PEACE 命の搾取ではなく尊厳をより国会請願書名

http://animals-peace.net/animal_law/petition-for-animalwelfarelaw

郵送で、2018年1月15日着だそうです。

 

地球生物会議ALIVE「ブラックボックスの中の日本の畜産」

http://www.alive-net.net/animalfactory/fact/blackbox1.htm

 

ブラックボックスの中の日本の畜産

家畜福祉の視点からの問題点 

 ALIVE No.79 掲載より  矢崎栄司

 

2010年5月、宮崎県で発生した口蹄疫のために、数十万頭もの牛や豚が殺処分されている。BSE、鳥インフルエンザ、口蹄疫と、次々と感染症が発生する背景には、動物の生理、習性、生態を無視した、あまりに過酷な飼育方法にも一因があることを、消費者はしっかりと知る必要がある。

 


CM映像やポスターに惑わされる消費者の目

 これまで、日本の畜産業の実態は一般の消費者の目に触れることはなく、ブラックボックスの中に置かれてきました。

 よく乳製品のテレビCMやポスターなどで、乳牛が広々とした牧草地でゆったりと草を食べる姿が映し出されていますが、それはあくまでも消費者に見せるための宣伝用の姿で、実際に乳を生産している牛が牧場の草地に放牧されて育てられることは、ごく一部の放牧酪農を行っている例を除いてほとんどありません。

 また、乳牛に限らず、食肉用の牛、豚、鶏、採卵鶏(卵を生産する鶏)のほとんどが、狭い畜舎内で密集した状態で飼われています。
 そして、 ほとんどの消費者は、実際に家畜が飼育されている畜産の現場を見たことがなく、見たくても家畜伝染病の持ち込み(感染)を防止するためという理由で、一部の畜産業者を除いて、畜舎内への立ち入りを拒否されます。そして、CMやポスターの消費者向け画像やパンフレットなどに 惑わされているのが実情です。

 

 ニワトリの場合

ニワトリ1羽のスペースは、B5判の週刊誌ほどの広さしかない。羽ばたくことさえできない。 鶏舎では、ストレスに耐えかねたニワトリたちが、毎日のように死んでいく。


一生、太陽の光を浴びることのない採卵鶏、ブロイラー(食肉用鶏)

 採卵鶏の養鶏方法はケージ飼いと平飼いに分けることができます。ケージとは英語のcage(鳥カゴ)が語源で、 鶏舎内に長い鉄性のケージを設置し、それを小さなスペースで仕切って、その中に鶏1羽~数羽を入れて飼う方式です。大方はそのケージを2段~数段重ねにしてあり、大規模な採卵養鶏場では1つの鶏舎に何列ものケージを並べて数万羽を飼育しています。ケージに入れられた鶏はほとんど身動きできず、羽を広げることもできません。

 さらに鶏舎内は卵を多く産ませるため、あまり運動をさせないように薄暗くして餌を食べさせます。照明時間を調節する必要があるので、多くの鶏舎が外光を遮断した閉鎖型のウインドレス(窓無し)鶏舎になっており、生まれてから一度も太陽の光を浴びたことがない鶏がほとんどです。鶏に本来備わっているはずの日の出とともに目覚め、日が沈むと眠るという体内時計がまったく無視されているのです。

 平飼いとは、鶏をケージに入れず、鶏舎内や屋外を自由に動き回れるようにして飼う方法で、鶏舎内の平飼いでは鶏は産卵箱の中で卵を産みます。ケージ飼いのように、産まれた卵が鶏からすぐに分離されないことから、汚れや傷が付く前に卵を集める必要があるため、ケージ飼いより人手がかかります。経済性を求める現代の採卵養鶏においては、屋外の広い敷地での平飼い(放し飼い)はほとんど行われていません。

 一般の食肉用鶏(ブロイラー)の鶏舎では、床に何千羽もの鶏が過密状態で飼われており、羽を広げたり、自由に動き回ったりすることができません。また、鶏舎内は早く太らせるために、一般の採卵鶏の養鶏場同様に薄暗くしたウインドレス鶏舎であまり運動をさせないようにして、高カロリーの餌を食べさせています。ですから鶏のほとんどが生まれてから一度も外の景色を見ることも、太陽の光を浴びることもない
まま出荷されて食肉となります。

 ウインドレス鶏舎は外気を遮断しますので、鳥インフルエンザなどの感染症を防ぐことができるので安心だといわれてきましたが、実際にはウインドレス鶏舎で鳥インフルエンザ感染がありました。ウインドレス鶏舎は密閉されているので、1羽でも感染するとまたたく間に全体に感染が広がり、被害が大きくなります。

 一方、鶏舎内や屋外の地面を鶏が自由に動き回れる平飼いでは運動をして育つので、出荷までの日数はかかりますが、鶏の受けるストレスが少なく、その違いが鶏の健康面や卵、肉の質にも表れ、感染症に対する抵抗力も強いようです。

 

 ブタの場合

密閉された豚舎に超過密で、しかも数千頭規模で、飼育されている。いったん感染症が発生するとあっというまに広がってしまう。 母ブタは身動きできないようにワクに固定されている。EUではこの飼育方法を動物虐待だとして禁止する。

 

国産の牛、豚の大半は病変で内臓肉が廃棄されている

 日本の一般的な養豚場では、豚はコンクリートの床で、1坪当たり2~3頭という狭いスペースで飼われています。

 生まれてから約6カ月後、110~115キログラムにまで太らせて出荷しますから、成長するとほとんど身動きができない状態になり、豚が本来の習性として持っている鼻で土を掘り起こす、仲間と遊ぶ、駆けるなどの行動ができず、ストレスがたまってイライラして仲間に噛みつき、尻尾を食いちぎる、柵を噛むなどの異常行動が現れます。また、噛みつきなどのケンカや体が擦れ合ってできた傷口から病原菌に感染することや、ストレスと運動不足、不衛生な飼育環境などから病気にかかりやすくなり、病気予防・治療のために抗生物質などの薬剤注射が行われます。さらに、発育を促進させるために飼料添加物として抗生物質が餌に混ぜられています。

 豚や牛などの家畜は、と畜場でと殺、検査されて食肉になりますが、と畜場で病変が発見されると病状によって、と殺禁止、全部廃棄、一部廃棄処分となります。年間約1622万頭の豚と約120万頭の牛がと畜場でと殺されていますが、豚のおよそ68%、牛の80%に何らかの病変や炎症があり全部廃棄、一部廃棄になっています。

 廃棄される部分は病原菌におかされやすく、有害物質がたまりやすい内臓が多く、国産の牛、豚の内臓は大半が病変や炎症のために食べられない状況です。

 また、病気で死亡している牛の主な死因を、高カロリーの配合飼料(濃厚飼料)の食べさせ過ぎによると思われる消化器病や循環器病、過密で閉鎖的な畜舎内飼育によると思われる呼吸器病が占めています。

 動物用医薬品の増加にもかかわらず、家畜の病気が増えているのは、運動不足にして高カロリーの餌を食べさせ、早く大きくするという、家畜の内面や生理に大きなストレスがかかる飼育法に原因があります。

 

 牛の場合

霜降り肉にするためビタミンAが欠乏した餌を与えるため、多くの肉牛の目が見えなくなる。 体重500キロを越える乳牛が、首かせをされて、一生を過ごすスペースは、たたみ1枚ほどしかない。

 

霜降り肉をつくる特異な飼育方法が、牛に大きなストレスを与える

 日本の肉用牛の生産方法は、霜降り牛肉に象徴されるように、柔らかくて筋織維が細かく、脂肪交雑(霜降り)が起こりやすい遺伝的性質を持つ黒毛和牛に高カロリーの配合飼料を長期間与えて、かつ人為的にビタミンAを欠乏させて肥育(太らせることを目的に飼育する)するという、世界でも特異な飼育方式が主流です。

 黒毛和牛を霜降り牛肉にするためには、生後3か月くらいまでに乾草を十分に食べさせ、それ以降は筋繊維の間に脂肪を入れ込むために極端に高カロリーの濃厚飼料を与え、粗飼料は反芻を促すために必要最低量の乾草や稲ワラしか食べさせず、運動をさせないようにしています。

 また、黒毛和牛以外の肉用牛(黒毛和牛と他の和牛との交雑種やホルスタイン種) の肥育でも多頭数を早く増体(大きく)させて効率的な生産を行うために狭い牛舎で群飼い(密集飼育)し、極力運動をさせずに太らせるという飼育方法を行っています。

 そのため、牛は自由な行動や遊びができなくなって、牛特有の行動要求(本能的な動きや習性)を充たせなくなり、ストレスがたまって心の葛藤状態や欲求不満が続き、異常行動(仲間の乳首や陰嚢をしゃぶる、舌遊び、犬座姿勢など)が現れるようになります。感情を表すことや行動要求を抑制されたことによる絶望感が牛の精神に異常を来したといえるのではないでしょうか。

 東北大学大学院農学研究科の佐藤衆介教授らが行った実態調査では、種付け用黒毛和牛の雄牛の100%、同ホルスタイン種の雄牛の6%、食肉用に肥育されている去勢黒毛和牛の雄牛の76%、黒毛和牛の雌牛の89%、ホルスタイン種の17%で舌遊び行動が見られたそうです。

 黒毛和牛に異常行動が多いのは、霜降り肉にするために運動をさせず、牛の生理、感情を無視して太らせるための餌を与えるなどの特異な飼育方法が影響していると思われます。

経済性の重視が、家畜飼育の本来の姿を変えている

 多くの牛舎は風通しが悪くてほとんど日が差すことがなく、コンクリート製の糞尿排出溝に生の糞尿が溜まるなど衛生状態もよくなく、病原菌や寄生虫が繁殖しやすい状態になっています。こうした、不衛生な飼育環境では、運動不足で不健康な牛は病原菌や寄生虫に感染しやすく、病気にかかりやすくなります。

 そこで、牛舎内の病原菌や寄生虫類を駆除するために殺虫剤、殺菌剤がまかれ、病気予防のために抗生物質などの薬剤が大量に使われます。動物用医薬品として病気の予防や治療に使われ、飼料添加物として餌に混ぜられる抗生物質の量は、人間の医療用に使われる抗生物質の量の2倍以上といわれています。

 こうした畜産現場での抗生物質や薬剤の大量使用が、院内感染症の原因となるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの抗生物質や複数の薬剤に耐性を持つ(抗生物質や複数の薬剤が効かなくなる)耐性菌や多剤耐性菌を生み出す原因になっていると指摘されています。
 また、肉用牛は狭い牛舎内で、高カロリーでビタミンAを極端に減らした飼料を食べさせられるために、ますます肥満し、内臓に脂肪が溜まり、脂肪肝、動脈硬化が進み、糖尿病状態になってしまいます。と畜される直前には目が見えず、自分の脚で歩けないような状態になっていることも少なくありません。

 こうした、高脂肪、ビタミンA欠乏症で、いくつもの病気を併発した牛の肉を、多くの人が高級な霜降り牛肉として珍重しているのが実情です。

 日本の肉用牛の平均的な枝肉重量(屠殺後に頭・皮・内臓・肢先を除いた骨と肉の重量)は420~450キログラムといわれますが、近年では500キログラム台の枝肉も増え、600キロを超える枝肉も珍しくないようです。欧米の平均枝肉重量は250~300キロ程度といわれており、2倍の重量になっています。

 1頭あたりの肉量が多くなればそれだけ利益が増えますが、これではとても家畜飼育の本来の姿とはいえません。

乳脂肪分を増やすために畜舎で飼われるようになった乳牛

 乳牛についても、乳量および乳に含まれる脂肪分を高めるために、できるだけ運動をさせずに高カロリーの餌を食べさせる飼育方法が行われています。

 牛が運動をしてエネルギーを消費すれば、生産する乳量が少なくなり、乳に含まれる脂肪分(乳脂肪分)も減ります。日本では、第二次世界大戦以降、体力の増強のために食物の栄養価をカロリーで表し、高カロリー食ほど栄養価が高いとしてきました。

 そこで、牛乳も栄養価の高い食品として売るために、業界をあげて乳脂肪分(牛乳に含まれる脂肪分)を高めるように指導が行われました。
 また、脂肪は舌の上でコクや旨さを感じさせるために、「脂肪分が高い牛乳がコクがあっておいしい」と宣伝してきました。そのため、牧草地に放牧されて低カロリーの草を食べ、適度な運動をして育った乳牛から搾る低脂肪乳にはペナルティを課しています。

 本来なら、よく運動をする健康な牛はエネルギーを消費しますから、それほど高脂肪の乳にはなりません。体力を消耗する夏は乳に含まれる脂肪分はさらに減少しますので、味が薄く感じるのは自然なことで、かえってすっきりとしたおいしさで飲みやすくなるはずですが、脂肪分の少ない牛乳は栄養価が低く、おいしくないと消費者をミスリードしてきたのです。

 そのため、ごく一部を除いて全国の酪農家が放牧飼育をやめ、狭い牛舎に閉じ込めて運動をさせずに、高カロリーの飼料を食べさせて高脂肪乳を生産するようになったのですが、自然の摂理や牛本来の生理から見れば、不自然な飼育方法で生産された牛乳といわざるをえません。

 最近では、消費者の健康、ダイエット指向から、一般の高脂肪牛乳から人工的に脂肪分を取り除いた低脂肪乳が販売されていますが、これも不自然なことです。

ブラックボックスを開ける家畜福祉への関心の高まり

 コーデックス(国際食品規格)の有機畜産ガイドラインには、有機畜産の基本は「土地と植物、家畜の調和した結びつきを発展させること」「家畜の生理的および行動上の要求を尊重すること」であり、「家畜の飼育は生き物への配慮と責任、尊厳のある姿勢でなされるべきである」として、家畜福祉の飼養管理原則が定められています。

 家畜福祉の飼養管理原則では、

・畜舎から放牧・草地への往来が自由にできること

・有機栽培飼料を給与すること

・自然交配が望ましい。受精卵移植や遺伝子工学の利用はしない

・子牛を母牛から引き離す単房飼いはしない

・自由に動き回れないようにするつなぎ飼いは認めない

・病気予防に抗生物質を含む動物医薬品を使用しない

・除角(角の切り落とし)、断尾(尻尾の切り落とし)、抜歯などを行ってはならな い

・家畜の特殊な行動要求(本能的な動き、習性)を考慮し、自由な日常活動ができる環境にする

・同じ種の仲間と一緒にいることができる環境をつくる

・異常な行動やけが、病気の予防

・家畜にとって必要充分な新鮮な空気と自然光の確保(ウインドレス鶏舎や薄暗い外気や外光の入らない畜舎での飼育禁止)

・家畜の健康と活気を維持できる飼料と新鮮な水の給与

・牛舎の床は滑りやすくてはならず、全面をすのこまたは格子構造としてはならない

・心地よく清潔で乾いた充分な広さの休息場所を有し、充分な乾いた敷き藁が敷かれていなければならない

とされています。

 このコーデックスのガイドラインに沿って、日本の有機畜産物の規格が制定されており、日本でもようやく有機畜産への関心が高まってきましたが、実際に家畜がどのように飼育されて、食用とされているか、その実態がまだまだ消費者には知らされていません。日本の畜産業のブラックボックスが開いて、消費者がその実態を見ることで、改めて食の安全と家畜の福祉レベルが高まればと願っています。

 まだ、畜産業者や研究者の中には、牛や豚、鶏などの家畜を経済動物と捉え、「しょせん、食べるものだから」とか、「家畜に感情や知性などがあるわけがない」「肉体的な痛みは感じるにしても、精神的な苦しみや痛みを感じることはない」と強弁する人が大勢います。しかし、専門家でなくても、家畜と触れあった経験のある者なら、彼らが感情や知性を持ち、悲しみや苦しみ、怒り、喜びの気持ちを表現することが分かり、愛情と慈しみの心を理解できます。

 また、食の安全という面からも家畜の健全な成長は不可欠のことです。動物が好きだから畜産業界に入った人も大勢います。それだけに、家畜福祉をもっと真剣に考え、真摯に取り組んでほしいものです。それには、消費者の声が欠かせません。


<本来の酪農、畜産の姿>


広々とした牧場の草地で草を食べる、群れとともに放牧されている牛。


自然の中に放牧され、運動をして健康に育つ牛の群れ。現在、放牧飼育は減少しつつある。


ゆったりとしたスペースがあり、乾草を敷いた牛舎。ストレスの少ない飼育環境の例。


変化に富んだ自然の中への放牧で、牛は本来行動要求(本能的な動きや習性)を充たすことができる。