義務教育の建前と現実が、あまりに違っています。それで、新しい法律ができました。

 2017年2月に施行された「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)です。

 

 日本の義務教育は、法律の建前上はすべての子どもが法律で定義された「学校」に行くことになっています。ところが実際は、不登校の子どもたちはたくさんいるし、ホームエデュケーション家庭も存在している。フリースクールもあります。

 いままで、そういう子どもたちに対して「どうやって行かせるか」ばかり考えていました。それでは、無理でしょう。学校だって、文科省だって、保護者だって、みんな手を尽くしていた。でも、不登校は減らない。学校以外の教育を考えるしかないはずだけど、法律が「全員就学」と言っているから、枠を外れることができませんでした。

 

 憲法第26条第2項により、保護者は子どもに教育を受けさせる義務を負っています。しかし、もし子どもが学校に合わなくて学ぶことができないならば、保護者はどうしたらよいでしょうか。教育を受けさせる義務があるのだから、保護者が家庭で育てるなり、フリースクールを探すなり、子どもが受け入れることのできる教育を手配しなければならないはずです。

 

 ところが現実は、法律が整備されていないために親が教育を手配できませんでした。

 

 現在の義務教育を定めた「学校教育法」は1947年の施行です。その時代は、家業を手伝うために学校に行かせてもらえなかったり、年季奉公に出される子どもたちがいる時代でした。そのため就学義務を定め、就学させない場合の罰則規定まで設けたのでした。

 

 それから70年、社会はまったく変わってしまいました。昔は「学校に行かせてもらえないかわいそうな子どもたち」が問題だったのですが、今は「学校に行かされているかわいそうな子どもたち」が問題なのです。義務教育はもっと柔軟になり、どんな立場の子どもも、自分に合った教育を受けられるようにしてほしい。それが、現在の要請です。

 

 この法律の第3条(理念)がこう言います。

 

  一 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、

     学校における環境の確保が図られるようにすること。

 

 これは、「学校に来させなさい」ではありません。学校のほうの環境を整えてください、ということなのです。 

 

  二 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童

   生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること。

 

 これは、在宅学習、フリースクールなどで学ぶことに、法的根拠を与えました。子ども、保護者側も安心して他の道を選べるし、学校側も全員を学校に復帰させようと無理しなくて済みます。

 

  三 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境

   の整備が図られるようにすること。

 

 これは、学校復帰だけを要請しているのではなく、「不登校児童生徒のままでも、教育を十分に受けられるように手配してくれ」の意味です。インターネットの活用、図書館の利用、行事への参加などなどのことです。不登校の子どもたちが学校に戻れば、もう不登校児童生徒ではありませんから。

 

 決められた教育を受けることを強制するのではなく、教育が柔軟に生まれてくるようにする。それが、当たり前のことでしょう。

 


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