カンボジアにいても、食べていけない。だから、タイに行く。密入国してでも。
ただ、これだけ。
タイは、もう46日間も国内での新型コロナウイルス感染者が確認されていません。
最近感染がわかったのは、国外から帰国し、14日間の検疫隔離期間中にあるタイ人ばかり。全体を見ても、タイは7月10日時点での感染者総数が3,202人。死者は58人。現在治療を受けている患者数は57人。コロナの封じ込めに大健闘しています。
そのため、2か月以上かけて段階的に行ってきた規制緩和もかなり進み、経済も動き始めています。
一方の、隣国カンボジア。
感染者数は141人で死者はなし。こちらもコロナ封じ込めの優等生。しかし、観光客の激減や、世界的な需要減のため縫製工場が次々に閉鎖され、さらに開校が認められない教育機関関係者らを中心に、失業者が数十万人に達していると推測されています。
いつもなら、アンコールワット観光で賑わうシエムリアップも、市内随一の繁華街パブ・ストリートも人手がなく閑散としています。店じまいしたところもたくさんあるようです。日本人がオーナーのレストランもいくつかありますが、果たしてこの危機の中で、どうしているか気になっているところです。
カンボジアで失業。そうなると、経済が動き始めたタイで働こうと考える人が出てくるのも当然のこと。ましてや、3月下旬に始まったロックダウンを受けて、一時的に帰国した出稼ぎ労働者も少なくありません。そうした人たちも、早くタイに戻って復職したいと考えていることでしょう。
しかし、タイ政府はカンボジアとの国境を開いていません。出稼ぎ労働者たちが戻ることを拒んでいるのです。
表向きの理由は、新型コロナウイルスの越境を阻むため。しかしこれはどうも、いささか説得力にかける理由。なにしろカンボジアは、タイよりも感染者数が少ないのですから。
そこで推測されるのが、陸路の国境を開くことで、大勢のカンボジア人が出稼ぎ労働目的で入ってくることを防ぐため…。
観光業を中心に、多くのタイ人が失業しています。経済活動が再開されてきたとはいえ、コロナ前の水準まで経済が回復する見込みは立っていません。そういう状態であるところに外国人出稼ぎ労働者が流入してくることは、政府にとって喜ばしいことではないでしょう。
よって、国境を閉じたままで、密入国者の取り締まりに軍や警察を動員中。昨日も、107人が密入国の容疑で逮捕されています。
カンボジア人の自供によれば、一人3, 000バーツ(約1万円)を支払って、ブローカーに国境からタイ国内に移動するための自動車手配をしてもらったのだとか。陸続きならではの密入国方法ですが、それにしても彼らには、逮捕される危険がわかっていても、タイで働く以外に選択肢がなかったのでしょう。自分が生きていくために。そして、家族を養うために。
新型コロナウイルス。
歴史には、感染者数○○百万人、死亡者数○○十万人、経済的損失○○兆ドルと記録されることでしょう。
しかしそこに、市井に生きる人たちの苦労、困難、悲哀は記録されません。いつもことではありますが。