呼吸を止めて一秒あなた真剣な目をしたから
そこから何も聞けなくなるの星屑ロンリネス
有名な岩崎良美さんの『タッチ』の冒頭のフレーズですが、いや、やっぱりすごい。
言葉のリズム感の良さ、遊び心満載の言葉のチョイス。
こういうところにかけては、康珍化さんの右に出る人はいないでしょう。
世間じゃ松本隆さんばかりが取り上げられがちだけど(勿論、彼は本当に素晴らしい作詞家ですし、彼がこんな風に注目されているのは嬉しいことです)、彼に比肩する作詞家がいるとすれば、それはやっぱり康珍化さんだと思うのです。
岩崎良美さんは、85年にこの『タッチ』がヒットし、再び注目を浴びましたが、この曲のブレイクも、康珍化さんの作詞によるものが大きい。
音の一つ一つと、言葉の絶妙なかみ合い方、リズム感、それから一度聴いただけで覚えてしまう印象的なフレーズ。
「星屑ロンリネス」なんて、どうやったら思いつくんだろう。
この一言に、曲を印象づけるインパクトと、少女の揺らめきながらもきらめく切ない慕情、全てが込められています。
彼の優れた語感の良さを示す例として、『タッチ』以外に挙げておきたいのは、やっぱりこの曲。
『まっ赤な女の子』by小泉今日子
濡れたTシャツドッキリ
脱げばキラリ
赤いビキニ イェイイェイ
これも最初からすごいですよね。
気持ち良く「ドッキリ」「キラリ」「ビキニ」「イェイイェイ」と、iの母音が連なる感じ。
最早音ではなく、言葉がリズムを刻んでると言っても過言ではないでしょう。
しかも、このたった三行の中で、「男の子が、濡れた私のTシャツを見てドキドキしているみたい。脱いだら、真っ赤なビキニが表れて、きらりと眩しい私」という場面が進行しています。
どれだけ短い言葉で情景や感情を表すことができるか。
ここに、作詞家の腕が表れると思います。
サビもすごいです。
まっ赤な まっ赤な女の子
まっ赤な まっ赤な女の子
抱きしめられたら 誘惑ワクワク水蒸気
これを初めて聴いたとき、ものすごい衝撃を受けました。
「誘惑ワクワク水蒸気」!? えぇ!? スゴイ!! みたいな感じで。
曲が先にあったとしても、普通は思いつかないし、思いついても「いや、意味わかんないしな…」と躊躇して、入れない言葉ですよね。
所謂「星屑ロンリネス」系の造語ですが、『タッチ』以上に語感の気持ち良さと遊び心が光っています。
こういう意味不明の面白さを孕んだ言葉が、この曲をとにかく楽しいものにしていると思うわけです。
この曲は康珍化さんと秋元康さんが作詞対決をして、結果康珍化さんがA面を勝ち取ったそうなのですが、いや、こりゃ勝てないよ、秋元さんでも。
ちなみに秋元さんはB面(タイトル忘れた…何とかのヒルサイドテラスだったような)を担当。
さて、長々と康珍化さんの語感の良さについて書いてきましたが、彼の才能はそればかりに特化しているのではなく、乙女心に寄り添った情感溢れる詩もまた魅力的です。
この曲にそれがよく表れているでしょう。
『オペラグラスの中でだけ』by村田恵里
すごい好きな曲なんですが、売れずじまい。
あなたが憧れ 胸を打つ光
日焼けの横顔 窓にもたれ追いかけるの
遠くで背中を 抱きしめるように
見つめる私に いつかきっと気がついてね
ときどき胸は痛むけど
寂しいときはいつでも会えるのよあなたに
オペラグラスの中でだけ内緒よ
誰も知らない片想い
「女の子が男の子に恋をしているけれど、内気さ故に遠くから見つめるだけしかできない。いつか自分の熱い視線に気がついてほしい」という青春の一場面を描いた曲ですが、これもすごい。
彼のことをどれだけ好きか、という想いの強さを「胸を打つ光」という言葉で表し、
「日焼けの横顔」という部分によって、彼がおそらくスポーツをしている人なのだということを示しています。
その後に続く「遠くで背中を抱きしめるように」という言葉がまた秀逸で、ここでも少女の恋心の熱と、同時に初々しい内気さ、そして同時に包み込むような女性としての優しさが表れているのです。
Aメロからサビまで、曲の雰囲気に溶け込むような優しく繊細な言葉が敷き詰められており、とても綺麗な楽曲になっています。
二番からはちょっと少女のストーカー色と言うか、危うさが目立ってくるのですが、聴いているとあまりじっとり感じないのがすごい。
今のアイドルじゃあ歌えない曲でしょうね。
松本隆さんが注目されている今、もっと他の作詞家も取り上げてほしい!
作詞の重要性にもっと触れてほしい!
そう思うしべりあでした。