足出しの意味をまじめに考える。 #ライディングってなんだ | Always with bike

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レーシングライダー渡辺一樹とバイクの記録





レースの世界でハングオンが当たり前になり、膝をする事が当たり前になり、多くのライダーが頭をセンターに残すライディングから大きく内側へ落とすライディングに変わり、最近では肘をする事すら日常的に見られるように…。

少しづつ、しかし確実に変わっていくトップライダーのライディングスタイルには、常に理由があるはず…。




なんで肘すり?」という記事を以前書いたりもしましたが、今回は書くのは「足出し」。

すでにたくさんの意見があり多数の仮説を目にしたり耳にします。


正直言って、ここで自分が書いたところで、その仮説を一つ付け加えるだけであって最終的な答えを導き出すことにはなりません。

あくまで渡辺一樹というライダーが考えた自分なりの「こうではないか?」という想像。
ライディングは一人一人違い、それぞれが出した答えがそれぞれにとっての正解であっても、それがすべてのライダーにとっての正解にはなりません。

テレビでMotoGPやWSBKを熱心に観戦している人にとって話のネタにひとつどうですかというくらいに受け止めてもらえればいいかなと思います。笑

バイクに乗り、サーキットを走る人にとっては、真似してみて「いいな」と思えばやればいいし「なんか気持ち悪い」と思えばやらなくていいし。

繰り返すようですが、すべての人に万能なライディングスタイルはありません。 乗りたいように乗ればいいんです。

ただ、ひとつ付け加えると、何も考えずにただ人間の独りよがりに、バイクを道具として気持ち良く走る事と、
しっかり考えた上で気持ち良くバイクと寄り添ってパートナーとして走れる事は全く別の世界。


ぜひ皆さんにも後者の世界を知ってもらいたいとは常々思います。^^







さて。

最近のMotoGPやWSBKなどを観戦する方であれば、こんなシーンを見た事があると思います。



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ブレーキング中に大きく足を投げ出し、ひと昔前であればやれ下半身のホールドがどうとかこうとか言われてしまいそうな場面ですが、トップカテゴリのレースではエンジンブレーキの電気的なコントロールで非常に繊細なコントロールが可能になり、必要な所で必要なだけエンジンブレーキを引き出す事も出来るようになったことで、リアブレーキを使う必要性が減る中で、今や通常であればリアブレーキを操作する右側でも平気で足を投げ出すのも、ごく当たり前のように行われています。






この足出しが多くのライダーに見られる以前も、ブレーキング中のシフト操作でレバーの下に入っていたつま先をステップの上に踏み替える動作の中で、「足出し」とも見える場面はありました。



ただ、レーシングスピードで明確な意思を持って足を出しているのを見るようになったのはここ数年のあいだだと思います。
中でも目立っていたのは、やはりというかMotoGPを走るバレンティーノ・ロッシ。
ロッシが始めてからは瞬く間に多くのライダーが足をだすように…。(自分もその一人ですが…)

ロッシ自身、足を出す事でフロントの安心感が増す。といったニュアンスのコメントを出していましたが、同時にデータ上ではなんの差も出ていないともコメントしています。


この足出しをする理由には諸説あります。(なんて書くと胡散臭いテレビ番組のようですが笑)

自分も現役のプロライダーとしてバイクを限界近いスピードで走らせる競技をしている中で、より速く走るために様々な事を試してきました。
そして速く走るライダーがしている事をまず真似してみるのは自分のライディングを進化させるために少なからず有効な方法だと思っています。


そして当然ながら、自分もこの足を出すライディングにもチャレンジしています。


試している中で、 最初の段階で少し驚いたのは、思いのほか足を出す事に違和感が少ないこと。
しかし逆を言えば違和感がないだけであって、明確なメリットを体感する事はありませんでした。
ラップタイムが劇的に向上するわけでも無ければ、「リア荷重が増えた」などの体感はなく、
正直に言ってしまえば「何が良いのかが分からない」という感じ。



しかし、テレビなどで全日本ロードレースをご覧になっている方であればお気づきかもしれませんが、
今現在も自分が足を出している場面は数多くあります。


足を出すライディングをする前から自分の頭の中では、「多分これが理由では?」というものがありました。



まずひとつの前提として、足は四肢の中でもより遠くに置ける重量物であるという事。
そしてライディング中も比較的自由な時間が多い事。

それを踏まえて書くと。

昨今のバイクやモータースポーツでは運動性能向上のための、マス(重量)の集中化、重量をなるべく重心に近くに集めることで運動性能を上げるというようなことを聞いた事がある方も多いと思います。
運動性能の向上。
簡単に言ってしまえばそれは動きが俊敏に、早くなる事を示し、
それ自体は減速、旋回、加速の基本的な動きの中で大きなメリットを生み出すと思います。

そして足を出すという動きは、それと全く逆の効果、足という重量物を重心から遠いところに置くという事。
つまり動きを遅く、鈍にする事になります。
(フィギュアスケートのスピンを思い浮かべると分かりやすいかも?手足を横に伸ばせば回転は遅くなり、スピンの中心に近づけば回転は速くなりますよね。)

レースでは限界近いブレーキングでリアタイヤが浮いてジャックナイフ状態になる事も多くあり、
そして浮いたリアタイヤが進行方向から少しずれて接地して、バイクが左右に振られる事も同様に多くあります。
そういった時の動きはなるべくなら出さないのが一番。
しかしなかなか限界域でのライディングを求められるレースの世界ではその挙動をゼロにする事は難しい。
そこで、バイクの動きをライダーのコントロールの範疇に近づけるために、足という重量物を重心から離れたところに持っていくことで、動きをゆっくりに、鈍にすることでそういった挙動を対応出来るスピードにまで持っていく事ができる…かも笑

というのが暫定的な仮説。

…ながっ。
気分的にはまだ中間地点…笑

読んでる人が飽きてないか心配ですが。







そして、そんな仮説をどう説明しようかと思いながら各ライダーの動きを観察する中で、
足出しにはいくつかパターン、足を出す狙いが違ういくつかの種類に分けられる事に気が付きました。





ひとつは先に書いたような直立状態でのブレーキング時にバイクの「横方向」の余計な動きを抑制させるもの。

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もうひとつブレーキング開始と同時に、地面を蹴るように下へ足をだし、考え方としては上と同じですがブレーキング開始直後の一番リアタイヤが浮きやすい時のバイクの「縦方向」の動きを抑制するもの。


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そしてさらにもうひとつは切り返しを伴うブレーキングの時や直立でのブレーキングでも、出しておいた足を切り返しやバンキングのタイミングでしまう事でバンキングを補助する目的の足出し。
これだけが唯一タイムを縮めるために使える使い方に思えます。(他のは起きた挙動に対処するため=タイムを落とさない受動的な使い方)


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例によってこれらの区切りはすごく微妙でいくつかを兼ねている場合もあります。
そしてこれもいつもながら言っている事ですが、
最高峰のライダー達は恐らく、これらのテクニックを決して考えてやっているわけではなく、
ただひとつ速く走るために本能的と言っていいところで「体が勝手にそう動いている」というところ。

もちろんロッシ自身も含めて真似から入った多くのライダーも、その始めに「やってみよう」という意思をもって足を出しているでしょう。(自分も含めて)
しかしその先実践のレースでそれをしているのは、それぞれのライダーがそれぞれの求める形で最適化されたためで、ゆえに上に書いた例のような派生を生み出しているものだと思います。





写真を見ていても「足出し」をしている時の写真の多くはリアタイヤが浮いていたり、スライドしている時のものが多くて、
単純に写真に迫力が出るためにそういった写真が世に多く露出しているだけかもしれませんが、「足出し」の意味をよく表しているようにも思えます。



もちろん足を出す場面はそれだけに限定しているだけ訳ではなく、
なんとなく見ていて「このバイクはナーバスな動き方するなー」というバイクは挙動が大きくなくても出している印象があるし、レースがスタートした直後の1コーナーなんかで足を出すのは、他のライダーへの牽制も含めて新品タイヤのグリップが安定するまでの局所的にリスキーになる場面で「保険」的に足を出して挙動に備えているのかな?とか。






正直、観察しながら考え出すときりがなくなってくるので、こういった推察はまだまだ派生したり消えていく部分も出てくると思いますが、現状での自分の推測、体感、考察…はこんな感じ。


皆さんの意見とか感想、それぞれの考察があれば、聞いてみたいなと思うのでぜひコメント欄などに書いていてだければなんて思います(^^)



でわっ!