菅首相の「退職してまた元の省に帰ってくる」発言は国家公務員の長時間残業から目をそらすもの | すくらむ

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 全経済産業省労働組合中央執行委員の飯塚盛康さんが、先日の菅首相の記者会見で国家公務員の退職増の問題について書いてくれたので、以下紹介します。

 菅首相は3月5日の記者会見でフリーライターの江川紹子さんによる「ブラック霞が関」とも呼ばれるような過酷な状況の中で若手一般職国家公務員の退職が増えているのではないか?という質問に対して、「一旦退職してまた元の省に帰ってくる人もいるということも事実」と回答しました。

 江川紹子さんの質問は、昨年11月に内閣人事局が自己都合を理由とした20代の国家公務員総合職(キャリア官僚)の退職者数が2019年度に87人に上り、6年前の21人から4倍超の増加となったという調査報告を元にしたものです。

 この調査によると退職理由は「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」との回答が男性49%、女性44%。「長時間労働で仕事と家庭の両立が難しい」は男性34%、女性47%でした。

 要するに国家公務員の仕事は長時間労働で魅力がないので辞めたということです。

 2019年は安倍内閣で文書改ざんをさせられたり、先輩である局長クラスは国会で虚偽答弁や「記憶にない」などの自分のプライドをかなぐり捨てたような答弁をしている姿をみれば、少なくとも国民のために仕事をしたいという志を持った若いキャリア官僚が辞めたくなるのは当たり前だと思います(※下記グラフにあるように、安倍・菅政権に私物化されている国家公務員の姿を見て国家公務員志望者も半減しています)。



 ある意味、国家公務員という職業に見切りをつけたキャリア官僚が、菅総理が言うように元の省庁に帰って来ることがあるのかを考えてみます。

 一般職の国家公務員になるには、人事院の試験に合格した者の中から、各省庁が面接し、合格した者がその省庁に任用されます。

 人事院の試験には、一般職の国家公務員では総合職(キャリア官僚)と一般職(ノンキャリア)があり、年齢制限は30歳となっています(人事院の試験には国税専門官、労働基準監督官などの専門官試験もあります)。

 国家公務員は辞めてから、もう一度国家公務員になりたいと思ったら、再度人事院の試験を受験しなければなりません。

 もし大学を卒業後、国家公務員になり、25歳で辞めて民間企業に勤務した後に、元の省庁で働きたいと考えたら30歳まで人事院の試験に合格し、元の省庁の面接に合格しなければなりません。

 私が知っている範囲では、経産省を辞めて、再度人事院の試験を受けて他省庁に行った人がいますが、経産省を辞めて、民間企業で働いたのちに人事院の試験を受けて経産省に戻ってきたという人を知りません。

 今、人事院は就職氷河期世代を対象に民間企業経験者を国家公務員として採用していますが、その他にも各省庁で高度な専門性を活かして政策立案の中枢を担ってもらう管理職員や非常勤職員を募集しています。

 この中の管理職員を募集しているポストはキャリア官僚のポストで、キャリア官僚を辞めた後に民間企業で働いて専門知識を有した人が採用された人がいます。

 こういう人を「出戻り官僚」と言いますが、途中で辞めたキャリア官僚の人数と比較したら、圧倒的に少数ですし、2年の任期しかないので、定年まで勤めることはありません。

 菅総理はコロナ対応等で過酷な長時間労働になっていることを理由に辞めても、元の省庁に戻ってくる人もいるから問題ないととれるようなことを言うのは、キャリア官僚をはじめとする一般職の国家公務員の働かせ方の問題から目をそらさせるためのものではないでしょうか。

 

 実際、新型コロナウイルス感染症に関する政策立案などを担う内閣官房の対策推進室(コロナ室)でこの1月、「過労死ライン」の月80時間をはるかに超える378時間の残業をした職員がおり、コロナ室(職員数102人)の平均の残業時間は約122時間だったとのマスコミ報道もされています。こうした異常な長時間残業をなくすためには、菅首相のように根本的な問題から目をそらすのではなく、実効ある残業規制と抜本的な職員増を行う必要があります。

全経済産業省労働組合中央執行委員・飯塚盛康