--今回はボランティアスタッフとしてご活躍いただいている松永さんにお話を伺います。ゼルビアのボランティアを始めたのはいつからですか?

松永「始めたのは2007年の秋からです。きっかけはもう亡くなられていますが、広瀬一郎さんというスポーツコンサルタントの方が開講していたSMS(スポーツ・マネジメント・スクール)に参加していた折の話。メンバーの方々にフットサルをやろうと呼びかけられて参加すると、そのフットサルのメンバーの中に現在の大友健寿社長や元ボランティアスタッフの今泉さんがいました。そこで彼らに『ゼルビアのボランティアをやりませんか?』とお声掛けいただいたことが、ボランティアを始める第一歩となりました。」

 

--古くから大友社長をご存知なのですね。

松永「そうです。私は川崎在住でもあるため、町田はそう遠くはないですし、スポーツビジネスに関心がある中で、心底興味を持っているのか、もしくはそうではないのか。自分で判断をするために、ボランティアスタッフを体感してみることにしました。」

 

--SMSに通おうと思ったきっかけは、スポーツビジネスに関心があったからですか。

松永「それもそうなのですが、私の地元が秋田でして、06年にTDKというチームが都市対抗野球で優勝しました。私が社会人になるまでに、8回都市対抗野球に出場しているのですが、全て1回戦負けでした。それなのに9回目の出場となる06年に1回戦を勝ったと思ったら、優勝しました。決勝戦の東京ドームにて自分の地元である『にかほ市』がコールされたのを見て、今まで感じたことのない興奮を覚えました。想像できなかったことが実現したことでスポーツの力を感じましたし、スポーツが新しい流れを作るだろうと思いました。そこでスポーツビジネスを学んでみようと、SMSに通い始めました。」

 

--それこそ、お住まいがある川崎にはフロンターレもあるわけですが…。フロンターレに、気持ちはなびかなかったのですか?

松永「ゼルビアの方がチャレンジのしがいがあって、手伝ったら面白いんじゃないかという下心がありました(笑)。」

 

--図らずもゼルビアは思ったような成長曲線を描いていますね。そういう意味では先見の明があったのですね。

松永「そう言っていただけて、恐縮です。そういうことにしておきましょう(笑)。」

 

--ボランティアはゼルビアでのそれが初めてのことですか。

松永「ゼルビアでのボランティアが初めてです。ボランティアについても、仕事目線で見ることが多かったですね。ボランティア活動が高じて、以前ご登場した石黒さん、今泉さん、今はクラブスタッフである野本さんと私の4人が中心となり、クラブライセンスを取るためにスタジアム改修に関する署名活動をして、議会に提出することもありました。その際にご協力いただいた市民の皆様、Jリーグサポーターの方々のご支援は大変ありがたかったです。」

--ちなみにボランティアを仕事目線で見るとは。

松永「私はシャトルバス関係のボランティア活動が多いのですが、例えば07年当初は野津田車庫からシャトルバスが20分間隔で出ていました。どのぐらいの人数が乗れば、採算を取れるのか。メンバーやクラブスタッフの方とも議論をしてきました。その中で出てきた鶴川発のシャトルバスが現在に繋がっていると思います。ある種、今のシャトルバスの原型かなと思います。ただ後悔はあります。例えば町田発のシャトルバスに、もっとこだわった方が良かったんじゃないかとか。」

 

--野津田車庫までの行き方を確保しなければならない状況も踏まえると、野津田車庫からシャトルバスを利用する方の情熱たるや、すごいですね。

松永「そうやってシャトルバスが浸透していきましたし、地元や町田市民の方々にゼルビアの名前が広く知れ渡っていく貴重な機会になったと思います。」

 

--現状もシャトルバス関連のボランティアスタッフをされているのですね。

松永「そうです。試合当日は鶴川駅まで出向き、ご利用いただく方々の列整理が中心です。ありがたいお話ですが、現状はクラブのサポート体制も充実していまして、昔に比べると、ある意味、負担や労力は大きくありません。」

 

--サポート体制の充実とは。

松永「町おこし関連の事業により、低料金でシャトルバスを出せる時期があったり、神奈川中央交通さんのご協力の下、鶴川駅からの便数を増やしていただいたり、これまでもさまざまなご協力がありました。ただ町おこし関連の事業もなくなって、シャトルバスを出せない時期もあり、その際には路線バスへの案内していました。サッカー観戦者と一般利用者を分けて列整理をすることが必要とされていたため、その際はなかなか大変でした。」

 

--集客が見込める試合も大変なのでは?

松永「10月初旬の磐田戦は大きな反省点が残っています。10数年やらせていただいている中で、あそこまで長い列ができたのは初めてでした。申し訳ないことをしたという想いしかないです。間に合う時間に来たはずなのに、到着予定時間よりもズレ込む事態もあったでしょうから。」

 

--大きな反省点が残った先日の磐田戦のようですが、その一方で喜ばしい話もあったとか。最終便のシャトルバスが出払った後、バス乗り場に到着した方を親身に誘導して、ご対応されたことに御礼のメール連絡があったようですね。

松永「観客動員数にも直結するので、無事にスタジアムに到着されて良かったです。」

--ボランティアを始めた頃と、今で違うことは?

松永「まずは拘束時間が違います。以前に比べて、集合時間が1時間遅くなり、解散の時間が1時間早くなりました。JFL昇格時やJリーグ参入当初は物販やチケットのもぎりなど、20数名のボランティアスタッフや株式会社イーグル建創の社員の方々がいないと回らないような時期もありましたが、今は決してそうではないと思います。コンプライアンスの観点からも、ボランティアには重労働をさせなくても済むような運営体制を整えていただいている段階まで、クラブは進化していると思います。」

 

--スタジアムという意味では、バックスタンドの完成が大きな変化です。現状の「天空の城 野津田」はどう映っていますか?

松永「もう夢見心地ですね。ゴール裏は芝生席から、椅子席に変わったことで感動し、それでもJリーグ基準には達していないことをリーグ側から通達され、スタジアム改修の署名活動もしてきました。仕事で海外出張の折には、イングランドのウェンブリーやニューヨークのヤンキー・スタジアムを見て、『こんなものが町田にできたら良いな』と空想していたわけです。ただ今は私の目からすると、野津田が同じレベルのスタジアムになっています。その一方で、『ここまで来たか』と親の手元から離れていったような感覚を覚えていますね。実はそろそろボランティアスタッフも引退し、バックスタンドで『野津田改修の署名活動もしたな』と言いながら、試合観戦する側に回ろうかなと密かに考えたりしています。」

 

--いえいえ。そういう機会は年に1回ぐらいあっても良いかもしれませんが、まだまだボランティアスタッフとして頑張っていただけますか。関東リーグの時代も知っている松永さんから見て、J2に定着しているクラブの状況をどう感じていますか?

松永「サイバーエージェントグループを筆頭に、行政を含めたさまざまな方々のご尽力もあり、J1を狙える環境を整えていただいたことに対しては、感謝してもし切れません。ただこう言っては誤解を招くかもしれませんが、以前は上だけを見ていれば良かったものが、ここまで到達すると、逆にクラブ、サポーターやゼルビアに関わっている人たちのコンセンサスを取ることが難しくなっているのかなと思います。自分の抱いている希望を口にすることが今後の10年、20年先、クラブにとって、良いことではないのかなという気もしています。自分の想いをぶつけるよりは、見守るスタンスでいたいと思います。」

--松永さん個人として、今後ゼルビアにはどう関わっていきたいですか?

松永「結局、ボランティアをしていくだけかなと思います。そもそもスポーツを見ることが好きですが、どこまでゼルビアにコミットしていくかは、自分のライフスタイルにも関わってくるので、ニュートラルな視点で見ています。できる限りのサポートをしたいので、ボランティアは続けていこうとは思います。ただ地元の秋田と試合がある日は、ボランティアを休んで観戦することをお許し下さい(笑)。」

--松永さんから見て、近年の町田の印象はいかがですか?

松永「何度も町田に行っていますが、町田で一通り揃っているため、横浜市に行った時と同じ感覚に似ていて、良い意味での地方都市であるなと思います。また都区内とは違った生活圏があると思います。例えば買い物1つをとっても、町田は町田だけで完結しますよね。他から見て、町田が文化圏のある都市として成立し、その中心にゼルビアがある、となればこれ以上のことはないですね。」

 

--松永さんにとってゼルビアとは?

松永「生活の一部と言いたいところですが、身近な傍観者のような感覚でいます。ボランティアという形でクラブを支えつつ、クラブの成長過程を見守る大きな実験対象、ロールモデルというか…。今のゼルビアはいろいろなことにトライしていますし、挑戦することについてはサポートしていきたいです。うまくいくかどうか。それは分からないですが、ゼルビアが成功すれば、他クラブのロールモデルになっていくと思っています。」

 

●編集後記・・・

FC町田ゼルビアボランティアのリーダーを務める松永さん。

試合運営も担当する私にとって、どんな時も冷静で客観的に物事を見て、的確なアドバイスをいただける、松永さんの存在はとても頼りにしております。

石黒さんと共にFC町田ゼルビアの試合運営を支える必要不可欠な存在。

 

そんな松永さんは、いつも鶴川駅のバス誘導を行っていただいており、ご来城者と一番最初に接点を持つという意味ではクラブの顔ともいえます。

 

今後クラブが成長を続けていく中で、『見守るスタンス』と言う松永さんのハートを、再び強く突き動かす瞬間がいつ訪れるのか・・・。

1人のクラブスタッフとして、その瞬間をそう遠くない未来に見たいと思いました

(MACHIDiary 編集長より)