2012年に鑑賞した映画は204本でした。
今年(神戸で)公開された作品の中からベスト40を、旧作作品の中からベスト60、更にショートフィルム作品からベスト5、計105本のランキングを発表します。


2012年公開映画マイベスト40きらきら


1位:  『別離』 (イラン)
構成は重厚で淀みがない。緊迫した濃密な時間に思考を晒し、漲る緊張感に身を窶す。イスラム国家の面影と現代イランの実情に、傍観ではない同行を。家族観と自己防衛、譲歩と自責、秘密と嘘。本作が我々に対峙させるのは善悪の判決などではない。価値観についての真摯な思考である。

2位:  『サラの鍵』 (フランス)
納戸の扉を開けた瞬間から少女は、悲鳴と引き換えに自身の心の扉に鍵を掛けた。固く、固く。偶然が引き寄せた運命の出会いに今、閉ざされた歴史が開かれる。決してサラを忘れぬように。名前が歴史を語り継ぐ。伝える事の意義を問う。全てを暖かく包み込む、幸福なラストに心、ときめく。

3位:  『おじいさんと草原の小学校』 (イギリス)
生きることは、学ぶということ。彼は言う。私はまだ死んでいないと。足をひきずり杖を頼りに前へ前へと歩くことを決して止めなかったマルゲ。その姿は、現在の世界が抱える様々なつまづきに、湧き上がる勇気を与えてくれる。信念を貫く、強く諦めない精神がきらりと。

4位:  『アーティスト』 (イギリス)
スタンダード・サイズなモノクロのスクリーンにサイレントな魔法が蘇り、美しの世界が情感たっぷりにめくるめく。音のない世界には麗しのロマンティシズム、色のない像にはアーティスティックな彩色が鮮やかに宿って。時代が移れど変わることのない、映画のざわめきが聞こえてくる。

5位:  『ヒミズ』 (日本)
日見ずなモグラは泥にまみれてアガいて壊れてそれでも光を希求する。剥き出しの魂にはレクイエムの旋律。止まない殴打は生きていく痛み。キミは病気なんだと言ってくれる優しさこそ愛。誰かが見ている独りじゃない。オマケの人生、たえだえに生きろ。慟哭の青春グラフィティ、完璧な1本!

6位:  『ルルドの泉で』 (オーストリア・フランス・ドイツ)
聖霊地を巡るルルドの旅、彼女にだけ舞い降りた奇跡のこと。信仰心より大切な何かが在るのかもしれないという気付き。粒子の重力を感じるような荘厳な空気の流れに浸り、静かに彼らに同行しながら、奇跡と享受のふわりとした関係性に思考を巡らす魂の旅。秀逸な冒頭が叡智の極み。

7位:  『明りを灯す人』 (キルギス・仏・独・伊・蘭)

風が強く吹いている。その風が彼らの歩み出す未来への希望の追い風となるように。それでも心を灯す明りだけは、決して吹き消えぬようにと。この作品が世界に公開されることで、民主化への道をゆっくり正しく歩み始めるキルギスの、未来を灯す小さなきっかけとなることを祈って。

8位:  『KOTOKO』 (日本)
肉体と精神にひりひりと切迫する、生きることへの猛進と後退、その拮抗。2重の世界に爪先立ち、現実と虚構の臨界点で生きろと言ったのは誰だったのか。coccoの存在感に魅了された塚本監督が彼女と2人、映画という映像言語で精神崩壊の境地に炙り出した脆さを表現する意欲作。


9位:  『無言歌』 (香港・フランス・ベルギー)
不毛の大地のその先の、色褪せた地平線から空へと続く紺碧のグラデーション。轟々と吹きすさぶ風の唸りが巻き上げる無常の土埃に紛れ、命の灯火を掲げた男たちの声なき歌が零れ落ちる。無言のカメラが問いかけるのは息も絶え絶えの自尊心。知る事のない史実を知り得た『無言歌』に敬意を。

10位:  『灼熱の魂』 (カナダ・フランス)
謎めいた遺書と2通の手紙に導かれ、非情な運命に焼き尽くされた母の想いを辿る旅。いたぶられし魂が真実により浄化され昇天する迄を、圧巻の筆致で壮絶に綴りゆく。世間に背を向けうつぶせに埋葬された墓石に今、やっと刻まれし墓碑銘は彼女が確かに生きた証。共にあれとの魂の遺言。

11位:  『さあ帰ろう、ペダルをこいで』(ブルガリア・独・ハンガリー・スロベニア・セルビア)

タンデム旅行のふたり乗り、ボードの上にサイコロふたつ。記憶を取り戻すために国境を超える自転車のロードムービーは、過去と現在を繋ぐ優しい風が吹いている。最後に振られた奇跡の賽の目は、抗えない運命の結末を少しだけ巻き戻し、幸福な人生を想い出の額縁へと仕舞う。


12位: 『ル・アーヴルの靴磨き』(フィンランド・フランス・ドイツ)
心地よく乾いたカウリスマキ的空気感はそのままに。善意の手と手が幸福を橋渡してゆく様を淡く優しく描きながら。まさかのドラマチックな展開は、抑制された演出が故の安定感ある感動を、そっと足元に置いていく。老人ばかりの画なのに此処には、明色の喜びが満ちている。


13位:  『CUT』 (日本)
映画の為に死ねるという事は、映画の為に生きるという事。それほどまでの映画愛。 映写された銀幕の像が秀二の体に纏いつく。黒い傷の上を戯れるかの如く流れる白黒の影達。それは映画と人との蜜な時間。無音で流れるエンディグロールの時間は、各々に思い浮かべる100本の映画のこと。

14位:  『少年と自転車』(ベルギー・フランス・イタリア)
徹底して少年の視線の先に物語を牽引するのは、ダルデンヌ兄弟ならではの拘りの手法。ラストで並走する自転車の距離感と緩やかなその速度に、親子以上に結ばれた彼らの絆と続いていく人生への希望を感じる爽やかな幕引きが好印象。乗り換えた自転車は少年の成長の証左でもあり。

15位: 『テザ 慟哭の大地』(エチオピア)   
出かける前に消えた朝露(teza)は、尚もまた明け方の葉裏に凛として宿り、1日の歴史を刻んで今日を生む。激動の波に揺れた幼少期(teza)の幻影は、革命という夢に敗れた喪失の先。それでも見出す希望の種を慟哭の大地に撒いたなら。エチオピアの未来を今咲かせんと。

16位: 『ルート・アイリッシュ』 (英・仏・ベルギー・伊・西)


17位: 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(アメリカ)


18位: 『しあわせのパン』 (日本)

19位: 『メランコリア』 (デンマーク)


20位: 『神さまがくれた娘』(インド)


21位: 『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(カナダ)


22位: 『私が生きる肌』(スペイン)


23位: 『ヘルプ~心をつなぐストーリー~』(アメリカ)


24位: 『ヒューゴの不思議な発明』(アメリカ)


25位: 『父の初七日』 (中国)


26位: 『RIVER』 (日本)


27位: 『汽車はふたたび故郷へ』 (フランス・グルジア)


28位: 『人生はビギナーズ』 (アメリカ)


29位: 『星の旅人たち』 (アメリカ・スペイン)


30位: 『3.11:ここに生きる-In the Moment-』 (日本)


31位: 『ミッドナイト・イン・パリ』 (アメリカ)


32位: 『レンタネコ』 (日本)


33位: 『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(ドイツ)


34位: 『ポテチ』 (日本)


35位: 『生きてるものはいないのか』 (日本)


36位: 『セイジ陸の魚』 (日本)


37位: 『善き人』 (イギリス)


38位: 『最高の人生をあなたと』 (フランス・ベルギー・イギリス)


39位: 『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』 (ドイツ・フランス・イギリス)


40位: 『フリューゲルの動く絵』 (ポーランド・スウェーデン)

【勝手に部門賞】
監督賞:アスガー・ファルハディ(『別離』)
監督賞:ワン・ビン(『無言歌』)
脚本賞:『KOTOKO』、『灼熱の魂』
脚色賞:『サラの鍵』 、『おじいさんと草原の小学校』
撮影賞:『ルルドの泉で』、『フリューゲルの動く絵』
録音賞:『KOTOKO』
編集賞:『ヒミズ』
美術賞:『アーティスト』
音楽賞:『KOTOKO』 
音響賞:『アーティスト』
視覚効果賞:『メランコリア』、『私が生きる肌』
主演女優賞:cocco(『KOTOKO』) 
主演男優賞:オリバー・リトンド(『おじいさんと草原の小学校』 )
子役賞:トーマス・ホーン(『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』)

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きらきら2012年旧作映画マイベスト60きらきら
DVD、Blu-ray、BSなどで鑑賞した旧作シネマからの選出。

1位:   『いのちの子ども』 2010年/イスラエル・アメリカ
個人的な独白を交えたナレーションの語り口を以って、報道では見ることのない“人と人との想い合い”を間近に見る距離へとダイナミックに牽引する。やがてきたる対立と和解を経て、ついに“解り合える答え”を得る事になる最後の幸福な瞬間までを。何と素晴らしいドキュメンタリ!

2位:  『春にして君を想う』 1991年/アイスランド・ドイツ・ノルウェー
天使が肩に手を触れたなら、きっともう大丈夫。かの映画への素敵なオマージュに心憂いて。生まれた場所の土の中へ還りつく。それが本当の帰郷なのかもしれない。自然の子として生を受け、自然の子として還ってゆく。生きている間の人生なんて、気まぐれな魂の寄り道に過ぎずに。

3位:  『明日、君がいない』 2006年/オーストラリア
午後2時37分の友人の自殺。その日の朝からを振り返る僅か数時間を、恐ろしく巧妙なカメラと重みのある力強い筆致で描いた異質の学園ドラマ。新人とは思えぬ映画技巧に思わず溜め息。ひとりひとりの“背後”を“視線”から見つめ直すための時間軸の重なりの、その巧さと言ったら!

4位:  『ナイロビの蜂』 2005年/イギリス
アフリカに殺人はない。“痛ましい死”があるばかり。経済的利権の為にアフリカを食いものにする大国にとって、彼らの命はあまりに安いから。そのあまりの軽んじように身悶える。実話ではないが現実の問題提起を壮大なドラマ展開に絡めつつ、かの地への関心を深く導く巧妙な1本。

5位:  『終わりなき叫び』 2010年/チャド・フランス・ベルギー
内戦激化するアフリカ・チャド。情勢不安を伝える巧妙な演出の声なき叫びの説得力!仏国でジャーナリズムを学んだ経験のある監督ならではの卓越した審美眼が静と動の比重に流麗に表現され、乾いた大地と煌く2つの水面に父子の繋がりを昇華させ。詩的な映像が重力ある余韻を齎す。


6位:  『それでも生きる子供たちへ』 2005年/イタリア・フランス

7位:  『朱花の月』 2011年/日本

8位:  『あの娘と自転車に乗って』 1998年/キルギス・フランス
夢見心地なセピア色の想い出に時々差し込む鮮烈なカラーの断片。鳥の鳴き声とポプラの葉摺れに包まれた、素朴な村の日常が紡ぐ多感期な少年の成長物語。旧ソ連から独立したキルギスで初めて撮られた貴重な長編映画。監督の自伝的作品でもあり実の息子が主役を演じている。

9位:  『人生、ここにあり!』 2008年/イタリア
幾何学模様のモザイク寄り木に織り込まれるのは、無限の可能性を秘めた彼らの自由な精神とその解放。ソサイエティへの一考を、軽妙なドラマ展開で突き詰める爽快な1本。生きる意欲と自己表現力に障害の有無は関与しない。彼らの人生ならば、この社会にこそあるのだから。

10位:  『ワンヴォイス~ハワイの心を歌にのせて~』 2009年/米
かつて言語と文化を剥奪された時代があった。そして今、子供達はルーツへの尊厳を。ハワイ語は1語1語に美しい意味を持つ。ハワイの心を歌に。それを見守る不遇な時代を生きた親世代の感慨。HAWAIIでなくHAWAI'I オキナを忘れるなと。

11位:  『旅立ちの汽笛』 2001年/キルギス・フランス・日本

12位:  『小さな赤い花』 2006年/中国・イタリア

13位:  『スリーピング・ビューティー』 2011年/オーストラリア
14位:  『ニューイヤーズ・イブ』 2011/アメリカ
15位:  『さすらう者たちの地』 2000年/フランス
16位:  『ウィンターズ・ボーン』 2010年/アメリカ
17位:  『リメンバー・ミー』 2010年/アメリカ
18位:  『Lilly』 2010年/アメリカ
19位:  『幸せパズル』 2009年/アルゼンチン・フランス
20位:  『パレルモシューティング』 2008年/ドイツ・フランス・イタリア
21位:  『マジック&ロス』 2010年/韓国・日本・マレーシア・香港・中国・仏
22位:  『クレアモントホテル』 2005年/アメリカ・イギリス

23位:  『ブレノスアイレスの夜』 2001年/アルゼンチン・スペイン
24位:  『マルティナの住む街』 2011年/スペイン
25位:  『いつか晴れた日に』 1995年/アメリカ
26位:  『東京公園』 2011年/日本
27位:  『FLOWERS』 2010年/日本
28位:  『家族X』 2010年/日本
29位:  『キツツキと雨』2011年/日本
30位:  『ピュ~ぴる』2011年/日本
31位:  『人生に乾杯!』2007年/ハンガリー
32位:  『トースト~幸せになるレシピ~』2010年/イギリス
33位:  『サンザシの樹の下で』 2010年/中国
34位:  『ハッピーゴーラッキー』 2008年/イギリス
35位:  『キナタイマニラ・アンダーグラウンド』 2009年/フィリピン・仏
36位:  『恋愛社会学のススメ』 2009年/ドイツ
37位:  『ディス・イズ・ボサノヴァ』 2005年/ブラジル
38位:  『マーガレットと素敵な何か』 2010年/フランス・ベルギー
39位:  『サルトルとボーヴォワール哲学と愛』2006年/フランス
40位:  『人生万歳!』2009年/アメリカ
41位:  『砂時計』 2008年/日本
42位:  『エターナルサンシャイン』
43位:  『ぐるりのこと』 2008年/日本
44位:  『海洋天堂』 2010年/中国
45位:  『森崎書店の日々』 2010年/日本
46位:  『引き裂かれた女』2007年/フランス
47位:  『宇宙飛行士の医者』2008年/ロシア
48位:  『銃と女と荒野の麺屋』2009年/中国
49位:  『ラッシュライフ』2009年/日本
50位:  『僕たちのバイシクルロード』2010年/イギリス
51位:  『アトムの足音が聞こえる ~THE ECHO OF ASTRO BOY'S FOOTSTEPS』 2010年/日本
52位:  『ハウスメイド』2010年/韓国
53位:  『ゲルマニウムの夜』 2005年/日本
54位:  『恋の罪』2011年/日本
55位:  『カンパーニー・メン』2010年/アメリカ
56位:  『コクリコ坂から』2011年/日本
57位:  『私のちいさなピアニスト』2006年/韓国
58位:  『アリス・クリードの失踪』2009年/イギリス
59位:  『パーフェクト・センス』2011年/イギリス
60位:  『ベジャール、そしてバレエはつづく』2009年/スペイン


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きらきらショートフィルム ベスト5きらきら

1位:  『冷たい血』 (カナダケベック州)
2位:  『クロスワード』アイルランド)
3位:  『phonograms』(日本)
4位:  『ヘルムートの誕生日』 (スイス・ドイツ)
5位:  『グレゴールの不思議な発明』(ドイツ)


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以上、2012年マイベスト105本のランキングでした☆


今年は私にとって人生初の妊娠&出産yearだったので、昨年の鑑賞数306本と比べると100本以上も減ってしまい、とりわけ今年の下半期以降はシネマレビューが全く!書けずじまいでした><。

乳幼児を抱えているため今後しばらくは映画館へ足を運ぶこともままならないとは思いますが、私の中のシネマ愛が変わることはありません。


2013年もできる限り素敵なシネマと出会っていきたいと思う所存です。


来年もよろしくおねがいします☆


2012年12月末  byきらり+