大河ファンタジー「精霊の守り人」 視聴率が振るわなかった理由 | ノリパーのブログ

大河ファンタジー「精霊の守り人」 視聴率が振るわなかった理由

■視聴率
 NHKの大河ファンタジー「精霊の守り人 最終章」の放送が終わって3週間が経ちました。第3シーズンの視聴率は概ね5~6%台をウロウロする程度で、全3シーズン通しての最高視聴率が第1シーズン第1話が記録した11.7%(いずれもビデオリサーチ調べの関東地区の視聴率 Wikipediaより)と、NHKがかなりの予算をつぎ込んで3年かけて制作した大作だったにもかかわらず、残念ながら視聴率的には全く振るいませんでした。
 個人的には、かなり楽しませてもらった番組でしたし、テレビドラマとしてはとても良く出来ています。大好きな作品です。とはいえ、全シーズンを観終わってみると、視聴率が振るわなかったのがそれなりに肯けるというのも、正直な感想です。

 

■第1シーズンの拙さ
 というのも、私も第1シーズンの第1話からリアルタイムで熱心に視聴し続けたというわけではなかったからです。たしか第1シーズンの放送当時(一昨年の2016年3月)は全話録画をしたものの、1話2話を観たきりだったのです。要は2話で一旦視聴を打ち切ってしまったのです。

 第2話で10.3%だった視聴率が、第3話では7.1%へと大きく落ちています。第2話を観た4人に1人は、第3話を観なかったということを意味します。私はまさにこの4人のうちの1人だったというわけです。第3話を観なかった理由、それは、第1話・第2話と話しがやけに暗いからです。アクションは素晴らしいのですが、いかんせん多勢に1人で挑むバルサ、逃げ切りはするものの、途中で気を失ってしまうという。それに、バルサが回想として、話しの本筋とは余り関係ないと思われるバルサの過去が、何度も割り込んでくるのには、ちょっと過剰な演出のように思えてイライラしたものでした。おそらく、ここで脱落した人も 大同小異な理由だったのではないでしょうか。

 ただ、後になって原作全てを読んだ後、あの回想シーンが短編集に収められているエピソードだと分かると、また違った感慨が湧くのです。でも、ああやって唐突に割り込んでくると、それまでの話しとどんな関係があるのか解らず戸惑った視聴者も多かったのはないでしょうか。初見の際の私が、まさにそれでした。

 

■第1シーズン放送終了後
 第1シーズンの放送中から放映終了にかけて、「視聴率大爆死!」などの見出しをネット上で多数見かけました。そういった記事や投稿をちらほらと読んでいると、綾瀬はるかの集客力がどうのとか原作と違うとか、意外とどうでもいいようなことばかりで、明らかに番組を観ずに書いてると思われる記事も散見される始末。綾瀬はるかの集客力なんて視聴者には関係ないし、ドラマが原作と少々異なるのはいつものこと。ネット上でそんなマヌケな記事や意見を見てると、最後まで観てみようかという気になって、放送が終了してから2ヶ月くらい経った頃に、消さずに残してた録画を第1話から全話観てみました。なんと、これはかなり面白いではないか、となったのです。
 改めて観ると、綾瀬はるか演じるバルサのアクションはかなりカッコいい上に、世界観の設定も良く出来てて興味深い。加えて、バルサの過去も第3話で語られ、途中で挟まる暗い回想の意味もわかって、精霊の卵の謎にも近づき、第3話から第4話はとても面白く観る事ができました。掴みは大切だなぁ、と思うこと頻り。

 そんな折、夏頃だったか、古本屋で原作本「精霊の守り人」を見つけたので、さっそく買って読んでみました。これがまた実に面白い。でも、原作を読んだ人なら誰もが思うのが、「あれ、ログサムが生きてるよ?」ということですね。それも中村獅童が演じてる以上、ちょい役である訳ではなさそう。その意味は、第3シーズンで解るのですが。
 さて、そうなると原作の続きが読みたくなるところなのですが、番組サイトにある原作者のインタビューによると、どうやら原作とは違う構成になるらしいということで、ここは映像作品を先に楽しもうと考えて、半年後の第2シーズンを待つことにしました。他にも読みたい本がいろいろありましたしね。

 

■期待の第2シーズン
 そして、楽しみにして迎えた第2シーズン。ところが、これがまた、壇蜜が串刺しにされるところから始まるという、実に陰鬱な始まり方。思い返してみると第1話の冒頭でも、チャグムを助けたバルサが捕らわれて拷問を受けてました。原作「精霊の守り人」には、そんな場面はないにもかかわらず。なぜに物語の出だしをこうも必要以上に陰鬱で暗いものにしてしまうのか。

 その上、バルサとタンダの話しとチャグムの話しが交互に描かれるものだから、それぞれの話しの展開が遅い。あれはちょっと辛かったですね。
 ただ、その2つのストーリーが合流した第12話と第13話は、実に良かった。チャグムの生存を知らされると同時に、その護衛の依頼を受けた後のバルサは、いきいきとして颯爽と駆け出します。ラストで、チャグムの窮地に飛び込んでくるバルサ、これが実にカッコ良かった。そのシーンは、何度も観返したものです。
 ちなみに、ネット上では真木よう子の演技が下手だなんだという意見が目に付きましたが、彼女くらいの演技力のテレビ俳優は他にいくらでもいて、それが特に文句も言われてないし、さほど気にはなりませんでした。ただ、セリフ回しにちょっと品がない印象を受けたのは間違いないですが。それに、意外にはまり役の綾瀬はるかや、渋い演技の柄本明が周りにいるものだから、少々見劣りするのはやむを得ないところかと。

 

■第2シーズンと原作「神の守り人」
 第2シーズンのラストで思いっきり盛り上がってしまったものですから、原作に飛びつきました。まずは、ドラマでやった8巻目の「天と地の守り人 第一部 ロタ王国編」まで読んでみようと原作本を買い込みました。あっという間に読み終わりました。1巻は既に読んでましたから、7冊でしたが、1週間もかかりませんでした。
 読むと解るのですが、バルサとタンダがアスラとチキサ兄妹を救う「神の守り人」は、発端こそドラマと同じですが、全体としてはあそこまで暗く陰鬱な話しではないのです。たしかに、アスラが背負わされた運命には重いものがありますが、そこからアスラを救おうとするバルサとタンダの活躍は、国家転覆を巡る陰謀も絡んで、まるで007シリーズのようなスパイ戦の様相を呈した痛快無比な冒険アクションという一面も持っています。それを、NHKは何故あそこまで暗く重い話しに仕立ててしまったのだろうかと。人殺しを避け得ない稼業「用心棒」をしているバルサが、自らの心の闇に向き合うという話しでもありますが、そういった暗い面ばかりが際立つ演出や構成はもう少し何とかならなかったものでしょうか。その上、間にチャグムを主人公とした「蒼路の旅人」のエピソードが挟まるものだから、話しのテンポが悪い。いろいろと考えた上のことだとは想像できますが、結果としては、それが拙い方向に転がってしまったとしか言いようがありません。

 

■第3シーズンと原作「闇の守り人」
 原作「守り人」シリーズを8巻まで読んでしまったということは、第3シーズンで描かれる「闇の守り人」も読んでしまったというわけで、結局、第3シーズン放送開始前に「天と地の守り人」も3冊とも全部読んでしまいました。要は、読み出したら止まらなかったということです。
 読み通してみると、原作の第2巻「闇の守り人」は出色の出来。第1シーズンと第2シーズンで細切れ的に登場したジグロとバルサの過去に決着を付ける物語。不思議な雰囲気に充ち満ちたルイシャ贈りの儀式、舞台となる山脈の洞窟や山の底の儀式場の素晴らしいイメージ、ヒョウル〈闇の守り人〉正体にカンバル王国に覇を唱えようとする者の陰謀と、実に面白い。
 そして第3シーズンは、この「闇の守り人」と「天と地の守り人 第二部 カンバル王国編」を一緒にやってしまおうというのですから、原作では既に故人となったはずのカンバル王ログサムが生きているというのも肯けます。バルサの敵として彼が生きててくれた方が、話しが解りやすくなりますからね。
 ただ、そうした工夫はあるものの、そもそも小説の持つ情報量を全てを映像化作品に詰め込むのは、「精霊の守り人」ならずともなかなか難しいところ。第3シーズンでも、「闇の守り人」で描かれた、ユサ山脈の洞窟やバルサが儀式場へ向かう地下水流の描写は全くありませんでしたし、「天と地の守り人」で描かれているタルシュ帝国側の内部事情はほぼ省略されてました。この辺りは、致し方ないといえるでしょう。

 

■視聴率が振るわなかった理由
 あの原作のほとんどを映像化しようとしたNHKの英断は、賞賛に値しますし、ドラマとしてはそれなりに良く出来ているし、とても面白かったと言わざるを得ません。とはいえ、視聴率が振るわなかった理由、というか、少なくとも第1シーズン第1話を観た視聴者を引っ張ってくることが出来なかった理由というのも解ります。
 一言でいうなら「暗い」のです。それも必要以上に。バルサの恨み辛みを引きずり過ぎたのでしょう。原作では、ジグロが絡むバルサの苦悩は、第2巻の「闇の守り人」でほぼ解決されるのです。そのため、その後のバルサはさほど過去を引きずっておらず、今そこにある危機に迅速果敢に挑む女用心棒のカッコ良さが溢れているのです。それが、第1シーズン、第2シーズンの中盤以前にはないのです。バルサのアクションは良いです。綾瀬はるかの身体能力の高さはかなりものです。もはやアクション女優といってもよいでしょう。バルサはけっこう怪我したり逃げたりしてますが、たいていが多勢に無勢、というか多勢に1人で立ち向かったのですから致し方ないところ。タイマンではほとんど無敵でした。でも、それがなかなか爽快感に繋がらない物語になってしまってる。それが、実に残念。
 それと、若き日のバルサと養父ジグロとの旅路のシーンがバルサの回想として、そこかしこに挟まるのですが、それがストーリー展開のリズムを悪くしてました。ジグロを演じる吉川晃司はカッコイイし、幼いバルサを演じた2人の女の子も可愛くていいのですが、シーンの入れ方、挟み方が拙かったとしか言いようがありません。特に第1シーズンでは、視聴者がバルサとジグロの事情等を良く理解していないから、回想の意味を掴み損ねてかねないものだったのです。そこに来て、第2シーズンの前半はバルサの話しとチャグムの話しが交互に描かれるものだから、どちらの話しもなかなか進まないので、各話でのカタルシスがない展開になってしまってました。
 話しがなかなか進まないということとの関連で言えば、たった4話の第1シーズンから第2シーズンまで、10ヶ月近くも空けるというのはちょっと長すぎたのではなかろうかと。その意味では、深夜でも構わないので、全3シーズンを通して連続で再放送してほしいところです。「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」のように再放送で人気が出てくるかもしれません。ソフトの売上がどうの、とか言って再放送を渋っていると、せっかくの素晴らしいコンテンツを、大河ファンタジーという新たな金の鉱脈を失う羽目になってしまうかもしれませんよ、NHKさん。

 

■結び~ファンタジーというジャンル
 視聴率が振るわなかった理由として、どうしても気になるのが「ファンタジー」というジャンルです。普通の人の目に見える人間が住む世界と精霊の住む普通の人には目に見えない世界が重なって存在するという世界観、そういったものが日本人には受け入れられ難いのではないか、という意見もあります。しかし、60代、70代の人ならともかく、子供の頃からアニメや特撮に馴染んだ50代より下の世代は、そんなことはないでしょう。「ドラゴンクエスト」や「ファイナル・ファンタジー」といったロールプレイングゲームでファンタジー世界に馴染んでいますし、「指輪物語」や「ハリー・ポッターシリーズ」も大ヒットしています。決してファンタジーに馴染みがないなんてことはないとは思います。ただ、世間的にはそのように受けとられてしまい、今後、日本でファンタジーが映像化され難くなるようなことになって欲しくありません。
 「ファンタジー」についてまで話題を広げると話しが長くなり過ぎるので、これ以上は触れませんが、大河ファンタジー「精霊の守り人」の視聴率が振るわなかったのは、これが「ファンタジー」であったからではなく、必要以上に暗い雰囲気と、テンポの悪いストーリー展開にその主たる理由があったのです。