判例時報2320号で紹介された事例です(東京高裁平成27年9月11日決定)。

 

 

裁判は公開が原則とされており(憲法82条1項),この観点から,民事訴訟の記録については原則公開とされています(民訴法91条1項)。そのため,裁判所の記録閲覧室には当事者のほか,報道の関係者など閲覧を求める人で結構ごった返しています。

 

 

ただ,民事訴訟記録については閲覧謄写の制限という制度がき呈されています(民訴法92条)。

 

 

(訴訟記録の閲覧等)
民事訴訟法第91条  何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。
 
(秘密保護のための閲覧等の制限)
第92条  次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。
 前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。

 

閲覧等の制限を申し立てられる理由としては,大きく,私生活上の重大な秘密(プライバシー)に関するものと事業者の営業上の秘密の2つに分けられますが,本件は,離婚事件において,前者が問題となった事案です。

本件は,在京キー局の名物プロデューサーが原告として離婚等を求めたという事案で,訴訟記録が閲覧謄写されると世間の好奇の目にさらされるなど社会生活を営むのに重大な支障を生じる,記録中のメールの内容についてはこれが子どもに取れることになるとその関係性に重大な影響を及ぼすといった理由で,記録の閲覧等の制限を求めたというものです。

 

 

なるほど,認めてあげてもいいんじゃないかなという気もしますが,裁判所は一審(家裁),抗告審(高裁)ともに閲覧等の制限は認めないという決定をしました。

 

その理由の一つとしては,本件がすでに週刊誌やインターネットなどで取り上げられ,第三者がすでに記録を閲覧してしまっているという状況を踏まえるのは相当と手しています(既に公開されてしまっている記録をいまさら制限することは妥当でないということだと思います)。

 

 

 

本件は当事者がすでに提出してしまった記録の閲覧等の制限を後になって申し立てたようですが,閲覧等の制限の申し立てについては,自分の側が記録を提出する場合には,提出と同時に申立を行う,相手方が提出する記録については提出されてみないと閲覧等の制限の必要性が分からないので,期日の直近に出されたのであれば提出を留保させる,又は,とりあえず申立だけしておき,どの部分に制限を欠けるかについては追って申し立てるなどの工夫が必要となります。