☆めらる〜の肉球☆

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自分の趣味や,興味を惹かれて参加したイベントのレポなどを中心に,気の向くまま気まぐれにUPして行きたいと思いまーす!(=゚ω゚)ノ

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こんなお話をしたら信じられますか?

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あるところに,解離性同一性障害の人がいました。

決して珍しい症例ではないですが,彼には他の患者さんと大きく異なる点が3つありました。

1つは,異なる人格間で記憶を共有していたこと。

1つは,異なる人格間で会話が出来たこと。

1つは,異なる人格間で…が異なったこと。

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友達のいない彼は,幼少期から自分の中の別人格と一緒に遊んでばかりいました。

そして月日が経ち,段々大人になっていく中で,彼はある違和感に気付きました。
いつも一緒だった別人格と,趣味嗜好が全く合わなくなったのです。

特に服装やインテリアに関して,その差は顕著に現れました。

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彼は比較的落ち着いた雰囲気のものを好みましたが,別人格は装飾の凝った可愛らしいものを好むようになりました。

そして違和感が決定的になったのは成人式の衣装を下見に行った日のことでした。

彼は細身のダークスーツを選びましたが,別人格は晴着を着たいと言い出したのです。

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彼は混乱しました。

10代前半頃から趣味嗜好に差が出てきましたが,いつも一緒で記憶も共有しており,なによりもお互いがお互いの一番の理解者だと思っていた相手の考えが全く解らなくなったからです。

そして,ある告白が彼の混乱に拍車をかけました。

「ぼくは女の子だよ」

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彼は,その言葉の意味が直ぐには理解出来ませんでした。

「え?何言ってんの?俺は男だよ!」

「うん知ってる。でもぼくは女の子なんだよ。」

「ちょっと待てよ!だってほら!今まで好きになった子だって一緒だったじゃん!」

「うん。君とは女性の好みも一緒だよね♪」

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「は?何で女が女を好きになるんだよ⁉︎」

「………」

「何黙ってんの?何とか言えって!」

「それはね…」

「それは…?」

「ぼくは可愛いものにしか興味がないし,君以外の男の子にも全く興味がないからだよ♪」

「ちょっ,まっ,何言って…。」

「それにね…」

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「解離性同一性障害の産物であるぼくは,基本的に君の消し去りたい過去,忘れたい嫌なことを引受ける存在。そして何より君の願望を叶える存在なんだよ。」

「俺が実は女になりたいとでもいうのか?」

「違う違う。君は小さい頃,よくいじめられてたよね?」

「何のことだ…?」

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「それでも独りは嫌だったから,暴力を振るわれても我慢していじめっ子達と一緒に遊んでたんだよね?」

「何のことだよ,そんな憶えはないよ!」

「そして君は願ったんだよね。腕力で自分よりも遥かに劣る,決して暴力を振るわない,大人しくて可愛らしい女の子の友達が欲しい…って。」

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「だから何のことだよ!」

「だからぼくが産まれた。君から辛いイジメの記憶を消し去り,ぼくが全てを引受ける為に,そして友達として常に君の側にいられる様にね♪」

「ちょっと待て!俺にイジメの記憶なんてないぞ!」

「だから言ったよ。『君から全て消し去った』って」

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「そんな筈はない!だって,俺とお前は記憶を共有している!検査でもそれは明らかだ!」

「うん,間違いなく共有してるね。でも誰が『全て』と言ったの?」

「え?どういうこと…だよ…?」

「ぼくは君の記憶を全て持っている。でも君が知らないぼくだけの記憶もある…ってこと。」

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「何だよ…それ…。そんなのありかよ…。」

「だから君は,ぼくが成人式では晴着を着たいって前々から思ってたこと,ネットで目星を付けてたことを全然知らないでしょ。」

「ふざけるな!あーもう!余りのことで全然ついてけない!」

「ね,いいでしょ?」

「何が?」

「晴着!」

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「ダメに決まってんだろ!男が晴着なんて着られるかよ!」

「えー!スカートとかはいてるじゃん!」

「あれはファッション的にありなの!でも晴着は明らかにNGだろ!」

「何だよ!もうバカ!そんなにぼくに意地悪すると主人格を乗っ取っちゃうぞ!」

「⁉︎」

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別人格のこの発言はただの冗談でした。
晴着を着たかったのは本当ですが,いくら「女の子」でも外見は「彼」なのです。無理なのは最初から分かってました。
ただ歳頃の女の子として,今まで彼の闇を引受けてた分だけ,ちょっと我儘を言いたかっただけでした。

でも彼はそうは思わなかった。

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「解離性同一性障害」の治療法をご存知でしょうか?

基本的に大きく二つに分類されます。

1つは「別人格の主人格への統合」
1つは「別人格の完全排除」

通常は,前者が用いられます。
後者は,いくら分離しているとはいえ,人格の一部が欠損することを意味するからです。

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しかし後者の方が,患者本人の心理的にも,脳生理学的にも,実は治療が容易なのです。

人間は,物理的にも心理的にも,異物を排除する様に出来ているからです。

そして彼は初めて思ってしまったのです。
別人格が怖いと…。

初めて願ってしまったのです。
別人格はいらないと…。

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翌朝,彼は異変に気付きました。

いつもなら彼より先に必ず起きている別人格が,まだ目を覚ましていないと。

でも彼は,昨日のことでまだ頭にきていたので,特に気にも止めませんでした。

しかし次の日も,そのまた次の日も,別人格は目覚めません。

流石に彼も気になってきました。

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その後も,別人格からの反応は全くありませんでした。

ただ,まるで「ぼくは死んでないよ」と言わんばかりに「くーくー」と微かな寝息だけが漏れ聞こえてきました。

それから毎日,来る日も来る日も状況は変わらず,いつしか月日は流れ,彼も社会人としてそれなりの地位になっていました。

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しかし,相変わらず彼には友人らしい友人は1人もいません。
偶に職場やネット上で知り合い,それなりに仲良くなる人もいましたが,余り長続きはしませんでした。

勿論,彼の性格に問題があったことは否めませんが,必ずしもそれだけではなかったのです。

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余りにも心が通じる相手と最初に出会ってしまったが為に,最初の出会いが最高であったが為に,どうしても心が思い通りに伝わらないことに対する苛立ちを我慢出来なかったのです。

また,彼だけ新たな友人を作ることにも,少なからず躊躇いがありました。

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彼は今でも治療を続けています。

「解離性同一性障害」を治す為にではなく,もう一度,彼女とお話をする為に…今までずっとそばで支えてくれていた彼女を裏切ってしまったあの時のことを謝る為に…。

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でも,たまに彼は不安になるのです…本当に彼女にもう一度会えるのかと…。

あの頃とは比べものにならない程に医学は進歩し「解離性同一性障害」の治療法も益々確立されてきてはいますが,眠り続ける「彼女」を再び目覚めさせることなんて本当に出来るのだろうか?…と。

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いつの頃からか,気付ばあの微かな寝息も全く聞こえなくなっていました。

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近頃では,本当に彼女は存在していたのか?
単なる妄想だったのでは?

と,彼は思うようにさえなっていました。

いや一層のこと,そうであってくれた方がどれだけ楽だろう!とさえ正直思ったこともありました。

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でも,忘れられないのです。
嬉しそうに,せがむ様に,「晴着!晴着!」と繰り返す彼女の声を…。

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そして何の解決の糸口も掴めないまま更に月日は経ち,それなりに年を重ね,未だ一人暮らしの彼は,仕事の疲れが抜け切らない億劫な朝を毎日迎えるだけになっていました。

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しかし,その日は突然訪れました。

いたずらっぽいこんな声で一気に目が覚めたのです。

彼は,ただただ笑顔で挨拶を返すことしか出来ませんでした…。

「ねえ,晴着どこ?」

「おはよ,くーちゃん♪」