高プロ(働かせ方改悪)導入でむしろ労働生産性が低下する理由 | 渾沌から湧きあがるもの

 

高プロ(働かせ方改悪)導入でむしろ労働生産性が低下する理由

http://blog.livedoor.jp/yamatodanketsu/archives/26530964.html

さんより転載

 

 

働かせ方改悪法案が強行採決において衆院を通過した。

参議院においてもこれが強行採決される見通しで、今国会で成立する予定であるという。

このような法案は、労働者を苦しめる法案であることは間違いないものであり、既に多く指摘されているところである。さらに、年収要件が省令においてでしか規定されていないことで、はじめ製造業の一部だけに解禁された人材派遣が、製造業全般、サービス業、と次第に広げられ、全面的に認められるに至ったのと同じように、簡単に一般の労働者まで仕組みが適用され得るもの

である。

 

一方で、「そもそも働かせ方改悪法案では、労働生産性は上昇しないどころか、低下し得る」という実態もある。「労働生産性を上げる代償に、労働者に過労を求めるのか」という批判もあるが、むしろ、労働生産性も上がらないし、労働者を過労にも追い込むというのがこの法案なのである。

 

 

まず、労働生産性の定義について考えていく必要がある。
労働生産性とは、一企業単位で見れば、経常利益/(従業員数×就業時間)となる。
つまり、どれだけ少ない人数で、どれだけ少ない時間の中で、どれぐらい多くの経常利益を生み
出すことができるか、ということが企業単位で見たところの労働生産性ということになる。
 
これを国家単位で見ると、国内総生産/(総労働者数×総労働時間)となる。
国内総生産は、国内で生み出された付加価値の合計であり、要すれば企業の利潤の合計である。
従って、国家単位で見ると、国内総生産を日本全ての労働者と労働時間の値=労働投入量で割
った数が労働生産性と定義されるのである。国内総生産はすなわち需要の合計であり供給の合
計の値に等しい。
 
これを見ると明らかなように、もし労働生産性を上昇させたいのであれば、企業の利潤を増加さ
せる、すなわち国内総生産を増加させる必要がある。もしくは、利潤を維持したままで就業時間
や従業員数を減らす必要がある。
 
このように議論をすると、先日の大塚耕平国民民主党代表と、安倍晋三首相の国会での議論が
思い出される。
大塚というと、政策通としても知られ、元日銀でマクロ経済について詳しい知識を持っているようであるが、大塚が安倍に対して、「レジの従業員が倍速で仕事を進めれば、労働生産性は向上
するか」と問うた。安倍はこれに「上がる」と答えると、すかさず大塚は「上がりません」と断言した。
 
これはこの法案を審議する上に置いて結構重要な問答であると思われる。
上述の定義の当てはめれば、要するに、仮に従業員が倍速で仕事をしても、利潤が一定であれ
ば、労働生産性が向上することはないのである。レジの仕事で言うならば、仮にレジが倍速で会
計を済ましても、その分店の客が増えるということはない。客の量が一定であれば、早く仕事を済ましても、その従業員が暇になるというだけであり、決して労働生産性が向上することはないのである。それは、経常利益/(従業員数×就業時間)のうちの、分母も拡大せず、分子も縮小しないからである。

 

一方で、仮に早く仕事を終わらせるようになった結果、誰かをクビにしたり、あるいは就業時間を縮小させ、労働投入量を減らすということになれば、経常利益/(従業員数×就業時間)のうち、分母が縮小することになるので、労働生産性は向上することになる。
 
それこそが、今回の法案の狙いであると、推進派は指摘する。
 
つまり、高プロを導入すれば、仕事が早く終われば早く帰れるようになるので、同じ 利潤のもとで労働投入量を減らし、生産性向上に繋がると。
 
しかし、これには全く賛同できない決定的な誤りがある。
 
現状の日本の労働者が、「実際には仕事が終わっているにも関わらず、時間給により会社にと
どまるせいで、あるいは不必要な残業を行うせいで、労働生産性が低下している」という前提
ある。つまり、会社にいても付加価値を生み出していない、もっと端的に言えば仕事をしていないということである。そうなると、確かに経常利益/(従業員数×就業時間)の公式に当てはめれば、分子は拡大しないのに、分母だけは拡大するということになり、生産性は低下する。
 
なるほど、彼らの認識に従えば、確かに高プロで労働生産性は向上することになる。
しかしながら、それは労働実態を全く無視したふざけた認識である。なぜならば、今働いている多くの労働者は、仕事が終わっているのに残業代目当てで残業しているというのではなく、終わらない仕事を押し付けられた結果、残業をせざるを得ない状況に追い込まれているのである。
 
このことは、野村証券、NHK、電通などで、裁量労働制で働いていた人々が次々に死に追い込ま
れている実態を見れば明らかである。
 
ということは、高プロを導入して残業代や休日手当などをことごとく無くせば、その結果、労働者が仕事が終わったのに残業代目当てで会社に居残るということをなくし、労働生産性が上昇するということにはならない。むしろ、今までは終わらない仕事を押し付けられても、なんとか残業代が出るからやっていけてたのに、今度からは残業代なしで終わらない仕事を押し付けられ、サービス残業が拡大し、過労に繋がるという未来しか見えないのである。
 
つまり、今の労働実態は、政府の想定するものとは全く違うものであって、高プロ制度は全く生産性向上に繋がらないのである。もちろん、労働生産性は変わらないが、残業代はなくせるので、企業経営者にとっては利益になる。
 
ただ、もちろん、中には残業代を当てにして残業をする人々もいるだろう。
 
ただ、仮にそういう人もいたとして、そういった労働者を潰すことが、本当に日本の労働生産性を拡大させることになるだろうか。そういった労働者は、少ない基本給の中で、なんとか生活をやりくりするために残業をしているのである。にも関わらず、残業代を当てにして生活している労働者から残業代を取り上げれば、生活は一気に苦しくなる。そうすると、食べ物や電気ガス水道代などの生活費などで生活がいっぱいいっぱいになり、結果的に消費を大幅に減らさなくてはならなくなる。
 
先に見たように、労働生産性の定義は経常利益/(従業員数×就業時間)である。仮に高プロ導
入で残業代をなくせば、残業代で生活をしていた人々は消費を激減させるので、結果的に企業の
利潤、つまり国内総生産が低下してしまう。
分母が減る以上の大きさで分子が減れば、結果的に数字は小さくなり、労働生産性はかえって
低下することになってしまうのである。
 
もちろん、サービス残業が増えたり、過労が増えたりすることも消費を縮小させる一要因である。この法案で消費を縮小せしめ、結果的に需要を低下させ、かえって労働生産性を低下させるという事態になることは明白である。
 
ここまで見て明らかであるのは、労働生産性向上のために必要なのは、従業員に対して業務の効率化を求めるのではなく、むしろ企業の利潤を増加させる方向に動くことである。
企業の利潤を増加させるには、国民の消費拡大が不可欠なので、消費税減税が必要であるが、それとともに公共事業を通じた財政出動によって、政府が直接的に利潤を企業に対して流していくということが重要である。
 
減税と財政出動による需要増加こそが、労働生産性を上昇させる本当のやり方である。
つまり、労働生産性とは、実は国内総生産の伸びと直結しているのである。
このことは、経済成長していた頃の昭和六十年代までの日本は、世界で最高水準の労働生産性を有していたという事実から明らかである。
 
今回の働かせ方改悪関連法案もそうであるが、要するに現在の政府の考え方は基本的に新自由主義的なところにある。新自由主義の基本原理は、「セイの法則」にある。これは、需要は常に供
給に抑制されているというものである。
 
国内総生産とは企業の利潤の合計であると先述したが、要するにこれは物が買われた量のことであり、需要量なのである。需要量が国内総生産を決めるのである。
その需要は、常に供給量と同量であり、供給に制約されるところにあるというのがセイの法則で
ある。経済成長が止まる=需要の伸びが止まることは、供給が不足しているからであり、いつで
も供給の拡大が必要であるという結論になる。
 
しかし、この論に基づけば、この世に「売れ残り」は存在しないことになってしまう。
実際には売れ残りが存在している以上、供給と需要は個別のものであって、供給を拡大させても
必ずしも需要がそれに伴って増えるということはないのである。逆に需要が不足しているのは単
に国民の購買力が低下している、あるいは政府が緊縮財政を行なっているからであって、必ずしも供給が不足しているというわけではない。
 
安倍が、「レジが倍速で仕事をすれば労働生産性は向上する」と答弁したように、供給の拡大=
需要の拡大であり、経済成長に繋がるという前提に立つからこそ、今回の法案のように、供給側の改革、労働者側の改革、つまりもっと労働者を働かせようという発想になるのである。
 
しかし、かつての日本の経済成長を見ればどうか。
 
もちろん、初期の昭和二十年から三十年代は構造改革が行われた。
日本はまだ発展途上国で、供給力が必ずしもなかったからである。
 
しかし、技術や産業力が向上し、供給力が安定した頃になると、むしろ日本政府は積極的な財政
出動、もしくは労働者の安定雇用による個人消費の増加をして需要を創出し、それに供給側が対
応する形で技術力、経済力を上げて、世界最高水準の経済成長を成し遂げてきたのである。
 
一方、供給の拡大をやろうとして労働者の流動化を行い、何百件もの規制緩和を行い、一方で財
政健全の名の下に大増税を連発したり、緊縮財政を行なったり、効率化の名の下に民営化を推
し進め需要を削減した結果、この二十年間の経済成長は何をか言はんや。
 
今日本に本当に必要な経済政策は、日本をかつて経済成長に導いた「日本型社会主義経済
を取り戻すことなのである
 
 

さんより転載させていただきました

 

 

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