに言って大満足な内容だったと思う(俺はそうでした)

●じゃあ本作はAぇ!groupのファンしか楽しめない内輪向けのアイドル舞台でしかなかったのかというとそんなことは全然なくて、しっかり面白い演劇作品にもなっていた。
で、繰り返しになるけどここで重要なのはやっぱり「にも」の部分で、アイドル舞台としての満足度と演劇作品としての満足度が、どちらもかなり高いレベルで達成されていたのが本作のなによりすごいところなのだ。
で、それを実現させたのは、ヨーロッパ企画とメンバーのエチュードによって生まれたという脚本や演出の力と、6人の個々&チームとしての表現力があったからだ。

●本作の舞台となる、わりと古典的なテレビゲームのPRGの世界は最初からかなりポップかつ戯画的に描かれるので、そこに歌や踊り、コント混じりのアドリブパートが入ってきても全然違和感がなくて、キャラ立ちした6人それぞれの個性が発揮しやすい設定と世界観でもあった。(フルCGが当たり前になった令和でも、わかりやすくゲームを表現するときはやっぱりあのドット絵なのね、というのはちょっと面白かったな)

●とは言え、ただわちゃわちゃしてれば成立するのかというとそんなはずはなくて、むしろ序盤からあの高いテンションを維持しつつ場をグルーヴさせていくには、地に足の付いた舞台役者としての力量が求められたはずだ。それを6人はまあ見事に演じていた。
端的に言ってみんなちゃんとうまい。観ていて危うさを感じる人がひとりもいなかった。

●例えば、序盤で各メンバーが冒険の旅をそれぞれ振り返るシーン。ああいう何気ないけどやることは多くて、僅かなズレで流れを止めてしまうリスクもあるシーンをひとつひとつ着実にこなしていく6人の姿に、「あ、これはいい舞台になるな」と確信したし、その確信は最後まで裏切られることはなかった。

●シンプルに物語もよかった。しばらくゲーム内を舞台に話が進んで、「あれ、でもこれプレイヤーの話が出てこないな」と思い始めたところで現実のゆうやパートに移っていく流れもスムーズ。
個人的に、フィクションにおける物語のクオリティのほとんどって「緩急のつけ方」で決まるのでは?と最近は思っているんだけど、本作はそういう緩急が繊細かつ緻密で見事だった。

●「現実逃避の場としてのゲーム」という位置づけはベタではあるけど、RPGパーティの主人公が旅を終わらせたくないとゴネだす出発点から、実は就職活動の最終面接前日だったと種明かしされるのは捻りがあって面白かったし、現地で俺が見た限り観客のメイン層だった10~20代の方々が観る話としても結構リアリティがあったのかなと思う。(おじさんはあんな圧迫面接ってリアルにあるのか…とビビりました)

●内定が出てもまだゲームを終わらせたくないゆうやに、ゲーム側が「いや終わるよ」「社会の荒波にもまれろ」「続編作ってくれ」と口々に言う流れもよかった。
ゲーム側にはゲーム側の理屈や都合があって、それは一度現実に来てゆうやを救うことができた(=ゼロイチの世界から初めて自分の意思で動いた)という経験を経てもそう簡単には変わらないという、ゲームパーティ側の割とサバサバした感じがなんかフェアで清々しかった。
あと圧迫面接と裏ボス戦が並行して行われるところで、互いがリンクしてそうでそこまでしてない感じも新鮮だった。

●演出でもうひとつ。圧迫面接で折れそうになるゆうやが自らを奮い立たせ立ち向かっていくときに、クリスタルをマイクに見立ててラップをするというくだり。
個人的に去年観たある舞台でのラップの使われ方が、なんというかラップ自体をちょっとアホっぽい・無思慮っぽい感じで揶揄するような使われ方をしててムカついたことがあったんだけど、今回は理不尽な現状に抗う方法としてラップバトルが用いられていて、あの使い方はまっとうでよかったと思う。

●Aぇ!groupの6人については先述の通り、みんなしっかり上手くて驚いた。グループ全員で舞台するとき、特に本作はアドリブコントパートもたっぷりあったのに、ある種のゆるさに一切逃げず、全員でしっかりも面白い演劇を突き詰めていたことは率直に感動した。

●あと笑いがうまい。全編笑いっぱなしだったけど、正門のすべり芸パートでは、誰も笑わない=シーンとしたところで次のくだりに移るという流れなのに、なぜか拍手が起きてステージ状全員困惑しててめちゃくちゃ笑った。観客も笑いのレベル高かったのでは。

●あえて個人で挙げるとするならダントツで衝撃だったのは草間リチャード敬太。歌い出したとき、えっこんな歌えるの!?と驚愕。ダンス含め身体の動きもすごいし。
あとなんといっても序盤のアドリブパート。あれなかなかのカロリーだと思うけど、「よくやってるなあ」と思わせないレベルでよくやってた。あれを何十公演やってたのかと思うと本当にすごい。声の枯れとかよりも、あの場を成立させ続ける表現者としての胆力よ。

●いやでもお世辞抜きに全員よかったなー。小島&佐野も『笑劇』のときより明らかによくなってたし。(余談ですが本作を観たあとだと笑劇がいかにぶっ飛んでたかを痛感…笑劇もあれはあれで続けてほしいなあ)

●アイドル×6人であることと、俳優×6人であること。その狭間で、「この6人=Aぇ!groupだからできる表現」を生み出そうとすること。
グレショーという番組はそれを演劇・舞台という手法で突き詰めていく場なのだと思う。

●で、そこで培われたものを総動員して、「アイドルAぇ!groupだからこそできる演劇ってなんなんだ」というトライアルがガチネバだったのだろう。そしてそれはかなり高い水準で達成されていた。アイドルがやる演劇として、これがひとつの理想形なのではとすら思ったよ。

●Aぇ!groupにとって、俳優としても、パフォーマーとしても、そしてもちろんアイドルとしても、本作を完遂できたことの意義はとても大きいと思う。
同時に、いち演劇好きとしても、いちAぇ!groupファンとしても、いまこのタイミングでこの作品を観られる幸福を噛みしめた、幸先いい2023年の観劇スタートでした。

●最後に。せっかくグレショーという場があるのだから、なんらかのかたちで本作についての放送があるはずと信じているだし、これは番組の意義としても絶対やるべき。あとソフト化・サントラ化もぜひやってほしい。俺も一般発売でやっとB席取れたくらいなので、観られなかった人も多いはずだし…。そして何より、この6人での舞台、これからも続けてほしい。待ってます。

2022年に行って最高だった飲み屋

私はライブや演劇を観るのが大好きなんだけど、同じくらい「ライブや演劇を観に行った街で一杯飲む」のも大好きな者である。

だからコロナ禍が始まって、ライブや演劇、そして飲食が自由にできなくなったときは、俺にとっては人生の楽しみの大半が奪われてしまったのと同じ状況で、本当につらかったし、とんでもなくつまらなかった。

その後徐々に状況は改善されていき、2022年はここ数年の反動で行けるライブや演劇には行けるだけ行ったし、行ける飲み屋にも行けるだけ行って飲めるだけ飲んだ一年になった。嬉しかったし楽しかったし、なにより美味しかった。そして酔っ払った。

特に記憶に残る店を挙げてみる。

立ち呑み 庶民(大阪・梅田)

元々は京都にある店で、数年前バッファロー・ドーターを観に京都に行くときに調べてたお店だったんだけど、結局そのときは当日飛行機が飛ばず断念。で、今年ジャニーズWESTが出るメトロックを観に大阪に行ったとき、大阪にもお店が進出していたことを知り、梅田の店舗に突撃。



結果、評判は伊達じゃないなという感じのいい店だった。俺は基本安酒飲みなので、酒もメシも安けりゃ有り難いし、それで美味けりゃ感謝しかないのだけど、この店もまさにそれ。確かぶり刺しが超分厚くて、あ、刺身ってこんなに分厚くていいんだ、という気づきがあった。

佐野屋(愛知・大曽根)

ナゴヤドームにジャニーズWESTを観に行った日、朝から名古屋周辺を飲み歩いた最後に辿り着いたのがこの店。大曽根駅の駅前、つまりナゴヤドームの至近距離にあるこの店は、酒屋の奥になかなか立派な立ち飲みスペースがあり、酒屋ならではの酒のラインナップ(日本酒が超安い)、そしてフードも安くてうまい。特に生ハムと人参マリネは、どちらもたっぷり盛られて驚愕の220円。しかもちゃんとうまい。



今まで食べた立ち飲みのつまみの中でもかなり記憶に残る名品だったなー。WESTのライブがなかったらもっと長居したかった。小瀧さんバースデイ公演も素晴らしかったですが(が、じゃねーよ)

あつ盛(東京・神保町)

KinKi Kidsの東京ドームを観る前に寄った立ち飲み……って、またジャニーズだな。なんだろう、ジャニーズを観た日はいい飲み屋に当たる率が高いのだろうか。ここもとにかく安くてうまかった。1杯たしか500円でお茶碗にたっぷり注いでくれる日本酒は多分日替わり?で、毎回うまい。料理は名物の刺盛りもいいし、この日はきゅうりを頼んだら、でっっっかくてぶっっっっといのがどん!と出されて笑った。



味も濃くて夏をまるかじりしてる感じで超うまかったなー。口あんぐりあけてぼりぼり食っても食ってもなくならずw、ライブ時間が迫ってきて急いで食べたのもいい思い出。ここはたまむすび武道館のときも行った。また行く。

東海道新幹線・大阪行き

ジャニーズWESTの出るメトロック大阪を観に行くときに…ってまたかよ! あのーこれ、WESTに関しては大阪に名古屋と他県に旅行に行くのも今年久々だったから特に記憶に残っているというのはあると思う。あと旅程のなかでできるだけ飲み歩くと決めてたので、実際飲む機会も量も多かったし。

で、これは番外編で、新幹線のワゴンで山崎12年のミニボトルが売ってるとは知らず、キルフェボンの焼き菓子とともに購入。水割り用のミネラルウォーターもついてくるのね。



結果車内では一口くらい味見しただけでほとんど飲まなかったんだけど(その前にビールとワインを飲んでて酔っ払ってしまっていたので)キルフェボンはメトロック会場で炎天下WESTを待機してるときに小腹を満たすために食い、山崎は夜ホテルで最高のライブに捧げる祝杯として美味しくいただいた。

埼玉屋食堂(神奈川・阪東橋)

NUMBER GIRLの解散ライブを観る日、近辺をチェックしたところ阪東橋で朝7時からやっている定食屋兼飲み屋であるこの店がヒット。当日は朝8時に到着し、冬の冷たい空気に朝日が差すなか入店。この店の名物である牛乳割、飲む前は正直どうなんだろうと半信半疑だったけど、飲んでみると驚きの美味。出し方もいいよね。



1杯400円で2杯ぶんは飲める焼酎の量もすごくて、その前にお茶割りも飲んでたので朝からなかなか酔っ払ってしまった。つまみも美味しく、ここももっと長居したかったなー。

ただ、この後キリンの工場見学(試飲付き)10時の回に流れたのは我ながら狂ってたな。あと夜に観たナンバガは最高だったが、近くで酔っぱい客が暴れて超迷惑だった。俺はああはなるまいと誓ったよ(まあ俺も先述の通りそれなりに飲んではいたが他人に迷惑は一切かけてないので…)



言うまでもなく、この他の飲み屋にもよかった店はたっっっっっくさんある。特によく行く下北沢の立ち飲み・よっちゃんには、今年も本当にお世話になったし、毎年の夏の恒例になっている高尾山登山の際に必ず行く山頂のやまびこ茶屋で出される、異様な濃さのウーロンハイは今年も最高だった。



基本的には休肝日を設けない=毎日飲む生活をかれこれ20数年続けている。こんな生き方いつまでできんのかねーと思ってはいるが、とにもかくにも健康に飲み食いできる日が一日でも長く続きますように。今年もごちそうさまでした。

関連記事:2022年に観たもの聴いたもの

2022年に観たもの聴いたもの

このあとうっかり死んだりしなければ、今日行く『冨樫義博展』で2022年のエンタテインメント現場は終了となるはず(※1/4追記。冨樫義博展、すばらしすぎた。幽白ゾーンで何度も泣きそうになった。行けてよかった)

2022年はライブや演劇に関してはこれまでの規制は段階的にゆるやかになり、今年は行きたいものには(日程的&家計的に許容される範囲内で)できるだけ行くと決めたので、本当にたくさんいろんなものを観た。野外フェスや声出しライブにも参加した。生きててよかった、そう思う瞬間がいくつもあった。そういう意味では幸福な1年だったなと思う。

一方で、一年を通してこの国の政府は真面目に、真剣に、この国とそこに生きる人のことを考えているとは到底思えず、その傾向は加速する一方のまま年を越すことになる。2023年によい展望が持てるかというと正直まったくそうは思えないまま迎える年の瀬。

だからこそ、今年自分の目と耳と心と身体で受け止めた表現のすばらしさを、忘れずにいたい。いや、いたいじゃねーよ、忘れんな。という気持ちで今はいる。とは言え個別の公演に言及する気力がないので今年は羅列のみ…。いやーでもマジで最高なの多かったからもうこれでよしとする!! ほんと後悔ないわ今年は。

※1/1追記

昨晩は泡ワイン一本空けながら↑まで書くのが限界だったけど、せっかくなので少しだけ印象深い各公演にも触れてみる。

バッファロー・ドーターはここ10年くらい観られる公演はすべて行ってるけど新譜ツアーは過去最高かと思うライブ。Borisとの対バンも音体験としてすさまじかった。向井秀徳 × 古川日出男、繰り出されることばの強度に震えた。生でレコードに刻むというのも含めこれまで観たライブの中でも屈指の緊張感。COMPUMA、ひたすらドープな音の洪水、そして最後の一音が止みWWWが静寂に包まれる瞬間のカタルシス。あの音体験はちょっとどうにかなりそうなほどすごすぎた。坂本慎太郎も過去イチ良かったのでは。

2022年は「好きなアイドルを野外フェスで観る」という積年の夢が叶った1年でもあった。今年初めて観たジャニーズWESTは、新譜ツアー、野外フェス、ドームと異なる形態どれもすばらしかったけど、雨予報を蹴散らし炎天下で飛び跳ね観たメトロックはやはり格別だった。あとドームでペンライト&うちわも持たず丸腰で見てる37歳のおじさんにもファンサをくれた小瀧望さんには勇気のようなものをもらった気分。香取慎吾を氣志團万博のトリで観られた至福も忘れがたい。明治座で演奏×歌唱のすごさを目撃していたので、フルセットを持ち込んでの夏の夜空の下のライブは最高でしかなかった。氣志團万博というフェスの得難い魅力にも気づけた貴重な一日だった。

演劇は全部挙げたいくらい、いい作品ばかりだったな。初めて観た範宙遊泳はあのハイテンションとポップさを最後まで維持しつつすごく繊細なつくりで衝撃のおもしろさだった。チェルフィッチュの映像演劇は、映像なのに演劇を感じるとき「じゃあそもそも演劇って何?」という自問が楽しかった。観続けているほりぶん、東葛スポーツ、五反田団、城山羊の会のクオリティの高さ。『パラダイス』と『幽霊はここにいる』はどちらも2022年の渋谷でやる意義に満ちた意欲作で、特に『パラダイス』はいろんな意味で喰らった。

関連記事:2022年に行って最高だった飲み屋

~LIST 2022~

1/9 モダンスイマーズ『だからビリーは東京で』 @東京芸術劇場シアターイースト

1/28 Buffalo Daughter『We Are The Times Tour 2022』 @LIQUIDROOM

1/29 新年工場見学会2022 映画『闇の料理人クロダ』 @アトリエヘリコプター

2/11 『生誕160年記念 グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生』 @世田谷美術館

2/12 『THE BEGINNING ~笑劇~』 @東京グローブ座

2/19 清水ミチコ @LINE CUBE SHIBUYA

2/26 ほりぶん 第9回公演『かたとき』 @紀伊國屋ホール

2/26 東葛スポーツ『保健所番号13221』 @シアター1010 稽古場1

3/4 POLYSICS『POLYSICS 25th Anniversary ~STARTOISU 25!!!~』 @LIQUIDROOM

3/13 POLYSICS『POLYSICSのおしゃべり実験室 ~Freedom of TOISU Vol.1~』 @ニュー風知空知

3/26 劇団アンパサンド本公演『それどころじゃない』 @アトリエヘリコプター

4/2 Buffalo Daughter x Seiho @WALL & WALL

4/3 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST LIVE TOUR 2022 Mixed Juice』 @セキスイハイムスーパーアリーナ

4/17 ZAZEN BOYS × CHAI『うるさがた Vol.2』 @豊洲PIT

4/23 ジャニーズWEST『虹会』(配信)

4/24 香取慎吾『香取慎吾 二〇二二年 四月特別公演 東京SNG』 @明治座

4/27 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST LIVE TOUR 2022 Mixed Juice』 @ぴあアリーナMM

4/29 POLYSICS『POLYSICSのおしゃべり実験室 ~Freedom of TOISU Vol.2~』 @ニュー風知空知

5/3 香取慎吾『香取慎吾 二〇二二年 四月特別公演 東京SNG』 @明治座

5/4 コメディを考えるワークショップ見学『別役実「その人ではありません」稽古発表会』 @ヒラヤ豪徳寺

5/5 五反田団『愛に関するいくつかの断片』 @アトリエヘリコプター

5/14 『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2022』 @METROCK大阪特設会場(大阪府堺市・海とのふれあい広場)<ジャニーズWEST、ジェニーハイ、Vaundy、他>

5/21 TESTSET (砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一)× ZAZEN BOYS『「BETA Q」SATURDAY NIGHT』 @中野サンプラザ

5/29 Chim↑Pom『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』 @森美術館

5/31 『DISK-Over Session Vol.3「ドーナツ盤のピチカート・ファイヴ」』 @song & supper BAROOM

6/2 MO'SOME TONEBENDER『QUATTRO TOUR2022』 @渋谷CLUB QUATTRO

6/4 ほろびて『心白 第11回せんがわ劇場演劇コンクール「グランプリ」受賞公演』 @調布市せんがわ劇場

6/11 『奇人たちの晩餐会』 @世田谷パブリックシアター

6/17 エマーソン北村『エマーソン北村の今日 - エマソロ「復活」&新リリース発表イベント -』 @Time Out Cafe & Diner

6/25 劇団アンパサンド第5回本公演『サイは投げられた』 @アトリエヘリコプター

6/25 範宙遊泳『ディグ・ディグ・フレイミング!~私はロボットではありません~』 @東京芸術劇場 シアターイースト

7/6 Buffalo Daughter × THE ALEXX『BUZZER #2』 @渋谷CLUB QUATTRO

7/9 POLYSICS『POLYSICSのおしゃべり実験室 ~Freedom of TOISU Vol.2~』 @下北沢CLUB Que

7/14 坂本慎太郎『LIQUIDROOM 18th ANNIVERSARY-坂本慎太郎LIVE2022-』 @LIQUIDROOM

7/30 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST 1st DOME TOUR 2022 TO BE KANSAI COLOR -翔べ関西から-』 @バンテリンドームナゴヤ

7/31 エマーソン北村『プラザ・おへやライブ Vol.1 ~エマーソン北村 トーク&ライブ~』 @川崎市民プラザ 2階セミナールーム

8/6 明日のアー『明日のアー vol.8本人コント公演 「カニカマの自己喪失」』

8/6 KinKi Kids『24451 ~君と僕の声~』 @東京ドーム

8/10 ジャニーズWEST『ジャニーズWEST 1st DOME TOUR 2022 TO BE KANSAI COLOR -翔べ関西から-』 @東京ドーム

8/10 『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』 @千葉市蘇我スポーツ公園<POLYSICS、NUMBER GIRL、BUMP OF CHICKEN、el tempo、他>

8/19 『SONICMANIA』 @幕張メッセ<CORNELIUS、HARDFLOOR、電気グルーヴ、他>

8/28 チェルフィッチュ『映像演劇 「ニュー・イリュージョン」』 @王子小劇場

9/3 マームとジプシー『MUM&GYPSY 15th anniversary year vol.2「cocoon」』 @彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

9/10 『パンと音楽とアンティーク2022』 @東京オーヴァル京王閣(京王閣競輪場)<中村一義、寺尾紗穂、前野健太、CLUB SNOOZER、他>

9/17 『氣志團万博2022』 @袖ケ浦海浜公園<香取慎吾、氣志團、藤井フミヤ、木梨憲武、布袋寅泰、ニューロティカ、フジファブリック、10-FEET、他>

9/18 東葛スポーツ『パチンコ(上)』 @シアター1010 稽古場1

9/21 『たまむすび in 武道館 ~10年の実り大収穫祭!~』 @日本武道館

9/30 COMPUMA『COMPUMA「A View」Release Party』 @WWW<COMPUMA / パードン木村 / エマーソン北村 DJ:Akie / 音響:内田直之 / 映像:住吉清隆>

10/1 『ガラスの動物園』 @新国立劇場 中劇場

10/1 『早稲田大学演劇博物館 特別展 シェイクスピア戯曲全37作品翻訳記念 Words, words, words.―松岡和子とシェイクスピア劇翻訳』 @早稲田大学演劇博物館

10/1 向井秀徳 × 古川日出男『A面/B面 ~Conversation & Music』 @早稲田大学国際文学館2Fラボ

10/13 『burst!~危険なふたり~』 @日本青年館ホール

10/9 ほりぶん『MITAKA“Next”Selection 23rd ほりぶん 第10回公演「一度しか」』 @三鷹市芸術文化センター 星のホール

10/13 POLYSICS『POLYSICS 25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~』 @下北沢 Shangri-La

10/15 ZAZEN BOYS『MATSURI SESSION』 @豊洲PIT

10/16 『パラダイス』 @シアターコクーン

10/22 『メタモルフォーゼの縁側』 @シネマネコ

10/23 『東京芸術祭 2022 映像演劇「階層」』 @東京芸術劇場 シアターイースト

10/26 坂本慎太郎『LIVE2022「Like A Fable」ツアー』 @昭和女子大学 人見記念講堂

10/30 『レオポルトシュタット』 @新国立劇場 中劇場

11/5 『SHIN-ONSAI 2022』 @新宿区立新宿文化センター 大ホール・小ホール<KIRINJI(弾き語り)、岸田繁、ZAZEN BOYS、MONO NO AWARE、サニーデイ・サービス、TENDRE、井手健介、他>

11/6 『SHIN-ONSAI 2022』 @新宿区立新宿文化センター 大ホール・小ホール<Bufflo Daughter、□□□、七尾旅人、bonobos、踊ってばかりの国、butaji、池間由布子、君島大空、テニスコーツ、他>

11/12 『盗聴』 @東京グローブ座

11/12 小西康陽『小西康陽、小西康陽を歌う』(配信)

11/13 中野成樹+フランケンズ2022『EP1(ゆめみたい)』 @Sunlight Studio Shibuya

11/13 KAAT×城山羊の会『温暖化の秋 -hot autumn -』 @KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ

11/21 Buffalo Daughter × Boris with TOKIE『New Rock Universe』 @LIQUIDROOM

11/27 ラディカルな意志のスタイルズ『反解釈1』 @新宿BLAZE

12/3 ナカゴー本公演『ていで(再演)』 @北とぴあ・つつじホール

12/4 スキマスイッチ『スキマスイッチ TOUR 2022 "café au lait" 沖縄公演』(配信)

12/10 『幽霊はここにいる』 @PARCO劇場

12/11 NUMBER GIRL『NUMBER GIRL 無常の日』 @ぴあアリーナMM

12/14 新しい地図『NAKAMA to MEETING Vol.2』 @国立代々木競技場第一体育館

12/17 安住の地『シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.14 安住の地 第8回本公演「凪げ、いきのこりら」』 @シアタートラム

12/22 スキマスイッチ『スキマスイッチ “Live Full Course 2022” ~ 20年分のライブヒストリー ~』 @日本武道館

12/24 『WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-』 @渋谷ヒカリエ ホールA

12/29 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』 @新国立劇場 オペラパレス

12/31 『冨樫義博展 -PUZZLE-』 @森アーツセンターギャラリー

『ムーンライト』の真髄は“冒頭21秒”にあり。重岡大毅とジャニーズWESTが紡ぐ音楽の喜び



ジャニーズWEST・重岡大毅は、俺がいま掛け値なしに信頼しているソングライターである。

「ソングライターとして信頼できる」。それはどういうことか。

シンプルに言えば、彼は、

他の誰にも書けないぬくもりとひらめきに満ちたメロディを書き、

そのメロディに他の誰にも書けない温度と重さをもった言葉を与え、

そしてその音楽を歌うべき人=ジャニーズWESTのために生み出すことができる。

すごく健全で、こう書くと当たり前にも思えるようなことだけど、これは音楽家であれば誰でもできるというようなことでは決してない。当たり前のようにいい音楽を作り続けるために必要な胆力と技術と情熱。そういう“当たり前でない当たり前”を体現するような音楽表現を、彼は、少なくとも俺が彼を知ってから今まで、途切れること無くやり続けている。

これはすごいことだ。『バニラかチョコ』や『オレとオマエと時々チェイサー』のような豊かなポップスをシングルのカップリングとしてコンスタントに聴くことができるのは、決して当たり前なことではない。これは本当に、本当にすごいことなのだ。

以前『to you』『おい仕事ッ!』の2曲について書いたときは彼の歌詞にフォーカスしたが、音楽家・重岡大毅の真髄はメロディにこそある、と今は思っている。

ポップスやロックをベースにし、聴き馴染みよくしかしどの曲にも必ず、目のくらむようなひらめきが与えられている。『ムーンライト』の冒頭の21秒を聴くたびに、俺はそのことを実感する。



桐山照史から中間淳太へとリレーするボーカル、そこに寄り添うようなピアノ伴奏のみで構成される12小節。特に叩きつけるような無骨さと今すぐにでも消え失せてしまいそうな儚さが同居するピアノで鳴らされるコード進行の素晴らしさ。

ド頭のピアノに感じるのは、何かが始まる予兆への興奮の輝きと、武者震いと不安が入り混じった淡い影のコントラスト。そこに桐山の力強いボーカルが背中を押すように耳に飛び込む。そして桐山の<宇宙行きチケット>から中間の<縁石に乗り込み>へと移行していく瞬間。

俺はこの瞬間のピアノの音色とコード進行が本当に本当に大好きで、このシークエンスがなければ、その後のバンドサウンドの躍動も7人の熱の入った歌唱も、<いつか君を襲う夜の底 一輪の光を>の必殺フレーズも、あっけなく色褪せてしまうだろう。

この永遠にも一瞬にも思える21秒間の音色と声を聴くたびに、ああ、この音楽がいま・ここにあってくれて本当に幸福なことだな、と思う。それはそのまま、自分がいま・ここに生きていてよかった、という実感と同義だ。

重岡大毅が作り、ジャニーズWESTが歌う音楽を聴いて、俺は俺がいま生きているこの世界を肯定する気持ちを思い出す。Mixed Juiceツアーで聴いたときもそうだったし、メトロックで聴いたときもそうだった。そしてこれからもきっと、この曲を聴くたびに俺はこの世界を肯定したくなる、この世界でもっと生きていたくなる、そういう気持ちを思い出すだろう。で、これも全然当たり前なことではない。そういう音楽がいま・ここにあることも、そういう音楽に出会えることも、本当はものすごく、とんでもなくラッキーで幸福なことなのだ。

最後に、この際なので表明しておく。『to you』という曲がリリースされた2020年の時点で音楽家・重岡大毅の、そしてアーティスト・ジャニーズWESTの評価が広く周知されなかったことは今でもとても信じられないことだし、その後にリリースされた楽曲たちに向き合えばなおさら、その思いを強くするばかりである。2022年は『Mixed Juice』という力作とそれを引っ提げたツアー、そしてメトロック・LOVE MUSIC FESといったフェスへの出演、開催中のドームツアーという道程を経て、ようやく彼(と彼ら)の音楽的充実が認知されつつあると思う。

しかし一方で、そういったこと、つまり自分以外の誰かの評価というのは、実は本当に些細で心底どうでもいい事でもある。俺は37歳の薄給安酒好きおじさんで彼らはジャニーズ所属アイドル業7人組であるのだが、互いの立場がここまで違ったとしても音楽というコミュニケーションにおいてはまったくの対等である。作り手・演じ手と受け手が一対一で向き合うことができる、そこにこそ音楽の喜びはある。

幾多の優れた音楽もそうであるように、ジャニーズWESTの『ムーンライト』という曲を他でもない俺自身が浴びることができることの喜びを、心の深いところで受け止める夜だ。


●過去記事

重岡大毅はなぜ「バナナうんち」と書いたか? ジャニーズWEST『おい仕事ッ!』を聴いて考えた

ジャニーズWEST・重岡大毅『to you』――音楽で世界を受け入れるということ

乱世に生まれた最高傑作。バッファロー・ドーター『We Are The Times』



一聴して“らしさ”を感知できるサウンドの揺るがぬ記名性と、作風を自在に変化させる不定形さ。一見相反しそうな特性が同居する独自のスタンスで自らの表現を更新し続けてきたバッファロー・ドーターの最新アルバム『We Are The Times』。本作は現状において彼らの最高傑作であると、最初に言い切っておく。今後、バッファロー・ドーターを知らない人から「なにか1枚貸して」と言われたら、俺は迷うことなくこの作品を差し出す。

全9曲。これまでアルバムを出す度に様々なアプローチをみせてきた彼らだが、今回は1枚のアルバムの中で楽曲のバリエーションの振れ幅が広がっている。たとえば冒頭の『Music』ではデビュー当時の面影を感じるし、『Times』からは2003年作『Pshychic』期のトランシーな作風に通じるものもあったりと、バンドの歴代の音楽性がギュッと凝縮されたような手触りもあるが、回顧や総括といった集大成感は皆無。ものすごく瑞々しい音が詰まっている。


(フルCGで制作されたという『Times』のMV。めちゃめちゃかっこいいけど、ライブでどう演奏するのか想像がつかない。)

曲ごとの印象はバラバラだが、聴き終えると1枚のアルバムとしてのムードは通底している。端的に言うと、混乱・混沌。特にコロナ禍以降のここ2年の間にすっかり世界を覆ってしまったそういう感覚が、本作には極めてフレッシュにパッケージングされている。サウンドの振れ幅は多くの価値観が無秩序に入り乱れる現状をそのまま体現しているようだ。歌詞の存在感も大きく、いま世界を覆う閉塞感とその先の光明への渇望が、ポエティックかつリアリティを持ったことばとして鋭く具現化されている。


(アルバム中、これまでの作風ともっとも距離を感じた『Jazz』のMV。静謐なギターとベースがとてもいい。歌詞が切ない…。)

決して明るい作品ではない。とはいえ音自体は刺激的で心地よく、楽しさすらある。それはバッファロー・ドーターの生み出すサウンドがそもそも持つ心地よさであり楽しさだ。例えば本作におけるダーク&ディープサイドの極北である『ET (Densha)』の後半に配された地獄の底から鳴り響くようなノイズですら、聴くとそのすさまじい快楽性に驚く。


(すでにライブでも披露されている『ET (Densha)』のMV。生の爆音で聴くとミニモーグの低音に鳩尾がゾワゾワした。体験したい人はレコ発全国ツアーへ。)

ある種の優れた音楽は聴き手の心身に治癒効果をもたらす。恐怖、不安、怒り、悲しみ、理不尽、そういったネガティビティに覆われ硬直してしまった思考と身体を、理屈を超えたレベルで解きほぐし、いきものとして本来あるべき状態へ蘇生させる。この作品にはそういう、音楽が持つ本質的なパワーが宿っている。だからどんなにシリアスなメッセージも重くならない。(本作に限らず彼らの音楽はいつもそうだけど)


(直球のタイトルが付けられた『Global Warming Kills Us All』のMV。メッセージはシリアス、MVはキュート。このバランス感覚。)

メンバーとサポートミュージシャンたちの熱演による豊かなグルーヴ。その音のひとつひとつに、音楽という表現そのものへの愛と信頼とプライドが込められている。いままさに目の前にある混乱と混沌、その中でも揺るがない音楽のパワー。不要不急なんてとんでもない。やっぱり世界には音楽が必要だ。バッファロー・ドーターの『We Are The Times』を聴くと、そんな基本的で、でもかなり大事な真実を思い出す。

2021年に観たもの聴いたもの

2021年いちばんのトピックは初めてメンタルを崩したこと。部屋でひとり涙を流し、ガチで死ぬことを考えるまでいってしまった。(今は大丈夫です。まあ、“大丈夫”をどう定義するかにもよるけど……)

そのきっかけというか原因をいま振り返ると、まああのときの状況を踏まえるとしょうがなかったかな、と思うけど、とは言えあんなことであそこまで追い詰められてしまうのかという危うさもあり、人間というか己の脆さに身を持って気づけたのはタイミング含め今となってはよかったな、と思う。

まあもう二度とあんな思いはしたくないですが。これまで生きてきてダントツでキツい1週間だったし。そう、「死にたい」に至るまで、賞味ほんの1週間くらいだったんだよ。怖すぎる。あのとき死ななくてよかった。本当に。

それで言うと今年はお葬式もあったのだった。いやー、いろいろな意味でいまここに生きていることを噛みしめる大晦日です……。



その他の私生活はいまいち&混乱続きで、この先の人生の予測のつかなさに拍車がかかっててどうしたものかという感じ。悩ましいことばかりだけど、だからこそ音楽&演劇を中心に今年も豊かな表現に恵まれたことは救いだった。以下、軽く羅列。

【音楽】
音楽のベストはKIRINJI『再会』。とにかくよく聴いた1年だった。初めてYouTubeで聴いて落涙した朝のことを思い出す。この曲がなかったらかなりキツかったんじゃないか。感染爆発~医療逼迫で怯えながら過ごしていた夏にも助けられた。

あとメンタル崩したときはOfficial髭男dism『Universe』を聴いてたな。ベストイントロ賞はこの曲。あとジャニーズWEST・重岡大毅のソングライティングは今年も絶好調。おい仕事ッ!、ムーンライト、そして現時点での最高傑作バニラかチョコ。打率すごい。今年はライブ行きたいものだが。というか行く。行くから(言霊)

いいライブもたっくさん。DC/PRG解散ライブは色々な意味での不法集会感w。BOXセットはまだ全然聴けておらず、今後の人生の楽しみに地道に聴くよ。バッファロー・ドーターは晴れ豆での『Super Blooper』がドープで至福。いつまでも続いてほしいグルーヴ。

フジの4人METAFIVEは泣いた泣いた。アルバムは結局今年中は受け取れず年明けに聴くことになった。今年ラストは野宮真貴×矢舟テツロー×ピチカート・ワンの邂逅。現場行けなかったのは一生悔やむとして、あの編成での『サンキュー』のアレンジは白眉。別に再結成しなくても全然いいよ、あんなに素晴らしいステージが観られたのだから。

音楽は他にもBuffalo Daughter新譜(最高)、V6新譜&解散、コーネリアスの諸々、など私的トピック満載だったにも関わらず、ブログ更新は昨年に引き続き滞った。変わったのは、昨年はそもそも書けなかったのだけど、今年は書いては見るんだが結局ボツにして出せなかったこと。下書きを振り返ると35000字くらい溜まっていた。

たとえばV6については解散という名の表現に応答したいと思いつつ、結論が出ずじまい。BDの新譜も同じで、ヘビロテしているのだがなにか結論めいたものを書こうとすると途中で、こういうものを書きたいわけじゃないんだよな…となってしまう。なんというか、ブログでなにか結論というか主張を定めた文章を書く、というのが自分の中でなんか違ってきているのかなあ。

だとするなら、どういう表現であればしっくりくるのか。書き方の問題なのか。それとも話すとか歌うとか踊るとかそれくらい変える話なのか。これは来年の課題かも。そういえば今年はブログ以外の書き物を始めたのもでかかった。結局完成には至らず。そっちの方は書くのは楽しい。けど、すごく難しい。

あ、あとKIRINJIとスキマスイッチの新譜をまだ聴いていないのはどういうことなんだ>俺。完全にタイミングを逃してしまった。来るべき時が来たら聴く。

【演劇】
演劇は今年もいいもの多かった。特によかったのは、『未練の幽霊と怪物』、中野成樹+フランケンズ2021『Part of it all』、城山羊の会『ワクチンの夜』。アルトゥロ・ウイの興隆、明日のアー、LUNGSもよかったなー。

ベストはナカフラ『Part of it all』。初めて観たナカフラ、衝撃すぎた。全然違うんだけど飴屋さんの『ブルーシート』を観たときのことを今ふと思い出した。風景込みであの日体験したことは当分忘れないと思う。

演劇すげえ、というシンプルかつ根源的な感慨。あの日あのとき観られてよかった。どうしても好きなものを繰り返し味わいたくなる性分なんだけど、やはり新たな開拓もしないとだめだなあ。

以下、2021年の現場一覧。例によって抜けありそうだけど、本日アップを優先。来年どうなるかなー。とりあえず引き続き生存優先。死にたくないから。いい一年になりますように(懇願)!!!

1/2 『No.9 -不滅の旋律-』@赤坂ACTシアター

1/22 城山羊の会『石橋けいの「あたしに触らないで!」』(配信)

1/30 青年座『眠れない夜なんてない』@吉祥寺シアター

1/31 MO'SOME TONEBENDER@渋谷パルコ(配信)

2/10 SCOOL Live Streaming Series 犬飼勝哉 短編演劇『給付金』(配信)

2/12 五反田団『新年工場見学会2021 オンライン配信映画「THE ORINGPIC」』(配信)

2/13 チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』@池袋あうるスポット

2/21 スキマスイッチ『TOUR POPMAN'S CARNIVAL vol.2 FINAL in KUMAMOTO 』(配信)

3/7 桑田佳祐『静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~』(配信)

4/2 DC/PRG『Hey Joe, We're dismissed now/PARTY 2-TOKYO』@STUDIO COAST

4/11 POLYSICS『POLYSICS TOUR 2021 ~走れ!免疫細胞活性化!~』@下北沢SHANGRI-LA

4/17・18 香取慎吾『さくら咲く 歴史ある明治座で 20200101 にわにわわいわい 香取慎吾四月特別公演』@明治座

4/23 ジャニーズWEST『7周年生配信イベント「虹会」』(配信)

4/29 香取慎吾『さくら咲く 歴史ある明治座で 20200101 にわにわわいわい 香取慎吾四月特別公演』(配信)

5/4 ZAZEN BOYS / NUMBER GIRL『THE MATSURI SESSION』@日比谷野外大音楽堂(配信)

5/30 ゆうめい『芸劇eyes参加作品 ゆうめい「姿」』@東京芸術劇場 シアターイースト

6/12 『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」』@KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ

6/15 ZAZEN BOYS@豊洲PIT

6/26 NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』@東京芸術劇場 プレイハウス

7/4 King Gnu『Red Bull Secret Gig』(配信)

7/8 Buffalo Daughter@晴れたら空に豆まいて

7/14 坂本慎太郎『LIQUIDROOM 17th Anniversary & zelone records 10th Anniversary 坂本慎太郎 LIVE 2021』@LIQUIDROOM

7/17 『日本の歴史』(配信)

7/18 中野成樹+フランケンズ2021『Part of it all』@えこてん 屋上スタジオ、廃墟スタジオ

7/14 アーの演劇『一つきりの夜に』@SOOO dramatic!

7/23 エマーソン北村@YouTube(配信)

8/7 『GENKYO横尾忠則展』穂村弘(配信)

8/20・21・22 METAFIVE、NUMBER GIRL、tricot、THA BLUE HERB、スピンオフ四人囃子feat.根本 要&西山 毅、くるり他『FUJI ROKCK FESTIVAL '21』(配信)

8/23 『GENKYO横尾忠則展』みうらじゅん(配信)

8/28 東京ビエンナーレ2020/2021・佐藤直樹『そこで生えている。2013-2021』@正則学園高校 6階教室

8/28 東京ビエンナーレ2020/2021・池田晶紀『いなせな東京 Project』@正則学園高校 7階体育館

8/28 Official髭男dism『「Editorial」発売記念ONLINE FREE LIVE』(配信)

8/29 Buffalo Daughter Yumiko Ohno Solo set / OLAibi /MIDORI (MENACE, Paris) / Midori Aoyama(EUREKA!, Tokyo)『TANDEM meets JAPAN CONNECTION FESTIVAL 2021 LE CHOC DU FUTUR』(配信)

9/4 『検察側の証人』@世田谷パブリックシアター

9/19 横尾忠則『GENKYO横尾忠則展』@東京都現代美術館

9/30 蓮沼執太、U-zhaan、大野由美子、荘子it、SASUKE、いとうせいこう、イ・ラン、MIHO HATORI『LAST DAY IN THE PARK 2021』@Ginza Sony Park(配信)

10/1 村上信五、末澤誠也・小島健・佐野晶哉(Aぇ! group/関西ジャニーズJr.)『村上信五と生トーク!~「Johnny's Village #4」』(配信)

10/2 『山里亮太の140』@新国立劇場 中劇場

10/3 NUMBER GIRL、ASIAN KUNG-FU GENERATION、レキシ他『PIA MUSIC COMPLEX 2021』@ぴあアリーナMM

10/13 POLYSICS『TOISU感謝祭!!! 2021』@下北沢SHANGRI-LA

10/14 『BUFFALO DAUGHTER Presents「WE ARE THE TIMES」』@DOMMUNE

10/20 LIVE:DOMMUNE Presents「LANDSCAPE MUZAK」SADO Project #1 FINAL!TERRY RILEY・ライブパフォーマンス「SPIRIT」(with 鼓童、SARA MIYAMOTO、Salyu、大野由美子、久下恵生)他『SUPER DOMMUNE 「さどの島銀河芸術祭|報告会」 FRACTAL CAMP 2021 briefing session TERRY RILEY & MORE!!!!!』@DOMMUNE(配信)

10/30 『帰ってきた五反田怪団 2021 秋』@アトリエヘリコプター

11/1 V6『LIVE TOUR V6 groove』(配信)

11/1 V6『映像作品「WANDERER」』@V-Land(配信)

11/14 BUMP OF CHICKEN『BUMP OF CHICKEN Studio Live Silver Jubilee』@YouTube(配信)

11/20 METAFIVE『METALIVE 2021』(配信)

11/21 NUMBER GIRL、SPARTA LOCALS、SCOOBIE DO他『MINE☆ROCK FESTIVAL』@豊洲PIT

11/27 『アルトゥロ・ウイの興隆』@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

12/4 城山羊の会『ワクチンの夜』@三鷹市芸術文化センター 星のホール

12/7 『DMBQとBuffalo Daughter』@渋谷クラブクアトロ

12/13 明日のアー『そして聖なる飲み会へ』@Kamata Souko

12/13 ZAZEN BOYS『MATSURI SESSION』@豊洲PIT

12/12 『LUNGS』@東京グローブ座

12/13 新しい地図『『NAKAMA to MEETING_vol.1.6』』(配信)

12/16 KIRINJI『KIRINJI TOUR 2021』(配信)

12/18 野宮真貴×矢舟テツロー『~うた、ピアノ、ベース、ドラムス~』@ビルボードライブ横浜(配信)

香取慎吾の「声」にもう一度出会った――明治座ライブを観て



香取慎吾のソロライブ『さくら咲く 歴史ある明治座で 20200101 にわにわわいわい 香取慎吾四月特別公演』を振り返って、良かったなと思うところはいくつもある。

例えばそれは、ほぼ巨大モニターのVJのみという激ミニマルなセットを最大限に活かした舞台演出の見事さだったり、ステージ上と客席で声の掛け合いができないコロナ禍の現状をユーモアに反転させるスマートフォンを用いたサイレントMCの鋭さだったり。

あるいは、アルバム『20200101』のバラエティ豊かな楽曲とそれ以外のナンバーを見事に織り交ぜトータル90分とは思えない充実感をもたらす構成の妙だったり、変幻自在に表情を変えついには自ら「Today, Who am i ?」とまで言ってのけながらもザ・香取慎吾としか言えない唯一無二の世界観を作り上げる彼のp.b.i――パーフェクト・ビジネス・アイドルっぷりだったり。

つまり、公演を観たあとの俺には「香取慎吾にしか作れない、完成された質の高いエンタテインメントを観た」という強烈な満足感があった。

それ以上に今回個人的に響いたものがある。当たり前すぎて今さら何だそれと言われそうだ。でも本当なのだから仕方ない。

それは香取慎吾の「歌」だ。もっと言えば「声」だ。

***

『10%』みたいな曲をちゃんと踊って歌えていることとか、アルバム『20200101』のレパートリーに加え過去出演ミュージカルのナンバーから生バンドを従えてのカバー曲やさらに自身のCMソングまで多彩な振れ幅のセットリストを見事に歌いこなすこととか、パフォーマーとしてのスキルがここにきて伸びをみせていることとか――まあこんな言い方もあれなんだけど「こんなに歌える人だったのか」みたいな感慨もあるにはある。でも俺が受けた衝撃は、単純に歌唱スキルが飛躍的に伸びててすごーい、みたいなことではなかった。

今回のライブでは『ビジネスはパーフェクト』から『OKAY』への流れが特に素晴らしかった。表現者としてのプライド、ユーモア、喜び、自嘲、悲しみ、孤独、そして愛。そういうものたちを正反対のアプローチながらポップミュージックとして見事に落とし込んだアルバム中でも出色の2曲を立て続けに披露するパートは、普段は見せない香取慎吾という人間の根っこの部分が開陳されたような感動があった。

で、もし今回のライブが、昨年開催が予定されながら結局中止となってしまったさいたまスーパーアリーナ公演、つまり<アルバム『20200101』の参加ゲストを一堂に集めての一夜限りのライブ>と同じ形式で行われていたら、ライブの印象はまったく違ったものになったはずだ。

あの2曲の流れを実際にスチャダラパーとSALUを呼び寄せてパフォーマンスしていたら、それはそれで素晴らしいステージになっただろうことは想像できる(し、実際登場したステージもさぞ最高だったろう。ゲスト出演音源まとめて、開演前に流していたアルバムのインスト集と2枚組でリリースしてくれえ>香取ちゃん)。

けれど今回そうではなく、ダンサーやバンドメンバーといった仲間の存在はありつつも本質的な意味ではたったひとりでステージに立っていたからこそ、香取慎吾という「個」の純度のようなものは否応なしに高まったし、ひとりで立つステージだったからこそあの流れはあそこまで感動的なものになったのではないか。

***

そのうえでいまになって思うのは、その素晴らしさの根幹にはやはり彼の歌があったのだ、ということだ。

このライブでの香取の歌は、ほとんどアレンジを加えず音源のニュアンスに極めて忠実で、ブレず、実直で、どんなに尖った曲を歌ってもなんというか芯の通った生真面目さがあった。で、それがすごくよかった。

それはもしかしたら楽曲参加アーティストへの敬意の表れだったのかもしれない。思い返せば、俺は『20200101』というアルバムを世代もジャンルも様々なアーティストとともに紡いだ「音」を聴く作品として捉えていたけど、それも違ったのかもな、とすら思う。あれは多彩な振れ幅を持つ音の上で清々しく伸びる香取慎吾の「歌」こそを聴く作品だったのではないか。配信を観たあとで『20200101』の楽曲を聴くと、これまでとは全然違って聴こえる。俺ってこれまで彼の歌を全然ちゃんと聴けてなかったんだ、と呆然とする。

ここにきてボーカリストとしての本当の資質が、やっと顕になりつつあるのかもしれない。彼には音楽を、歌うことを、これからも続けてほしいと願う。いまよりもっと面白く、さらに魅力的な歌い手になる可能性がめちゃめちゃあるから。そう確信できる輝きが、今回のライブの彼の歌には確かにあった。

***

さて。今回のライブでの彼の「歌」について、ここまで書いたような感慨を抱いたことは、嘘偽りない事実である。

が、実は今回、歌以上に、もはや歌ですらない彼の「声」そのものに、とんでもなく感動してしまった瞬間があった。

正直に言うとそのことについて書くかどうか、ちょっと迷った。なぜならそれは、理論的な裏付けも批評的な視点もまるでなく、どこまでも個人的で、なんかこういう場に書くのもちょっと憚られるような、なんとも言えない体験だったからだ。

***

劇場で2回、配信で1回観た中で、すべての回で俺はまったく同じところで落涙した。

それはライブのエンディングだ。小西康陽リミックスの『10%』が流れ桜吹雪が舞い散る中、ダンサーやバンドメンバーがステージ奥の奈落へと次々と飛び込み、舞台を去っていく。

最後まで客席に(配信ではカメラに)向かって手を振り続ける彼も、ついに飛び込もうとする。その寸前、彼はこちらを振り向き、あのいつもの笑顔で、この日一際大きな声である言葉を叫んで、ステージを去った。

ああ、このひとは、こんなこえで、こんなふうに、あいのことばをさけぶひとなんだ。

それは、これまで何度も何度も何度も何度も聴いてきた、いわば彼のキャッチフレーズである、馴染みの言葉だった。でも今回のそれは、まるでいまはじめて聴いた言葉のように、俺の心の深いところに刺さった。

それどころか、ここまで90分間存分に、もっと言えばこれまで何年にも渡って、彼の歌を、彼の声を聴き続けてきたはずなのに、そのときはじめて彼の声を聴いたような気持ちにすらなった。

***

これ、実際にあのライブを観た人なら、「え、なんか色々大げさに言ってるけど最後のあの台詞にズッキュンやられちゃってるだけじゃん!」と笑うかもしれない。まあそうですそのとおりです。や、俺だってびっくりした。えー俺こんな歳にもなってまだ、あんな台詞ひとつでドキドキしちゃうんだって。最初劇場で1回目を観たときはまだそれくらいに思ってたから、泣きながらも少しの自嘲込みで笑ったりしてたもん。

でも2回目でも同じように泣いて、最後に配信を観てるときは途中からもう泣けて泣けてしょうがなくなって、最後の最後に彼のあの叫びを聴いてまた泣いて、そこでようやく、あ、俺は彼の声をこんなに求めていたんだ、ということに気がついた。

あれはなんかもはや、天啓に近い感じだった。

もう四半世紀くらい音楽聴き続けてるけど、人の声ってすげえパワーがあるんだな、ってバカみたいに驚いた。

本当にすごい体験だった。

***

バンドでも漫画家でも俳優でもアイドルでもいい。ある表現者のことを好きになって、いつの間にかその人の活動を追い続けるようになる。誰かのファンになるというのはそういうことで、俺もそういう人生を送ってきた。

俺のファン人生においていちばんの幸せといったら、「いまこの瞬間が、これまででいちばんいい」と心の底から実感できる瞬間だ。ああ、いま目の前のこの人が、いちばん好きだ。心からそう思えることは、長い人生の中でもなかなかあるものではない。

4月の頭に観に行ったDC/PRGの解散ツアー。ステージで菊地成孔は「最後の俺たちが最新で最強だ」と宣言し、実際にその通りの最高すぎる演奏を繰り広げキャリアにおける沸点を更新したままバンドの歴史にピリオドを打った。めちゃくちゃ幸福なライブだったしその美学を理解し受け入れもしたけど、いままさに目の前で最高としか言えないライブをしているこのバンドをこの先もう二度と観られなくなるという事実は、やっぱりどうしようもなく寂しかった。

今回の明治座ライブは、少なくともこれまで俺が観てきた香取慎吾のあらゆる表現の中で、もっとも素晴らしいものだった。エンタテインメントを偏愛する人生の中で心からそう思える表現に立ち会える瞬間ほど、嬉しいことはない。

なにより幸福なのは、香取慎吾のエンタテインメントはこれで終わるわけではない。きっと、いや必ず、この先も続いていくのだ。

***

あの日、誰もいなくなったステージを眺めて、涙を流しながら、俺は思った。

すごいスピードですっかり変わっていくこの世界で、しぶとく生きていく勇気を、俺はまだ持ててないから。

俺はまだ全然大丈夫じゃないから。

だから、いま出会ったばかりのあの声を、お守りにして生きよう。

あの声をまた聴くために、俺は生きよう。

彼の声を聴いて、俺はそう思ったのだった。

ありがとう。2021年の春、あなたの声に、俺はたしかに救われました。
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