第50話「卒業Ⅰ」
「やっと終わったよぉ・・・」
ははは。ご苦労さん。
でもね・・・
一安心するのはもうちょっと我慢してちょうだいねぇ。
さっさとコレを受けとったら採点を始めんかいっ(笑)
都立の入試が、本日、ついに終了しました。
生徒たちが次々と塾に集まってきます。
塾で即座に作成された解答を生徒たちに配布して、
すぐに自己採点をさせるわけですね。
塾側としては、なるべく早く
生徒たちがどれぐらいの点数をとったか把握して
都立の合格者数を予測しないといけません。
なにせ来年の集客につながる大事な数字ですから・・・
そして・・・
この数字こそが、俺たちが、講師や生徒たちが、
一年間、必死にやってきた結果そのものなわけであり・・・
この数字を上げるためだけに頑張ってきたわけなんです・・・
「え・・・国語・・・70点?」
合格間違い無しと「当確」ランプを灯していた優秀な生徒が
まさかの大失態・・・てめぇ、ぶっ殺すぞぉ(怒)
「ど、どうしよう・・・」
どうしよって、こっちがどうしようだよぉおおお!!
予定よりマイナスだよぉ・・・やばい・・・
「・・・他の教科だってあるんだし、ガッカリすることないって。
それにお前が出来なかったってことは、逆に言えば
他の奴らだって難しくてできなかったもしれないだろ?」
と、一応励ますフリをしましたが、
おちたな、バ~カ。
役立たずのボケは置いておいて、
必死に○×をつけている生徒たちの様子を見て周ります。
一人の女生徒が・・・
赤い顔をしながら、採点してるんですが・・・
×ばっかりじゃん
ヽ(;´Д`)ノ
優香さん・・・
「・・・先生、ダメかも・・・。」
ダメかも、じゃなくて、ダメなんだよ、絶対・・・
最初っから分かってたことじゃねぇか・・・
真面目にやんないと、あとで泣くことになるぞ、
ってあれだけ注意したのに、
全然俺の言うこと聞かないから・・・
プリクラとる暇があったら
単語の一つでも覚えろって言ったのに・・・
ま、しょうがないじゃん。
自業自得だもん。
採点を終えて、ハァってため息をつく優香ちゃん。
「どうだった?」
聞くまでもないんですが、一応、聞いてあげます。
「・・・ゴニョゴニョ・・・。」
周りの友達を気にしてか、
俺の耳元で点を囁くのはいいのですが、
お前の息が耳にあたって、こそばゆいというか・・・
興奮するからやめろ~!!
優香の点を聞いて、私立高校に進学することを確信しました。
お父さん、お母さん、力及ばず申し訳ないです・・・
高いお金を払うことになりますが、
どうぞ、このバカ娘が髪の毛を真っ赤にして、
簡単に股を開くようなアバズレ女にならないように、
しっかりと教育してくださいね。
「まぁ、アレだよ・・・
高校だけが全てじゃないからさ。
どの高校に行くかってことより、
そこでどういう努力や頑張りができるかってことが
大切なんだからさ。また頑張ればいいって。」
まぁ、俺なりに優香を励ましたつもりだったんですが、
「・・・先生、やっぱ落ちるって言ってるんだね・・・。」
「・・・・・・。」
ダメに決まってんだろっ。くだらないツッコミ入れてんじゃねぇよ!!
あんまりグダグダ言ってると、俺様の肉棒でもツッコむぞ!!
素直にこれまでの生活態度を反省してさ、
新しい人生にむけて頑張っていけばいけばいいと思うよ?
「・・・まあいいや。
もともと受かるなんて思ってなかったもん。」
嘘付け・・・。
野心バリバリだったくせに・・・。
「は~あ、とりあえず入試終わったから遊ぼ~っと。」
入試の前から遊んでただろ・・・
つうかよ、俺の言ってることが全然分かってねぇようだな・・・
俺は今までのことを反省して、
これからはきちんと勉強しろって言ってんだよ・・・
何が遊ぼうじゃボケ。いい加減気付けよ、このバカ・・・
3年後も同じことを繰り返すな、絶対・・・
採点を終えて、筆記用具をしまい込むと、
「はいコレ。」
って配布された解答用紙を俺に渡すのはどういう意味かな・・・
「なにこれ・・・」
優香に強引にプリントを渡されると、
「いいじゃん、捨てといて。」
・・・俺をなめてんだろ・・・これで可愛くなかったら、怒鳴りつけて、あとで拉致して部屋に閉じ込めて縄でしばって酷い目にあわせてやるところだぞ。良かったな、可愛く生まれてよ・・・
塾を出ようとする優香を見送ります。
「じゃあな、高校に行ってもちゃんと頑張るんだぞ。」
俺からの最後の贈る言葉だからな・・・
達者でな~。もう2度と俺様の目の前に面を見せんじゃねぇぞ!!
「分かってるって。
それより、そんな堅苦しくなんないでよ。」
さ、最後だっていうのに・・・
「最後じゃないじゃん。また祝賀会で会うじゃんか。」
え・・・お前来るの・・・?
祝賀会って・・・
合格祝賀会だぞ!?
頑張って、受かった人だけが
来るんだぞ?!
「・・・何よ、来ちゃダメだってわけ!?」
べ、別にいいけど・・・。
「じゃあね、先生。」
優香が玄関の扉をあけて、階段を降りていこうとして・・・
「あっ、あのさ・・・」
思わず声をかけてしまった俺は・・・
「なに?」
ってこれでも一応先生の俺に向かって、
すげぇ不機嫌そうな顔して振り返るのはやめようよ(汗)
「あのさ・・・静香・・・ずっと塾に来てないんだけど・・・
学校にはちゃんと来てるんだろ?」
「静香?」
あ・・・べ、別にどうでもいいことなんだけどさ・・・
い、いや、最近、ちょっと顔を見てないなぁって思ってさ・・・
「さぁ。」
って、お前ら同じ学校
だろうが!!(;゚皿゚)キー
た、頼むからさぁ・・・
そんな意地悪しないで教えてくれよぉ・・・。
「気になるなら電話すりゃいいじゃん。」
電話できないから聞いてるんです・・・
「元気なんじゃないの?
第一志望の学校に受かってさ。
ホント羨ましい限りですからねぇ。」
ってあんた、ずいぶん嫌味くさい言い方だわね・・・
まいったなぁ・・・
優香なら静香のこと分かると思ってたのに。
「先生・・・」
え?
「じゃあ、静香に連絡するように言っとこうか?」
ええ!? そんなぁ、悪いよぉ。
まるでお前を利用するみたいでさ。ヾ(´▽`)
いやぁ、悪いなぁ。まぁ、暇なときでいいからさ、
ちょこっと連絡するように言ってもらおうかなぁ・・・。
「・・・でも、私はもうやめたほうがいいと思うけどね・・・」
・・・え!?
「先生と静香のことに口を出すつもりはないけどさ、
やっぱやめたほうがいいと思うよ?」
彼女は・・・
静香は何て言ってたんだろう・・・
そこまで優香に聞けるふてぶてしさは俺にはありませんでして・・・
だいたいどこまで静香が優香に話しているのか分かんないし、
あんまり迂闊なこと言えねぇしな・・・
「じゃあね、先生。」
「あ、ああ・・・。」
教室に戻ると、まだ必死に採点をしている生徒たちがいて・・・
俺は、また仕事に忙殺されて死にそうだったんだけど、
頭の中はずっとアイツのことだけでいっぱいでさ・・・
失って初めて分かるその存在感・・・
「せんせぇ♪」
もう一度、君にそう呼ばれたい・・・
携帯を見ていて・・・
情けないのは十分分かってたけど・・・
君の番号を何度も何度も見つめていたんだ・・・