大迫傑「走って、悩んで、見つけたこと。」感想 | S blog  -えすぶろ-

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-人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとるのだ- 『BORN TO RUN』より
走りながら考える ランニング・読書のブログ

 

 

日常生活では何かをすごく考えるということはなくて、割とぼ~っとしていることも多いけれど、走っているときは自然と考える時間になります。毎日90分、100分走るとなると、どうしてもそこでの過ごし方を考えるようになるし、誰にも介入されない自分だけのゾーンができるようになる。今の時代は日々の生活だけじゃなくて、SNSもあったりして、なかなか自分に没頭する時間がありません。そんな中で走っているときだけはすべてを忘れられる。長距離走にはそういう聖域みたいな部分を感じます。

 

走ることで悩んで、それをどうやって解決しているかというと、やっぱり走り続けることしかないんです。常に一人の時間を大切にして走り続けることで、それが正解かは分からないけれど、答えはいつも見つかっている気がします。<中略>

簡単に答えは出ないけれど、走りながら自分自身と対話をすることで、徐々に納得のいく答えを出しています。

 

走ることについて語るときに僕の語ること 村上春樹

この極上ランニングエッセイ集を思い出してしまったほど、マラソン・ランニングに関する名言が散りばめられた素晴らしいエッセイでした。

大迫は、MGCでは残念ながら3位で東京五輪マラソン出場権獲得はなりませんでしたが、今シーズンの福岡国際・びわ湖・東京マラソンの3レースで大迫自身が持つ日本記録2時間5分50秒という驚異的なタイムを上回る選手が出なければ、大迫が3人目の日本代表となるので、私は現時点でも99%以上、大迫が五輪への切符をつかむと思っています。

 

とにかく大迫のランニングフォームは圧倒的に美しい!

 

その姿に毎回見惚れている一ファンでしたが、この本を読み、あらためて大迫のクレバーさと、実体験や自分の考えを言語化する能力の高さに感動しました。今後、ランニングについてはもちろんですが、更にその先々、引退後には指導者としても、またマラソン解説者としてもかなり期待できますね・・・ということで、今後長い期間にわたり、益々、大迫から目が離せなくなりました!

 

・マラソンを毎年走っている市民ランナーの私にとっては、ものすごく共感できる言葉

マラソンはレースで得るものよりもトレーニング期間で少しずつ気づいていくものが多い気がします。それは一瞬一瞬、ひとつひとつのピースを大事にしていくということ。あまり遠くを見すぎず、着実にひとつずつパズルのピースをはめていくイメージです。

 

・単なる知識ではなく実践レベルで書かれているところが凄い

練習をしていると「きつい」と感じることがあると思います。ちょっと変だと思うかもしれませんが、僕はそんなとき頭と体を別々に考えるようにしています。きついと感じているのは脳であって、身体ではない。だから身体には出さないようにと意識する。表情ひとつとっても、顔はなるべくリラックスした状態をキープして、思考と身体を切り離す。そうすると単純に力みがなくなって、努力値で少しタイムが良くなったりするんです。きついという感覚はすごく主観的なもので、冷静に考えて、そのきつさを分析すると意外と対応できるものです。「今きついのはどこ?呼吸?脚?脚のどこ?」そう問いかけると身体全体がきついわけではないと気づくので、少し楽になるんです。

 

・「今を生きる」 スティーブ・ジョブズのスタンフォード大卒業式スピーチ「今日が人生最後の日だとしたら」 にも通じるようなランニング・人生への向き合い方

正直に書くと、いつ足が壊れてもいいと思っているし、壊れたときは競技をやめようという気持ちで日々走っています。それはもしかしたら今年かもしれないし、来年かもしれない。そうなっても次の道はあるし、時間をかけて探していけばいい。

そう思えるのは、究極に今を生きているからだと思います。

<中略>

結果やライバルと同じで、未来は自分の想像でしかない。良くも悪くも自分が作り上げたもので、ときにはそれがモチベーションにもなるけれど、ではどうやって達成するのかと考えたら、それは過去の経験であって、イコール今の積み重ねでしかない。当たり前だけれど、未来はすべて今の影響を受けているんです。

きちんと今を積み重ねていれば、レースの直前に自分を信用することができます。

<中略>

学ぶべきはプロセスで、レースについてはただの結果でしかないので、何の参考にもならないと思っているんです。あえて言うならば、どのレースについても満足もしていないし、失敗もしていないと思っている。レースで思う走りができなくてもすごく得るものがありますし、それが分かっていれば、どんなレースでも失敗というのはないと思っています。レースはひとつひとつの環境も違いますし、そのときのレースがどうだったかを比較する必要もありません。周りは変わっていくかもしれないけれど、その瞬間瞬間を生きているのだから、次に起こることに対して向き合って、今を生きることに楽しさや意義があると、僕は思っています。