新型ラズパイでNAS自作、注目ギガイーサの実力

 

2018・08・10 https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00390/080900008/

 

 休日が3日もあれば何か作りたくなるのがエンジニアの性。その素材として今夏の新顔と言えるのが、手のひらサイズのPCボード「Raspberry Pi 3 B+(ラズパイ3 B+)」だ。基本性能が強化され、これまで苦手としていた用途も工夫次第でこなせるようになった。

 ラズパイ3 B+は、4000円台ながらLinux OSを動かせるArmコアのSoCを搭載するラズパイシリーズ。2018年6月に国内で入手可能になったばかりの最新モデルだ。ネットワークは、有線LANが100BASE-TXから1000BASE-Tのギガビット・イーサネット(GbE)対応に、無線LANがIEEE 802.11nからIEEE 802.11acに、それぞれ強化された。CPU性能は、動作周波数が1.2GHzから1.4GHzに上がった。これにUSB接続の外付けストレージと、ファイルサーバー専用OSを組み合わせると、いわゆるNAS(Network Attached Storage)に仕立てられる。

 

Raspberry Pi 3 B+とUSBストレージを組み合わせたNAS

 

 

専用OS「NextCloudPi」で実力を検証

 ネットワークとCPUの強化で、従来は手を出しにくかったNASの自作用部品としての魅力が高まった。100Mビット/秒の従来ラズパイでは、Gバイト単位のファイルを扱う際の力不足は否めない。とはいえラズパイ3 B+は、SoCとイーサネットコントローラー間のインタフェースが最大480Mビット/秒のUSB 2.0で、公称で有線LANの実効速度は300Mビット/秒程度としてある。1Gビット/秒のGbEの3割でしかない。実際に、Dropbox風のNASを構築できるLinux OS「NextCloudPi」をインストールして実力を試した。

 NextCloudPiは、公式Linux OSの「Raspbian」をベースにしたNAS用OSだ。Webブラウザーからファイルを管理できるGUIを備える。もちろん素のLinuxとしてカスタマイズを加えることも可能で、設定でリモート管理用のSSHサーバーやWindowsのファイル共有プロトコルである「SMB」を簡単に有効化できる。

 

待望のギガイーサ、その威力は?

 ここではmicroSDカードにNextCloudPiを導入し、データ用のドライブとして外付けのUSBストレージケースに入れた256GバイトのSSDを指定した。NextCloudPiのWeb管理画面とWindowsのファイル共有プロトコル「SMB」による読み書きを測定したところ、従来のラズパイ3 Bに比べて最大で2倍近い性能向上を確認できた。

 データ転送速度は、ラズパイからの読み出しがWeb(HTTPS)で22.0Mバイト/秒、SMBでは19.2Mバイト/秒、ラズパイへの書き込みがHTTPSで7.2Mバイト/秒、SMBでは13.6Mバイト/秒だった。最も高い結果が出た読み出し速度はビット/秒換算で約176Mビット秒。例えば約1.6Gバイトのラズパイ公式OSインストーラーを2分未満で読み出せ、GbEの効果を体感できる。

 

 ラズパイ3 B+は、初期状態でUSBストレージからOSを起動できるのも特徴のひとつだ*1。microSDカードに書き込むのと同じ手順でOSイメージファイルを書き込めば、USBからブートする。大小のファイルの読み書きが多発する用途では、microSDカードより2.5型HDD/SSDが向いている。試しにUSBストレージにNextCloudPiを導入したところ、読み書き速度は低下した。これはラズパイのNICがUSBポートと共通のUSB 2.0インタフェースでSoCにつながっているからだ。

*1 ファームウエアを更新すればラズパイ3でも利用可能。

 ラズパイのGbEは、ラズパイのSoCとUSB 2.0インタフェースで接続されている。このため、USB 2.0ポートに接続したSSDと、帯域を分け合う形になる。USB 2.0のデータ転送速度は480Mビット/秒だが、実効速度は300Mビット/秒程度でしかない。単純に分け合うと、150Mビット/秒がUSB 2.0を経由する読み書き速度の上限になる。

 SoCとは別の内部インタフェースでつながっている無線LAN経由の測定では、約12Mバイト/秒前後の読み書き性能となった。ラズパイ3 B+の802.11ac接続のリンク速度は300Mビット/秒前後だったが、無線LANとSoC間のインタフェースであるSDIOの帯域がボトルネックになっているようだ。

 

AC-USBアダプターの容量に注意

 ラズパイ3 B+をきっかけにラズパイを楽しもうとしている方は、電源となるAC-USBアダプターの容量に注意してほしい。容量不足による電圧降下が発生すると、CPUの動作周波数が抑えられたり、ハングアップしたりと、動作が不安定になる。

 電圧降下は画面右上に稲妻マークとして表示されるほか、コンソール画面やログなどでLinuxのカーネルメッセージとして確認できる。

 

 ラズパイ3以降、Raspberry Pi財団は容量が2.5AのAC-USBアダプターを推奨しているが、USBストレージを使うのであれば3Aの方が無難だ。ケイエスワイやスイッチサイエンスといったラズパイ3 B+を扱う主要な販売店は、3A級のAC-USBアダプターを組み合わせている。電圧降下警告を確認しながら、安定した環境でNAS作りを楽しんでほしい。