松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

私は、1988年大学卒業以来、生殖医療ひとすじで、大学病院勤務、米国留学、ARTクリニック勤務をして参りました。生殖医療専門医として、少しでも生殖医療に貢献できればと考えてこのブログを始めました。
近年のネット社会では、極めて沢山の情報が氾濫していますが、間違った情報も多く見受けられます。一般の方には正しい情報と間違った情報を区別することは不可能ですので、正しい情報をお伝えすることで、多くの方に赤ちゃんを授かって欲しいと思いブログを始めました。ブログは生殖医療に関係する知識や情報を、主に英語の論文などのデータに基づいてお届けしています。最新の英語の論文は日本語ではどこにも掲載されていない情報が満載です。「いち早く」「正確な情報」をお届けしたいと思います。
妊娠を目指すには良い精子と良い卵子の両方が必要です。どちらかが欠けてもいけません。目標に向けて夫婦で一緒に協力することが大切だと思います。ぜひ、ご夫婦で読んで欲しいと思います。

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男性と女性の最先端の治療が同時にできる生殖医療専門クリニックとして、
2013年9月 グランフロント大阪南館15階に「リプロダクションクリニック大阪」を開院し、
2017年3月 汐留シティーセンター3階に「リプロダクションクリニック東京」を開院いたしました。
私の知識と経験を活かした診療を受けることができるようになっています。遠方からの通院も可能ですので、ぜひ一度来院ください。

本論文は、PPOS法とアンタゴニスト法のPGT-A成績を比較したものです。

 

Hum Reprod 2024; 39: 1098(スペイン)doi: 10.1093/humrep/deae047

Hum Reprod 2024; 39: 878(UAE)コメント doi: 10.1093/humrep/deae051

要約:2019〜2022年44名の女性(平均年齢39.6歳)を対象に、アンタゴニスト法とPPOS法をそれぞれ1回ずつ6か月以内に実施し、PGT-A正常胚率(数)前方視的に検討しました。卵巣刺激は2周期とも同一で固定用量のrFSH製剤(225または300IU)を用い、初回はアンタゴニスト法(卵胞14mm以上から開始、ガニレスト0.25mg連日)、1 か月以上の休薬後PPOS法(CD1から経口ウトロゲスタン200mg連日投与)で採卵を実施しました。なお、すべての胚盤胞でPGT-Aを行いました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

        PPOS    アンタゴニスト   P値

刺激日数    9.4日       9.8日     NS

使用FSH量   2684 IU     2800 IU    NS

トリガー日E2  2743 pg/mL > 2224     0.021

トリガー日LH  2.96 IU/L  >  1.80     0.027

トリガー日P4  7.11 ng/mL  > 1.47     <0.001

採卵数     12.7個    > 10.3個     0.006

成熟卵数    9.1個     > 7.3個     0.011

受精卵数    7.1個     > 5.7個     0.014

胚盤胞数    2.9個       2.8個     NS

PGT実施数   2.9個       2.9個     NS

正常胚数     0.86個      1.00個     NS

正常胚率    29.5%      34.9%      NS

モザイク胚率  6.2%       4.8%      NS

 

解説:卵巣刺激の途中で排卵が起こらないようにする排卵抑制法は、GnRHアゴニスト法→GnRHアンタゴニスト法→PPOS法(黄体フィードバック法)へと進化を遂げてきました。黄体ホルモン製剤としては、メドロキシプロゲステロン、微粒子プロゲステロン、ジドロゲステロン、デソゲストレルなどが用いられています。PPOS法とアンタゴニスト法の培養成績や妊娠成績は同等であるとする報告が多いですが、ほとんどは観察研究に基づいています。そこで、より普遍的な評価として、本論文はPGT-A正常胚の数や率を検討したものであり、両者に有意差がないことを示しています。しかし、妊娠成績を検討していないこと、ランダム化されていないこと、アンタゴニスト法→PPOS法の順番でのみ実施しているという問題点があります。本論文の著者は、アンタゴニスト法とPPOS法が同等であるならば、低コストで実施できるPPOS法のメリットがあるとしています。

 

コメントでは、本論文の患者の75%が38歳以上であり、その年齢では胚盤胞の55〜70%が異常胚であることが予想され、結果もその通りになっています。しかし、全て「アンタゴニスト法→PPOS法」の順番で実施しているためPPOS法は不利になりますので、できればクロスオーバー試験「アンタゴニスト法⇄PPOS法」で行って欲しかったとしています。なお、アンタゴニスト法よりもPPOS法で採卵数が多かったのは、黄体ホルモンによる穏やかな下垂体抑制による可能性があります(トリガー日のE2、LH、P4が高いことがその証拠です)。

 

下記の記事を参照してください。

2024.3.30「アンタゴニスト法 vs. PPOS法

2024.2.9「☆卵胞期 vs. 黄体期スタート:ランダム化試験

2023.2.21「☆癌患者さんにおけるランダムスタート法と通常法の違い

2023.1.7「☆黄体期開始と卵胞期開始で正常胚率は同じ

2022.11.7「黄体フィードバック(PPOS)法 vs. アンタゴニスト法:妊娠成績

2021.10.3「黄体フィードバック法(PPOS):MPA編

2020.12.5「☆黄体期スタートと卵胞期スタートの結果は同じ

2020.9.23「☆早発P増加は正常胚率とは無関係

2020.7.28「黄体フィードバック法での正常胚率は変わらない

2019.10.5「黄体ホルモンによる排卵抑制は刺激途中からで良い

2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は

2018.2.20「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その5

2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4

2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3

2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2

2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?

2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)

2014.3.8「ランダムスタート法