「離婚後共同親権」を導入する民法改正案については,令和6年4月に衆議院で採択されて,現在は参議院本会議で審議が継続されています。報道によりますと,令和6年5月中には参議院でも採択され,法改正が成立すると言われています。

 

 

 

 

 

 

そのような中,注目される答弁が参議院本会議で法務大臣からありました。「離婚後共同親権は憲法244条2項に違反しないか」との質問に対し,小泉龍司法務大臣は「現行民法で、夫婦の合意がなくても裁判上の離婚や親権者の指定が認められている。これを踏まえれば憲法24条に違反しない」と述べたのです。

 

 

 

 

 

 

福祉新聞令和6年5月4日付配信の記事/共同親権,違憲でない 参院で小泉法務大臣

 

 

 

 

 

私の個人的な考えを述べますと,逆に現在の「離婚後単独親権制度」こそが,憲法24条2項(法の下の平等)や憲法14条1項(法の下の平等)や憲法13条(人格権,幸福追求権)に違反していると思います。現在の「離婚後単独親権制度」は,離婚後の親権を巡り,子の連れ去りを生み,さらには子と別居親との面会拒否と面会制限を生んでいるからです。

 

 

 

 

 

 

そのような「離婚後単独親権制度」の違憲性は,近時出されている以下の裁判例や,近時明らかとなっている以下の心理学と医学の研究結果からも明らかだと思います。

 

 

 

 

 

 

逆に,参議院本会議で小泉龍司法務大臣が答弁されたとおり,「離婚後共同親権制度」は憲法24条2項に違反しないだけでなく,憲法14条1項,憲法13条,さらには児童の権利条約にも適合し,それらの法規範の理念を実現するものであることは明らかだと思います。1日も早い「離婚後共同親権制度」の成立と「チルドレンファースト」の理念の発現を期待したいと思います。

 

 

 

 

 

 

1 裁判例

 

 

 

 

 

①大阪地裁令和5年7月31日判決(令和3年(ワ)第11934号)及びその控訴審である大阪高裁令和6年2月7日判決(令和5年(ネ)第1913号)は,以下のとおり判示した。
 

 

 

 

 

「国家から不当に介入されることのない自由権としての「子が親に養育される自由」「親が子を養育する自由」は、いずれも個人の人格的生存に不可欠な利益というべきであり、憲法上の権利として保障される人格権の一内容として、憲法13条によって保障されると解するのが相当である。」
 

 

 

 

 

②東京高裁令和6年2月22日判決(自然的親子権訴訟)は,以下のとおり判示した。
 

 

 

 

「このように考えると,子が親から養育監護を受け,親と関わることは,子の生存や人格の形成,発達及び成長並びに自立に不可欠であるから,そのうち,それを国から妨げられない自由権は人格権の一種として,憲法13条によって保障されており,かつ,それが私人間の関係で保護される利益も,憲法13条によって尊重されるべき利益であると解される。さらには,親が子を養育監護し,子と関わることを妨げられないこと(親の子を養育監護等する自由)も,親自身の自己実現及び人格発展に関わる重大なものであるから,人格的な権利利益として,憲法13条によって保護されていると解すべきである(大阪地方裁判所令和3年(ワ)第11934号令和5年7月31日判決参照)。
  
 

 

 

 

 

2 心理学研究結果
  
 

 

 

 

面会交流は,子が両親と同じように触れ合うことで,健全な成長ができることを理念とした制度である。心理学者の研究により,親が別居している子については,子が別居親と面会ができていればいるほど,子は自己肯定感が高く,また人とのコミュニケーション能力も高いことが分かっている。
 

 

 

 

 

例えば,科学研究費助成事業研究成果報告野口泰彦(研究代表者)他「離婚後の面会交流のあり方と子どもの心理的健康に関する質問紙とPAC分析による研究」には,心理学的調査から,子どもが別居親と交流を持つことは,親への信頼感において重要な要因となることが確認されたこと,また,別居親と子どもが満足するような面会交流がされている方がそうでない場合よりも,自己肯定感や環境への適応の得点が高いことも明らかになったこと,この結果は,離婚後も別居親が親としての役割を継続していくことが,子どもの経済的・心理的な成長につながっていくことが示されたことなどが記載されている。
 

 

 

 

 

 

3 医学的研究結果

 

 

 

 

 

 

近時の科学的研究により,子と親が直接触れ合うことで,子の脳にも,親の脳にも「オキシトシン」という「愛情ホルモン」と呼ばれる物質が分泌されることが分かっている。「オキシトシン」の分泌が,離婚後も別居親が親としての役割を継続していくことが,子どもの経済的・心理的な成長につながっていく科学的根拠である。子が自己肯定感が高く,また人とのコミュニケーション能力が高い人物へと成長するためには,子と別居親との直接の面会交流が必要不可欠である。
 

 

 

 

 

例えば,国立研究開発法人国立成育医療研究センター「乳児期における父親の育児への関わりが多いことが,子どもが16歳時点でのメンタルヘルスへの不調を予防する可能性」では,乳児期における父親の育児への関わりが多いことが,子どもが16歳時点でのメンタルヘルスへの不調を予防する可能性が示唆された,との研究結果が公表されている。