埼玉県 北本市 大友外科整形外科の
栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

久しぶりのblog更新です。

最近、
海外のサプリメントを取り寄せて
たくさんの種類のサプリを飲んでいる
患者さんが増えています。

私のクリニックでも
血液検査結果を聞いて、
足りない栄養素が何かを知って、
自分で安いサプリメントを購入して、
飲んでいても
結局症状が良くなっていない方が
少なくありません。

あるネット情報で
たくさんの方が購入している
代表的なサプリメントの1つが
アミノ酸キレート鉄があります。

では、
 キレート鉄って知っていますか?

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                            ↑
                            こんなのや

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                   ↑
                   こんなのが

キレート鉄です。

キレートって、
挟まれてるって意味なんですが、

図のように
鉄(Fe)が挟まれて
捕まっている状態なんです。

キレート鉄には
2種類あります。

天然物と人工物です。

天然物
ヘム鉄 = 天然キレート鉄

人工物
アミノ酸キレート鉄 = 人工キレート鉄

ヘム鉄は動物の血や肉に含まれている天然物、
アミノ酸キレート鉄は人が作った人工物。

前のblogにも書いた通り、

ヒトは鉄の吸収に関して、
2つの吸収経路を持っています。

①2価の金属イオンを吸収する一般ゲート


②ヘム鉄専用ゲート

ヘム鉄は専用ゲートがあるから
吸収率がいいと話しました。

だから、
鉄欠乏症(貧血)の治療には

吸収率の低い鉄剤よりも

ヘム鉄の方がいいとも話しました。

しかし、
ヘム鉄は動物から取り出すのに
手間暇がかかります。

コストがかかるため高いのです。

だから多くの方々は、

”安い鉄”

を求めます。

しかし、
高い ”天然のヘム鉄サプリ”
安い”人工のアミノ酸キレート鉄サプリ”
には
体内利用の面で雲泥の差があります。

今日からは、
その違いを知ってもらおうと思います。

一所懸命に綴りますね。


...............



まず知っていて欲しいのは、

私達の身体は、

”天然にある物を利用するように出来ている”

という事です。

小腸の粘膜上皮細胞に吸収された鉄は、
フェリチン、
セルロプラスミン、
トランスフェリン、
というタンパク質の力を借りて、
身体の必要な場所に運ばれて利用されます。

身体のいろいろなところに鉄が行き渡ると、
初めて私達の身体は鉄の貯蔵を始めます。

下の図を見て下さい。

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貧血ではない正常な人は

一番左の図のように、
フェリチン、
血清鉄、
赤血球、
組織鉄、
の全てが満たされています。

鉄欠乏になると、
だんだん図の右へと進んでしまいます。

これが貧血の進み方です。

鉄は脳や肝臓などの
大事な臓器や組織に最優先に供給されます。

だから鉄が不足すると、
私達の身体は
まず貯蔵鉄であるフェリチンを使います。

このフェリチンが減ることが、
左から二番目の図にあるように
潜在性鉄欠乏性貧血ということになります。

一般的な血液検査では
フェリチン値は測りませんので、

”血液検査では貧血はない”

ということになり
潜在性鉄欠乏性貧血と診断されません。

だから多くの方はここで治療しないので、
貧血は図の右へと進みます。

治療をしないでいると、

やがて貯蔵鉄であるフェリチンを
使い果たしてしまいます。

貯蔵鉄、つまり鉄の貯金がなくなると、
どこからか借金をしなければなりません。


脳や肝臓などの
大事な臓器や組織から
鉄を借りる訳にはいかないため、

血液中にある輸送中の鉄、
つまりは血清鉄を使うことになります。

血清鉄とは、
小腸粘膜上皮細胞から受け取った鉄を運ぶ
トランスフェリンに運ばれている鉄です。

しかし血清鉄も補充がないと
やがて減っていきます。

この状態でも一般の血液検査では、
血清鉄やUIBC、
またはTIBCを調べないために

”血液検査では貧血はない”

と言われてしまいます。

ということは、
この状態でも貧血の治療はされません。

当然、
貧血は進行してしまいますね。

すると、
やがて血清鉄も枯れてしまいます。

さて、
足りない鉄を大事な脳や肝臓に送るには
どうしたらいいですか?

しょうがない、
赤血球の中の鉄を使おう
ということになります。

赤血球の中のヘモグロビンから
鉄を借金することになります。

こうなるとやっと一般の血液検査でも
Hbの低下、
MCV(赤血球の大きさ)の変化、
MCHC(赤血球色素の濃さ)の変化、
などが現れてきます。

図でいうと
左から4番目になって初めて
一般の血液検査で貧血っぽくなります。

貧血っぽいと書いたのには、
ちゃんと理由があります。

なぜなら、
貧血とは血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態と定義され、WHO基準では、成人男子 は13g/dl未満、成人女子や小児は12g/dl未満、妊婦や幼児は11g/dl未満と定められて』いるからです。

つまり、
貧血症状があっても、

男性でHb13.0g/dl以上、
女性や子供でHb12.0g/dl以上、

あれば貧血ではないことになります。

人によってはここでもまだ

”貧血ではない”

といわれているかもしれません。

此の期に及んでも、
まだ貧血の治療をされなければ、

貧血は進行し、

いよいよ最終ステージに突入します。

図の一番右、
ついには脳や肝臓にも鉄が足りなくなります。

こうなると、
いろいろな症状が出てしまいます。

頭痛、
イライラ、
うつ症状、
疲れやすさ、
手のしびれ、
腰痛、
耳鳴り、
歯の痛み、
などなどです。

この時期まで、

”貧血ではない”

といわれていた方は、

内科、
神経内科、
精神神経科、
脳神経外科、
整形外科、
耳鼻科、
歯科医、
などを受診します。

受診先のドクターやデンティストは、
果たして貧血を疑って
血液検査をしてくれるでしょうか?

CT、
MRI、
レントゲン、
聴力検査、
口腔内チェック、
をして

”特に異常なし”

って言われて、

とりあえず
痛み止めとかを出されていませんか?

原因は貧血なのに‼️

ここで血液検査をすれば、

重症なのでやっと

『貧血があるよ』って言われるでしょう。

皆さん、
図の一番右のステージにきてやっと

”貧血です。”  

って言われても、

一番左の正常なレベルに行くのは
至難の技ですよ。

私は、
鉄欠乏症の治療には

必ずヘム鉄を使います。

しかし、
前述の通りヘム鉄は高価です。

だけど、
ヒトの身体のことを考えたら
ヘム鉄を摂取するのが一番安全で確実です。

実はこのヘム鉄は、

日本とヨーロッパの一部でしか作れない

って、知っていますか?

海外、
特にアメリカでは
ヘム鉄サプリが作れないのです。

ヘム鉄サプリが作れないから、
使えないのです。

だから、
アメリカではヘム鉄を使っていないのです。

では、
鉄欠乏症の治療はどうするのか?

そこで作られたのが、
人工のキレート鉄、
アミノ酸キレート鉄、
あの有名なフェロケル®️です。

私達の小腸は、
アミノ酸を積極的に取り込みます。

わざわざATPを使って、
能動輸送という方法で
アミノ酸を積極的に取り込みます。

フェロケル®️は、
アミノ酸として腸に取り込まれるんです。

だから、
ヘム鉄より吸収率が高いのです。

すごい吸収率なんですよ!

しかし、
本来の鉄の取り込みは、
2価の金属鉄のゲートと、
ヘム鉄のゲートの、
2つしかないはずなんです。

本来は

鉄の入り口は
2ヶ所だけって決められているんです。

この自然の掟を破ったのが、
人工のキレート鉄、フェロケル®️です。

人工のキレート鉄は、
天然のアミノ酸専用ゲートから優先的に
小腸粘膜上皮細胞に入ってきます。

キレート鉄は、
挟まれているだけなので、
細胞内に入るとアミノ酸から外れて、
2価の鉄がどんどん細胞にあふれます。

鉄の専用ゲートから入って来る鉄の量は、
腸が厳重にコントロールします。

体内に鉄が足りないとゲートを開き、
鉄が足りているとゲートを閉じます。

しかし、
アミノ酸キレート鉄、フェロケル®️は
身体が鉄を必要としなくなっても
アミノ酸として
どんどん勝手に入って来ます。

小腸の粘膜上皮細胞は、
アミノ酸を吸収したつもりなのに、
なぜか一緒に鉄が付いているので
大量の鉄で細胞内は大混乱。

2価の鉄は、
フェントン反応を起こすと危険なので、
粘膜上皮細胞はフェリチンを増やして
鉄の暴走を防ぎます。

下の写真を見て下さい。

衝撃です‼️

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左は自然の鉄の取り込み。
右はフェロケル®️の取り込み。

小腸の粘膜上皮細胞内は、
鉄過剰状態です。

異常状態です。

フェロケル®️は、
小腸の粘膜上皮細胞内に
フェリチンを増やします。

増えすぎたフェリチンは、
チョロチョロと漏れ出てきます。

この時、
血液検査でフェリチンを測ると
血清フェリチンは増加します。

ヘム鉄で治療すると、
貧血は図の右から左に移動していきます。

つまり、
まず自覚症状が回復し、
ヘモグロビンが回復し、
次に血清鉄が回復して、
最後にフェリチンが上がってきます。

自然な流れで貧血が治ります。

ヘム鉄での貧血治療で
なかなかフェリチンが上がってこないのは
このためです。

一方、
フェロケル®️を摂取すると、
小腸の粘膜上皮細胞内にフェリチンが増え、
増えすぎたフェリチンが血清中に漏れて、
早期からフェリチン値が上がり始めます。

しかし、
Hbが上がらないなんてことが起こります。

フェロケル®️でフェリチン値が上がるのは、
小腸の粘膜上皮細胞内に増えすぎたフェリチンが外に漏れることで起こる炎症に近い状態だと考えられます。

貧血の図で言えば、
一番右や右から二番目の図で
いきなり貯蔵鉄だけが増えているなんて
あり得ないんです。

アミノ酸キレート鉄は、
吸収率は抜群でも、
体内で利用できない鉄を増やしている。

ネット情報からフェロケル®️を購入して、
数ヶ月子供に飲ませたという方が、
私のクリニックに来たことがあります。

子供の採血をしてフェリチンを調べて
ビックリしました。

Hbが10.3g/dlなのに
フェリチンが68とそこそこ高い。

まあ恐ろしいことが起こっていました。

腸に炎症が起こっていて、
貧血は治っていないのです。

フェリチン値が上がればいいなんて、
生半可な知識で
アミノ酸キレート鉄を飲んでいる方、

しっかりと貧血を評価できる先生を受診して頂きたいと思います。

皆さんの参考になれば、
幸いです。

では、また。