「サッカーの解釈と表現が他の選手だけでなく、他のブラジル人選手とも異なる。ウソのようなドリブルで相手を狂わせてしまう。ドリブルというより、バレエを踊っているかのように見えるときさえある。バルサのファンでない人はそう思えないだろうが、彼を観るのは楽しいよ。素晴らしく、プレイに無駄がなく、華やかな選手だ」

 第36節のビジャレアル戦を4-1で快勝した後、ルイス・エンリケがこう称えたのはネイマールである。

 '13年の夏に鳴り物入りでバルセロナにやってきた彼は、それ以来さすがのパフォーマンスを続けてきたが、ここ数カ月はレベルがさらに上がっている。チームの攻撃と試合の流れに対する影響力が、ブラジルのサントスにいた頃に匹敵するほどになっているのだ。

ワイドなポジションからゴール前へ侵入する。

 覚醒のきっかけといえそうなのは、ルイス・エンリケが敢行した4-3-3から3-4-3へのフォーメーション変更である。

 2月14日のCLパリSG戦第1レグを4-0という大差で落とし、直後のリーガでも数段格下のレガネス相手に苦戦したチームを見て、ルイス・エンリケは決断を下した。ブスケッツとメッシを中心に中盤が再構築され、サイドバックの位置取りと攻撃参加のタイミングも変わった。

 おかげで、ネイマールのプレイエリアにも変化が生じた。

 フォーメーション変更前と変更後のヒートマップを較べると、違いは歴然としている。たとえば1月の国王杯アスレティック戦では左サイドラインから9~18mほどの幅の帯上でプレイしていたネイマールだが、3-4-3での3試合目となったリーガのセルタ戦になると、自陣から敵陣半ばまではラインにべったり貼りつき、ペナルティエリア前まで来たところで中央へ向かって動いている。

 いうならば、チームの戦術に沿ったポジショニングと、ボールとゴールを求める本能的なポジショニングの両立だ。

ドリブル成功率、成功回数はともにリーガ最高。

 そのポジションから、単独および連係プレイを繰り広げる。

 単独では、ルイス・エンリケを唸らせる必殺のドリブルがある。

 各種データを提供しているウェブサイトSquawka.comによると、「マーカーを完全にかわす」という意味でのネイマールのドリブル成功率は62%。成功回数は160。どちらもリーガでは最高の数字である。

 また1試合平均回数5.8は欧州の主要リーグでもトップだ。一般的にマーカーを抜くのに必要なのは速さと瞬発力と思われているが、ネイマールは並外れた創意とボールコントロールと豊富なフェイントをも併せ持っている。他者にない強みである。

 そして連係してのプレーでは、新フォーメーションで絡みやすくなったメッシやイニエスタとのコンビネーション。世界有数の技術と創造性を持つ2人(あるいは3人)の連係は、守る側にしてみればこの上ない脅威だろう。

実はネイマールの走行距離はとんでもなく長い。

 今季のネイマールのゴールチャンス創出回数(ゴール枠内へのシュートに繋がるパスを出した回数)はチーム最多で、36節を終えたところで84回を記録しているが、開幕から第23節レガネス戦までの一試合平均は2.8回、その後のアトレティコ戦以降は3.3回に増えている。

 もうひとつネイマール好調のカギといえそうなのは、クリスマスのリーガ中断期以降、右肩上がりのフィジカルコンディションだ。中でも目を見張るのはスタミナ。ディフェンス時は4-4-2と化する守備陣形の一角を担うべく自陣に戻り、攻撃に転じては切れのあるプレイを疲れ知らずで続けている。サントス時代からネイマールに付いているフィジカルトレーナー、リカルド・ロサは、それこそが彼の知られざる強みだという。

「ネイマールの主な特長はスピードと敏捷性だが、実は持久力もすごい。みんな知らないと思うが、一試合の平均走行距離が10kmに及ぶこともある。フォワードではめったに見られない距離だ」

本人は、あらゆる点でメッシに感謝している。

 一方で、ネイマールに近い人が指摘するのは「成長」であり、本人も3月末のブラジル代表合流時にそれを認め、恩人メッシに感謝している。

「バルセロナでのこの4年間、特に一番大変だった最初の頃、おおいに助けてもらった。バロンドール賞を何度も獲っている選手が隣に来て、『落ち着け。自分のサッカーをすれば全てうまくいくから』って言ってくれるんだ。憧れの存在だったからうまく話せなかったけれど、あの後は気が楽になったな。俺がいまキャリア最高の時を過ごしているのはメッシのおかげ。それからチームメイトのおかげだ」

 バルサの今シーズンはリーガの残り2節と国王杯決勝戦で終わる。

来季のネイマールはなおレベルアップしているかもしれないけれど、だからといっていまの彼を見逃す手はない。

(NUMBER web)


この記事は5月11日に出されてるのでリーガの試合のことを書いてありますが、ご存知の通り今季のリーガの優勝はマドリーでした。

バルサの今季の試合は残すところ、国王杯決勝1試合のみ。

国王杯の優勝カップを掲げることができるか?

今季最後のネイマールの異次元のドリブルを楽しみたいと思います。