今回は最初から長くなるだろうなと思って、なるべく端折りながら書いているはずだったのですが、いかんせん長くかかわっている分野でもあるので、どうしても長くなってしまい。実は予定では4回くらいかなと思っていたんですが、全然終わりません・・・

 

ということで、薄毛対策の話。

 

前回まで、毛周期の説明とか、薄毛とは何かとか、育毛剤のメカニズムとか、まあ、誰も書かんわなな、ややこしい情報をかいつまんで説明してきたわけですが(読んでて、かいつまんでるとは思われないかもしれませんが、かなり端折ってます。研究の人が読んだら怒られるレベル)、今回は前回に引き続き育毛剤の話を。

 

現在の育毛剤(発毛剤も含む)の主たるメカニズムと、だいたい以下の4つに分けられると思います。
1.血行促進
2.男性ホルモンの抑制
3.毛母へのエネルギーチャージ
4.毛母への刺激

 

 

 

 

 

まあ、それぞれに細かいメカニズムがあって、その辺を深掘りすると永遠に終わらなくなるわけですが、前回は1~3の説明をしました。今回は4から。

 

4.毛母への刺激
これについては、先の3でも書いた、アデノシンやペンタデカン、ミノキシジルなどが役割を果たしていますが、実はこれら以外にも存在します。


前述の薬剤は、比較的穏やかなのですが、実は血行促進のところで書いたカプサイシンとかメントール、あるいは育毛剤で結構多用されるエタノール(アルコール)などには、別の意味で刺激があり、これが発毛に効果を持っているという説が(アンダーで)存在しています。

ちょっと話はずれますが、私にはポールダンサーの知り合いが結構多くいます。ポールダンスは、ポールに身体を巻き付けて踊るもので、筋力はもちろんですが、摩擦力で身体をキープします。時にはポールを滑り降りるような技もあって、痛くないの?と聞いたら、最初はめちゃくちゃ痛いけど、慣れる、とのこと。見た目に反して、やたら体育会系なダンス(実際、めちゃくちゃきれいな女性が、バリバリ腹筋割れてたり、二の腕が盛り上がってたりするので、相当にハードなスポーツらしいのですけど)です。

 

で、ポールダンサーあるある、という話で聞いたのは、素足や腕を出すので、当然のように徹底して永久脱毛しているのだけど、ポールに擦れる部分に、ある日気が付いたら太い毛が数本生えていた、という経験談。どうやら、肌に刺激があって、それを守るために毛が生えてきたのだろうというのですが、実はこの話と発毛の話は非常に関係が深いのです。

髪の毛も体毛も、身体を守るためのメカニズムとして存在しています。したがって、身体が「守らなくては」となったときに、発毛のスイッチが入るというのです。で、思い出したのが、カネボウ紫電改と、90年代に一瞬流行ったトリカブト成分入りという噂の育毛剤の話。

紫電改(調べたら、大戦中の戦闘機の名前から取っているとか。知らなかった・・)は、確か80年台ごろに流行した漢方成分配合の育毛剤ですが、何より特長的だったのは、育毛剤と一緒に使う専用のブラシが併売されていたこと。育毛剤を頭に塗って、そのブラシで叩くというケアを推奨していたのです。当時研究所にいた人に聞いたのですが、一般にはブラシで刺激を与えましょう、くらいに言っていたのだけど、実際には軽く血がにじむくらいガンガン叩くというのを開発担当者は推奨していて、うっすらかさぶたができると、その下から毛が生えてくるのだ、と言われていました。それって、最後の毛母細胞を殺してるんじゃないの?と、当時は思ったものですが、数年前に某大手の専門の研究者の方と話した際、そのくらいの刺激だと、発毛スイッチが入るのではないか、というようなことをおっしゃっていました。細胞が命の危険を感じて目覚めるのだとか。いや、冗談みたいですが、その方は本気でした。とはいえ、こんなケアは、まったくもってお勧めはしませんけれども。

 

あの、攻めすぎな育毛剤は今は昔のこと。ほっとするような、ちょっと寂しいような・・・

トリカブトの成分が入っているという噂の育毛剤は、あえてここで名前は書きませんが、痩せる石鹸と同じころ(90年代半ば)に、どっと話題になり、すぐに消えた製品。これも、塗ると猛烈に頭皮に刺激があり、人によっては痛くて使えない、という話だったのですが、今にして思うと、そういう「生命の危機」的な刺激が、発毛スイッチをオンにしていたのかなと思います。実際、そんな仮説を、古参の研究者の方と喋ったことがあります。

という意味で、カプサイシンやメントール、エタノールは、そこまでではないにせよ、強めの刺激で「毛母細胞を目覚めさせる」作用があるのでは、と言われています。

 

カプサイシン入りの育毛剤とかあったっけ?と思ったら、ちゃんとありました。数はそんなにないけど、今でもあるんだなあと。ちなみに、メイン成分のキャピキシルは部外品主剤ではないけど、かなりしっかり育毛&脱毛予防(5αリダクターゼ抑制とか)効果がある成分です。

とはいえ、冷静にいうと、生命の危機というだけあって、細胞を殺してしまう危険もあるわけで、刺激によって毛が抜ける可能性も無視できず、こんな危険な賭けに出るのはどうかなというのが正直なところです。

最後に育毛剤の話をもう少しだけ

育毛剤とかスカルプローション類には、エタノールを多く含んでいる製品が意外に多くあります。スキンケアやその他の製品では、エタノールを配合しない処方が主流ですが、育毛剤だけは別で、20%以上入っているものも珍しくありません。これはなぜかというと、理由が二つあります。

1つは浸透性を上げるため。

頭皮は皮脂の量が多い部位として知られています。なので、ローションタイプの製品では、普通の水溶液では弾かれてしまい、浸透しにくいという事実があります。発毛も育毛の毛穴の中で行われるので、そこまで入っていかないと、まったく意味が無いのです。なので、エタノールを配合して、奥へ浸透するように作ります。

 

顔の場合は乳化して浸透性を上げるのですが、頭皮でこれをやると、髪の毛がぺったりしてしまって、そうでなくてもボリューム不足の髪が、、、ということで、この手法が使えないため、エタノールが活躍するわけです。

もう1つはさっぱりさせるため。

これも非常にデリケートな話なのですが、薄毛の人がローションタイプの育毛剤を使う場合、ローションの液が垂れるという問題があります。髪の量が少ないため、液が留まらないからです。したがって、エタノールなどの少ない、しっとりしたタイプの育毛剤を使うと、頭皮に残らず、顔や首に流れてしまうことがあり、クレームになることがあります。エタノール入りだと粘度が低いので、むしろ垂れると思うのですが、さっぱりしていると、あまり気にならないよう。製品テストで使用者の意見を聞いて、なるほどと思った記憶があります。

 

とはいえ、ノンアルコールの育毛剤ももちろん結構な数あります。どちらかというと女性用が多い印象ですね。


とまあ、なんだかんだと書いてきましたが、結局何が言いたいかというと、こういうことを知っておかないと、自分の「薄毛」の対処にあった育毛剤を選べないなということ。

例えば、髪の毛が薄くなったというときに、未成熟毛が多いせいなのか、髪が生えてこないせいなのか、というのは非常に重要なポイントです。また、男性ホルモンをDHTに変える酵素5αリダクターゼの活性や、DHTの需要感度は、残念ながら遺伝すると言われており、これに由来する薄毛なら、遺伝する可能性があります、ということは、このタイプの方は、早めに男性ホルモン関連の育毛対策をやっておいたほうがいいですし、プロペシアなどの飲み薬は効果的と思われます。逆に、皮脂が多く、それが取り切れずに未成熟毛が増えている場合、育毛剤でのケアよりも、シャンプーの習慣をどうにかしたほうが早いし、実際的と思います。

髪はあっても無くても、その人自身の人となりには全く関係ないですし、気にしない人も多いですが、割と多めの男性が非常に気にしています。最近は女性の薄毛も結構な問題になってきて(特に更年期以降の女性の薄毛)、育毛・発毛は見た目を気にする、というレベルを超えているようにも思います。残念ながら、現代の技術をもってしても、いかんともしがたい部分は多いのですが、こうした知識を持って、なるべく有効なケアをしていただきたいなと思うわけです。

ときれいに終わりそうですが、終わりません。ほんとに書きたかった、裏技の話を次回に書きます(つまり、ここまでが長い長い前置きという・・・)