新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

あるいはエナメルの目をもつ乙女 プロデュース第2幕

『こどもの一生』

Kodomo No Isshou


2024年5月15日(水)〜19日(日)

王子小劇場


作:中島らも

脚色・演出:青沼リョウスケ(劇想からまわりえっちゃん)

舞台監督:小川陽子 美術:いとうすずらん

照明:松田桂一 音楽:坂本弦

音響:谷井貞仁(Collage Sound)

音響操作:仲見歩野香

衣装:荒川智都 小道具:定塚由里香

振付:青沼リョウスケ(劇想からまわりえっちゃん)

歌唱/ダンス指導:八角ちゃん

演出助手:金子賢太朗(演人の夜)

稽古場代役:時吉海希(ターリーズ)

サポートスタッフ:西島朱里、八角ちゃん、竹田梓乃、倉貫翔太

宣伝美術:藤尾勘太郎

宣伝撮影/舞台写真:保坂萌

宣伝衣装:石澤希代子(あるいはエナメルの目をもつ乙女)

PV撮影/作成:つかてつお

映像収録/配信:まがたまCinema

制作:吉田千尋(LUCKUP)

企画/製作:石澤希代子(あるいはエナメルの目をもつ乙女)


出演:

中村猿人[劇想からまわりえっちゃん](秘書室長・柿沼貞三)
高木健(製薬会社社長・三友)
石澤希代子[あるいはエナメルの目をもつ乙女](ミミ/女子児童A)
鈴木麻美[にわか劇団けだものの界隈](家元・花柳嵐雪)
奥泉[あんよはじょうず。](藤堂)
川上献心[劇団風情](院長/QP)
助川紗和子[知らない星](看護婦/ビリケン)
ムトコウヨウ[劇想からまわりえっちゃん](山田一郎/女子児童B・みどり)


STORY

製薬会社社長とその秘書は、瀬戸内海のとある孤島にある医学クリニックを訪れる。そこで行われている精神療法を受ける患者たちはストレスを取り除くため10歳の「こども」に返り、共同生活をすることになるが…【公式サイトより】


石澤希代子さんによる個人ユニット、あるいはエナメルの目をもつ乙女第2弾。石澤さんは2021年、江古田のガールズが本作を上演する際のキャストに名を連ねていたが公演中止となり、それ以来、本作を上演したいと思っていたとのこと。


私が劇場で本作を観るのは2012年版2022年版に続いて3回目。それ以前のバージョン(古田新太さんが山田役)もテレビで見たことがあるが、いずれも大手製作で有名人が顔を揃えた上演だったのに対し、今回は小劇場。それでもまったく引けを取ることなく、むしろこうした心理スリラー系の作品は小劇場の方がより恐怖が感じられた。

最初と最後に披露される坂本弦さんによるオリジナル曲&ダンスもいい。劇想からまわりえっちゃん『もう一度、僕を孕んで』の劇中曲に続いてハマりそう。笑


キャストではエナメルの前作『フローズン・ビーチ』の演出を務めた助川紗和子さんがとてもよく、ダンスの時の表情がひときわ目を引いた。社長役の高木健さん、山田役のムトコウヨウさんもそれぞれ適役(や、全員適役だったけどね)。


上演時間1時間56分。




あひるなんちゃら

『飲める醤油』

NOMERU SOY SAUCE


2024年5月16日(木)〜19日(日)

駅前劇場


脚本・演出:関村俊介

照明:久保田つばさ 音響:星野大輔

音響操作:櫻内憧海(お布団)

音楽:綱島慎平 WEB:ムー

宣伝美術:川田昌史(STARLIGHT FACTORY)

キャラクターデザイン:TWIED

育休:伯美乃里、田代尚子

制作:中川加奈子、野村梨々子

企画・製作:あひるなんちゃら


出演:

日栄洋祐(社長・ヒルタショウタ)

松木美路子(生産本部長・オクデラ)

蜂井玲(生産本部・タバタケ)

根津茂尚(ショウタの弟・ヒルタコウジ)

杉木隆幸(コウジの友人、経理部・サヤマサトシ(43))

平川はる香(経理部長・ヨコハシ)

篠本美帆(ショウタの妹・サクラコ)

木村はるか(食堂経営・スミス)

松本みゆき[マチルダアパルトマン](客・ハナブサトモコ(33))


STORY

東京でそこそこ売れている役者をしていたショウタは、父親の死去に伴い江戸時代から14代続く醤油製造工場の社長となる。兄より先に会社で働いていた弟コウジは跡を継ぐ気は元々なかったが、経理部に勤める友人サヤマに会社を乗っ取ろうと唆される。一方、妹のサクラコはインフルエンサーのスミスとともにこども食堂を始めるが、子供は誰も来ない。そこへどう見ても大人だが小4だと言い張るハナブサという客が現れる。ショウタは機械に仕事を奪われて暇だった生産本部のオクデラやタバタケ、後輩のヨコハシに仕事を奪われて暇だったサヤマに新商品開発を命じる。そうして開発された飲める醤油だったが、健康に悪いことが判明する。


あひるなんちゃら最新作。


舞台はいつもながらのシンプル設計で、背景に床と同じベージュ色の幕が左右とその間にある他、丸テーブルにスツールが2脚あるのみ。


7億作ぐらい作られているような相続がどうのという話をあえて書いてみたという本作、そこはそれ、前説で上演中、ケータイが鳴っても誰かがトイレに行こうとしても怒らないよう呼びかけるような関村さんだけあって骨肉の争いが繰り広げられるはずもなく、基本的にはゆるやかなコメディ。

それでいながら、宇宙人だと転生だのが入り込んでくるところもあひるなんちゃららしいところで、「そこそこ」を肯定的に描いているところにも好感。

役者陣もこれ見よがしの演技を絶対にしないところがいいのよなぁ。特に女性陣のさりげない感じがいい。


上演時間1時間22分。

『関心領域』

THE ZONE OF INTEREST


2023年アメリカ・イギリス・ポーランド映画 105分

脚本・監督:ジョナサン・グレイザー

原作:マーティン・エイミス

撮影:ウカシュ・ジャル 美術:クリス・オッディ

編集:ポール・ワッツ 音楽:ミカ・レビ

音響:ジョニー・バーン、ターン・ウィラーズ

衣裳:マウゴザータ・カルピウク


出演:

クリスティアン・フリーデル(ルドルフ・ヘス)

ザンドラ・ヒュラー(ヘートヴィヒ・ヘス)

ヨハン・カルトハウス(長男クラウス・ヘス)、ルイス・ノア・ヴィッテ(次男ハンス・ヘス)、ネーレ・アーレンスマイアー(長女インゲ=ブリギッテ・ヘス)、リリー・ファルク(次女ハイデトラウト・ヘス)、アナスタジア・ドロブニアク(三女アンネグレット・ヘス)、セシリア・ペカラ(同)、カルマン・ウィルソン(同)、メドゥーザ・クノプフ(乳母エルフリーダ)、マクシミリアン・ベック(運転手シュヴァルツァー)、アンドレイ・イザエフ(庭師ブロネク)、シュテファニー・ペトロヴィッツ(使用人ゾフィー)、マルティーナ・ポズナンスキー(同マルタ)、ズザンナ・コビエラ(ポーランド人の使用人アニエラ)、マリー・ローザ・ティーティエン(ヘートヴィヒの友人)、イモーゲン・コゲ(ヘートヴィヒの母親)、ラルフ・ハーフォース(強制収容所管理者オズヴァルト・ポール)、ダニエル・ホルツベルク(親衛隊指導者ゲルハルト・マウラー)、フレイア・クロイツカム(オズヴァルトの妻エレオノーレ・ポール)、サッシャ・マーズ(ヘスの後任所長アルトゥール・リーベヘンシェル)、ユリア・ポラチェック(アレクサンドラ・ビストロン=コウォジェジク)、ヴォルフガング・ランプル(ハンス・ビュルガー)


STORY

1945年。アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒたち家族は、収容所と壁一枚隔てた屋敷で幸せに暮らしている。広い庭には緑が生い茂り、そこにはどこにでもある穏やかな日常があった。空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは、大きな建物から黒い煙があがっていた……。【「KINENOTE」より】


カンヌ国際映画祭グランプリ、アカデミー国際長篇映画賞&音響賞受賞作をTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』とコラボした試写会にて。


「関心領域」とはナチス親衛隊がアウシュヴィッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉とのことで、本作では収容所の隣に住むヘス所長一家の暮らしを中心に描かれる。

冒頭から使用人たちとともに川べりで泳ぎを楽しむなど、優雅な生活を送るヘス一家だが、ヘス邸と壁一枚を隔てた向こう側では多くのユダヤ人が殺害され、焼却炉で処理されていく。劇中、直接的にそういった描写はなされず、ヘスが収容所に入った際も下の方から捉えた顔だけが映し出されるだけだが、声が聞こえたり、ユダヤ人を乗せているであろう列車が到着したり、焼却炉の煙突から煙が上がっていたりするなど常に収容所で何が行われているのかを想像しながら観ることになる。

これほど神経を研ぎ澄ませながら見入った作品も久し振りだが、そのおかげか、終盤、小さな穴の空いたドアが開けられる瞬間に「あ、これは現在のアウシュビッツだ」と直感的に感じ取れた。そこから現在は博物館として様々な展示物(ユダヤ人の服や靴、焼却炉)がある中をスタッフが黙々と掃除をするシークエンスが続き、再び廊下にいるヘスに戻る。

この映画では現在も過去も同じ質感の映像が用いられているが、これはとりも直さずナチスによるホロコーストが過去のものではないことを表している。アカデミー賞での監督のスピーチに対し、アメリカでは賛否が分かれているそうだけど、ナチスによる迫害を受けたユダヤ人が作ったイスラエルが今、パレスチナに対して行っていることを考えると、人類というのは暴力の連鎖からは逃れられない愚かな種族ということになってしまうのかな……。


上映終了後、休憩を挟んで宇多丸さん、月曜パートナーの宇垣美里さん、映画評論家の森直人さんとでアフタートーク。『アトロク』は放送開始から宇垣さん出演日を中心に聴いているが、生で宇多丸さんを見るのは今回が初めて(宇垣さんは著書のお渡し会で見たことあり)。宇垣さんと森さんは今回で観るのが3回目ということで、赤外線を用いた映像の意味やヘスの嘔吐の解釈など、かなり解像度高すぎ晋作(という特集シリーズがあるのじゃよ…)な内容でもう一度観たくなってきた。原作の邦訳も間もなく出るとのことで読んでみるかな…


 

 

下北澤姉妹社 第5回公演

『リンカク―押し合う輪郭ー』



2024年5月15日(水)〜19日(日)

ザ・スズナリ


作:西山水木(下北澤姉妹社)

演出:伊東由美子(劇団離風霊船)

美術:加藤ちか 照明:和田東史子

音響:須坂あゆみ 音楽:中野亮輔

振付:西山水木、倉品淳子、永田涼香

舞台監督:渡辺了 舞台監督助手:田中美紗樹

衣裳:上野理子 人形製作:西山水木

映像作成・撮影:吉田雅人 宣伝美術:土屋咲登子

宣伝写真:武藤奈緒美 制作:奥田英子


出演:

松岡洋子[下北澤姉妹社](平華子)

倉品淳子(ホームレス・協花)

あさ朝子[タテヨコ企画](欣壱の内縁の妻・野原麗良)

龍昇[龍昇企画](平欣壱)

喜田裕也[はちどり空港](欣壱と華子の息子・平鹿生)

桑田佳澄[江古田のガールズ](欣壱と麗良の娘・平芽生)

永田涼香(芽生の先輩・リョウマ)


STORY

複雑な人はなんでもない顔をしている。平華子(たいら はなこ)はなんでもない顔をして死のうとしていた。だが投身に失敗して落ちた先は、いつからか橋の下に暮らす女性ホームレスの「家」だった。そして、華子は捨て猫のように彼女を拾ったのだ。【公式サイトより】


結成10年を迎える西山水木さんと松岡洋子さんによるプロデュース公演ユニット・下北澤姉妹社、最新作。


舞台は縦長に使い、いつもの客席を半分ほどにして、左右にも客席。細長い部分は高低差があり、一番手前はキッチンの流し台として使用されるカウンター、一番奥の壁に映像を映し出すスクリーン、その手前に輪郭を表すような枠。舞台全体にも枠。

下手に水難事故で亡くなった華子の娘の部屋、上手は高い位置に欣壱が麗良、芽生と暮らすマンションの屋上。細長い部分の中央には穴が開いており、開場中は水の音ともに床に水面のような映像が映し出される。また、下手中ほどに鹿生が動画を編集する机。


まずは客席に入ってこの舞台美術に目を引かれる。桑田佳澄さん出演ということで観ることにしたお初のユニットだが、パンフレットでの西山水木さんの言葉によれば、本作が作られるまでには結構長い時間がかかっているとのこと。

そうした経緯は経緯としてあるが、全体的には退屈こそしなかったものの、誰の何を描きたかったのかは今ひとつ伝わってこず、タイトルとは裏腹にリンカクのはっきりしない作品となってしまっていた。


上演時間1時間53分。

劇団スポーツ #10

『略式:ハワイ』



2024年5月15日(水)〜19日(日)

OFF・OFFシアター


作・演出:内田倭史

執筆協力:田島実紘 音楽:丹野武蔵

美術:伊従珠乃 照明:緒方稔記(黒猿)

音響:大嵜逸生(くによし組)

音響操作:ワタナベユウタ(株式会社K-works)

演出・執筆補佐:中島梓織(いいへんじ)

舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)

制作:石本秀一、田中遥

当日運営:類家アキヒコ

宣伝イラスト・題字:煙どろん

宣伝美術:内田倭史


出演:

田島実紘(会社員・みのる)

内田倭史(剣道部員・山戸)

端栞里[南極ゴジラ](帰宅部・田端優穂)

武田紗保(山戸のクラスメイト、斜の幼馴染・佐世保波奈)

てっぺい右利き[パ萬](剣道部員・利光純平/剣道部顧問・松本)

タナカエミ(山戸の担任・三重かな子)

竹内蓮(帰宅部・斜宗太郎)


STORY

会社員・山戸みのるは後悔していた。高校生だった10年前、体罰まがいの稽古に耐え切れず、剣道部を退部したことを。エースの純平にインターハイを目指そうと言われ、退部届を出せずにいた山戸だったが、ふらふらになって踏切で電車に轢かれそうになったところを斜(はす)に助けられる。その際に退部届を拾った斜は山戸を誘い、田端とともにバンドを組んで修学旅行先のハワイで演奏しようと言う。担任の三重先生にも背中を押され、退部届を出しに行こうとする山戸だったが、10年後の自分が現れて退部をすると後悔すると告げる。クラスメイトの佐世保も巻き込んで過去をやり直そうとする2人(?)だったが…。


劇団スポーツ、2年ぶりの本公演。2017年上演作品のタイトルはそのままにリクリエーション。



舞台全体は剣道部の部室。左右に棚があり、奥には横に細長い黒板が並ぶ。黒板には開演前の注意が書いてあるが(下の写真参照)、物語が進むにつれて分岐点となる出来事が書かれたものに差し替えられる。

舞台には段差があり、奥は社会科準備室(高校に社会科はないけどね)、手前は教室として使用。それぞれに教室用の机や椅子など。手前のエリアは踏切の場面でも使われ、上手側に椅子代わりのボックス。


開演前の諸注意をしていた内田さんと田島さんがその流れで後悔していることはあるかという話になり、そのまま本篇へ。この2人、実は同じ人物の10年前と現在という関係で、剣道部を辞めたという過去を改変しようとする。

前半はギャグの応酬で、とりわけ10年後の自分から推しのAKB峯岸みなみさんが坊主になってYouTuberと結婚すると知らされた時のリアクションが可笑しい(その後も歴史を変えることで峯岸さんが坊主にならずに済むと思い込む)。

どうやっても山戸が斜たちとバンドを組むことになり、剣道部に退部届を出すという過去が変えられないでいる中、みのるがなぜそのことを後悔しているのかという本当の理由が明らかになっていく。山戸に対しては同窓会に呼ばれないとか斜たちとも連絡を取ることはないと説明していたが、そのレベルならまだしも、おそらくみのるにとっては一生消えることのない後悔であろうし、「人生の退部届」という言葉もあながち誇張ではないだろう。

「後悔先に立たず」とはよく耳にするフレーズではあるが、1つの決断が他人の人生をも狂わせてしまったとなればなおさら悔やんでも悔やみきれない。現実では過去は変えられない。軽やかさの中にも真摯さが感じられる作品だった。


キャストも全員よかったが、中でも田島さんはあまりにもナチュラルで素で反応しているのではと思ってしまうほど。

内田さん、竹内さんとともに劇団員が中核を担って客演陣も活かされている、理想的な座組だった。客演陣では恋した瞬間のリアクションも可愛らしい武田紗保さんが印象に残った。


劇団スポーツは前作『怖え劇』がとてもよかったので次を楽しみにしていたら2年待たされたけど、次回公演は近々に予定されているとのことで一安心。


上演時間1時間38分。




Parco Produce 2024

『ハムレットQ1』



【東京公演】

2024年5月11日(土)〜6月2日(日)

PARCO劇場


作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:松岡和子 演出:森新太郎

美術:堀尾幸男 照明:佐藤啓 音響:高橋巌

音楽:落合崇史 衣裳:西原梨恵

ヘアメイク:河村陽子 アクション指導:渥美博

演出助手:石田恭子 舞台監督:林和宏

宣伝:DIPPS PLANET 宣伝美術:東學(一八八)

宣伝写真:渞忠之 宣伝衣裳:宮本真由美

宣伝ヘアメイク:河村陽子

制作:麻場優美、大友泉

ラインプロデューサー:冨士田卓

プロデューサー:尾形真由美 製作:小林大介


出演:

吉田羊(デンマーク王子ハムレット)

吉田栄作(デンマーク王クローディアス/ハムレットの父の亡霊)

広岡由里子(王妃ガートルード)

佐藤誓(宰相ポローニアス/墓堀り)

大鶴佐助(ポローニアスの息子レアティーズ)

飯豊まりえ(ポローニアスの娘オフィーリア/ノルウェイ王子フォーティンブラス)

牧島輝(ハムレットの親友ホレイショー)

駒木根隆介(学友ローゼンクランツ)
永島敬三(学友ギルデンスターン)

青山達三(見張りの将校マーセラス/牧師)

西本竜樹(見張りの将校バナード―/墓堀り)

鈴木崇乃(ノルウェイへの使節ヴォルティマンド/旅一座の役者/シスター)

佐川和正(ポローニアスの従者レナルド―/従臣オズリック)

高間智子(旅一座座長/シスター)

友部柚里(旅一座の役者)

西岡未央(旅一座の役者(道化役)/シスター)


STORY

デンマーク王が急死、王の弟クローディアスが王妃と結婚して王の座につく。
悲しみに沈むデンマーク王の息子の王子ハムレットはある日、父の亡霊と会い、その死がクローディアスによる毒殺だと知る。ハムレットは狂気を装い、復讐を誓うのだった……。【公式サイトより】


2021年の『ジュリアス・シーザー』に続いて吉田羊さんと森新太郎さんがタッグを組んだシェイクスピア劇。3種類の原本のうち、最も短いQ1版を使用。


舞台は下手奥に向けて傾斜があり、先が三角形状に。背景には地図のような雲のような模様が描かれ、緩やかにカーブして舞台を包み込む。


何度も観ている『ハムレット』だが、Q1版だからといって作品自体の印象は変わるわけではないが、早坂彩さんの『新ハムレット』を観て、その後、太宰治さんの原作を読んでからだと、デンマークが戦争中であることがより強く意識させられ、"To be, or not to be"も国とハムレット個人のことが重ね合わされているように感じた。

全体的にはザ・吉田羊ショウの趣で、狂ったふりをする時は高い声で台詞を発して、ギャップのある演技で楽しませてくれた。歌も披露しちゃうしね。

もう1つ、従来の上演よりも印象的だったのが劇中劇。王が金一色、王妃が銀一色の衣裳で王の耳に毒を流し込み、玉座を奪おうとするのが道化の格好。座長を含めて4人とも女性キャストが演じ、爪痕を残そうという気概が伝わってきた。


吉田羊さん以外のキャストでは、吉田栄作さんがイケオジ(死語?)っぷりを発揮して先王との二役をこなしていた他、佐藤誓さんがいかにも古狸な感じがよかった。

また、唐組『泥人魚』の大鶴美仁音さんから中2日で大鶴佐助さんの芝居を見られたわけだけど、出番が決して多いわけではない役ながら、しっかりと印象に残る演技をされていた。国王から「父上は亡くなられた」と告げられるシーンは現実とシンクロしてしまったなぁ。


上演時間2時間53分(一幕1時間10分、休憩20分、二幕1時間23分)。


 

 

『からかい上手の高木さん』

第2話「青春」



2024年日本ドラマ 22分

監督:今泉力哉

原作:山本崇一朗『からかい上手の高木さん』 (小学館「ゲッサン少年サンデーコミックス」刊) 

脚本:金沢知樹、萩森淳、今泉力哉

音楽:大間々昂

主題歌:「遥か」Aimer(SACRA MUSIC/Sony Music Labels Inc.)

撮影監督:岩永洋 照明:加藤大輝

録音:島津未来介 美術:禪洲幸久

装飾:うてなまさたか 小道具:新本由理

衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:吉村英里

編集:斉藤和彦 助監督:中里洋一

制作担当:坪内一 記録:河野ひでみ

リレコーディングミキサー:浜田洋輔、劉逸筠

音響効果:勝亦さくら カラリスト:高田淳

オンラインエディター:齋藤真子

テクニカルディレクター:保木明元

タイトルデザイン:Iyo Yamaura

スチール:田口沙織

配信プロデューサー:近藤貴明、杉山香織

プロデューサー:大澤祐樹、森川真行


出演:

月島琉衣(高木さん)

黒川想矢(西片)

江口洋介(田辺先生)

森永怜杏(真野)

川尻拓弥(中井)

早瀬憩(北条)

永原諒人(浜口)

市村優汰(高尾)

水野哲志(木村) 

芹沢凜(日々野ミナ)

桔河芽りさ(天川ユカリ)

吉沢凛音(月本サナエ)

山城琉飛、松島歩志、岩崎瑛太郎、鵜飼琉生、川﨑王羅、黒岩和真、近藤玲音、中田千尋、教野羚奈、三枝鼓実、寺島咲優、林千世、港笑瑠、山口真咲


STORY

学校までの道を歩いている西片の前に現れた高木さん。自転車に乗っていない理由を聞いた西片に、高木さんは「西片と手を繋いで学校に行きたいから自転車を置いてきた」と朝からからかって嬉しそう。西片はタジタジになりながらも、「高木さんが自転車じゃない理由を当てたらオレの勝ちっていうのはどう?」と勝負を持ちかけるのだった。休み時間。クラスの男子たちと腕相撲をしている西片がなかなか勝てずにいると、「一番弱い人と勝負したい」とやってくる高木さん。流石に西片が優勢と思われたが、高木さんのひと言で勝負は思わぬ方向へ…。さらに、高木さんに一矢報いようと、ある秘策を思いついた西片だったが‥!?【公式サイトより】


実写ドラマ第2話。


サブタイトル通りの青春。

この作品自体がそうなのかも知れないが、この第2話は同世代より中高年の方が突き刺さるのではなかろうか。「青春がしたかった」と理科室の掃除道具入れに隠れ、西片をからかい、その後も一緒に掃除をする高木さんの思い、それに対する西片の動揺、どこを切り取っても青春そのもので、きっと大人になってもこの時のことを忘れはしないだろう。どの台詞もどの表情もキラキラして眩しいほどだが、この瞬間は決して長くは続かないことを知っているからこそ、泣けてきてしまった。

ところで、西片が理科室の掃除をさせられるというのはもちろん『時をかける少女』へのオマージュですよね。ね?


 

 

海ねこ症候群 第5回本公演

『もう、どうにもトまらないっ!!』

NOTHING CAN STOP ME NOW


2024年5月9日(木)〜12日(日)

シアター711


脚本・演出:作井麻衣子

舞台監督:松本仁志 音響:日影可奈子

照明:緒方稔記(黒猿)

照明操作:中村仁(黒猿)

衣装:邱筠筑 舞台美術:松本仁志、UPN

振付:ぞんび(劇団OZ)、河合陽花、坪田実澪

劇中曲:坪田実澪 音楽監修・広報:河合陽花

ゲネプロ写真:月舘森(露と枕)

フライヤーデザイン・チケットイラスト:古戸森陽乃(かるがも団地)

撮影協力:ぞんび(劇団OZ)

当日制作:宮野風紗音(かるがも団地)

制作:河合陽花、髙岡葵 企画:海ねこ症候群


出演:

【サクラバレエスタジオに通う人々】

髙岡葵(新社会人・木下胡桃/先代のスタジオ責任者)

佐倉はなほ[ケイポイント](婚活女子・蓮実真琴)

樋口双葉[マチルダアパルトマン](ゲーム実況系YouTuber・宮内なる)

信國ひろみ[バケツまみれ](大手企業勤務・中村志保) 

河合陽花(専業主婦・伊藤裕美)

しみずあかり[自然の会](スタジオの責任者・桜先生/競走馬)

坪田実澪[海ねこ症候群](スタジオの事務・キキ(林)/競走馬)

【中華居酒屋 力亭】

新里乃愛(バイト、胡桃の同級生・大島あやみ)

作井麻衣子[海ねこ症候群](女将・登美子)

芦屋那奈(常連・大池/競走馬)

【周りを取り囲む人々】

小練ネコ(なるの妹、志保の後輩社員・宮内はる/小学生の胡桃)

長沢彩乃[各駅停車/りらっくす](胡桃の母親・木下桃子)


STORY

これは遠くて近い・・・かもしれない未来の話。この国では国民の生活充実化計画と称して、とある政策が行われていた。それは、『大人になったら何か習い事を1つ必ず習わなくてはいけない』というもの。胡桃はこの春から社会人。ある日、バレエ教室へと体験レッスン(通称:トライアル)に訪れる。自由に生きられる大人に憧れを持つ胡桃は、そこでバレエ教室に通う、なんともダサい大人たちと出会う・・・。【公式サイトより】


海ねこ症候群、下北沢進出第2弾。

この間に髙岡葵さんは劇団員に。振付およびフライヤー撮影協力にもクレジットされているぞんびさんは体調不良のため降板。


舞台はほぼ素舞台で場面によって机や椅子が運び込まれる。上手側の壁には木材を組み合わせた格子があり、サクラバレエスタジオと力亭では掛けてあるものを入れ替える。


前作『プレイス・リバティ』に続いて主宰の作井麻衣子さんが脚本・演出を務めた本作もまた、居場所を探し求める女性たちの物語となっている。

主人公の胡桃は京都の大学を卒業して東京に戻ってきたという設定。子供の頃からバレエ教室に通ってみたかったが、母親の顔色をうかがう性格の胡桃はそれを言い出すことが出来ず、社会人になってようやくトライアルのためにサクラバレエスタジオの門を叩く。

そこに集まっていたのは、婚活に勤しむ真琴、優秀な妹に引け目を感じている引きこもりのYouTuberなる、大手企業に勤務しているものの優秀な後輩(なるの妹でもある)に焦りを感じている志保、唯一の既婚者・裕美といった面々で、桜先生は酔っ払ってばかりでまともにレッスンをしている気配がない。それでも、そのバレエ教室は間違いなく彼女たちの居場所になっている。

そんな中、裕美が実は市役所勤務で、習い事を1つしなければいけないという制度のもと、きちんと運営がなされているかを内偵するために教室に通っていることが判明する。教室存続の危機に立たされる中、実績を作るためにイベントに参加するが、彼女たちが踊る「くるみ割り人形」はお約束通り、しっちゃかめっちゃかに。

胡桃の母親は「だからバレエを習うことに反対したのに」と娘をなじるが、胡桃は初めて母親に言い返す。「くるみ割り人形」はまさに胡桃が自分の殻を割る役割を担っており、彼女の変化に目頭が熱くなる。それでいて母親を悪く描かないのもよかった。


キャストでは、デカい声の樋口双葉さんがとてもいい。これまでふわふわした役どころが多かったイメージがあるが、なるの屈折した内面もしっかり表現していた。小練ネコさんとの姉妹っぷりもよかった。


上演時間1時間36分。


前説の作井さん(右)と新里さん。

渡辺源四郎商店 Presents うさぎ庵Vol.21

『雲を掴む』

KUMO WO TSUKAMU


【東京公演】
2024年5月8日(水)〜12日(日)
ザ・スズナリ

作・演出:工藤千夏
音響:藤平美保子 照明:中島俊嗣
舞台美術・宣伝美術イラスト:山下昇平
舞台監督:中西隆雄 プロデュース:佐藤誠
監修:畑澤聖悟 演出助手補:福嶋朋也
制作:渋井千佳子、秋庭里美、奈良岡真弓、福嶋朋也、野倉匡泰
舞台監督助手:山上由美子、白石恭也
写真:田中流

出演:
山村崇子[青年団](ウォリス(シンプソン夫人))
桂憲一[花組芝居](デイビッド(エドワード8世、後にウィンザー公) /ウォリスの担当医ジョン・ハリス)
山藤貴子[PM/飛ぶ教室](ダイアナ・クーパー/カミラ・ローズマリー・シャンド/看護婦ダイアナ) 
猪股俊明(スタンリー・ボールドウィン首相/デイビッドの従者)
大井靖彦(独大使ヨアヒム・フォン・リッペンドロップ/アドルフ・ヒトラー/デイビッドの従者ピーター/ウォリスの娘オードリー・シンプソン)
徳永達哉[燐光群/ロッシュ限界](チャールズ皇太子(チャールズ3世) /デイビッドの従者ピーター/エズモンド・ハームズワース)
声の出演:中桐康介[西日本放送アナウンサー]

STORY
王子様はある美しい女性に恋をしました。二人はさまざまな障害を乗り越え、ついに結ばれました。めでたし、めでたし。さて、ある日、パリのブローニュの森の城で穏やかに暮らしていた二人の元に、アドルフと名乗る男がやってきました。【公演チラシより】

戦争と平和を考える2作品連続上演として渡辺源四郎商店『法螺貝吹いたら川を渡れ』と併演。
事前情報何もなし、『水深ゼロメートルから』を見終わった後、次の海ねこ症候群までの間にちょうど観られると判明して当日券にて鑑賞。

床が白の素舞台に透明な椅子が2脚。黒い壁の間に通路があり、役者はそこから出入り。 天井にはミラーボール。
開演時間になると役者が全員出てきて雑談(東京公演が最後で寂しいと他の人が口を揃えるのに対し、猪股さんは清々するなど)。衣裳は山村さんのみ色つきで、他は白で統一。

物語はアメリカ人のシンプソン夫人と結婚するためにわずか11ヶ月でイギリス国王を退位したエドワード8世の、いわゆる「王冠を賭けた恋」のその後を描く。
英国王室史上に残るこのスキャンダルについてはもちろ知ってはいたが、冒頭の1936年、ベルリンオリンピックの直後の船旅のシーンで、王笏をクラブにしてゴルフの練習をしているところからして、この人物の王位に対する態度が示されている。
デイビッドがヒトラーとも近しかったというのは知らなかったが、ヒトラーが人間の憎悪について演説するシーンは現在にも通じているし、現国王のチャールズ3世が登場するのもこれは決して過去の話ではないという目印であろう(王室離脱したヘンリー王子の件もあるしね)。
余談ながら、劇中、「膝を割って話そう」という台詞があり、膝を割ったら痛いでーと思ってしまった。笑

※なお、当日パンフレットではデイビッドがディビッドとなっていたが、実際の発音とはかけ離れてしまうので一般的な表記に修正。ボールドウィンもボールドゥインになっていたが、同様に修正している。

上演時間1時間36分。



 

『水深ゼ0メートルから』



2024年日本映画 87分
監督:山下敦弘
原作・脚本:中田夢花 脚本協力:小沢道成
原作:村端賢志、徳島市立高等学校 演劇部
企画・製作:直井卓俊
プロデューサー:寺田悠、久保和明
音楽:澤部渡(スカート)
主題歌:スカート「波のない夏 feat. adieu」
撮影:高木風太 照明:後閑健太
録音:岸川達也 美術:小泉剛
スタイリスト:小宮山芽以
ヘアメイク:仙波夏海 スチール:根矢涼香

出演:
濵尾咲綺(出島ココロ)

仲吉玲亜(ミク)

清田みくり(奥田チヅル)
花岡すみれ(水泳部先輩・ユイ)
さとうほなみ(体育教師・山本)
三浦理奈(野球部マネージャー・リンカ)
土山茜(山本の友人・声)、井手上亮太(野球部員・楠)、岡田空(野球部員A)、吉田タケシ(野球部員B)、山本宗介(野球部員C)

STORY
高校2年の夏休み。ココロとミクは体育教師の山本から、特別補習としてプール掃除を指示される。水の入っていないプールには、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっている。渋々砂を掃き始めるふたりだが、同級生で水泳部のチヅル、水泳部を引退した3年の先輩ユイも掃除に合流。学校生活、恋愛、メイク......。なんてことのない会話の中で時間は進んでいくが、徐々に彼女たちの悩みが溢れだし、それぞれの思いが交差していく――。【公式サイトより】

2019年、徳島市立高等学校演劇部によって上演され、2021年、『アルプススタンドのはしの方』に続く高校演劇リブート企画第2弾として上演された『水深ゼロメートルから』を山下敦弘監督が映画化。

舞台版がとてもよかったので映画化の報を聞いたときから期待していた本作だが、砂が積もった水のないプールは映像で見るとなおさら女性たちが置かれた理不尽な社会的状況とも重なって見えた。
チヅルが野球部のグラウンドのマウンドに行き、バケツからプールに積もった砂をぶちまけて楠に宣戦布告するのだが、野球部員たちは「勝ち負けとか何の話?」とまったく彼女の行動が理解できていないところも男性が自分たちの優位性に無自覚でいることの表れともなっていた。

舞台版でいちばんよかった宮﨑優さんがいないのは残念だけど、4人中3人が続投なのは嬉しいところ。新キャストの清田みくりさんも役にハマっていた。