私が担当させていただいている離婚後単独親権制度違憲訴訟において,とても重要な動きがありました。それは,日本が批准している国際人権条約である子どもの権利条約の条約機関である子どもの権利委員会から,日本に対して,離婚後共同親権を実現する法改正を求める勧告が出されたのです。以下の所見の27項(b)です。

 

 

 

所見27項(b)

27.委員会は,締約国が,以下のことを目的として,十分な人的資源,技術的資源および財源に裏づけられたあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。

 

 

 

(b) 子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同監護権を認める目的で,離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに,非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること。」

 

 

 

 

子どもの権利条約子どもの権利委員会日本政府に対する総括所見(2019年2月1日付)

 

 

 

 

国際人権条約は,世界中のどの国においても,同じ国際水準の基本的人権が保障されるようにと締結されるものです。そして日本が批准している国際人権条約の条約機関から出される,日本政府に対する法改正を求めた勧告は,「憲法解釈に意味を与える立法事実」として存在しているのです。

 

 

 

例えば,これも私が担当させていただいている,無戸籍児問題の解決を目指した嫡出否認制度違憲訴訟(現在最高裁に係属中)の第一審である神戸地裁判決(控訴審である大阪高裁判決も引用)は,以下のように判示しているのです。

 

 

 

 「日本が締約国となっている条約・勧告の内容や諸外国における立法の内容が立法事実となり得ることは否定できない。」

 

 

 

とすると,この度子どもの権利条約の条約機関から出された離婚後共同親権制度への法改正を求める勧告は,当然現在の民法の立場である,離婚後共同親権制度を一切認めず,離婚後単独親権制度のみを採用していることが,法の下の平等を定める憲法14条や,家族に関する事柄は個人の尊厳と両性の本質的平等に照らした立法を求める憲法24条2項に違反しないのかについての憲法解釈に影響を与えることになります。

 

 

 

 

離婚はあくまでも夫婦関係の解消にすぎないのに,一方親から子どもへの親権を全て奪ってしまう点,子どもの側からすると,両親と同じように触れあいながら成長する権利を奪う点,さらに申すと,親権者となった側による子どもを連れ去るなどの行為に対して親権を失う側が対処するための法律上の手段を失わせる点について,憲法適合性が問われるわけですが,当然そこに,日本が批准している子どもの権利条約の条約機関から,離婚後共同親権制度の法改正を求める勧告が出されたことが,大きく影響してくることだと思います。

 

 

 

 

さらに申すと,近時大きな社会問題となっている,親による児童虐待が多発していること,さらにはそれを防止する手段として,離婚後の共同親権制度が有効であることも,憲法解釈に大きな影響を与える事実だと思います。

 

 

 

 

今回の子どもの権利条約の条約機関による勧告は,日本政府と日本の社会に対して,発生している児童虐待を防ぐために,「離婚と子の親権」の問題を通して適切な法制度を創造していくことを求めるものです。その勧告は,私たちの心の中の羅針盤の針を,正義の方向に向けてくれるものだと思っています。