献血に関するわたしの解答が、記事になりました。


医師が解説する献血の仕組みと採決時に行われること。


必ず誰かの役に立つ、身近な社会貢献。「献血」の仕組みと、不安や疑問への医師からの回答




日本ではこの10年間で、10~30代の若年層の献血が約3割減少しています。献血には69歳まで(65歳以上の方については60歳以降に献血経験のある場合のみ献血可能)という年齢制限があり、今後少子高齢化がますます進むことを考えると、若年層の献血率の低迷は、将来の血液の安定供給に支障をきたす恐れがあるのです。

そこで、医師であり医療ジャーナリストの森田豊先生に、国内における血液事業の現状や社会課題について伺い、献血にまつわる不安や疑問にお答えいただきました。



手術や事故での輸血はわずか3%献血された血液は何に使われる?

献血した血液が何に使われているか知っていますか? “血液がたくさん必要な場面”として思い浮かぶのは、手術や事故などで大量輸血が必要なとき。ところが、「実際にけがの治療で使われる血液はわずか3%」なのだと、森田先生は言います。

「意外に知られていませんが、献血された血液の83.5%が病気の治療に使われています。血液はまず日本赤十字社(通称=日赤)の血液センターに運ばれ、赤血球、血漿、血小板などの成分に分離・精製され、さまざまな種類の血液製剤に加工されています。
これらは病院で患者さんに輸血されることで、各種がん、白血病、心臓病、肝疾患、再生不良性貧血などの治療に生かされています」(森田先生、以下同)



10~20代の若年層の献血が減っている理由

日本赤十字社によると、2022年度に献血をした30代以下は167万人。2012年度の251万人から約33%減となっており、若年層の「献血離れ」が続いています。この状況に、森田先生は警鐘を鳴らします。

「知っておいてもらいたいのは、輸血を受ける人の約85%が50歳以上であるという事実。最近では、これまで輸血を支えてきた40代以上の献血者が、次第に『輸血を受ける側』になっています。献血に協力してくれる若年層の減少は、医療現場にとって大きな痛手になります」

この10年の減少傾向は、少子化やコロナ禍の影響も考慮されますが、なぜ若年層は献血に行かなくなったのでしょうか?

「献血が高齢者の健康や病気の治療を支えている事実について、啓発活動が足りていないと個人的には感じています。血液の大半が手術やけがの治療だけに使われていると勘違いしている人はいまだに多いですから。 
また、血液から製造される輸血用血液製剤に使用期限があることを知らない人もいます。血漿製剤は冷凍保存が可能で使用期限は採血後1年ですが、赤血球製剤は28日、血小板製剤は4日で使い切らなければ廃棄になります。だからこそ、常に新しい血液を集め続けなければならないのです。こうした献血の必要性が若い人たちに正しく理解されていないのが問題の一つです。

もう一つの理由として考えられるのが、心理的ハードル。

「献血未経験者が献血に対して不安を抱き、一歩を踏み出せないでいること。採血したら貧血になるんじゃないかとか、重篤な副作用があるんじゃないかとか、そういう不安を払拭する情報が行き届いていないことも、若年層の献血がうまくいっていない原因だと思います」

若い人たちに献血へ協力してもらうためには、同年代の人たちからの発信が鍵になると、森田先生は話します。

「コロナ禍で献血に協力してくれる人が激減したとき、競泳の池江璃花子選手が自身の白血病治療の経験を語るとともに、Twitter(X)で献血への協力を呼びかけてくれました。彼女の発信のおかげで、コロナ禍でありながら献血者数は一気に増加し、一時的ではありましたが献血量が満たされた状態になりました。みんなで声を掛け合って取り組めば、献血の促進につながると思いますよ」




献血に行く前に解消したい不安や疑問への医師の回答

ここでは、若年層が献血に抱いている具体的な不安要素を取り上げ、それに対する森田先生のアドバイスを紹介します。


Q.針が怖い、採血が痛そう

「採血用の針は予防接種の針より明らかに太いのですが、痛点(皮膚面に分布する痛みを感じる点)が少ない肘の内側に刺すため、そんなに痛くないと思いますよ。針が皮膚に刺さるときだけにチクッとするくらい。一方、予防接種の針は細くて一見痛くなさそうですが、インフルエンザワクチンに代表される皮下注射やコロナワクチンのような筋肉注射では、皮下や筋肉に薬液が入っていくときの痛みがかなり強いはずです。献血ではそのような痛みはありませんから安心してください」


Q. 献血に副作用はありますか?

「献血で起こりうる副作用として、もっとも発生頻度が高いのが血管迷走神経反射(VVR)と呼ばれるものです。採血への強い不安や緊張が原因とされており、気分不良、顔面蒼白、眩暈、けいれん、尿失禁などの症状が表れます。発生率は軽症の人が献血者全体の約0.6%、重症の人が約0.08%です。そこで日本赤十字社では、予防策として採血中に『レッグクロス運動』を行うことを推奨しています。足を交差し、筋肉に力を入れては緩める運動をくり返すことで、全身の血流が良くなりリラックスできます。


「その他の副作用としては、腕に電気が走るようにピリピリとしびれる神経損傷。たいていは2~4週間で軽快します。また、どうしても針を刺す必要性から、皮下に出血が生じることもあります」


Q. どのような場合に献血を断られますか?

「献血を断られる典型的なケースについては、日本赤十字社の公式サイトにある『献血をご遠慮いただく場合』というページに詳細にまとめられています。そのなかから、10~20代の方にとくに関係の深い項目をいくつかピックアップしてみましょう」

・当日の体調不良、服薬中、発熱などがある人
当日に献血できない理由としてもっとも多いのが体調不良です。また、内服していて支障のない薬は、ビタミン剤および一般的な胃腸薬など。それ以外の薬は種類によって献血できない場合があります。女性の場合、月経中でも貧血でなければ献血することが可能です。最終的な献血可否は、当日の採血現場の健診医師が総合的に判定します。

・出血を伴う歯科治療(歯石除去を含む)を受けた人
【献血できない期間】治療日から3日間
【理由】口腔内常在菌が血中に移行し、菌血症になる可能性があるため

・6ヶ月以内にピアスの穴をあけた、またはピアスを付けた人
ピアスについては、身体の“どこに”、“どうやって”付けたかによって献血の可否が異なります。

1.耳たぶ・へそ周りに、医療機関または使い捨て器具で穴をあけた場合
【献血できない期間】1ヶ月間
【理由】細菌感染の危険性があるため

2.友人同士などで安全ピンや針を共有して穴をあけた場合
【献血できない期間】6ヶ月間
【理由】エイズ、B型肝炎およびC型肝炎などウイルス感染の可能性があるため

3.口唇、口腔、鼻腔など粘膜を貫通してピアスを挿入している場合
【献血できない期間】ピアスを挿入中は献血不可
【理由】細菌感染の危険性があるため

4.口唇、口腔、鼻腔など粘膜を貫通しているピアスを外した場合
【献血できない期間】6ヶ月間+最低3日間
【理由】エイズ、B型肝炎およびC型肝炎などウイルス感染の可能性があるため

・帰国日(入国日)当日から4週間以内の方
【献血できない期間】入国日当日から4週間
【理由】輸血を媒介して感染が危惧される疾患によるリスクを軽減するため

「このように、献血の可否の判断は多岐にわたるため、一度、献血ルームで医師に問診をしてもらい、自分が献血できるかどうか相談してみることをおすすめします。また、以前に献血を断られてしまった方でも、体調や状況が変われば献血できる可能性がありますので、ぜひもう一度、足を運んでいただけたらと思います」


Q.空き時間に献血できる場所はどうしたら見つかりますか?

「各都道府県にある日本赤十字社の支部や血液センターの公式サイトには、『最寄りの献血ルームを探す』というメニューがあります。位置情報を連携させると現在地周辺の献血ルームをすぐに探すことができるので、空き時間に献血ができ便利です。また、『献血バス運行スケジュール』というメニューもあり、市区町村と予定日から絞り込み検索ができます。
最近の献血ルームは清潔でアメニティが充実している印象です。工夫を凝らしたスペースも多くなってきています。例えば、秋葉原にある『akiba:F献血ルーム』には漫画がたくさん置いてあったり、フィギュアが飾ってあったりして、若い人たちには楽しい雰囲気ですよ」


秋葉原の『akiba:F献血ルーム』。

東日本初の血漿成分献血ルームとして2023年5月にオープンした『東京八重洲献血ルーム』。





「献血状況」グラフをチェックして献血を習慣化

献血を習慣化する場合、どれくらいの頻度で献血ルームに通うといいのでしょうか?

「血液の需要というのは日々変動しており、地域によっても血液型によっても異なります。また、保存している血液製剤には使用期限があり、需要を予測することは非常に困難です。そのため、1ヶ月に1回献血すればいいと単純に答えることはできません。
参考になるのは、日赤の各都道府県血液センターの公式サイトに掲載されている『献血状況』というグラフ。その地域で必要とされている血液型がすぐにわかります。自分と同じ血液型が必要とされていたら献血に行くという習慣を作るのもいいですね」

日本赤十字社各都道府県血液センターの公式サイトにある「献血状況」を参考にしてください。(上記は2024年4月26日時点の関東甲信越地域の献血状況)



「献血は習慣にすることが重要で、一回で終わらないでほしいと切実に思います。献血を支えているのは、リピーターの方々です。みなさん定期的に通われていて本当に素晴らしいことです」


献血は日常生活のなかでできるボランティア活動

最後に、森田先生からメッセージをいただきました。

「少子高齢化が進むなか、両親や祖父母、お年寄りのために何かしてあげたいと考えている人もたくさんいると思います。ただ、実際には日々の生活が忙しくて時間が取れなかったり、具体的に何をすればいいかわからなかったりする人もいるでしょう。
それでも、何らかの形で人の役に立ちたいと考えているなら、『献血という方法があるよ』とお伝えしたいと思います。献血なら比較的短時間でできますし、正しい知識を持って習慣化してしまえば、何十回でも社会貢献をすることができます。献血ルームに足を運んでいただき、この素晴らしいボランティア活動にぜひ参加してください」


Profile


医師・医療ジャーナリスト / 森田 豊

秋田大学医学部、東京大学大学院医学系研究科を修了、米国ハーバード大学専任講師等を歴任。現役医師として診療に従事しつつ、各種メディアでさまざまな疾患・体の仕組みの解説、現代の医療問題への提言をしている。東京上野ライオンズクラブにて献血促進活動に従事。


取材・文=中牟田 洋子(Playce) 写真協力=日本赤十字社




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