約束を守るロシアなどあろうか。 | 旗本退屈女のスクラップブック。

西村眞悟の時事通信

 

 

平成28年10月4日(火)

 やはり、ロシアについて書いておこうと思う。
 ロシアのプーチン大統領は、十二月に我が国を訪問し、
 安倍総理の郷里である山口県を訪れ、総理と会見する予定だ。
 その日露首脳会談を前にして、ロシア側は、日本側に、
 大陸の沿海州と樺太の間の間宮海峡と樺太と北海道稚内の間の宗谷海峡に、
 橋または海底トンネルを建設して、ロシアから鉄道および自動車によって樺太を経て北海道に直接抜けられる陸路を建設する提案をしてきているようだ。
 このロシアの二つの海峡に橋と海底トンネルを建設するという提案を知って思い出したことは、かつてソ連が、
 我が国が青森と北海道の間の津軽海峡に建設していた青函トンネルに
 非常な興味を示し、そのトンネルの位置と図面を見せてくれと日本側に要請したことだ。
 もちろん、日本側はソ連の要請に応じなかったようだが、
 ソ連そしてロシアは、青函トンネルの位置と構造は知り尽くしていることと思う。
 間宮海峡、宗谷海峡そして津軽海峡を陸路で結べば、
 シベリア鉄道は、ヨーロッパから一万キロ以上を踏破して
 直接東京に乗り入れできることになる。
 陸路は、ロシアの勢力圏のシンボルである。
 ロシアは、間宮と宗谷の二つの海峡の海底トンネルを、
 青函トンネルを完成させた日本の技術とカネで建設しようとしている。

 ロシアのプーチン大統領は、
 既に安倍総理と十回以上も会談し、
 さらに十二月の山口県の安倍総理の私邸を訪れることにして、
 総理と内閣そして日本の朝野に対露協力推進と北方領土返還の期待を醸成させながら、
 一体、何を目論んでいるのであろうか。
 これを冷静に見極めねばならない。
 次ぎに、事実だけを列挙する。

(1)大陸国家(LAND POWER)であるロシアの東への拡張と
 鉄道建設の歴史は不可分一体である。
 鉄道が東に延びれば、ロシアの支配も東に拡張した。これがロシア膨張の歴史だ。
 十九世紀から二十世紀所初頭にかけて、
 ロシアは満州における鉄道施設権を獲得して満州を掌中に治め、
 朝鮮半島を拠点にして西太平洋に乗りだして海洋の覇権を握るために、
 日本を屈服させようと軍事的圧力を増大させてきた。
 これが日露戦争の原因である。
(2)ウクライナの親ロシア派のヤヌコービッチ政権が倒されて
 親欧米派の政権が誕生した平成二十六年(二〇一四年)、
 プーチン大統領は軍事力を用いてモスクワから千キロ南西の
 ウクライナのクリミアとセバストーポリをロシアに編入した。
 以後、ヨーロッパではモスクワから六百キロ北西のバルト三国にも
 プーチン大統領がロシア軍を侵入させるという予測が現実味をおびて語られている。
 そもそもプーチン大統領(というよりロシア)は、
 昔から「力の信奉者」である。
 力を信じないロシアなど、あろうか。
(3)我が国の南の南シナ海において中共が軍事基地を建設している。
 同様に、ロシアは、我が国の北のオホーツク海と北太平洋の境にある
 国後・択捉に軍事基地建設を進めている。
 南シナ海の中共の軍事基地が脅威なら、
 目と鼻の先の我が国領土である国後・択捉のロシアの軍事基地は更に脅威ではないか。
(4)我が航空自衛隊のスクランブル発進は、
 平成二十六年までロシア軍機に対するものが一番多かった。
 我が空自が始めて実弾射撃による警告を発した軍用機は、沖縄の領空を侵犯して
 アメリカ軍基地と空自基地の上空を飛行したソ連軍機である(昭和六十二年十二月)。
 現在、空自のスクランブル発進は対中国軍機が第一位で
 次ぎに対ロシア軍機が第二位である。
 中共の軍事力とロシアの軍事力は、共に脅威ではないか。
(5)昨年九月、プーチン大統領は、中共の対日戦勝利七十周年の軍事パレードに出席し、
 天安門で習近平主席と並んでパレードを見学した。
 本年六月、ロシア軍艦は中国軍艦に先駆けて
 沖縄県沖の我が国の接続水域に侵入した。
 本年九月、ロシア海軍は中国海軍と南シナ海で合同軍事演習を行った。
 このように、現在、ロシアと中共は、思いの外、親密である。
(6)プーチン大統領は、一貫して、
 日本の経済協力と日本との領土交渉は切り離すと言っている。
 つまり、プーチン大統領は、日本からの経済協力は戴くが、
 領土の返還には応じないと言っている。

 以上、列挙したが、是で言える事は、
 プーチンを甘く見てはならない、経済協力をすれば、事態は好転する、
 と思ってはならない、ということだ。
 拉致被害者救出問題でもそうだが、
 安倍総理は、
 自分の内閣で、拉致被害者を救出する、
 自分の内閣で、北方領土返還を実現する、
 と言うのをやめたらどうか。
 共に足下を見られるからだ。

 なお、本稿の表題を「約束を守るロシアなどあろうか」とした。
 明治維新以降、我が国が遭遇したロシアは、まさにそうである。
 しかし私は、ロシアを憎んでいるだけではない。
 ロシアの大地には、愛すべき素朴なロシア人が住んでいることを知っている。
 また、明治維新以降、日本人が一番多く読んだ外国文学はロシア文学である。
 学生時代、ソビエト法制の勝田吉太郎教授が、授業中に、
 ドストエフスキーの「罪と罰」の、
 シベリアに流された主人公ラスコーリニコフに寄りそう
 ソーニャという娼婦のことを、
 あのような素晴らしい女性に、一度逢ってみたいと言ったことを、 
 授業の事は何も覚えていないのだが、不思議に今も懐かしく覚えている。