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地球生物会議ALIVE
 

畜産動物のことを知りましょう(乳牛編)

搾り取られる乳牛の短い一生

ALIVE No.47 2002.11-12 より抜粋

野上ふさ子(地球生物会議)


 一般に、日本の大部分の人々は、牛乳がどのように作られているか知りません。牛乳のパックに緑の牧場や青い空が印刷されているせいで、牛は広々とした牧場で草を食べていると信じているようです。けれどもこれはまったく事実に反しています。牛の一生とはどういうものか、時には牛の立場になって考えてみてはどうかと思います。

●子牛は母乳を飲めない

  牛も人も哺乳動物(母親のお乳で赤ちゃんを育てる動物)です。母牛は、子牛が生まれるとその肌をなめてきれいにしてやり、母乳を飲ませます。出産直後の初乳には病気に対する免疫が含まれており、これを飲むことで子供は丈夫に育つことができます。

 しかし、近代畜産では、牛の哺乳動物としての生理や習性はまったく無視されています。母牛は狭い牛舎で、ほとんど身動きできない状態で出産しなければなりません そして、子牛に与える初乳(病原体に対する免疫が含まれている)は母牛の乳首からではなく、人が絞ったものをバケツから与えます。

 本来なら、「牛乳」は母牛がわが子のために出しているものです。それを人間が飲むことにしたために、子牛は5~10日くらいで母乳から代用乳・人工乳に切り替えられます。ちなみに、この代用乳の中には、かつてかの悪名高い「肉骨粉」が含まれていました。日本で発生した狂牛病の原因は、この代用乳によるものだという指摘がなされています。

●子牛の苦痛

 生まれた子牛がオスの場合は、肉用にされるため、生後1週間くらいで、生まれた牛舎からトラックに乗せて運び出されます。幼い子牛にとっては環境の激変や長距離輸送はたいへん激しいストレスとなります。農家ではオスの子牛には母親の初乳もろくに飲ませないらしく、死亡率が極めて高いと言われます。

 牧場で見る牛には、本来あるべき角(つの)がありません。多くの場合、子牛の生後1ヶ月以内に、「除角」といって、角の出る角根部を電気ごてや薬剤で焼いてしまからです。幼い子牛にたいへんな苦痛です。

●年中絞り取られる

 母牛は、出産後すぐにまた人工受精によって妊娠させられます。母牛はほぼ年中妊娠状態におかれ、乳を搾り取られることになります。(搾乳の停止期間は次の出産の前2ケ月間のみで、残りの約300日が搾乳期間)

 母乳は、牛の血液から作られ、子牛の成長に必要なミネラルや養分をじゅうぶん含んでいます 母牛は我が身のそれこそ骨身を削ってお乳を出しているので、1日に3回も絞ったりすると、母体の骨からカルシウムが奪われ、足の骨が弱くなって立てなくなったりします。

 また、乳牛は、搾乳が始まるとほぼ死ぬまで牛舎の中につながれたままとなるので、運動不足で足も細くなり、重い体重を支えきれなくなって、しばしば関節炎を起こします。関節炎で立てなくなった牛は、トラックに乗せてと畜場まで運ぶことが困難なため、そのまま水や餌を与えず衰弱死させることもあります。(「ALIVE」No.38記事)

●不自然な飼料

 牛の本来の食べ物は草で、繊維質の固い草や葉を消化するために胃袋は4つもあり、反すうしながらゆっくり消化します。ところが、早く成長させ早く肥らせ、より多くの乳を搾り取り、早く出荷し、より大きな利潤を上げようという経済効率主義は、このような牛の生理を無視します。トウモロコシ、大豆、大麦などの穀物を中心とした高タンパク高カロリーの濃厚飼料を大量に与えることによって、乳量と乳脂肪分が増大します。

 しかも、家畜にたべさせる穀物飼料の大部分は、海外からの輸入でまかなっています。特にアメリカでは遺伝子組み替えトウモロコシなどを大量生産し、それを飼料として販売しています。

●病気と異常行動

 酪農家は乳量が多くなれば収益もあがると考え、消費者の方も乳脂肪分の高いミルクを好むため、牛に穀物を主とした濃厚飼料を与え続ける習慣は、いつまでたっても止むことはありません。かつてはこれに加えて「肉骨粉」まで与えられてきたのです。肉骨粉というのは、牛やブタ、ニワトリなど食用にする部分を取り去った後の廃棄物や病気で死んだ動物の肉などを粉砕したものです。

 また本来、草食の牛が、穀物や動物性飼どを食べさせられるため、食べたものが消化せずに胃に滞る、異常発酵するなどの消化器病がまんえんすることになります。粉砕した濃厚飼料ばかり与えられていると、異常行動も起こりやすくなります。草を食むという習性が満たされないために、繰り返し口の回りをなめたり、柵や餌入れなどをひっきりなしになめ続けたりするのです。

 動物園でひんぱんに見られる野生動物の異常行動が、彼らよりもさらに狭い畜舎に閉じこめられている家畜たちに起こるのは、不思議ではありません。

●穀物飼料の自給率10%

 乳牛を1頭養うためには約1ヘクタールの草地が必要です。日本では今、500万頭近くの牛が飼育されていますがに、日本には草地は80万ヘクタールしかありません。従って大多数の牛は牧場ではなく狭い牛舎にぎゅう詰め状態で、穀物による濃厚飼料を食べさせられていることが、この数字からもよくわかります。

 日本が輸入している飼料用トウモロコシは平成12年度で約1200万トン。これは日本人1億2000万人が食べている自給率100%のコメ(900万トン)を上回る量となっています。純国内産濃厚飼料の自給率はわずか10%です。

 牛たちの胃が悪くなるほど、トウモロコシや大豆、大麦などの穀物が飼料とされている一方で、世界では明日食べる穀物さえなく飢えている何億という人々が存在します。

●糞尿まみれ

 人間の手間暇を省き、餌の量を管理するために、牛たちの首はスタンチョンという首かせをはめられるか、短い綱で柱にくくりつけられます。こうなると首を回して振り向くのがやっとで体の向きを変えることさえできません。

 一定の位置に糞尿が落ちるので掃除がしやすいということになりますが、中には糞尿の掻き出しをいいかげんにしているため、床が汚れ放題の牛舎もあります。そこに牛が座るため、しっぽから下半身がどろどろ、それが下半身にこびりついて衛生状態も最悪です。また、コンクリートの床が滑って牛がころぶこともあります。

 糞尿のついたしっぽが搾乳のときにじゃまだというので、しっぽを切断する農家さえあります。

 また、大量の糞尿は畜産廃棄物として環境汚染を引き起こしています。

●牛に寿命はない

 メス牛は生後1年くらいで人工授精が施され、人間と同じく9ケ月で出産しますが、母体が休む間もなく次の人工授精が行われます。牛の生理を無視したこのような過剰出産、過剰搾乳は、母牛の体から健康を維持するための養分を奪い続け、体力を失わせていきます。

 その結果として、乳牛はわずか5~6年で「老廃牛」とされてしまうのです。ちなみに肉牛の場合はさらに短く2~3年でと殺されます。

 牛に限らず、食用の畜産動物は「天寿を全う」することがありません。若くて「生産性」の高いうちにと殺した方が経済効率が高いからです。また、不自然な飼育方法のせいで病気が多発することも理由の一つと考えられます。

●と畜の方法

 「廃牛」ということになると、農家はばくろうと言われる仲買業者に牛を売ることになります。どんなに劣悪な牛舎であったとしても、トラックの荷台に追い立てられ、長時間水も餌も与えられず、と畜場に揺られていく不安に比べればまだましでしょう。

 と畜場では朝早く各地から牛を満載したトラックが次々とやってきます。中には自分の運命を知ったのか必死にあばれて抵抗する牛もいます。涙を流す牛もいます。私は、心ある人は一生に一度はこのと畜場を見学すべきだと思います。(「ALIVE」No.19参照)

●家畜福祉の必要性

 動物の固有の生理、習性を無視した、経済効率一辺倒の飼育方法は、動物たちに大きなストレスと苦痛を与え続けています。その結果として、牛たちは体の具合が悪くなり、体力が衰え、病気がちになります。そのために医薬品が大量に投与されることになり、経済効率が落ちるばかりか、結局のところ動物性食品を口にする人々も健康を損なうという悪循環に陥っています。

 現在、このような苦い経験を通じ、集約畜産は、時がたつと経済的に利益よりも損失を高めるばかりだということがようやく知られるようになってきました。

 畜産動物が健康であるためには、その福祉を向上させなければいけないということも理解されるようになりつつあります。家畜の福祉は、「5つの自由」という概念で知られています。

1.飢えと渇きからの自由、
2.不快からの自由、
3.痛み、傷、病気からの自由
4.通常行動への自由、
5..恐怖や苦悶からの自由

 動物(人も含め)はみな、このような自由を求めています。動物の生理、習性、生態を理解し、その必要とするところをできる限り充足させてやることは、動物福祉の原則です。

 畜産動物の健康と福祉をはかることは、動物をよりよい状態にしてやるばかりでなく、人間自身の健康のためにも、環境保護のためにも、必要なことなのです。

●畜産業の経営悪化

 現在、日本の畜産農家は減少しつつあります。労働時間が長く仕事がきついのみならず、コストがかさみ収益があがらないなどによるものです。輸入の濃厚飼料は穀物相場の変動で翻弄され、動物用医薬品の購入費もかさみます。販路はすべて大手流通企業にまかせてきたために、原乳は安く買いたたかれ、しかも、農業政策の失敗で乳価は暴落し、農家の赤字はかさむ一方です。

 この解決策として、新たな設備投資、頭数増加、規模拡大で乗り越えようとすれば、ますます労働はきつくなるという悪循環。それでも利益が出ればまだましですが、孫子の代まで返済義務が課せられるという状態で、離農も年々増えています。

 また、飼育頭数の拡大は当然のことながら、大量の糞尿を生み出し、その処理問題を引き起こしてしまいました。家畜の糞尿は河川に流れ込み、深刻な水質汚染や衛生問題となっています。2003年から処理施設の設置が義務づけられますが、その費用がまた経営を圧迫するのです。

●環境保全

 これまでひたすら規模の拡大を推奨してきた政府(農水省)は、このような集約型の酪農が破綻しつつあることをようやく認識し始めました。

 新農業基本法は、従来型の農業・畜産業の転換をはかり、「農業の多面的機能」を打ち出しています。有機農業、食の安全と環境保全、環境教育の場の提供、生物多様性の維持などがその多面性とされています。

 しかし、母牛の血と涙の産物である牛乳が、「水より安い」状態である限り、すべては絵に描いた餅にすぎません。大量生産、大量消費は、安全でおいしく環境も汚染しない牛乳の生産と矛盾しています。私たちはこれほど大量に牛乳を消費する必要はもうないのです。

 消費者がこの問題に気が付くことしか、真の解決の道はないと信じます。