前回予告した通り、今回の和訳はビートルズで『I Am The Warlus』(1967)です。
MAGICAL MYSTERY TOUR
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ビートルズが古臭いとうそぶく人も、ひとたびこの曲を聴けば口をつぐんでしまうと言われるハイソな曲。それが『I Am The Warlus』です。
じっさいジョンもたいそうお気に入りのようで、「100年は楽しめる」と自ら評していました。
以前も触れましたが、ジョンのセンスは幼少の頃にどっぷりハマったルイス・キャロルによって養われました。たしかに考えてみると、『I Am The Warlus』には、どことなく『不思議の国のアリス』のナンセンスさを思わせるところがあるような、ないような……(どっちだよ)
同時にまた、マザーグースの発想もみてとれます。「eggman」なんてもろに「ハンプティダンプティ」を連想できます。
「Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the king's horses and all the king's men
Couldn't put Humpty together again...」
ともあれ、この歌詞について確かに言えることは、この歌詞を連続的な意味の連なりとして理解しようとすること自体がナンセンスだということです。
とにかく意味不明、まさしくナンセンス。はちゃめちゃすぎて、逆に和訳が簡単に思えてしまいます。
ただし、造語じみた単語も頻繁に登場するのでそこは要注意。
たとえば、「Crabalocker(クラバロッカー)」は解釈不可能な単語のひとつです。とある海外の単語サイトではこんな説明がされています。
「この言葉にはなんの意味もない。これは、“わけのわからない言葉”(jibberish)として書かれたものだ。なぜかって、いつも“隠された意味”なるものを見つけたがるファンたちを混乱させるためなのだ……そう、(※この歌詞を大真面目に考察するなんて)彼らはみんなアホなのである」
続いて「Goo goo g' joob」。はじめてこの曲を聴いたとき、「I am the walrus(おれはセイウチ)」をうけて鳴き声を表現しているのかなと想像していました。こうして和訳するまでずっとそう思っていましたね。
で、けっきょくなにかわかったのかと言われると、もちろんなんにもわかりません。鳴き声と解釈するのもまたいいのでしょうが、鳴き声ではないのかもしれません。ただそれだけです。
※この「Goo goo g' joob」については、海外考察サイトで論じられていますが、あまり興味がないので割愛します。
さてさて、一方、わりと元ネタの裏がとれている言葉もあります。
それは、「Semolina pilchards(セモリナ・ピルチャーズ)」です。
直訳すると、「semolina」は「粗くて固い小麦粉」。イギリスでは、これをつかって作ったプリンを「semolina」とも呼ぶそうです。そして「pilchards」は「イワシ」の一種の名です。そういうわけで、これを単純につなげてみると「Semolina pilchards」は「プリンイワシ」となります。
「Semolina pilchards, climbing up the Eiffel Tower」
(プリンイワシがエッフェル塔をのぼる)
なんのこっちゃ!
まあ、もともとナンセンスな歌詞なので、それをそのまま放置してもまったく問題ないと思われます。
なにしろジョンは、「なんのこっちゃ!」と混乱してファンが苦痛に顔をゆがめるようにこの曲を仕上げたのですからね(半分ほんとう)。
しかし「Semolina pilchards」は、実在する人物名が元ネタなのではないかとも考えられています。
その名はノーマン・ノビー・ピルチャー(Norman “Nobby” Pilcher)。
彼はスコットランドヤードに所属する、麻薬捜査班(drug squad)の巡査部長(sergeant)です。
コアなロックファンならもしかするとピンとくる名前かも。
というのもピルチャー巡査部長は、数々のミュージシャンたちを薬物使用のかどで逮捕した名うての人物だからです。彼の餌食になったのは、超がつくほどの大物ばかり。
ミック・ジャガー、ブライアン・ジョーンズ、クラプトン、ドノヴァン、そしてヨーコ・オノとジョン・レノン……。
(;''∀'')……
ロックの聖地イギリスでは、スコットランドヤードもスケールが大きいことがわかりますね。
どうやらジョンは、自分がピルチャーに狙われていることを知っていたようです。
そういうわけで、ジョンはピルチャー巡査部長を怖れるあまりに化身「プリンイワシ」を生み出し、エッフェル塔を昇らせることになったのです。
なんのこっちゃ!
まあ、けっきょくジョンはこの曲を発表した翌1968年に捕まるんですけどね。
正直なところ、『I Am The Warlus』のナンセンスは、単純にジョンの才能だけで説明しきれない気がします。
なにが言いたいのか?
賢明な読者のみなさんならば、もうおわかりだろう(スティーブン・キング風)。
ラリッた世界は、じっさいに頭がラリッた状態にならないと書けない。
とまあ、僕はそう言いたいわけです。
ドラッグがダメなのは当たり前なのですが、この曲がサイケロックの記念碑的作品になった事実と向き合う必要はやはりあるのでしょう。
影響力のすさまじさは語りつくせません。多くのミュージシャンたちがこの曲について言及しています。
その理由は簡単で、以前紹介したバンド・Arctic Monkeysも言っていたように、「ナンセンスな曲」を作りたいとなれば、かならずそこで立ちはだかる越えられない壁がまさに『I Am The Warlus』だからです。
いまいちど、Arctic Monkeysのボーカル、アレックス・ターナーの言葉を引用してみましょう。
「曲と詩を書きはじめたとき、当時のおれは『I Am the Warlus』のような詩を書けるようになりたくて仕方なかった。
やがてそれがとうてい無理だということがわかった。誰だってあの曲を聴けば、あらゆる点でナンセンスだと思うだろう。
だけどね、それをじっさいに書くこと、ナンセンスを装うことじたいがまず難しいんだよ。でも、レノンにはそれをマジにやっちまうだけの能力があったんだ」
その影響力はとどまることを知りませんでした。その余波は、英国放送協会(BBC)にまで及んだという話です。
英国放送協会……?
おや、以前にもブログでこの組織が登場してきたような……。
「幸せとは――」
ああ、頭のなかで誰かがハミングしています……。
「そうだよママ、幸せとは――」
嫌な……めくるめく嫌な予感がします……
「幸せとはチ〇コなんだ!(Happines is a warm gun)」
おまえだったのか、ジョン!!
そうです、お騒がせなジョン御大は、猥歌『Happines Is A Warm Gun』に先んじて(こちらは1968年発表)すでに1967年の『I Am The Warlus』の時点で「放送禁止(ban)」を受けていたのです。
その理由は「ドラッグ」を連想させるからとのこと。
ほんとうにどうしようもない男です。
そういえばポールは大麻が大好物でしたね。そんな彼は、現在ではすました顔で大麻はダメとか言っています。
I am he
おれがあいつで
As you are he
あいつがおまえなら
As you are me
おまえはおれというわけで
And we are all together
つまりはみんながみんなということなのさ
See how they run
ブタのように銃から逃げ惑って
Like pigs from a gun
吹き飛ぶみんなのありさまを
See how they fly
見物といこうか
I'm crying
泣けてくるぜ
Sitting on a cornflake
コンフレークに乗っかって
Waiting for the van to come
トラックの到着を待っている
Corporation tee shirt
社名入りのシャツ
Stupid bloody Tuesday
馬鹿げた血の火曜日
Man, you been a naughty boy
そこのあんた お行儀がわるいぜ
You let your face grow long
顔がびろびろに伸びちまってら
I am the eggman (Ooh)
おれはタマゴ男(Ooh)
They are the eggmen, (Ooh)
おまえらもタマゴ男(Ooh)
I am the walrus
おれはセイウチ
Goo goo g' joob
グーググージュー
Mister city p'liceman sitting pretty
列をなした街のおまわりさんたちが
Little p'licemen in a row
カワイイ小さなおまわりさんの上に座っていやがる
See how they fly
お空に舞うルーシーよろしく
Like Lucy in the sky
やつらが吹き飛んで
See how they run
逃げ惑うさまを見物といこうか
I'm crying
泣けてくるぜ
I'm crying, I'm crying, I'm crying
まったく涙がちょちょ切れちまうな
Yellow matter custard
黄色いカスタードが
Dripping from a dead dog's eye
死んだ犬の目からしたたり落ちる
Crabalocker fishwife pornographic priestess
“クラバロッカー”、“卑しい女”、“変態の巫女”
Boy, you been a naughty girl
おいおい勘弁してくれ 躾のなってないそこのお嬢ちゃん
You let your knickers down
ズボンをずり下げてなにやってんだか
I am the eggman (Ooh)
おれはタマゴ男(Ooh)
They are the eggmen (Ooh)
おまえらもタマゴ男(Ooh)
I am the walrus
おれはセイウチ
Goo goo g' joob
ググーグジュー
Sitting in an English Garden waiting for the sun
英国式庭園に腰をおろして 太陽が昇るのを待とうじゃないか
If the sun don't come
太陽が現れなかったら
You get a tan from standing in the English rain
きみは英国式の雨にうたれて日焼けをするだけさ
I am the eggman
おれはタマゴ男
They are the eggmen
おまえらもタマゴ男
I am the walrus
おれはセイウチ
Goo goo g' joob g' goo goo g' joob
グー ググージュー ググーグジュー
Expert texpert choking smokers
熟練の知ったかぶりが喫煙者の首をしめる
Don't you think the joker laughs at you?
ジョーカーはきみを笑いものにした そうなんだろ?
See how they smile like pigs in a sty,
うす汚いブタ小屋のブタみたいに笑って
see how they snied
ふがふがいわしているのを見物といこうか
I'm crying
泣けてくるぜ
Semolina pilchards
“セルモニア ピルチャーズ”が
Climbing up the Eiffel Tower
エッフェル塔をよじのぼる
Element'ry penguin singing Hare Krishna
初等教育を施されたペンギンちゃんがハレクリシュナを歌ってら
Man, you should have seen them kicking Edgar Allan Poe
そこのあんた こいつは見ものだぞ エドガー・アラン・ポウなんて目じゃないぜ
I am the eggman (Ooh)
おれはタマゴ男(Ooh)
They are the eggmen (Ooh)
おまえらもタマゴ男(Ooh)
I am the walrus
おれはセイウチ
Goo goo g' joob
Goo goo g' joob
G' goo goo g' joob
Goo goo g' joob, goo goo g' goo g' goo goo g' joob joob
Joob joob...