家庭でできる停電対策・千葉県袖ケ浦市/エコロジア①(vol.130) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

2020年最初のレポートです。新年も、全国ご当地エネルギーリポートをどうぞよろしくお願いいたします!さて今回は、近年ますます重要になってきている災害とエネルギーを考える企画です。

 

2019年9月9日、台風15号の影響で電柱や鉄塔が倒壊、千葉県の房総半島では広い範囲で長期にわたって停電が続きました。しかし、千葉県袖ケ浦市にある林 彰一さんのお宅では、周囲が停電になっても電気を使うことができました。いま流行りの高額な蓄電池を持っているわけではありません。その理由は何だったのでしょうか?

 

千葉県袖ケ浦市の被災後の様子。多くの屋根が被害を受け、ブルーシートが貼られている(提供:林彰一)

 

また、林さんの会社であるエコロジアが所有する2基の太陽光発電所は、近隣住民に携帯電話の充電ステーションとして開放されました。千葉の大規模停電の際の林さんの経験を踏まえて、災害と自然エネルギーの活用法を2回に渡って考えます。

 

◆トピックス

・「停電の常識」が変わった

・太陽光パネルがあれば、停電対策も難しくない

・自宅を避難所にした林さん宅の設備は?

・特殊な設備がなくてもできること

 

◆「停電の常識」が変わった

 

従来、災害が起きて停止するインフラの中で、電気はもっとも早く回復するものとされてきました。実際、2018年に北海道全域でブラックアウトが起きた際も、停電は最長2日間で回復しています。

 

しかし2019年の台風15号による東京電力管内の停電では、その常識が覆されました(※)。倒れた樹木が電柱や電線にのしかかり、停電だけではなく広い範囲で交通障害が起きたことにより、送配電会社だけでは対応できなくなったのです。それにより、台風15号では房総半島を中心に、2週間以上も停電が長引く地域もありました。

 

台風の影響で倒れたままの竹林(2019年12月撮影)

 

気候変動の影響で台風が大型化するいま、同様の事態が起こる可能性も高まっています。そんな中、家庭や地域に普及している太陽光発電を非常時にどう活用するかが見直されています。

 

千葉県袖ケ浦市で大規模停電に遭遇した林さんは、周囲の人々が停電によって困っていたことを列挙しました。

 

「もっとも大きかったニーズは、家族と連絡をとるためのスマートフォンの充電です。またスマートフォンやテレビが使えないと、災害の状況など情報を取得できなくなります。さらに、冷蔵庫が止まって食材がダメになることで皆さん困っていました。夜間の照明がないとか、熱帯夜なのにエアコンが使えなくて眠れなかったという人もいましたね」。

 

※2018年の台風21号、24号でも、中部電力関内で倒木や断線が相次ぎ、停電が1週間前後続いた

 

◆太陽光パネルがあれば、停電対策も難しくない

 

実はこのあたりのニーズは、屋根に太陽光発電がついていれば、蓄電池がなくてもある程度解消することが可能です。以前の記事でも紹介した停電時用の自立運転モードに切り替えれば、朝から夕方にかけて発電している時間帯に限って、最大1500ワット時まで使用できます。自立運転モードについては、ぼくも自宅で実験してみたので、こちらのブログを参考に、一度練習してみてください。

 

林さん宅では、配電盤の左側に自立運転用のコンセントがついている

 

自立運転モードを使えば、携帯電話やノートパソコンの充電などはまったく問題ありません。テレビも映すことは可能ですが、漫然とつけっぱなしにすると消費電力もかかるので、優先順位を考慮すると長時間の仕様は避けたいところです。情報を入手するためであれば、乾電池式のラジオを用意しておくことをお勧めします。充電式の乾電池にしておけば、電池が切れても太陽光の電気を使ってまた充電できます。状況に応じて、ラジオとテレビ、スマホ、パソコンなどを使い分け、適切に情報を入手するのがよいでしょう。

 

冷蔵庫については、最近では消費電力が100ワット時以下の省エネ型が増えているので、自立運転モードの電気でも動かすことが可能です。夜間は電気が使用できないので、昼間につくった氷で庫内を冷やし、その間は開け閉めを極力避ける工夫をすることで、食材が傷みにくくなります。なお、非常用コンセントから冷蔵庫まで距離のある場合が多いので、あらかじめ必要な長さの延長コードを用意しておくと便利です。

 

夜間の照明については、これも電池式のLEDランタンなどを複数台用意しておけば解決します。その中に、太陽光で充電できるタイプの製品を1つ入れておけば、電池がなくなっても安心です。

 

扇風機は問題ありませんが、エアコンについては、自立運転モードだけで電力をまかなうのは簡単ではありません。台風から2日間は熱帯夜が続いたので、多くの人は暑さで大変な思いをすることになりました。

 

通常通りにたくさんの家電が使用できた林さん宅のリビング

 

ところが、林さんのお宅では、1階のリビング/ダイニングに限ってはエアコンをはじめ、ほとんどの家電を普段どおりに使用することができました。近隣の友人を招き、仮の避難所として活用していたとのこと。なぜそんなことができたのでしょうか?

 

◆自宅を避難所にした林さん宅の設備は?

 

事業用の太陽光発電所を運営する林さんは、自宅にも自然エネルギーを活かすさまざまな設備を持っていました。まず、屋根には5.3キロワットの太陽光パネルが載っています。これは、一般家庭と同様に送配電線とつながっているので、普段は昼間に自家消費をしながら、余った電力を売電しています。また、非常時には自立運転モードで昼に電気を使えるのも同様です。

 

林さん宅の外観。屋根に載っているパネル以外に、1階に特設架台を築き、独立した太陽光パネルを設置している

 

さらに、一階の特設架台に1.2キロワットの太陽光パネルを載せています。こちらは系統につなげていない独立した電源で、物置にあるリサイクル品を再生した鉛蓄電池に充電しています。普段はそこに貯めた電気を、PHV(プラグインハイブリッド車)のプリウスのバッテリーへ給電しています。また蓄電池に貯めた電気は、電動芝刈り機や、耕運機といった農業機具のバッテリーにも利用されています。ちなみに、PHVはガソリンと電気の両方で動く車で、EV(電気自動車)と同様にコンセントから充電することが可能です。

 

12本の再生鉛蓄電池は、ゴルフ場のカートに使われていたバッテリーを再生して、林さんが会員になっている太陽光発電ネットワーク(PV-Net)を通じて入手したものです。充電効率や安定度などを実測するなど、どれくらい使えるのか実験する目的で導入していました。

 

林彰一さんと倉庫に設置されている再生鉛蓄電池

 

◆特殊な設備がなくてもできること

 

林さんは停電が起こると、この再生鉛蓄電池を最大出力2kWのインバーター(直流を交流に変換する機械)につなぎ、貯めてあった電気を長いドラム式延長コードを使って1階のリビングに送りました。このコンセントを通じて、冷蔵庫や炊飯器、電子レンジ、エアコンなどさまざまな家電を利用することができました。

 

ちなみに、エアコンには100V(ボルト)式のものと200V式のものがあります。林さん宅のエアコンはたまたま100Vだったので問題なく使えましたが、200V式だとそのままでは使えないので注意してください。

 

災害時にはドラムロール式の延長コードが役立つ

 

翌朝には停電が長引きそうだったので、蓄電池に電気を充電しておくため、太陽が出ている間は屋根にある一般的な太陽光パネルの電気を自立運転モードで使いました。そして夜はまた蓄電池の電気に切り替える、という作業を繰り返しました。

 

すでにおわかりのように、林さん宅の設備はかなり特殊です。このような2段構えの対策は一般家庭ではできません。市販されている家庭用蓄電池システムを使えば同様の対策をとることはできますが、大容量の家庭用蓄電池は150万円から200万円もするなどコストが高く、個人で仕入れるメリットはあまりありません。

 

ぼくが備えておくと役に立つと考えているものは、5万円程度のポータブルサイズの蓄電池です。携帯電話やパソコンの充電、扇風機などは問題なく動かせますし、機種によっては冷蔵庫を数時間動かすことも可能です。

 

災害のときにどこまで電気が必要かについては、家庭の状況や考え方によっても変わリます。しっかりシミュレーションをして、それに見合ったコストのかけ方をすることが大切です。

 

ちなみに命に危険が及ぶような暑さや寒さに陥った場合は、自宅でがまんすることは避け、避難所に早めに移動するのが最善です。自宅で倒れると発見や処置が遅れるおそれがあリます。残念ながら、避難所も決して快適とは言えませんが、いざというときの早期対処にはつながります。

 

太陽光で充電できる電動小型耕運機。農業も自然エネルギーで手がける時代に

 

なお林さんは、近所の人が携帯電話の電池切れで困っていたので、自宅の玄関先で充電できるようにしました。当初は家に上がって充電してもらっていましたが、他人の家に上がることに遠慮や抵抗がある人が多かったためとのことでした。

 

今回は、千葉の台風と林さんの体験を参考に、一般家庭にはどんな事ができるかについて紹介しました。台風被害を経験した林さんはいま、地域での太陽光発電を活用した停電対策について検討しています。そのお話は次回じっくりお伝えします。

 

続編はこちら!太陽光パネルを町の非常用電源スポットに

 

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