「金ないのに結婚するな」で済ます麻生首相 - 正社員も非正社員も家族つくれない日本社会 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 共同通信が「首相『金ないのに結婚するな』 学生イベントで」と題した記事を配信(8/23)しました。その記事によると、麻生太郎首相が、23日夜に都内で行われた学生主催のイベントで、学生からの「結婚資金が確保できない若者が多く、結婚の遅れが少子化につながっているのではないか」との発言に対して、「金がないのに結婚はしない方がいい。稼ぎが全然なくて(結婚相手として)尊敬の対象になるかというと、なかなか難しい感じがする」と述べたとのことです。共同通信は、「不況の影響で就職先がなかったりワーキングプア状態にある若者たちに対する配慮を欠いた発言との批判も呼びそうだ」と指摘しています。


 麻生首相は、貧困の深刻化が、若者の家族形成を困難にしているという日本社会の現状に、まったく思い至っていないようです。思い至っていないので、政治がいま何をすべきかという話にも一切ならないのでしょう。この問題については、このブログで何度か取り上げてきましたので、この機会に、いくつかの過去エントリーの一部を紹介しておきます。(※ぜひ全文もお読みいただければ幸いです)


 ▼エントリー「サラリーマンの年収は10年で30万円減、結婚も困難な貧困層増大、一方で配当3倍・役員報酬20%増」 の中では次のように指摘しています。


 非正規社員、ワーキングプアは結婚も困難
 厚生労働省が2009年3月に発表した「国民の生活に関する継続調査」によると、5年前に独身だった男性でこの5年間に結婚した割合は、正社員では24.0%ですが、非正規社員ではほぼ半分の12.1%でしかありません。また結婚した者の結婚直前の所得を見ると、400万~500万円未満が20.6%と最も多く、100万~200万円未満では10.6%、100万円未満では8.2%で、ワーキングプアは結婚も困難となっています。


 ▼エントリー『「収入が少なくて結婚できない」正社員35%・非正社員70%(35歳男性)、「収入増えない」69%』 の中では以下の数字を紹介しています。


 ◇収入が少なくて結婚できない→
   →正社員(男性)35%
   →非正社員(男性)70%
 ◇子どもを理想の人数持てない 54%
   →そのうち74%が経済的負担大きいため


 ▼エントリー「結婚できず、子どもを産み育てられず、究極の機会不平等「生命の格差」拡大もたらす貧困連鎖」 の中では次のように指摘しています。


 「就業構造基本調査」(2002年)において、収入階級別にみた男性の独身率では、40~44歳の全体平均独身率は18.8%で、5人に1人よりちょっと少ない程度。ところが、所得別にみると、800万円以上だと独身者は6%しかいないのに、所得が100万円未満の場合は、なんと過半数の55.4%が独身です。所得が100万円~200万円は44.9%、200万円~300万円は33.9%。なかには独身主義者もいるだろうけれども、所得の違いによって9倍以上もの差があることを説明できるものではなく、明らかに所得の低い男性は結婚できないことが示されています。


 SSM調査(2005年)の世帯収入別にみた子どものいない人の割合(40歳代)は、収入1050万円以上の男性は9.8%。これに対して、収入が300万円未満の男性は46.2%と半数近くの人は子どもがいません。所得の高低で5倍近くもの差があるのです。


 こうしたデータをうけて、武蔵大学・橋本健二教授は著作『貧困連鎖 - 拡大する格差とアンダークラスの出現』(大和書房)の中で、次のように書いています。


 人々が結婚するなどして次世代を産み育て、新しい労働力を形成することを、経済学や社会学では「再生産」という。人間の寿命には限界があり、人はいつかは老いて死んでいく。しかし、人はそれまでの間に次世代の労働力を形成することができる。つまり、人間を再生産する。こうして人間社会は存続していく。


 子どもを産み育てるためのコストは、社会が存続するのに必要不可欠なものである。社会は何らかの形でこのコストを負担しなければならない。だからこそ、賃金は子どもを産み育てるのに最低限必要な金額より多くなければならない。(中略)


 ところが現代のアンダークラスは、もともと再生産の費用を含むことなど想定されていない賃金体系のもとで働いている。つまり、再生産がきわめて困難な状態にある。その多くは子孫を残すことができない。仮に子どもを産み育てることになったとしても、教育費の負担は難しいから、その貧困は次の世代にまで持ち越されていく。そんな巨大な貧困層が、日本の社会に形成されつつあるのである。


 ▼エントリー「正社員も非正社員も家族つくれない、仕事・家族・教育の循環構造が崩壊した日本社会」 の中では、東京大学・本田由紀教授の次の指摘を紹介しています。


 晩婚化や非婚化の進行には大変著しいものがありますが、たとえば賃金が少な過ぎたり、雇用が不安定過ぎたりするために家族をつくれないようなケースもあり、あるいは、正社員になってみれば、驚くほどの過重労働、長時間労働ゆえに家族をつくれない人々も非常に増えてきています。


 今の循環構造とその崩壊が、主に若年層にもたらしている2つの不幸があります。1つは物質面での不幸、つまり、もう生活が成り立たないという面での不幸であり、もう1つは精神的な面での不幸です。循環構造が崩壊する前から、教育、仕事、家族という3つの社会領域の中で、なぜこういう社会領域があるのか、その中で自分は何をしているのかということに関する意味の実感は空洞化していましたが、今その上に、さらにかぶさるように、物質面での不幸が精神面での不幸を追加しつつあるのです。


(byノックオン)