牛乳問題の論点は二つ。
一つは餌が海外産を輸入で買っているか、国産の循環経済で
安く済ませるかという問題。
こっちは切り替えが進めばむしろ好都合。
しかし、食品の個食化とか、そのまま口に入れられるものが求められ、
レンチンだのお湯だけでいいような「料理をしないで良い食品」
「ただそのまま口に運べばいいだけ食品」だのが
どんどん伸びてしまっていることは、
単に、食品産業のみならず、日本人が何も作れなくなるんじゃないかという
怖さも孕んでいる。
しかし、うちでも「ドリアソース」で簡単にドリアを作ったのだけれど、
これはどうも、乳製品のようなつもりで、全然乳製品じゃなさそうなのだ。
こういう食品には、牛乳は一切使われない。
なんとなく「乳製品を取っているつもり」になる食品だらけで
実はその商品に、牛乳は消費されてないらしいのだ。
原材料は「植物油脂」主体。
「脱脂粉乳」だの「クリーミングパウダー」だの
「ホエイパウダー」だのが、牛乳由来の原材料らしく見えるが・・・。
なぜ最大4万頭の乳牛の殺処分が必要? 元
農水省官僚「農政の失敗。それを国民が負担」【WBS】
テレ東BiZ
生乳が余り、乳牛の殺処分をせざるを得ない事態に
いま、日本の酪農家が経営の危機にあるのをご存知でしょうか。 北海道の酪農家では、牛乳などの原料となる生乳が余り、廃棄処分をせざるを得ない事態が起きているんです。そのため、国は1日から生乳の生産抑制のため、乳牛の殺処分に対し1頭あたり15万円の助成金を出します。なぜ、こうした事態に陥ってしまったのでしょうか。 日本で最も酪農が盛んな北海道。中でも代表的な酪農地帯が十勝地方です。酪農家からは悲痛な声が上がります。「今後が心配だよ。かわいい牛を殺してお金をもらうなんて」。カメラなしを条件に取材に応じた酪農家は悔しさをにじませました。 新型コロナの影響で生乳の需要減少が長期化。収入は得られず、生乳を廃棄しなくてはいけない事態となりました。さらにウクライナ危機による飼料価格などの高騰でコストは膨らみ、経営危機に陥っているのです。 1月30日の衆院予算委で立憲民主党の逢坂誠二議員は「乳を搾らないでくださいと言われている。加えて乳をまだ搾れる牛を減らしてくださいと言われている」と発言。岸田総理は「どういったことが可能なのか。農水省に検討させる」と答えました。 しかし、国は、生産を抑制するために3月以降、乳牛を処分すれば1頭当たり15万円の助成金を出す政策をスタート。22年度の補正予算に50億円分を計上し、年間で最大4万頭の処分を見込んでいます。
なぜこうした事態に陥ったのでしょうか。
元農林水産省の官僚であるキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏によれば、問題の発端は10年ほど前にさかのぼると言います。 「酪農業界、政府も含めて乳製品の需給調整に失敗した。2014年にバター不足が起きた。足りなければ自由に輸入するのが普通だが、政府は輸入を制限した」 2014年ごろから起きたバター不足。輸入ではなく国産のバターを作るよう、政府は生乳の生産量を増やすための設備投資などに補助金を出し、後押し。多くの酪農家がこれに応える形で生乳の増産に踏み切ったのです。 山下さんはこの判断が間違いだったと指摘します。 「酪農団体は乳製品の輸入に反対。輸入しすぎると牛乳の供給が増えて価格が下がる。そうすると酪農家が大変となり、農水省は批判を受ける。その批判を受けないようにするために十分なバターを輸入しなかった。(国産バターを増やす政策の結果)生乳が余った、したがって牛を淘汰する、税金を使えばいい、ではない。国民が税金を払って需給調整の失敗を国民が負担している。本当はやってはいけないことだ」 山下さんは酪農業界の変革の必要性を訴えます。 「根本的な政策は酪農業界の体質を強化して、価格やコストを下げて世界と張り合うことができるように競争力ある農業、酪農をつくることだ。今の農政はそんなこと全く頭にない」
※ワールドビジネスサテライト
>そもそも約10年前に国内のバター不足が問題がした時に、酪農家は農水省が輸入増やそうとしたとこに大反対し、農水省はそれに応じる形で増産する農家に助成金を出した。 濡れ手に粟で助成金手にして今まで商売して、供給過多になってきたら助成金で牛処分って、税金なんだと思ってんだ? 農水省はまず自らの過ちを反省しろ。
で、今年の牛乳廃棄と赤字酪農家は、
ただ、輸入飼料を使っていて、放牧などしていないので、
輸送費を込めた餌代が高騰しているだけ。
酪農業界でも、国内で生産した飼料やら放牧をしているところは
特に困ってないのはテレビでもよく見る。
ただ、それよりも、うちのような「牛乳は飲まないが、乳製品はよく使っている」という場合に、料理やらスイーツ作りに使っていた牛乳(低脂肪乳だが)を消費する機会が減ったことのほうが大きいのではという気がする。
クリームスープやシチュー、グラタンなども、カップだのレトルトだの、
牛乳を使って手作りすることが減った。
個食化とか、個包装だので簡便に使えるようになった分、買って済ませてしまう。
スープを作る際の牛乳は要らなくなり、お湯で溶くだけで済んでしまうようになり、
いよいよお店の棚にも、お湯だけのカップスープしか置かれなくなった。
料理をせず、お湯だけ、レンチンするだけで食べる人、個食化とか長期保存が利く食品などが増えて、プリンなどのスイーツも買って済ませてしまう。
家庭の料理に使われる分の牛乳は、かなり消費が減ったのかも?
もとは鍋で煮込む四人分800CCのポタージュスープを作るのに、
牛乳が200CC必要だった。
しかし、カップスープだとお湯で溶くだけで手間もない。
たいていの売り場の棚には、もうカップスープしか置いてない。
そして牛乳は使われない。
全国の家庭のポタージュで、牛乳が消費されなくなってきた。
フルーツサンドを作るには欠かせないホイップクリームも
なんとなく乳製品だと思っていたら、植物油脂が中心だった。
みんな、甘い物は食べたいが、カロリーは抑えたいからだろう。
コンビニで毎日消費されるフルーツサンドのホイップクリームだけでも
全国では凄い量だろうに。
アイスクリームなんか冬でも食べるのが当たり前になったほど、
消費は増えてると思うのに
そこにはどうも牛乳は使われることはないらしい。
こういう国内産の乳製品材料を使っているという表示は滅多にない。
地産地消製品だったら、牧場が作っているアイスなんかは見たことがある。
もちろん高いが。小岩井農場ではソフトクリームを食べた。
人気チョコレート菓子 ブラックサンダーがいかに売れているかという特集があった。
全粉乳 脱脂粉乳 ホエイパウダー などが使われていて、その消費量は凄いだろう。
しかし、国内生産の牛乳は、このような大量消費の菓子類の原材料にはなってない。
お菓子の箱には、脱脂粉乳と書いてある物だらけなのに。
牛乳だけ作って、それを飲んでくれというよりも、
こういう最終形態の製品、つまり農業でやったような六次化くらい、
酪農もすべきなんだ。
日本の脱脂粉乳(スキムミルク)はあまり売れず高いまま。
高いからなお売れない。
企業に日本の脱脂粉乳を使ってくださいといったところで
安い海外製を使うに決まってる。
牛の餌すら海外産になってるのに。
パンが最近、国産小麦の比率を増やすと発表していたが。
子供のおやつで使われる牛乳製品もこのくらいしか・・。
ホットケーキにプリン、そしてフルーチェ。
プリンエルは牛乳400CCを使う。
お母さんが外で働いている場合、そのまま一人分を与えられるほうが、楽なのだ。
プリンなりヨーグルトなり、アイスなり。
オジサンたちも、お昼のデザートに、アイスではなくフルーチェ食べてくれたら、
牛乳の消費量は増えますが?
200CCで4人分として、1リットルパックでは20人分になる。
どこかの事業所のお昼にフルーチェ採用とか、牛乳1リットル用のフルーチェを
ハウス食品に開発してもらうとか、コラボ商品とか。
混ぜるだけだから、個包装フルーチェだってすぐにできそうなのにな。
乳牛のエサ代は5割増… 地産地消で解消へ!タッグを組んだのは“稲作農家”「永続的な農業を」【新潟】
物価高騰の中、牛乳の値上がりも家計に重くのしかかっていますが、その背景にあるのが、乳牛の餌の価格上昇です。 こうした中、新潟県新発田市では、酪農家と稲作農家が協力し、餌の地産地消に向け、動き出しています。
【杉本一機キャスター】 「ウシたちの食事の時間です。食欲旺盛に餌を食べていますが、この餌の値上がりが酪農経営に打撃を与えています」
【尾田牧場 尾田拓志さん】 Q.どれくらい餌を食べる? 「(1頭あたり)1日に25kg以上は食べる」 新発田市豊浦地区で約70頭の乳牛を飼育する尾田拓志さんの牧場では、去年の餌代が4500万円ほどに上り、以前と比べ、5割近く上がりました。 乳牛の餌は多くを輸入に頼っていて、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響を大きく受けています。
【尾田牧場 尾田拓志さん】 「私たち生産者で、11月から牛乳を10円近く上げたが、それでも追いつかない」 経営維持のため、安定した価格で餌を入荷することが急務となる中、尾田さんが手を組んだのが、同じ豊浦地区の稲作農家です。
【アシスト二十一 木村清隆さん】 「もともと昨年はコメを栽培していた。今年度はトウモロコシを栽培する」 農業法人の代表・木村清隆さんは、主に主食用のコメを作っていますが、酪農家の尾田さんの要望を受け、去年から田んぼの一部を乳牛の餌になるトウモロコシの畑に転換しています。 その背景には、稲作農家の悩みもありました。
【アシスト二十一 木村清隆さん】 「農業者の高齢化が進んでいて、田んぼの集積が進んでいる。それを同じコメ作りだけになると、忙しい期間が限られている中で、多い面積を作業しなきゃいけないのは、かなり負担になってくる」 こうした中、互いに助け合おうと、尾田さんや木村さんなど、地域で酪農や稲作を営む5つの団体が去年、新たな組織「新発田コントラクター」を発足。 この新組織を中心に、農家側はトウモロコシや飼料用の稲を生産。酪農側はそれを牛の餌に利用する一方、牛のふん尿を堆肥にして農家側に供給します。 酪農側は安定した価格で餌を確保できるほか、費用をかけて処分していたふん尿を有効活用できる一方、農家側は化学肥料に代わる堆肥を安価で入手できるほか、主食用米からの転換により、収穫など時期が集中していた作業の分散を図ることができます。 試験的に生産した餌を牛に与えたところ、乳量の向上が見られるなど、手応えを感じているという新たな取り組み。
【尾田牧場 尾田拓志さん】 「酪農家が餌高で廃業になってしまえば、誰も牛乳が作れない。協力して、良い餌を確保して、ずっと続けていけるようにやっていきたい」 【アシスト二十一 木村清隆さん】 「次世代に残せるスタイルを確立できれば、農業者全体の若返りも図れるでしょうし、永続的に農業を残していきたい」 厳しい環境に負けない持続可能な農業へ生産者たちが知恵を絞っています。
NST新潟総合テレビ
「堆肥ペレット」製造販売へ 環境保全資源リサイクル 鹿児島県・奄美初、徳之島町堆肥センター
徳之島町堆肥センターに導入された「堆肥ペレットマシーン」=5日、同町徳和瀬
【鹿児島県・徳之島】徳之島町は、環境保全型資源リサイクル装置整備事業(町単独事業)で、同町堆肥センター(同町徳和瀬)に「ペレットマシーン」一式を導入。完熟牛ふん堆肥などの有機物を円筒形状に圧縮形成する「ペレット堆肥」の製品化を進める。高騰した化学肥料コストの軽減や積極的な有機物投入による土づくり、生産性、農家所得の向上を目指す。 同町堆肥センター(指定管理者・㈲南国パワー)は、サトウキビのバガス(搾りかす)やハカマ(枯れ葉)、肉用牛生産に伴う牛ふん、焼酎廃液など副産物の有機物を主原料に年間平均約2500㌧の粉末堆肥を製造。町内の農家などに販売供給(一部町助成)を続けている。 一方では、雨天時には粉末の堆肥散布車(マニアスプレッダー)がほ場に入れず管理作業が遅延。そして、化学肥料の価格高騰が農家に大きな打撃を与えている現状にある。
環境保全型資源リサイクル装置整備事業としての「堆肥ペレット」商品化は、奄美群島では初の試みという。徳之島町ふるさと思いやり基金(ふるさと納税)財源を活用。町堆肥センター施設内に、堆肥用ペレット製造機器(ペレットマシーン)一式を導入設置した。総事業費は約1500万円。 5日午後、関係者を招いて機器の完成・試運転を披露した。完熟牛ふん堆肥の原料をふるい装置で一次処理し、造粒設備でペレット化(直径約6㍉、長さ約10㍉)する製造工程を公開。町当局によると、従来の耕うん機や小型トラクター装着型、背負い式の施肥機(器)が利用でき、緩効性で施肥効果が長いこともメリット。 今後、成分分析や商標登録を進め、今年秋ごろから小口販売を始め、来年のサトウキビ春植え期からの本格販売を目指すという。価格は1袋(15㌔)当たり「農家負担の少ない千円以内を検討したい」。 高岡秀規町長はあいさつで「非常に上質な堆肥ができると期待。ウクライナ問題などで価格が高騰しているが、世界的に化学肥料を一番使っているのは日本と言われている。リサイクル、カーボンニュートラルも含めて豊かな土を子や孫に残そう」と強調。 県堆肥コンクール・最優秀賞にも輝いている㈲南国パワーの東政宏社長(66)は「一番のメリットは施肥作業がしやすいこと。農作物を適正管理することで農家の所得が向上。化学肥料は約1・5倍に高騰しており、少しでも地場産で供給できたらと思う。雇用促進にもつながる」と話した。
汚水処理からバイオガス発電 奄美市 財源負担なく売電収入
バイオガス発電事業の調印書に署名した(右から)安田奄美市長と月島機械福岡支店の林支店長=9日、鹿児島県奄美市役所
鹿児島県奄美市と、上下水道処理など水環境処理関連の事業を展開する月島機械(本社東京都中央区)は9日、同市名瀬の汚水処理場「名瀬浄化センター」で発生する消化ガスを燃料として発電し、売電する「バイオガス発電事業」の契約を締結した。10月までに処理場内に関連施設を整備し、発電を始める計画。市の財源負担はなく、売電に伴い20年間で約5千万円の収入が見込まれる。同日、市役所で調印式があり、安田壮平市長は「捨てるモノから生み出すモノへ」と述べ、官民連携を強調した。 バイオガス発電は、メタン発酵させた排せつ物や汚泥などから発生する「バイオガス」を燃料にした発電手法。月島機械はこの仕組みを活用した施設の設計、建設と運営などを手掛けており、2022年度までに累計25の県や自治体と事業を締結、うち19件がすでに稼働している。 同社との事業締結は、県内自治体では奄美市が初めて。新設する発電施設の整備・管理費用を月島機械が全額負担し、再生エネルギーの固定価格買取制度による売電収入を同社と市で分ける。 名瀬浄化センターは建設から40年が経過。人口減少に伴う収入減や施設の老朽化が進み、維持管理費の財源確保が課題となっている。事業実施で、これまで焼却処分していたガスを有効活用し収入につなげられるほか、地球温暖化対策や再生可能エネルギー普及、地域の環境意識醸成などの効果も期待される。
調印式には、安田市長と月島機械福岡支店の林伊知郎支店長ら関係者10人余りが出席。安田市長は「厳しい経営状況が続く下水道事業の財源確保に限らず、持続可能な循環型社会の構築に資する事業。より良い生活環境の実現につなげたい」と語った。
≫同社の主力商品の原料は、酪農家やJAから買い取った「牛の尿」だ。これまで牛飼いにとって産業廃棄物でしかなかった牛の尿は、独自の発酵技術によって無害化され、人にも動物にも環境にも優しい液体に生まれ変わる。 窪之内はこの液体を「善玉活性水」と名付け、消臭液や土壌改良材として製造・販売している。 この液体を排水口や生ゴミ、ペットのトイレなどに吹きかけると、嫌な腐敗臭やアンモニア臭がしなくなる。土にまくと植物の生育がよくなる。
前人未到のアップサイクルだといっていい。
牛乳は捨てるほど余っているのに、なぜ値上げなのか…平均所得1000万円超の「乳牛農家」をめぐる深い闇
図版=筆者作成
輸入飼料の高騰で「酪農家が苦境にある」との報道が相次いでいる。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「酪農家の平均所得は2015年から2019年まで1,000万円を超えて推移している。もっとも高かった2017年は1,602万円、100頭以上をもつ乳牛農家は北海道で4,688万円、都府県で5,167万円だった。数年前まで輸入飼料は安く、酪農経営はバブルだった。バブルがはじけたからといって、国民に助けを求めるのはフェアではない」という――。 【図表】飲用牛乳向け乳価の推移
■捨てるほど余っているのに、なぜ値上げなのか
「酪農家が大変だ」としきりに報道されている。 国際的な穀物相場が高騰してエサ代が上昇しているうえ、乳製品(脱脂粉乳)が過剰になって余った生乳を廃棄したり、減産せざるを得なくなっているというのである。1月23日のNHKクローズアップ現代は、「牛乳ショック、値上げの舞台裏で何が」と題して報道していた。しかし、生乳は捨てるほど余っているのに、なぜ乳価は上がるのだろうか? 供給が多ければ価格が下がるというのが経済学だ。これについて、クローズアップ現代は、何も答えていない。経済の基本原理に反した動きがあるときは、必ず人為的な力が働いている。それを明らかにしなければ、問題の真相に切り込んだことにはならない。
■牛乳(加工乳)=水+バター+脱脂粉乳 問題の真相を理解するには、まず「牛乳」という商品について知る必要がある。
牛乳は面白い商品だ。水を取るとバターと脱脂粉乳ができる。できたバターと脱脂粉乳に水を加えると、元の牛乳に戻る。これは“加工乳”と表示されているが、牛乳と成分に違いがあるわけではない。 生乳からバターと脱脂粉乳が同時にできる。これが生乳と乳製品の需給を複雑なものにする。2000年に汚染された脱脂粉乳を使った雪印の集団食中毒事件が発生して以来、脱脂粉乳の需要が減少し、余り始めた。
脱脂粉乳の需要に合わせて生乳を生産すると、バターが足りなくなる。
2014年のバター不足の根っこには、この需給関係がある。
■バター不足を招いた農林水産省による輸入制限
当時、日本ではバターが足りなくなったが、世界では余っていて価格も低迷していた。国内の不足分を輸入しようと思えば、安い価格でいくらでも輸入できた。
それが輸入されなかったのは、制度的にバター輸入を独占している農林水産省管轄の独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)が、国内の酪農生産(乳価)への影響を心配した農林水産省の指示により、必要な量を輸入しなかったからである。
なぜ農林水産省はALICに輸入させなかったのだろうか?
バターを間違って過剰に輸入して余らせると、それを国内で余っている脱脂粉乳と合わせて加工乳が作られる。牛乳市場で加工乳を含めた供給が増える。これだけでも価格の下げ要因となる。 さらに、問題を複雑にするのは、農林水産省の制度によって、生乳価格は一物一価ではなく、バターや脱脂粉乳の原料となる「加工原料乳」の価格は「飲用牛乳向け」の価格より33%も安いことだ。このため、もともとは加工原料乳を原料とする加工乳のコスト・価格は飲用牛乳より安くなる。安い加工乳が多く出回ると、飲用牛乳の価格も下げざるをえない。 当然乳業メーカーは乳価の引下げを酪農団体に要求する。そうなると、酪農団体や農林族議員は農林水産省にバターを輸入しすぎたせいだと批判する。かれらの気分を害すると出世できなくなることを恐れて、役人は十分な量のバターを輸入させない。酪農団体も乳製品の輸入に反対し続けてきた。 ALICではなく自由な民間貿易に任せていれば、十分な量が輸入され、バター不足は起きなかった。結果的に多く輸入されても、バターや生乳の価格が下がるだけで消費者は困らない。
■「生乳廃棄」は酪農団体が自ら招いた問題
脱脂粉乳の在庫が増大し、生乳を廃棄したり、生乳生産を減少したりしなければならなくなったことを、酪農家は国の場当たり的な政策のせいだと言う。 バター不足の後、農林水産省は、バターの供給が足りなくならないよう、酪農団体に生乳生産増加を指導した。バターの需給が均衡すると、脱脂粉乳が過剰になり在庫が増大した。そこで今度は減産を指導している。 脱脂粉乳が過剰にならないようにすれば、国産ではバター全てを供給できないので、不足分を輸入すればよい。しかし、輸入には酪農団体が反対する。このため、農林水産省がバターを全て国産で供給できるよう生乳生産増加を指示した結果、脱脂粉乳が過剰になったのである。 酪農家なら、乳製品の需給関係も理解すべきである。増産と減産を繰り返したくないなら、一定量のバターの輸入を認めるしかない。自らの政治活動が生乳廃棄、減産を招いたのだ。
■生産過剰なのに上がり続ける生乳価格
生乳価格(飲用向けと加工原料乳を加重平均した総合乳価)は2006年以降大きく上昇している。 さらに2022年11月には、酪農団体と乳業メーカーの交渉で決まる飲用牛乳向けの乳価が1キログラム10円、8.3%引き上げられた。バター用など加工原料乳の価格も10円、12%引き上げられた。加工原料乳への政府補給金も、同年12月4.3円、5.2%引き上げられた。デフレと言われる時代に、乳価は2007年に比べ5割も高い。負担しているのは消費者である。現在、酪農団体はさらなる引き上げを要求している。 過剰なのに価格が上がるというのは、農産物需給についての通常の経済学では説明できない。それなら市場外で何か別の力が働いているはずである。
農政は似たようなことを経験している。食管制度時代の米価である。この時、政府は生産者から米を買い入れ、その際の価格を政治的に決めていた。JA農協の大政治運動で米価を上げたので、米の過剰が生じ減反政策を実施せざるを得なくなった。しかし、生産を減少させる減反政策を行いながら、生産を刺激する米価引き上げを同時に行っていたのである。このときは、一定の米価を前提として、それを維持するよう生産を減少・調整した。農産物市場で供給が変化するなら、価格が変動して需給を調整するのに、この場合は価格を固定して数量で調整したのである。
■価格を維持するために量を調整している
生乳の価格決定は、乳業メーカーと生産者団体の連合体との交渉で行われる。その舞台裏で、どのような動きがあるのか、部外者にはわからない。しかし、乳業、酪農、農林水産省、農林族議員は、利益共同体である。乳価交渉で、乳業メーカーが政治的な意図を忖度(そんたく)しないとは言えない。かれらは、バター不足の際の農林水産省の行動を理解できたはずだ。 まず乳価水準を決める。乳業メーカーは、生産した脱脂粉乳等の在庫を調整することで、脱脂粉乳等が過剰に供給され、その価格が低下しないようにする。今回も脱脂粉乳は過剰となって在庫が増えているのに、価格は下がっていない。これは極めて重要なポイントである。
乳業メーカーとしては、過剰在庫による倉庫料の負担を減少しようとするなら、脱脂粉乳の価格を大幅に引き下げて在庫を一掃すればよい。安い脱脂粉乳から無脂肪乳や低脂肪乳などの加工乳が安く作られる。安価な加工乳の需要が増えれば、飲用牛乳の価格も下げざるを得ない。そのときは生乳価格(乳価)を酪農団体と交渉して下げればよい。
■酪農・乳業村の利権を「税金」で守る仕組み
しかし、このような経済合理的な活動を行うと、酪農団体や農林水産省と全面的に対立する。逆に生乳供給が逼迫(ひっぱく)するときに、自分の会社に酪農団体から生乳を回してもらえなくなるかもしれない。特に、全生乳の6割を占めるとともに加工原料乳のほぼ全てを生産している北海道の酪農団体、ホクレンが生乳供給で持つ独占的な力は巨大である。 無理をしなくてもよい。乳価引下げと言わなくても、農林水産省は過剰在庫解消の手段を講じてくれる。今回は、WTO違反の輸出補助金まで検討してくれている。それでもダメな場合は、酪農団体が乳価維持のために生産調整(減産)してくれる。もちろん農林水産省も乳牛淘汰(とうた)などの補助金を交付してくれる。これで、酪農・乳業村すべての関係者の利益を守ることができる。このコストを負担しているのは納税者だが、酪農・乳業村としてはあずかり知らぬことだ。
価格を維持するために数量で調整するやり方は、食管制度以降の米政策と同じである。こうして、生乳が廃棄されても乳価は上がる。
■畜産部を畜産局に昇格させた農林族議員
農林水産省が酪農に牛舎、搾乳施設(搾乳ロボットなど)、農業機械などを補助してきたのは、酪農生産の効率化を図り、コストを下げて消費者に利益を還元するとともに、WTOやTPPなどの関税削減交渉にも対応できるようにするためだった。ところが2007年以降乳価は下がるどころか上昇している。 第1次安倍内閣の2007年には、米政策でも大きな変化が起きた。生産者への減反目標を国が配分するのをやめてJA農協に任せるという改革〔安倍首相(当時)が2014年に減反廃止と言ったのと同じ内容〕を、自民党農林族議員がひっくり返したのだ。これ以降、農林水産省は農林族議員に反抗できなくなった。
今の農林族議員の中心は畜産族である。彼らは、畜産部を畜産局に昇格させた。畜産族の圧力は陰に陽に乳価交渉に影響する。被害者は、納税者として酪農家に補助金を払いながら、消費者としてより高い牛乳乳製品を買わされる国民である。
■日本の酪農はアメリカ産穀物の加工工場
トウモロコシなど穀物の国際価格が上昇して、それを飼料として使う酪農経営が苦しくなっていると報道されている。多くの人は広い草原で草を食むクリーンな牛をイメージして、酪農家にも親近感や同情の念を持つ。しかし、放牧されている牛は2割に満たない。ほとんどはアメリカ産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べている。
土地が広い北海道でも配合飼料依存が高まっている。栄養価が高いので乳量が上がるからだ。
1961年に農林省は“農業基本法”を作った。狙いの一つは、食生活が洋風化する中で、米から、需要が高まる、野菜、果樹、酪農・畜産へ農業を転換させることだった。もう一つは、農家当たりの規模を拡大してコストを下げ、工場労働者と同じくらいまで、農家の所得を向上させようというものだった。
基本法に支えられ、酪農は発展した。60年間で生乳生産は200万トンから760万トンに4倍も増加した。酪農家戸数は40万戸から1万3000戸へ30分の1に減少したので、一戸当たりの規模は実に120倍に拡大したことになる。
しかし、拡大の仕方がイビツだった。規模を拡大するために、草を食べる反芻動物である牛の飼養頭数を増やすなら、草地を増やさなければならない。それが困難な都府県では配合飼料を与えるようになった。 北海道では、草地面積は、1960年の6万3000ヘクタールから1995年に54万ヘクタールに増加した。しかし、その後減少し続け、2020年には50万ヘクタールとなっている。1980年代後半以降、北海道も、配合飼料の使用量を増やすことで、飼養頭数を拡大した。手っ取り早く収益を上げられるからだった。これによって、北海道の酪農収益も、トウモロコシ価格と連動するようになってしまった。 日本の飼料産業は、輸入トウモロコシなどに飼料添加物を加えた“配合飼料”を製造し、畜産とともに大きく発展した。原料のトウモロコシは関税なしで輸入しているのに、なぜか配合飼料価格はアメリカの倍近くもしている。JA全農はアメリカ・ニューオーリンズに巨大な穀物エレべーターを所有し、アメリカ産穀物を大量に日本に輸出している。日本の酪農品や畜産物はアメリカ産穀物の加工品である。本籍はアメリカだ。これがJA農協が広告する“国産国消”の姿である。
■100頭以上の乳牛がいると平均所得は4000万円以上
乳価が上昇したうえ、北海道の生乳生産量は、バター不足が問題となった2014年の381万トンから2021年は427万トンへ、全国は733万トンから765万トンへ増加している。 乳価も生産量も上昇したのだから、価格に生産量を乗じた売上高は増加した。また、酪農家の副収入であるオス子牛価格は、通常3万~5万円ほどだった。
それが牛肉価格の高騰で、2016年から最近まで10万円から15万円と過去最高水準の高値で推移してきた。 酪農家の平均所得は2015年から2019年まで1000万円を超えて推移している。最も高かった2017年は、酪農家の平均で1602万円である。この年100頭以上の牛の乳を搾っている階層は、北海道で4688万円、都府県で5167万円の所得を上げている(農林水産省「農業経営統計調査」)。つまり、酪農経営は数年間バブルだった。そのバブルが昨年はじけただけなのだ。 穀物の国際価格の上昇もオス子牛価格の低下も、国が招いたものではない。
輸入飼料依存の経営を選択した酪農家が、輸入穀物が安く平均的な酪農家でも国民の平均所得の3~4倍を稼いでいた時には黙って、穀物が高くなると苦しくなったといって国民(負担するのは納税者)に助けを求めるのは、フェアではない。これに補塡(ほてん)するのは、株式投資で失敗した人に損失補塡するのと同じである。
日本の乳価は欧米の3倍、1頭当たりの乳量も世界最高水準だ。それなのに、1年だけの飼料価格上昇で離農者が増加するなら、今の酪農は見直すべきではないのか。輸入穀物依存の酪農は、輸入が途切れる食料危機の際には壊滅する。食料安全保障上、何の意味もない。大量の糞尿を穀物栽培に還元することなく国土に窒素分を蓄積させている。経済学的には保護ではなく課税すべきだ。
■日本の酪農は牛にも残酷
牛に草ではなく穀物を食べさせるために、放牧ではなく舎飼いとなる。規模の小さい酪農家では、牛は「スタンチョン」という首輪やひもで一日中牛舎の狭い場所につながれている。体を固定されてエサを食べさせられているだけである。歩くことさえ許されない。こういう状態の自分を想像できるだろうか? 国際獣疫事務局(OIE)は、つなぎ飼いされている牛は福祉問題のリスクが高いので、十分に運動させるべきだとしているが、日本では放牧地や運動場に牛を放さない経営が多い。 規模の大きな農家では、ある程度のスペースでつながれずにまとめて飼育されるが、コンクリートの上を少し歩けるというだけである。また、コンクリートの上におがくずやもみなどの敷料を薄くまいただけの場所で寝ている。アスファルトの道路の上で、人が寝るようなものである。これが生涯続く。かなりの牛は足を痛め、跛行など歩行が困難となる。起立不能になる牛もいる。 牛も出産しないと乳を出さない。一般には、人工授精して妊娠・出産させる。栄養価に富んだ「初乳」を生まれたばかりの子牛に飲ませるだけで、すぐ子牛を母牛から引き離す。母牛からできる限り多くの生乳を絞るためである。これに対して、肉用牛の場合には、母子分離は早くて産後1カ月経ってからである。 この早すぎる母子分離は、母牛、子牛ともに大きなストレスになる。子牛は母牛の乳首を吸うことができないため、水を入れたバケツの取っ手をなめたり、一頭だけ入れられた狭い囲いの鉄柵をなめたりを繰り返す。引き離された子牛は輸入された安い脱脂粉乳を飲まされる。
酪農家は、子牛用の脱脂粉乳の輸入には反対しない。母牛が子牛を舌でなめるグルーミングを受けた子牛ほど発育が良い。しかし、生まれてすぐ子牛を母牛から引き離せばグルーミングはできない。これは、アニマルウェルフェアに反している。
■国土に立脚した放牧型酪農に転換せよ
本来酪農は土地に根差した産業だ。少数だが草地に放牧する酪農が日本にもある。アニマルウェルフェアの要請にもかなっている。草を食べる反芻動物の牛に狭い牛舎で穀物を食べさせることが良いのか?
出産後すぐに母牛から子牛を引き離すことはアニマルウェルフェアからも好ましくない。 海外の穀物に依存する酪農がいかに危ういものかは、今回よくわかったはずだ。政府が行うべきは、国土に立脚した放牧型酪農への転換である。
---------- 山下 一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、など多数。近刊に『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)がある。 ----------
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁
商品情報 書籍
岩手県岩泉町にある中洞牧場(なかほら牧場)は130haの広大な山で全国的に希少な通年昼夜放牧し、ジャージー牛を中心に飼育。搾乳時以外は完全自然放牧・完全放牧です。
山に放牧する「山地酪農」はウシたちにとって健康的。
さらに一般的な穀物飼育ではなく希少なグラスフェッド(草飼育)なので、牛乳はグラスフェッドミルクと呼ばれ、有機栽培や自然栽培、オーガニック志向の方から注目されています。
マツコの知らない世界や満天青空レストラン、がっちりマンデーなどで紹介されました。
「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の国内認証も受け、ウシたちに優しい牧場として専門家からも脚光を浴びています。
そんななかほら牧場をつくった創設者・中洞 正による、牧場の運営方針をタイトルにした初の著書です。
酪農の実態、自然放牧の素晴らしさで話題になりました。
>日本の酪農の歴史と現状について(2007年時点ですが)、
とてもわかりやすく書かれています。
この本を読んで初めて知ることばっかりでした!
個人的には、牛乳は濃いほうがいいとも思ったことがなかったので、
当時濃い牛乳でないと売れないという理由で、自然放牧から牛舎での密飼いの形態へかわっていったということは驚きでした。農協の独占のことも知りませんでした。。
普段買っている牛乳のパッケージに描かれた、広々とした牧場にいる
牛からとった牛乳はごく僅かしかないという現実・・。知ってる人はそう多くはないのでは
ないでしょうか。
著者が仰るように、日本の使われていない森林資源と酪農が結びつけば、とても
いいと思います。林業も廃れて、せっかく日本に豊富にある森林資源が使われずに荒れていくのはもったいないです。
日本でも、もっと家畜福祉に関する意識が高まって、こうやって丁寧に牛を大事にして作られる牛乳が高く評価されるようになればいいのになーと思います。
安い牛乳を毎日飲むよりも、多少高くてもこういう牛乳を週に2、3回飲むほうがいい!という気にさせられる本でした。おすすめの1冊です☆
>思わずうなってしまうほど素晴らしい本です。
というのも、単に日本の酪農の問題を個別に論じるだけではなく、人間の開発した技術がなぜこの歪んだ社会を作ったのか、その本質を見事に看破しているからです。しかも、著者は自らその歪みに挑戦し、実績を出し、そして今後の日本における酪農の青写真まで提示しているから本当に驚きです。自然農ならぬ自然放牧は、「牛が開く牧場」(斉藤晶、地勇社)が有名ですが、中洞さんは、その実践をさらに発展させています。
人間とはおかしなもので、経済効率至上主義を謳いながら、実はまったく不経済なシステムでエネルギーを無駄にしています。その原因は、人間の勝手な都合から自然の摂理を無視することにあるでしょう。この本を読んでみると、日本の酪農を例にそのことがよくわかります。
例えば、子牛は生後5‾6日しか母乳を飲まされず、すぐに母牛から引き離され人口乳で育てられます(これに肉骨粉が含まれていた)。そして、人間に危害を加えるという理由から、生後1‾2ヶ月で角を切られ、傷口を電気ごてや薬品で焼かれます。また、狭い牛舎に過密状態で生活をさせられ、乳量と脂肪分を上げるため高たんぱく高カロリーの濃厚飼料が与えられます。しかも、発情させるためのホルモン剤の注射や人工授精で常に妊娠させられて搾乳を強いられるのです。そのため僅か5‾6年(本来は20年程度)で廃牛となるそうです。牛固有の生理・習性無視した、経済効率至上主義のこの飼育方法が、牛たちに過剰なストレスと酷い苦痛を与えているのですね。その結果、病気、異常行動、異常出産などが頻発します。不自然なことをすれば不自然な結果が現れるわけです。
不自然な飼育に必要なのが、海外に依存した配合飼料、飼料添加剤、各種栄養剤、大量の医薬品、高度な治療技術、人工授精師、受精卵移植、糞尿処理機などです。つまり、反自然的な行為の結果を取り繕うために、お金とエネルギーと技術が必要になるわけです。しかも、これだけ多くのお金とエネルギーを使って生産した牛乳が、水やお茶よりも安いのです(牛乳1000mlで200円、お茶500mlで200円、水500mlで250円)。この上、飼料の高騰では、まったく酪農家はやってられませんね。加えて、牛をこのように虐待して得た牛乳が本当に人間にとって体に良く栄養になるのだろうか、という疑問も出てきます。
この日本の酪農に対して、著者の答えは明快です。「田畑にできない山地を生かして牛を自然放牧させ、人が食べられない草を餌に乳を出す。これが日本に適した酪農だ」と。実際、著者は、岩手県の山間部にある牧場で、1年中牛を放牧させて酪農を営んでいます。この結果、餌の調合と給餌作業、糞尿処理などの過重な牛舎作業とそれに伴う費用から解放されました。当然、牛自身も健康になり獣医の世話になることもほとんどなく、その上、自然交配・自然出産で、人工受精も助産の必要もなくなったと言います。自然放牧は何と経済的なのでしょう!
しかし、実際は自然放牧すれば問題が片付というわけにはいきませんでした。なぜなら、農協への一元出荷体制と大手乳業メーカーを中心とした現在の流通システムの壁があるからです。ここでは、乳脂肪分が高ければおいしい牛乳だと考えられ、それだけが価値基準となっています。このため、自然放牧を行ない安全な牛乳を生産する酪農家は生き残る術がほとんどないのです。実際、著者の牛乳は買い叩かれ、一般の価格の半値になることもあったといいます。この後、著者は直販に挑み、やがて食の安全性を最優先したその商品に顧客は全国に広がりました。今では生産から販売まで手がける中、日本の酪農のあり方を変えるために放牧酪農家の支援を行なっています。
「牛が幸せであれば、幸せな牛乳が作れる。そして、幸せな牛乳はおいしい牛乳だ」、この言葉に著者の考え方と生き方が込められています。真の経済性と豊かさは、いのちを尊ぶ心から生まれてくるのですね。これは私たちが21世紀を生きていくうえでの羅針盤ではないでしょうか。
なお、この本と合わせて「自然農・栽培の手引き 」(鏡山悦子著 、 南方新社)
「自然農の野菜づくり」(高橋 浩昭著 、創森社)「これならできる!自然菜園―耕さず草を生やして共育ち」(竹内孝功著、農山漁村文化協会)、
「百姓が地球を救う」(木村 秋則著、東邦出版)「週末の手植え稲つくり―5畝の田んぼで自給生活を楽しむ」(横田不二子、農文協) も同じくとても良い本ですので参考にしてください。