「ノルウェーの森」命名は東芝だった!? | ザ・ビートルズ完全日本盤レコード・ガイド

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THE BEATLES PERFECT JAPANESE RECORD GUIDE(BPJRG)を目指して、研究しています。

ビートルズの邦題で、以前から話題になっている曲に「ノルウェーの森」があります。当時の東芝音エの洋楽ディレクター高嶋弘之氏が、この日本請タイトルを命名したと証言しています。そこで、今回は、「ノーウェジアン・ウッド」の邦題「ノルウェーの森」について考察します。この件については、以前、音楽雑誌「レコード・コレクターズ」1011月号で検討が行われています。その記事の内容は以下の通りです。

この曲が初めて収録されたLP「ラバー・ソウル」では、原題のカタカナ表記「ノーウェジアン・ウッド」でした。LPでは、766月発売の国旗帯で初めて、タイトルが「ノーウェジアン・ウッド(ノールウェイの森)」と記載されましたが、その約10年前、6612月発売のビートルズのコンパクト盤(EP)には邦題「ノルウェーの森」が表記されていました。しかしこの邦題は、そのEP発売前の667月発売のキングストン・トリオのシングル「ノルウェーの森」で既に使用されていました。このキングストン・トリオのシングルはテイチクから発売されており、高嶋氏本人の自分が邦題を命名したという発言から、このキングストン・トリオのシングルも、当初は東芝から発売する予定で高嶋氏が邦題を考えていたのではないか、もしくはLP「ラバー・ソウル」カヴァーのイメージから、両社が同時期に同じ邦題を思いついた可能性もあるのではないかと推測しています。
(シングル「ノルウェーの森/プット・ユア・マネー・アウェイ」(DS-431))
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ここでキングストン・トリオの所属レーベルについて調べてみました。キングストン・トリオは、50年代後半から活躍しており、デビュー以来、USではキャピトル・レーベルに所属していましたので、国内では東芝音エからレコードが発売されていました。しかし、64年にデッカ・レーベルに移籍しましたので、詳細な国内盤ディスコグラフィーは確認できていませんが、移籍に追随してデッカ・レーベルの国内の発売元であるテイチクからレコードが発売されるようになったようです。東芝音工のシングル盤発売状況を調べますと、60年から67年まで計5枚のシングル盤が発売されており、テイチクから「ノルウェーの森」が発売された667月以降もシングルやEPが発売されています。但し、これらの東芝盤に収録されている曲は、以前、キャピトル盤で発売されたLP収録の曲です。よく行われる手法ですが、アーティストがレコード会社を移籍した直後の、過去の曲を売れるうちに売っておこう作戦だったのかもしれません。
 
ところで、キングストン・トリオと同時期に東芝から発売された邦題「ノルウェーの森」盤が存在します。中古レコード店「ジス・ボーイ」の菅田氏のブログでも以前紹介されていましたが、ジャンとディーンのシングル「ポプシクル/ノルウェーの森」です。B面ですが、しっかりと邦題が付けられています。このシングルの国内の発売日は6685日ですが、USでは同じカップリングで同年53日に発売され、64日にビルボード・チャート・インし、21位まで上昇しています。キングストン・トリオのシングル発売は同年7月ですので、国内発売に関しては約1ヶ月、キングストン・トリオの発売が早いです。もしかすると、高嶋氏は56月頃にはジャンとディーンのシングル・タイトル用として邦題「ノルウェーの森」を考え、その情報を得たテイチクがキングストン・トリオのシングルに邦題を付けたということも考えられるのではないでしょうか。この2枚のシングルの発売時期はビートルズ来日直後に当たり、シングル発売の企画を立てた時期は来日騒動の真っ只中だったと思われます。キングストン・トリオのシングルは日本独自のカップリングのようですので、テイチクはビートルズ来日に便乗してこの曲を発売したのかもしれません。発売時期はテイチクの方が早かったかもしれませんが、テイチクのシングル発売段階には既に東芝シングルの邦題も決定しており、その情報がテイチクに伝わったことは大いにあり得るのではないでしょうか。
(シングル「ポプシクル/ノルウェーの森」(LR-1547))
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ここで、東芝が邦題「ノルウェーの森」をテイチクよりも早く考えていたと強く推測される資料を紹介します。雑誌「ボーイズライフ」667月号のビートルズ特集の記事「ビートルズのすべて」です。
(雑誌「ボーイズライフ」)
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(特集「ビートルズのすべて」)
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この雑誌はビートルズ来日直前に発売され、この特集に既発のビートルズLPのディスコグラフィーが掲載されているのですが、なんとここでは、LP「ラバー・ソウル」の曲目に「ノルウェーの森」と表記されているのです。7月号ですので、おそらく6月中旬頃の発売だと考えられます。従って「ノルウェーの森」記載印刷物の最初期のものではないでしょうか。ディスコグラフィーは通常、レコード記載の曲名やレコード会社の資料を元に掲載されますので、この時点で東芝は既に「ノルウェーの森」という邦題を考えていたと推測できます。雑誌社が勝手に邦題を付けることは考えられないでしょう。上記のように東芝は何らかの理由で邦題を考えていたと思われます。そして何かの手違いで、この邦題が雑誌編集部に伝わったのではないでしょうか。キングストン・トリオのシングルがジャンとディーンよりも早く発売されましたので、東芝がテイチクの付けた邦題を借用したという可能性は残っていましたが、キングストン・トリオのシングル発売前の雑誌に邦題が使われていたということは、東芝の方が早く命名したことの裏付けになるのではないでしょうか。
LP「ラバー・ソウル」解説)
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(曲目拡大)
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(解説拡大)
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以上のことから、「ノルウェーの森」という邦題は、東芝が先に考えて、後日テイチクに伝わったという考えが妥当ではないかと思われます。このことを踏まえて、666月のある日、東京のとある居酒屋で、テイチク担当者と東芝音工担当者との間で、以下のようなやり取りがあったのではないかと勝手に想像してみました。
 
●テイチク担当者(TE):今日はお忙しいところ、お付き合いいただきありがとうございます。キングストン・トリオがテイチクに移籍してからもレコードの売り上げは好調です。これもこれまでの東芝さんの販売活動のおかげです。引き続き、売れるように頑張ります。ところで、そろそろビートルズが来日しますね。便乗して、ちょうど彼らの新LPに収録のビートルズ・カヴァ一曲をA面にしてシングルを出そうと思っているのですが。
●東芝音工担当者(TO):キングストン・トリオと言えば以前、東芝に所属していたグループだね。いい歌が多いので今でも旧譜を出しても結構売れるよ。彼らの曲の邦題もいくつか付けたなあ~。
TE:ニュー・シングルは、この3月に発売されたビートルズのLP「ラバー・ソウル」に収録されている「ノーウェジアン・ウッド」なんですが、そのままの英語タイトルだと曲のイメージがいまいち湧かないんですよ…。直訳のノルウェー製の家具や木材では何が何だか分からないし…。シングル盤にふさわしい邦題はないでしょうか? ビートルズの邦題命名で手腕を振るわれているTOさんにぜひともお願いしたいと思っています。
TO:シングル盤のA面であれば、印象に残る邦題を付けるか否かで売れ行きに大いに左右されるぞ。実は、ジャンとディーンというデュオもシングルのB面でこの曲を発売する計画があるんだ。そこで邦題を考えたんだ。「ラバー・ソウル」のジャケットを見ながらこの曲を聞いたときに「森」のイメージが広がったので、「ノルウェーの森」という邦題を思いついたのだが…。
TE:「ノルウェーの森」ですね! すごくいいタイトルです!! 曲のイメージにバッチリ合ってますよ。この邦題をぜひ使わせてください。
TO:いいとも。これまで、うちで売り出していたグループが売れると私もうれしいよ。旧譜の売れ行きにも左右するからな。ジャンとディーンのシングルはキングストン・トリオよりも発売が後になるかもしれないが、先に使っていいよ。ビートルズの来日公演も間近に控えているし、お互いレコード販売で盛り上げていこうではないか。ハッ、ハッ、ハッ(一同笑)。
TE:そうですね~。今日はお会いできて良かったです。本当にありがとうございました。
TO:それじゃあ、ここの支払いはお願いするよ。
TE:エッ!!?
 
今後、この曲の邦題のレコードによる微妙な違いなどについて検討していきたいと思います。