クリスタル・ボールやキムアイヴァーソンの後にThe Hillのメイン・キャスターとなったブリアナ・ジョイ・グレイが、MMT創始者のひとりビル・ミッチェル教授にインタビューしている。
(*ツイッターXから飛んできた人はごめんね。ミッチェルは日本のリベラル左派の嫌いなMMT派です。でもミッチェルはマルクスをMMTの源流の一つとしています)

私は、大メディアのなかでThe Hillを最も信頼できると考えている。キャスターの質が凄まじく高いことがその理由だ。
前任者のボールやアイヴァ―センも広範な知識を有する人材だったが、今回のグレイもハンパなく頭が良い。

日本のTVキャスターは、カメラの前で原稿を読み上げるだけの操り人形だが、本物は違う。


インタビューは、このミッチェルの著書に関する話題が中心となる。

▼Reclaiming the State: A Progressive Vision of Sovereignty for a Post-Neoliberal World ( October 15, 2017)
https://www.amazon.com/Reclaiming-State-Progressive-Sovereignty-Post-Neoliberal/dp/0745337325

インタビュー内容は、ド左翼のビル・ミッチェル教授の現代政経史といった感じだ。
「なぜリベラルはネオリベラルの侵略を許したのか?」がメイントピックとなっていて、トマ・ピケティの「商売右翼/バラモン左翼」のストーリーに近い印象だ。
日本では似たロジックを松尾匡・立命館大教授が発している。


https://x.gd/RDvUw
松尾教授のこの本は必読と言えるくらいお勧め

・・・・・・・

企業はいかにアメリカを堕落させたか
▼How Corporatists Corrupted America w/ the Left's Complicity (w/ Bill Mitchell)

https://www.youtube.com/watch?v=Z_9NMXH7eDs
(以下、1時間40分にわたる動画を超抄訳する)

70年台に金融資本主義が肥大化し、左翼的な「大きな政府」の物語は終わり、右翼のメディア支配と相まってインフレに対抗するためとした黒字財政の標準化が推し進められた。右翼は政府を資本の代理人に変え、民営化など小さな政府主義を推し進めた

当時、左翼はアイデンティティ問題に気を取られていたため対抗できなかった。勿論これらも重要だが、階級闘争の政治(Class politics)を忘れアイデンティティ政治(identity politics:フェミニズムや人種論など)に移行したのだ。

そしてフリードマンとマネタリズムが現れたとき、左翼には対抗する手段や知識がなくなっていた。

第二次世界大戦以降、資本側は、共産主義化する労働者側に何かを与えなければ経済や政治が不安定化すると知っていた。そしてメディアを通じて与えたのがアイデンティティ政治だった。

その後フィリップス曲線に代表されるように、失業率の高い時はインフレにならず、失業率が低い時には過剰支出がインフレになるとしてインフレ問題が定義された。しかし70年台の高インフレの原因は、需要要因ではなく原油高に由来するコストショックだった。

この時ケインジアン達は何が起こっているのかうまく定義できなかったが、マルキシストたちはよくわかっていた。
オイルショックが世界に示したのは、石油を買うために国家所得の、そして賃金のいくらを犠牲にするかという、分配の闘争だったのだ。

当時労働組合はまだ強力だったため資本側に賃上げを要求し実現した。これがまたインフレを引き起こしたが、ケインジアンはこの力学を理解できていなかった。

フリードマンは「ケインジアンは支出するしか能がない」としてそのミスを左翼に対する批判材料に使った。
資本側は利益を確保するため、「共産主義者の労働組合が経済成長を阻害している」とプロパガンダを流した
その結果、労働組合の権力を縮小させることに成功した。

戦後あらたに「中産階級」が誕生し、ローンやクレジットカードが拡がったことで大量消費の時代が到来した。
物質的に裕福になった中産階級は、ローンの返済に追われたこともあり60年台には労働闘争に興味がなくなっていったが、それこそが資本側の戦略でもあった。

歴史的に、左翼はコスモポリタニズムなど国際的視点を重視してきた。例えば過去にはインターナショナルな労働者の団結を目指した。
EUも左翼が欲してきたものだが、これこそが法的枠組みに新自由主義を取り入れた先進的形態といえる。

彼らは国民国家が軍事的紛争や人種差別、ファシズム[eg.ナチス]を生み出すと信じた。
しかし通貨は国家的(デモス)なもので国際的に拡張することはできない。気候変動への対処などは国境を超えることはできるが、人々はお互いの世話をするために働きたいと考えるためグローバル化はできないのだ。

現在、EUは20カ国で共通通貨ユーロが使えるが、金融危機の時にドイツやフランスなどの富裕国はポルトガルやスペインなどの国に財政移動(支援)するのを嫌がった。そこに[当初目指していたものとは逆説的に]人種的な嫌悪も重なった。

イタリアやギリシャ、フランスなどそれぞれのEUの国々の人には強烈な、国固有の文化がありデモスが存在する。EUの枠組みはデモスを破壊したのだ。

もし世界通貨を持ちたいのなら、世界統一政府を作り、統一された中央銀行を作らなければならない。
しかしそこで誰が組織の決定を下すのだろうか?アメリカ人ではない誰かだとしたら?[*インタビュアーのグレイはアメリカ人]

資本主義は国境を越えた搾取のシステムであるため、第三世界に利益をもたらす分かち合いなどしないことは明白だ。

【グレイの質問】新自由主義に対抗するため、ナショナリズムではない主権国家観(sovereignty)を強調することは左翼に受け入れられるべきで、それはMMTの労働者階級を保護する等とした主張とも合致する。

気候変動などの問題は、私的利益を優先するシステムでは解決できない。リソースをどのように割り当てるかが重要だ。
戦後、人々は政府を資本の代理人にさせてしまったが、左翼はその問題に焦点を当てるべきであり、そのためには政府を再びコントロールしなければならない。
気候変動への対応とともに生産と所有のシステムも進化させる必要がある。

【グレイの質問】左翼側から見ると、右派は純粋なポピュリストとしての感情やアメリカ第一主義、または反グローバリズムの感情を抱いているようにも見えるが、それらは主流のリベラル・メディアからは正当なものではなく極端なナショナリズム(Jingoism)や排外主義(xebophobia)、またはレイシズムと見なされる。
左翼は、バーニー・サンダースやジェレミー・コービンが推進した左派ポピュリズムを肯定しことで人々を右翼側に導くことになるのではないか。


メディアのバイアスは右側に寄っている。しかし誰もが2019年のイギリスの総選挙ではコービンが潰されると思っていたが、躍進した。それは多くの若者がコービンの労働党に投票したからだ。
ルパート・マードック[*FOXやTIMES、WSJ、The Sun、NY Post、Sky TVのオーナー]のタブロイド紙はコービンを全力で批判したが、実際の選挙ではあまり影響を与えなかった。

若者が進歩主義を支持したのはソーシャル・メディアのおかげだ。若者は毎朝マードックから新聞を買うことはない。
これは私と左翼にとって楽観的に思えることだ。

しかしイーロン・マスクやザッカーバーグがTwitterやFacebookを乗っ取っていったように、この新しいメディアが再び右翼の手先になりつつある

問題は左翼の資金が圧倒的に不足しているということと、左翼の構造が複雑だということだ。
右翼は単純で、利益のために権力を維持したいという力学で成り立つ。
右翼は的を絞ったメッセージに資金を提供できる一方で、左翼は無数の哲学的な闘いやアイデンティティの戦いに巻き込まれてしまう
これはとても重要なポイントだ。

右翼は資金集めのため企業の力を利用しているが、左翼は土曜の朝のスポーツイベントでケーキ屋を出店して資金を集める。
コーク兄弟[*石油/金融系コングロマリット、右翼・リバタリアン]は数十億ドルを寄付し、権力エリートを代表する。ケーキ屋はあなたと私のような市民を代表するのだ。

問題は、この企業の資金が英労働党や米民主党にも流れ込み、その資金に依存していることによって危機にさらされていることだ。

【グレイの質問】では、国家を取り戻すにはどうすればいいのでしょう。あなたは本の1章の最後で、「反動的なナショナリズムと進歩的なグローバリズムに二分されている」と書いた。そして「どちらも問題があるが、急進的右翼と新自由主義者双方に根本的な代替案を提供する国家主権観に基ずく進歩的開放的ビジョンがある。経済の民主主義的管理、完全雇用、社会正義、富裕層から貧困層への再分配、生産様式の社会生態学的変革が可能だ」とある。いったいどうやったら可能なのですか?(笑) 例えば現在は大統領選の真っ最中だが…。

これは今すぐに可能だという話ではない。私は左翼の学者としての役割を果たし、現在起きていることを知ってもらう必要があると考えている。
新自由主義者の計画は一夜にして現れたものではない。現在の形に進化するまでに30年、40年もかかった。
社会をある種の集合的存在と認識するビジョンから、ただの個人の集まりとして見るのに何年もかかった。

進歩的なビジョンが必要とするのは再教育だ
私の役割はその一端を成しており、MMTの教育を介して知識やビジョンを与えることだ。
「政府が支出しても税金はかからない」という考えを教える必要がある。
おカネがなくなるわけでも、政府がなくなるわけでもない。
政府にはあなたを助ける能力があり、そしてそれはこの話のほんの一部だ。

通常、教育が社会を変えるには一世代かかる。
私達は今、その丘を登りつつある。


【グレイの質問】私はバーニー・サンダースの大統領選[*おそらく2020年]の選挙スタッフとして働いていた。その最中に私達はどれほどMMTに賛成するのかを話し合っていた。私はMMTが国民を納得させるには壮大過ぎて、私達がクレイジーで極端な社会主義者(Loony Socialist)と捉えられるのではないかと危惧していた。莫大な税金をかける必要はないですが、私がMSNBC[*中道・ネオリベ系メディア]に出演するたびに叩かれるので、現実的な課税方針、支払い方法を教えてほしいと思う。とくにインフレが亢進するなかではこの議論は重要だ。

アメリカでは現政権が民主党だが、なぜその権力を行使しないのかということだ。
つまり政権の座にいる時こそ教育を始めなければならないのに、それができていない。
そればかりか主流経済学のナラティブに固執してしまい、議論の土壌を整えなかった。

社会民主党でも労働党でも社会主義でも良いが、彼らは資本に取り込まれてしまっていて、それこそが問題だ[*「資本に取り込まれる(co-opted by capital)」はマルクス主義者的な表現]
この問題を解決するためには草の根運動に戻る必要がある。草の根レベルで政治プロセスをコントロールしなければならない。

過去、我々が福祉国家を形成し、労働組合を組織したのは、当時、労働者の社会状況が耐えがたいほどに悪化したからだ。
現在、我々は同じ状況に向かっている。経済状況は不安定で、気候変動問題もある。生活水準が低下し、中産階級が再び追いやられるつつあることを国民が認識する地点に向かっている。

我々は反撃しなければならない。
そして反撃のための唯一の手段はローカルな組織を通じてとなる。


【グレイの質問】人々が共和党・民主党の政治に失望し、反グローバリズムの機運が生まれ、MAGAがどこからともなく現れたが、左翼バージョンもあると思う。あなたがそのリーダーだったらどんなメッセージを発するでしょう。

私はインターナショナリストであると同時にローカリストだ。地球の一部であると感じている。
まずIMFと世界銀行を廃止して新しい多国間機関の設立を提唱するだろう。
物質的に豊かな国の富みが物質的に貧しい国にも行きわたるようにしたい。

気候変動の解決などでは私はインターナショナリストだが、ローカリストとしては、例えば次のようになる。
オーストラリアではCovidパンデミックの初期に防疫・医療機器が手に入らない事態に陥った。国内で製造しておらず中国製に頼らざるをえなかったが、当地の工場も閉鎖され船舶輸送も停止されていた。

グローバル・サプライチェーンの構築は、危機の際に対応できない脆弱性を含んでいた。
あまりに長距離のグローバル・サプライチェーンを地理的に管理可能な範囲内に収める必要があるのだ。
これは食糧安全保障のためでもある。エネルギー消費を抑え脱成長型(degrowth)の経済に移行し、食料を地元で生産する必要がある。

【グレイの質問】右翼はグローバリストやダボス会議、国際金融機関を時々反ユダヤ主義とも結びつけながら批判するのに、なぜかIMFや世界銀行を批判しませんね。

IMFの新自由主義は世界のコンセンサスとなったが、IMFはそもそも固定相場制の国々の外貨獲得を容易にするようケインズらによって作られた機関だった。
1971年にニクソンが金ドル兌換を停止した後は、IMFはすでに役割を失っている

彼らは、今では新自由主義の走狗となり、途上国に厳しい条件つきのプログラムを押しつける、つまり外貨準備が尽きたなら公共の教育や医療資金を削減させ、自給自足で持続可能な農業を、自然破壊的な、輸出用の換金作物に変えるよう押しつける新自由主義のマシーンとしての機関になった。[*筆者注:スティグリッツやマイケル・ハドソン、アン・ぺティフォーもまったく同じことを言っている 連載「全体主義からの脱獄」 まとめページ | cargo official blog powered by ameba (ameblo.jp)]

私たちはこれを改革し、廃棄し、条件なしで富裕国から貧困国への分配を促すものにしなければならない。
もしIMFがアフリカや東欧、南米に押しつけているプログラムを、過去に発展途上段階にあった西欧に施したら我々は先進国になれなかっただろう。

【グレイの質問】我々のほとんどは資本家ではなく労働者であり、ビリオネアではなくどちらかというとホームレスのほうに近い。しかしアイデンティティ政治に焦点を当てて現実を覆い隠すことでごまかしてきた。勝利のメッセージを奏でる必要があるが、現在、私達には投票する政党がない。

アイデンティティ政治は「分断と征服(Divide & Conquer)」のために利用されてきた。
オーストラリアでは1970年台にこの考えが導入されたが、失業にあえぐ労働者を批判で分断するために左翼が持ち込んだのだ。
中産階級は毎日仕事に行き、生活のために懸命に働くが、失業者は何もせず失業保険を貰ってるだけじゃないかと問題をすり替えたのだ。

アイデンティティ政治は常にそのように利用され、左翼は騙されてきた。
学者も注意をそらされた。
学者の研究は労働者階級から離れた問題に転用されるようになった。

1973年に左翼のジェイムズ・オコナーが「国家の財政危機(The Fiscal Crisis of the State)https://www.routledge.com/The-Fiscal-Crisis-of-the-State/OConnor/p/book/9780765808608 」という本を書いたが、これは政府の資金が底をつくという物語を左翼が採用してしまった最初の例となる。

最近CIAの文書が開示され明らかになったことだが、1970年台にフランスのマルクス主義者らがアメリカを旅し影響を受けたことで欧州のマルクス主義が完全に変容してしまったことがあるが、そのツアーに資金提供していたのがCIAだった

それと逆のことを我々はやるべきではないか。

例えば気候変動問題において、スコットランドの緑の党はグリーンボンドを創設し金融市場を巻き込むことに成功した。

【グレイの質問】The HillのRisingでの私の共同司会者はリバタリアンだが、彼ら保守派も気候変動が事実だと考え始めている。気候変動否定派は減っている。
ところで、あなたの「資本主義によって気候変動は解決できない」という主張に関して教えてほしい。


グリーン・ニューディール運動やグリーン成長の考えにはフラストレーションを感じる。これらの運動に金融市場が資金を投じるというのが今の主流の左翼のナラティブである。

しかし私達が利益を上げるためには何かをしなければならないが、利益は特定の階級に吸い上げられ、下層階級は彼らのアジェンダに奉仕せざるをえないのが資本主義の本質だ。

世界が経済成長を優先し続けることができるとは思わない。
我々が現在消費しているのは、資源キャパシティの1.7倍に相当するが、これは続けられないのだ。

マルクスに戻るが、資本主義と資本蓄積の論理では私達は成長し続けなければならないとされるが、この二つは同時には実現できない。
脱成長というと、途上国や貧しい人々への悪影響が懸念されるが、これは非常にゆっくりと進む。
何十年も何世代もかかる話だ。

私は現在コミュニティ農場に住んでおり電気は太陽光で、電気代はむしろマイナスだ。ささやかながら脱成長に貢献している。
しかしアメリカの中産下級のことを考えると、巨大な家に住み、戦車のような四輪駆動のSUVに乗って子供を送り迎えし、さらにはヨットを保有しようとしている。
これには劇的な縮小が必要で、フットプリントを減らすだけでなく、貧困国の人々が物質的な安全を確保できようにすべきだ。

私は物質主義に反対しているわけではないが、富裕国の中産階級は消費を縮小させなければならない。
終焉が来る前に環境に適応していかなくてはならないのだ。


以上。


私は、ミッチェル教授の脱成長(degrowth)の考え方をいまいち理解していない。
こちらの彼のブログhttps://billmitchell.org/blog/?p=61664でも語られているが、まだ納得できない。

どうも斉藤浩平論の亜種のようにも感じてしまい、俺たち貧乏人のことをわかっていないのではないかと感じるのだ。

ミッチェルは岸田の財政政策を評価していたhttps://x.gd/Ibuf8が、まったく日本の経済の実情、つまり日本政府の官僚の醜悪さ、彼らの嘘と捏造を理解していないと感じる。
日本の中間層とはすなわち先進国基準では貧乏人のことだ。

対外的に公表される日本の公的指標は嘘に彩られている。
彼らは、オーストラリア人のようにシンプルな良い人達ではないのだ(私は4年間シドニーに住んでいた)

参考:

 

 


脱成長に関する、もう少し詳細な彼の説明と処方箋の提示を求めたく思う。


cargo

 

 

冒頭、少し難しい話をはさむが、我慢してほしい。
本日のテーマは「誰でもわかる21世紀のインフレ対策」だ。
たぶん誰でも理解できるはず。(たぶん)


現在、為替は1ドル154円を突破し歴史的水準で円安を行進し続けている。
この原因として「金融緩和し過ぎて円安が止まらなくなったんだ。円高のほうが良い!」とする言説が散見される。
 

 

 

 


みなさん、いろいろと心配しているが、量的金融緩和では円の価値は毀損されないし、円安で通貨崩壊するなんてこともない。

日本銀行は2001年から2006年に、デフレ克服のために量的緩和政策を先駆的に導入していた(日銀政策審議委員・野口旭,2023)が、当時の為替はむしろ「1ドル121円→116円」と円高方面に動いていた。
「量的金融緩和すると円安になる」とする人達は、これがなぜなのか答えられないだろう。

現在の円安の原因は、短期視点では日米金利差の拡大によるもの、加えて長期視点ではファンダメンタルの弱さ、つまり日本の景気が悪いことが原因だ。

そして多くの人が「金利の操作」と「量的金融緩和」を混同している。
金利の操作とは、コール市場の無担保コールレートの調整(金融市場調整)を行うため、コール市場において金融機関の日々の短期的な資金の過不足を解消することであり、現在は資金(日銀当座預金)供給量が十分なため低金利になっている。このコール市場の金利が住宅ローン金利や銀行貸出金利の基準となってくる。
一方で、量的金融緩和は、マネタリーベースを爆発的に増やす(市中銀行保有の利付き国債を付利なしの日銀当座預金に置き換える)ことで実質金利を下げ、インフレ期待を上げることで市中銀行の実体市場への貸し出しを促すというものだ。
基本的には量的金融緩和は金融市場調整以上に買いオペするものだが、ゼロ金利以下になることがないため実勢の金利に大きな影響を与えるわけではなく、あまり意味がない(まったく効果がなかったわけではない)。
参考:日銀
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/seisaku/b42.htm

どうだろうか、はっきり言って専門知識のない人にとっては何を言ってるのかさっぱりわからないと思う。

でも安心してほしい。
今回は金融政策に関わる難しい話は脇に置き、「一体どうやったら円安インフレを解消できるのか?」という処方箋の説明だけに注力しようと思う。

大丈夫。
斎藤幸平准教授は「解決策はない」と言うが、解決策はあるので心配には及ばない。
また、立憲民主党なんかが処方箋とする「利上げ」も必要ない。

(*共産党と斉藤准教授は「利上げできない」と理解しているのでまだマシ)

(*誤解なきよう最初に言っておくと、筆者は過度な量的金融緩和には反対だが金利はゼロに保つべき、今般のマイナス金利の解除、ETF買いの終了はやるべきだったがタイミングが悪かった、イールドカーブ・コントロールの終了は時期尚早、という立場だ)


インフレ対策の処方箋は、
「供給能力を上げろ」、
「的を絞った財政支出をしろ」、
「国民負担を軽減しろ」だ。


これはノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授やIMF主席経済顧問のブランシャール、米国の財務長官イエレン、米国の元労働長官ライシュ、またMMT派の提言を咀嚼しまとめた結果だ。

このことは以前こちらでも書いたが難しすぎるので、今回もっと簡略化したい。

 

さて、現在の日本の状況は、簡単にはこうなる。


円安や戦争、サプライチェーンの混乱(供給の制約)により輸入物価が上がり、インフレになったということだ。

マスクや給湯器、半導体、食料さえ自国生産していないことがこのインフレの原因ともなった。


物価が上がったため、表面的には需要が上がったように感じる場合もあるが、実質消費支出が12カ月連続マイナス実質賃金は23カ月連続でマイナスであることから依然として低需要であることは変わりない。

輸入物価高騰によるインフレを下げるには、政府が国民の負担を軽減するために消費税やガソリン税などを減税し、補助金を投じて電気・ガス代を安くすることが必要だ。(小麦などの輸入食糧の卸値を下げるべく補助するなども)

モノやサービスにかかる税金(消費税)や光熱費などを安くするんだから、必然的に物価が下がることが誰にでもわかるだろう。
負担を軽減できてインフレ対策にもなる一石二鳥の良策だ。

しかし現在、政府はこれらの施策をちょこっとやっているだけで、まったく足りていない状況だ。

根本的な話をすると、エネルギー価格や消費税を下げて人々の負担を軽減するほかに、悪いインフレ体質ではない経済を作るためには「供給能力」を上げる施策も大切となる。

インフレの圧力となっている要因を取り除くとともに、インフレに耐えられるよう経済のキャパシティを拡げるということだ。

では「供給能力を上げる」ってどういうことだろうか?
「供給能力を上げる」とは「生産能力を上げる」と言い換えられる。

まず、供給能力を上げるには同時に実質賃金も上げていかなければならない(というか結果的に賃金も上がってしまう)。

あなたの年収が400万円だったとして、毎年消費や税金で300万円使うとする。
インフレで物価が5%上がった場合、年収400万円のままなら315万円の出費になる。
これは大変だ。
でももし年収が6%増えるなら424万円になり、出費額が315万円のままなら去年より少し楽になる。

 

物価上昇分を上回る賃金が貰える経済構造を作らないと人々は生きていけない。


賃上げしたら需要主導のインフレになるんじゃないの?と思う人もいるだろうが、現在の日本はコストプッシュ・インフレと同時に、超低需要社会だ。少々賃金が上がっても悪いインフレにはならない。

オイルショックなどの過去のインフレ期には、インフレ率よりも賃金上昇率のほうが高かった、つまり実質賃金が年々高まっていた
この状態にしないと人々はインフレに耐えられない。



図:tasan氏 60年代・70年代に注目してほしい(*緑色の棒はインフレ率)

物価上昇分を上回る賃金が貰える経済構造を作るためにはどうしたらいいだろうか?

企業がより多くの賃金を払えるようになるためには、モノがたくさん売れないといけない。
モノが売れるには、人々の購買力がなければいけない。

人々の購買力を上げるには、エネルギー価格や税金を下げる必要がある。
これは先ほどの話と同じだが、インフレ対策にもなり、負担を軽減し購買力を上げることができる。
人々の出費額を減らして手元に残るお金を増やし、より消費できるようにしようということだ。
モノがたくさん売れるので企業はより多くの賃金を払えるようになるのだ。

そして人々の賃金を上げ同時に供給能力を上げるための、もう一つのやり方は「的を絞った財政出動」となる。

生産設備の国内回帰を促す。
公務員を増やす。
公共事業を増やす。
政府調達品を増やす。
公定価格(政府が発注する仕事の値段)を上げる。
非正規公務員を正規化、または同一労働同一賃金にする。
能登の復興にお金を出したり、防災のためにお金を投資する。
再エネを増やすため小型水力発電や洋上風力・地熱・潮力・太陽光発電などにお金を出す。(メガソーラーはダメ)
地方交付税交付金を増やす。
労働組合や中間団体を支援する。
デジタル化を促す。
(*過度なインフレを防ぐための累進税性の強化も必要だ)

こうやって供給能力を上げなければならない。
そうすると政府関連事業に就く人を中心に2000万人くらいの所得が上がって消費が増える。

消費が増えるとモノがよく売れる。企業が儲かる。
企業が儲かると人件費、つまりあなたの賃金が上がる。

好景気になると、企業は雇用も増やす。
そして設備投資をして事業を拡大しようとする。
  
生産設備が増えて、生産する人が増える。
これこそが供給能力の拡大だ。



https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12804291073.html

供給能力の拡大とは、企業がたくさんモノを作れること、たくさん賃金を払えるようになること。たくさんの雇用を生み出すことだ。

供給能力が拡大すると、企業はあなたの年収を400万から424万にすることができる。
少々インフレになっても、より高い賃金を払えるのでもう問題にはならない。

その時には供給能力が強化され悪いインフレが起こりにくい体質になっているので、多少の需要が増えても吸収できるというわけだ。
インフレにビビッて人々の賃金を上げない社会は、不景気でモノが売れず設備投資もされず、結果的に供給能力がひっ迫したままになってしまう。


だから「円安でインフレになったから円高にするため利上げしなきゃいけない!」って言う人は間違っている。

そんなことしたら住宅ローンや銀行貸出の金利まで上がって企業がお金を借りなくなり、設備投資もしなくなるので、供給能力が減って賃金が減ることだってある。
インフレに耐えられなくなって、余計に経済が悪くなる。

今金利を上げることは、インフレを抑制するかもしれないが、雑なかたちで需要を減らすことになり、企業や人々を苦しめることになるのだ。


繰り返しになるが、だから、人々の負担を軽減するよう減税やエネルギー価格を下げるため財政支出しよう。

エネルギー価格の高騰を抑えるために再エネ分野に財政支出しよう。
輸入物価高騰の大きな原因となっている原油やガスの輸入に頼らない構造を作るのだ。

そして人々の賃金を上げ、消費を増やし、供給能力の強化につながるよう財政支出しよう。


好景気になって、あなたの労働力やあなたが生産する商品に高い価値がつけられると円の価値も高くなる。

円の価値は、基本的にはドルの価値と相対的になっている。
現在アメリカは好景気で賃金や商品価格も上がっていく状況で、また金利も高い。
好景気だから投資家が円をドルに替えて投資するため、円が安くなりドルが高くなっているのだ。

日本が好景気になり、賃金や商品価格が上がればおのずと金利も上げられるし、逆にドルを円に両替して投資する投機家も増え、いずれ過度な円安は是正される。

これが「21世紀のインフレ対策」となる。

以上。

cargo


捕捉:
よく「現在は完全雇用状態だからいたずらに政府支出したらすぐに供給制約がきてインフレになる!」とする主張を目にするが、ご心配には及ばない。

日本には完全失業者は少ないが、低賃金の非正規雇用が全労働者の40%もいるため、賃金を上げる余地があり、そのぶん供給側も伸ばすことができる。(上図でいうとAD曲線が右肩上がりにシフトする余裕がまだある)
また、人手不足の現在は人的リソーズの供給が限界にあるという主張もよく聞くが、まともな賃金(decent wages)を払える企業が増えれば働く人も増えるし労働移動も起こるだろう。
望む人がまともな賃金を貰える状況になるまでは真の完全雇用とは言えないのだ。
 

 

 

 

ブルーインパルスの飛行を眺める被災者。

「やってる感」の演出に拘泥する日本政府が作り出したディストピアの姿

 

前回の記事では能登震災における官僚や行政機構、似非ウヨの「前のめりの悪」を指摘した。

 

私は「前のめりの悪」を、「関係者が自己保身のために捏造や改ざんの手法を介して事態を矮小化して上層に報告し、やってる感の演出にのみ注力する」現象と定義した。
よく言われる「凡庸な悪」ではなく、自ら進んで悪の一端を成すのが「前のめりの悪」だ。

本記事では、官僚の「前のめりの悪」の例をもう2つ挙げてみようと思う。

先日、岸田首相が賃金と生産性について、また愚かなことを発していた。
「なんで生産性が上がったのに給料が上がらないのか?その解決策は『新しい資本主義』だぁ!」とやっている。

まず何を発していたのか確認していこう。


上記の岸田の発言の前段のポストも確認する。

上記の「賃上げ気運」も「設備投資増加」も「株高」も、都合の良い数字だけを陳列したまやかしでしかない。
「賃上げ気運」は連合傘下の15%の優良企業のみで他の中小企業には関係ないばかりか実質賃金は23カ月連続で下落しており、「設備投資増加」は見込みの数値でしかない。株高に関しては言わずもがな金融界という実体経済とは別の世界線の話だ。


日本の官僚が「公定価格を上げれ(政府支出を増やせ)ば生産性(と賃金が)が上がる」ことを理解できないから、岸田は「生産性を上げて収益も増えたのに賃金が上がらない」という問題が永遠に解決できない。

その結果、岸田が処方箋として提示した案も、結局今までと変わらない「わずかばかりの法人税減税(控除)」、「下請け法改正」、「リスキリング」等に終始している。
官僚がリスキリングに拘るのは「生産性を上げるべく生産効率を高めれば賃金も上がるはず」との誤解に基づく(効果ゼロではないが)。

しかし上記で私や中村てつじ元衆議院議員が指摘したように、政府支出を増やせば生産性と賃金があがることは「生産性の式」からも「定量的観測」からも明らかである。



どの国でも政府支出を増やすと労働生産性が高くなっている。
支出が潤沢であれば需要が生まれ、結果として賃金が上がり労働生産性も高く出る。ただそれだけのことだ。(もちろん下請けいじめの規制や労働組合の交渉力向上を促す支援なども必要だ)

生産性に関しての基本 参考:

 

ところが、官僚たちは「生産性が上がれば賃金が上がりGDPも上がる」と逆向きの経路のみしか勘案しない
政府支出を増やすとか公定価格を上げるとかの考えが一切抜け落ちている、または意図的に除外しているのである。

 

そう、意図的に答えを除外しているのだ。

下記は厚労省と経産省の例だ。


厚労省「令和5年版 労働経済の分析」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35259.html


経産省 中小企業白書より
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-2.pdf

 

上記2例においても「政府支出を増やして賃金を上げれば労働生産性が上がる」事実を無視して、「労働生産性を上げれば賃金が上がる」という論理にしか注目していないことがわかる。

答えとなる「逆向きの経路」を意図的に隠蔽していると考えられる。

下記はアメリカの財務長官イエレンの発言だ。

イエレンは「政府の投資は、生産性を高めるために必要なものであり、その結果、経済は成長する」と明言している。生産性や賃金、GDPが上がらない原因も解決策も明白なのだ。

何度も言うが「生産性の式」からも「定量的観測」からも明らかなのだから、嘘をつこうとする意図がなければ官僚がこんな誤りに気づかないはずはない。

厚労省・経産省の資料は、「民間のおまえらの生産効率が悪いから生産性が上がらず賃金が低くなったのであって、我々官僚様の失策のせいではない!」と言い訳するためのゴマカシなのである。

上述した「関係者が自己保身のために捏造や改ざんの手法を介して事態を矮小化して上層に報告し、やってる感の演出にのみ注力する『前のめりの悪』」そのものではないだろうか。
こうして問題の所在や解決策まで捏造までしてまで自己保身を図っているのだ。

彼ら官僚は先に示した「公定価格を上げれ(政府支出を増やせ)ば生産性(と賃金が)が上がる」ことを理解できないのではなく、意図的に考慮から除外し捏造していると見て間違いない。

1984風に言えば、官僚は「ニュースピーク」の使い手である。
言葉や概念の意味や定義まで捏造、改ざんしてしまうので、何が問題であったかすら外部の者にはわからなくなってしまうのである。ついには官僚自身もわからなくなっているのだろう。

日本が30年間経済成長を止めた原因は、1から10まで「前のめりの悪」を貫き通す官僚と政治機構であることがわかる。

◇◇◇◇◇

もう少し例を出させてほしい。
先日、林官房長官は、GDPがドイツに抜かれ世界4位になる見込みであることに対する言い訳を以下のように説明した。

・・・・・・
林官房長官は、日本経済はバブル崩壊後の長引くデフレ経済において「コストカット型経済に陥り、企業は投資や賃金を抑制し、家計は所得の伸び悩みなどから消費を抑制してきた。その結果、需要が低迷しデフレが続く悪循環が続いていたことは事実である」と説明。
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/SGEOFTBIUBIMVMT3JUCKP7CE7Q-2024-01-16/
・・・・・・


この霞ヶ関構文からも「行政自らの瑕疵」が抜け落ち、「民間の瑕疵」に置き換えられていることがよくわかる。
「政府の失政ではなく、民間がコストカットを始めたからデフレが長引いたのだ!」とする言い訳だ。

この「霞ヶ関・明治しぐさ構文」は「政府のコンセンサス」になっており、様々な場面で使用されている。

私の認識する限りでは、2022年2月14日の大臣答弁が初出で、以降繰り返されている。

・・・・・・・
山際大臣(経済再生担当・新しい資本主義担当)
バブル崩壊以降、低い経済成長と長引くデフレによって企業が賃金を抑制、消費者が将来不安から消費を抑制した結果、需要が低迷しデフレが加速、企業の賃上げが生まれない悪循環が生じた

鈴木財務相
バブル崩壊以降、低い経済成長とデフレによって企業が賃金を抑制、消費者が将来不安から消費を抑制した結果、需要が低迷しデフレが加速、賃上げが生まれない悪循環が生じた

  = 2022年2月14日 立憲民主党・福田昭雄議員に対する大臣答弁
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12727314964.html
・・・・・・・

(*上記霞ヶ関構文の初出を22年だと思っていたが、国会議事録を調べていて面白い事実を知ったので別の機会にまとめる)

両大臣がペーパーを読み上げ異口同音に言い訳としている。
もちろんこれは官僚が作成した答弁であるので、官僚自らの「絶対に失政を認めない」という強い意志が介在していることが想像できるだろう。

言わずもがな、民間が失敗したからデフレ不況が長引いたのではなく、政府が民間経済を支えるために各所に支出しなかったことが原因だ。
バブル崩壊でさえ政府の責任によるところが大きい。参考 https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664064019.html

どうだろうか?これらの官僚の悪辣な自己保身のための詭弁はもはや「凡庸な悪」ではなく、「前のめりの悪」であることがわかるだろう。

出世のために「強者・権威」である自民党政権の政権運営は正しかったのだとおべんちゃらを重ね、忖度する「ひらめ官僚」が跋扈している証左である。

加えて言うなら、官僚はアイヒマン的凡庸な悪の議論を知ったうえで「俺たちは上司である大臣らに命令されて真面目に仕事をこなしてるだけっすよー」と、それを責任を回避するための免罪符にしていることすら疑われる。

◇◇◇◇◇

先日、「財務省がこんな反論不可能な資料を作った!」とバカが嬉しそうに報告したグラフがあったが、これがカビの生えた子供騙しであることは反緊縮派であれば多くが知るところであり、この財務省の例もまた「前のめりの悪」の一つとなる。


財務省は「政府支出してもGDPは上がらないのだ!」という責任回避のためのトリックを講じたということだ。

上図の正しい見方は簡単には、GDP(フローの数値)を上げられなかったから債務残高(ストックの数値)が積み増されていった、ということになる。
上記右図についてはGDP伸び率の低い低成長国ほど債務対GDP比が高まると言い換えられる(決定係数は低いが)。
これらの図は、ただただ政府の政策の失敗を表しているだけなのだ。

毎年の政府支出伸び率でなく負債残高の伸び率であったとしても、下図のように主要先進国で最低レベルだ。
負債(つまり通貨)を増やさなかったからGDPも伸びなかったというだけである。

一目瞭然、上図で政府負債を伸ばした国は下図のようにGDPが伸び、逆に負債を増やさなかった国はGDPも伸びていない。

 

もう一度言うが、負債(つまり通貨)を増やさなかったからGDPも伸びなかっただけなのだ。

官僚たちはそれを、累積債務対GDP比のような別の変数を加えた子供騙しの詐欺グラフを提示することで、「政府が負債を増やしてもGDPは増えないのだ!(*支出額ですらない)」と偽り、自らの失政を覆い隠そうとしたのだ。

 


官僚は、問題が何なのか、責任の所在がどこにあるのかを隠蔽することで、解決への道をより遠ざける。

官僚とは、自己の保身を図るために事実を捻じ曲げ、歪曲し、改ざんし、事態を矮小化し、捏造し、虚偽報告を行い、虚構を構築しながら国家自体を蝕み続ける、この上なく醜悪なガン細胞のような存在なのだ。

そして、跡に残るのは解決しようとするフリを続ける行政機構の姿である。

政権と自らの保身のために問題を覆い隠し、解決法もあさっての方向にむいているのだから「やってるフリ」をするしかなくなるのだ。

私はこのことを「前のめりの悪」と定義したが、生産性に関わる議論においても、デフレ不況の原因についても、また、震災に関わる行政の姿勢においてもまったく同じ構造が存在する。

「凡庸な悪」なんていう生易しいものではない

彼らはアイヒマンではなく、ゲッベルスやヒムラー、ゲーリングのように率先して悪を働いている存在に他ならない。

官僚や自民党というサイコパスどもをどうにかしない限り、我が国の未来はないと断言できる。

以上。

 

cargo

 



おまけ:
前のめりの悪

 

 

 

台湾の震災における行政の対応の速さや避難所の状況などを見て、能登地震の行政対応がいかに異常なのか知った人達も多いかもしれない。

発災から3か月以上経っても避難所は雑魚寝で食糧やトイレもままならずガレキの撤去も進まない。それが我が衰退国家の悲惨な現状であるが、このことに心痛まない人はいないだろう。

しかし財務省は事実上の「棄民宣言」をし、似非ウヨは相変わらずボランティア批判を続ける。あまりにディストピア過ぎて夢でも見ているのかと嘆きたくなる。

▼能登地震の復興「需要減少や維持コストも念頭」 財政審分科会
https://mainichi.jp/articles/20240409/k00/00m/040/101000c

▼能登の災害ボランティアが足りない 志願者のやる気をくじいた要因の数々 被災地入り「自粛論」の的外れ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/314568

日本政府がコスパ重視のため過疎地能登を見捨てる方針だということはわかったし、ボランティアが足りないのは似非ウヨの「ボラ叩き」が主因であることもわかった。

しかし、なぜ被災者は「支援・物資が足りない」と市町村の役場に要望を上げているはずなのに県や国にその要望が届かないのか、発災から現在に至るまでのあいだに行政はもっとまともな対応ができなかったのかとの疑問が湧く。

種々の細かい事情はあるのだろうけど、私は原因の一つを行政の「自己保身」と「やってる感の演出」の成れの果てだと言いたい。

この件に関して、れいわ新選組みの山本太郎氏がかゆいところに手が届くような国会質問をしていた。


上記質疑でもあったように、国は「石川県とも連携して丁寧にニーズをくみ取りながら対応したい」と言うが、あくまで情報が上がってくるのを待っているだけで、先回りしてプッシュ型の支援をしていないのだ。
そして住民の声は自治体の首長に届いておらず、声が届いていないため国は「要望がない」と判断し支援をしていないことも浮き彫りになった。

また、山本が被災視察した際に市役所で職員から聞き取り調査していると、呼んでもいないのに市長が現れて「政府はよくやってくれている。国に十分に支援してもらっている」と、たずねてもいないことをペラペラと話したとのことだ。
山本が被災調査の実情を話し「足りない支援を国に要請すしたい」と言うと、話をさえぎってまで市長は「足りている」と押し通したようだ。
おそらく自民党系の市長だろう。
山本は「国からどう見られているかを気にし過ぎて他が見えなくなる政治家もいる」と付言した。

自民党系の地方行政長(馳なんかはその代表格だろう)は、何か足らざる部分があっても「やってるやってる、支援は届いてる」と自らの失策を覆い隠すようなプロパガンダに徹してしまって、外部に実態を把握させない。
関係者は、苦しんでいる被災者が大勢いることを知りながらも自己保身のために事態を過小評価して上に報告してしまう。

足らざる部分を知り、支援で埋めていくのが政治の役割であるが、それを放棄してしまっているのだ。


次に能登の状況を知らせるXポストを紹介したいが、この手のジャーナリストや被災者らの報告にも大量の似非ウヨが湧いてクソリプを連ねている。
これが日本人の心根なのかと思うと本当に情けなくなる。


あまりに情けなくて脱力する。

「関係者が自己保身のために事態を過小評価して上層に報告し、やってる感の演出にのみ注力する」という現象は、日本の行政のそこかしこで見かける。

よく「なぜ財務省は国民経済や財政を余計に悪くするとわかっていながら緊縮財政を続けるのか」という問いに、「アーレントの凡庸な悪」論を持ち出す場面に遭遇する。
この場合の「凡庸な悪」論を唱えているのは主に京大の藤井聡教授(

 

ナチスドイツの官僚であったアイヒマンは、ユダヤ人をポーランドの強制収容所に送る仕事に従事する大量殺戮に加担していたが、アーレントは彼を「小役人による凡庸な悪であり、誰もがアイヒマンのようになりうる」と説明した。


私は、捏造や改ざんまで行う日本の役人や官僚らはもっと「前のめり」であると感じる。
彼らの脳内にある行動規範はまさに封建主義制度になっており、これはいわば「明治しぐさ」に近いものだと考えられうる。
「明治しぐさ」は、似非ウヨらのクソリプにも見ることができる。
彼らは「正義は勝つ/勝った者こそが正義」として、自民党政府という「勝った者・強者」こそを正義とし、絶対的な忠誠を誓っている。
(丸山眞男「超国家主義の論理と心理」参照 https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12763032481.html

野良の似非ウヨや似非ウヨ首長らは、自らがかしづく「強者」の瑕疵を認めるわけにはいかないためあらゆる詭弁を弄してどこまでも擁護する。
彼らは、「強者」の及ぼす封建制度的ヒエラルキーに連なる自分も権威的存在と同質化させているため、また上意下達の勅令の及ぶ範囲に反するわけにはいかないため、自らの失態だと評価されかねない追加の支援要請を行わず、いかなる瑕疵も自己保身のために矮小化し誤魔化すのである。
そして、矮小化し誤魔化すために、捏造や改ざんという「前のめり」な手口に興じるのだ。
 
悪に連なる凡庸な小役人ではなく、悪を構成する積極的な工作員と化しているのだと言える。

次回記事では、官僚の「前のめりな悪」の例をもう2つ挙げてみようと思う。
この2例のほうが、能登震災に関わる件よりももっと悪質で「前のめり」な官僚の姿勢を露わにしている。

本日はここまで。

cargo
 
 

 

 

http://www.highschooltimes.jp/news/cat24/000089.html


「悪の凡庸さ」について 参考:
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】
ハンナ・アーレント (著),
https://amzn.to/4aUyHiA

百木獏・立命館大准教授 「労働者アイヒマン」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soes/40/0/40_68/_pdf/-char/ja

 

 


MMT派ステファニー・ケルトン教授の投稿を引用したウォーレン・モスラ―のX投稿で気づいたのだが、中国で大変なことが起こっていた。

今回紹介するのは二年前の記事になるが、反緊縮ウォッチャーの私としたことが見過ごしていた。

本記事ではこの「中国のエコノミストたちが現代通貨理論にのめり込む」という記事と、それ以降の中国のMMT理解について紹介したい。

おそらく私のような経済左派であれば大変な焦燥感と嫉妬を感じるだろうし、右派・保守派であれば中国の財政拡張に伴う軍備拡大に大きな脅威を感じるだろう。
経済でも軍事でも、日本にとって中国は遠く及ばない存在になることは間違いない。

モスラ―とケルトンの投稿

 

・・・・・・・
▼中国のエコノミストたちが現代通貨理論にのめり込む
(China’s Economists Are Getting Into Modern Monetary Theory)
2022年4月22日 ブルームバーグ
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-04-21/modern-monetary-theory-wins-new-fans-in-china-as-growth-tumbles

北京が経済成長を促進するために財政政策に目を向けるなか、中央銀行の緩和が政府支出を確実に支えるよう、現代貨幣理論が中国を鼓舞することができると、複数の著名なエコノミストが語った。

財政部傘下のシンクタンク、中国財政科学院の劉尚熙(Liu Shangxi)院長は、中国は財政政策と金融政策は分けて考えなければならない、政府の赤字は悪いことだという伝統的な考え方から「解放」されることが急務だと指摘する。

「現代貨幣理論は少なくとも、現実の難問を解決し、過去にはタブーとされてきたことを議論するための一筋の光を照らしてくれる」と、劉氏は先週のウェビナーで語った。

この非伝統的な考え方の学派は、自国通貨で借金をする国は破産することがないため、厳しい債務制限に直面することはないと主張する。中央銀行は借金の利子を支払うためにお金を刷るべきだ、と支持者は言う。

中国が今年、Covidの蔓延で打撃を受けた成長を支えるため、財政刺激策とインフラ投資により力を入れているため、この理論が注目されている。しかし、地方政府は、主要な収入源である土地の売却が急減しているため、支出を抑制し借り入れを増やさざるを得ない財政の逼迫に直面している。

元国家外国為替管理局(State Administration of Foreign Exchange)高官のグァン・タオ(Guan Tao)氏は、先週の同ウェブセミナーで次のように述べた。
「MMTは中国にとって、財政政策と金融政策の連携を強化する上で重要な参考となる」

中国は今年、財政支出を増加させる予定であるにもかかわらず、中国は公的財政赤字目標を国内総生産の2.8%に引き下げた(2021年は3.2%)。

赤字削減は、政府は財政収支の均衡を目指すべきだという昔ながらの財政思想を反映したものだが、実際には中国はすでに機能的財政に移行しつつあり、財政支出は予想される歳入ではなく、経済の必要性に基づいて設定されている、と劉氏は言う。
ケルトン:
👆これはこの記事の中で最も重要な発言です。これは正統派からの実質的な決別を示しています債務ブレーキに拘泥し財政の表面だけをいじっているドイツやイギリス、EUなどの国々は、ゴミのように取り残されることになるでしょう。
https://twitter.com/StephanieKelton/status/1771887848486027714
財政当局はすでに今年、財政政策と金融政策の連動性を高めるよう求めている。PBOCは6000億元(約930億ドル)の利益を中央政府に移転し、経済への資金供給をブーストし、最近では投資プロジェクトを支援するために地方債を購入するよう銀行に要請した。

中国の中央銀行は銀行への短期融資の担保として国債を受け入れているが、アメリカ、ヨーロッパ、日本の中央銀行のように国債を直接購入することはない。これは量的緩和と呼ばれる手段で、政府の債務返済コストを低く抑えることができる。

中国人民大学重陽金融研究所の廖群(Liao Qun)氏は今週、必要性が生じれば、人民銀行はさらに踏み込んで「MMTが提唱する量的緩和に近い操作」を行う可能性があると書いている。

元中央銀行政策顧問の余永定氏(Yu Yongding)は、MMTは中国が見習うべきアイデアであると認め、経済成長が潜在成長率より遅い場合に中央銀行が公開市場で商業銀行から国債を購入することを提案した。そうすれば、政府の金利負担を減らすことができるという。

しかし中国政府自体はいまだはMMTを支持しておらず、アメリカのような高所得国に適しているとほのめかす当局者もいる。

中国外国為替監督管理局(SAFE)の陸磊(Lu Lei)副局長は今月北京で開かれたフォーラムで、「先進国は現代貨幣理論を中心舞台に押し上げた」としながらも、中国は独自の貨幣理論を発展させるべきだと付け加えた。
・・・・・・・・・・


MMTが量的金融緩和を推奨しているかのような記述には「?」となるが(ゼロ金利固定のことであれば正解)、どうだろうか?驚きの認識ではないだろうか。

翻って日本の財政当局のド緊縮の認識を考えれば、極度の焦燥感に襲われるのではないか。
同時に「中国経済もうすぐ崩壊!」などと10年言い続けているビジウヨにも目を覚ませと言いたくなるだろう。

中国はこれまでも、年数%の成長を目指し政府支出額も相応に伸ばしながら計画的に経済拡張を行ってきた。今後はさらにブーストする見込みだ。


中国の政府総支出対GDP比 (出典:IMF)

https://www.imf.org/external/datamapper/G_X_G01_GDP_PT@FM/CHN

政府関係者がMMTを唱えているだけではない。
実際に中国は財政拡張を行っている

2023年10月25日のブルームバーグ記事では、「今年の財政赤字を、GDP比3%から約3.8%に引き上げ、1兆元分(約20兆5000億円)の国債を追加発行すると決定した。習近平国家主席が経済を支援する姿勢を鮮明にしている。追加の国債発行や財政赤字拡大を決めたほか、異例の中国人民銀行(中央銀行)訪問を行った。中国が年度途中に予算を修正するのは異例」と伝える。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-24/S31C75T0G1KW01

財政赤字をGDP比3%以内に抑えるという基準はEUのマーストリヒト条約に倣ったものだが、この基準には特に根拠はない。

中国人民大学の贾根良教授(Jia Genliang )は、MMTに倣い総財政赤字比率をGDPの5%以上に引き上げるべきだと提唱しているばかりか、JGP的な案も提案している。

23年11月の記事を以下に抄訳する。
・・・・・・・・
▼中国の学者、赤字比率を5%に引き上げるよう北京に要求
(Chinese Scholar Calls On Beijing to Raise Deficit Ratio to 5%)
2023年11月19日
https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-11-18/chinese-scholar-calls-on-beijing-to-raise-deficit-ratio-to-5

中国で現代貨幣理論(MMT)推進派として知られる北京の中国人民大学の贾根良教授は、欧米諸国による貿易制裁で打撃を受けた国内経済を支えるために、財政支出を圧倒的に増やす必要があると提唱した。
同氏はまた、国民の所得と消費を押し上げるため、政府に労働者の雇用を増やし、公共支出を増やすよう提言した。

贾根良教授は、中国は今後10年間で、総財政赤字比率を国内総生産(GDP)の5%以上に引き上げるべきだと述べた。これは、政府が通常遵守している3%の水準を上回るもので、成長を支援するための異例の中間予算修正の一環として先月設定された今年の3.8%の比率よりもさらに高い。


贾根良教授の発言要旨:
中国は消費需要の不足に直面しています。その根本原因は、住民の所得が比較的低いからです。
私が提案するのは、もっと直接的で効果的な解決策です。それは、中央政府の財政支出と財政赤字比率を大幅に引き上げて住民の所得を増やすことです。そうすれば、需要不足を補い、供給過剰の問題を解決できるでしょう。

失業問題を解決し、賃金上昇を成長の原動力にする必要があります。そのためには、私が2020年に初めて提案した、中央政府が資金を提供し、地方自治体が組織する雇用保証プログラムが必要です。これは基本的に、政府が最低賃金を設定し、働く意思はあるが職を見つけられなかった失業者を雇用することを意味します。

中国はまた、デジタル経済、グリーンエネルギー、コアテクノロジーなどの分野に投資し、それらを不動産や従来のインフラに代わる新たな成長エンジンにする必要があります。また、ナノテクノロジー、新エネルギー、バイオエンジニアリングなどの分野での次の産業革命に戦略的に投資する必要があります。 
・・・・・・・・

財政拡張だけではなく、なんとJGPやGNDも提案している。
これは本当に脅威である。

中国の貿易偏重型から内需主導型への移行に関して、私が連想するのは、日米貿易摩擦を機にプラザ合意を押しつけられ、円の価値を対ドルで2倍に上げさせられ、内需拡大政策にシフトさせられた80~90年代の日本だ。その結果、日本では不動産バブルが起こり、これまたアメリカ主導の信用収縮の押しつけでバブルは崩壊させられ30年続く不況に突入した。(*リチャード・ヴェルナー「円の支配者」参照)

少し前にクルーグマンが「中国のバブル崩壊は日本のそれより悪化する」などと発していたが、私はそうは思わない。
中国には、日本のようなアメリカという宗主国がいないため、主権をもって自国経済を発展させることができる
荒療治ではあったが、中国の不動産バブルの崩壊もコントローラブル(中国政府はあえて座視した)であり、すでに不動産のような虚業ではなくITなど実産業の発展に支出先を切り替えつつある
アメリカの忠犬を続け、財政のコントロールを失っている我が国では、自主独立をしない限りどうあがいても中国に勝つことはできない。

アメリカや財務省から日本を取り戻すためには政権交代しかない。


cargo



おまけ:
21年6月時点の中国の認識