大阪の中之島にある東洋陶磁美術館で開催中の「台北國立故宮博物院 北宋汝窯青磁水仙盆」展を見てきた。青磁無紋水仙盆は「人類史上最高のやきもの」の触れ込み通りの名品だった。光沢の美しさは比類なく、とても感銘を受けた。
しかし、それよりも驚嘆したのは、「韓国陶磁室」になにげなく展示されていた「白磁 壺」(朝鮮時代17世紀末~18世紀前半、高さ45センチ)だった。
白磁 壺
http://www.museum.city.osaka.jp
壺はいったん粉々になり、つなぎ合わせて修復したというのだ。
一見したところ、修復品とは全くわからない。たまげた技術だ。
この壺は、志賀直哉(1883-1971)の愛蔵品で、東大寺元管長の上司海雲氏(1906-1975)に譲られたもの。上司氏と言えば、本ブログ「2016仏像重大ニュース 香薬師の右手」にも登場した、香薬師の右手の譲渡に関するキーマンである。
直哉は奈良に住んでいた頃に、文人や芸術家らを集めてサロンを作っていた。奈良を去るにあたってサロンを託したのが上司氏。それほど信頼していた人物で、壺は友情の証しとして贈られた。上司師は「壺法師」と言われるほどの壺好きだった。
志賀直哉 ja.wikipedia.org
壺は「志賀さんの壺」と呼ばれ、東大寺塔頭の観音院に長らく飾られていた。
しかし事件が起こる。
1995年、同院に泥棒が入ったのである。
見つかった泥棒は壺をもって逃げたが、
追いつめられ、石畳にたたきつけた。
ああ、もったいない。
泣く泣く、だったであろう、かけらも粉も大事に集められた。
そして、当時の観音院住職で後に東大寺の管長になった新藤晋海氏(1927-2001)が東洋陶磁美術館に寄贈した。壺は半年にわたる修復を経て、何事もなかったかのような姿に戻ったのである。
修復した人は気が遠くなるようなジグソーパズルをしたに違いない。
時間を巻き戻す神業である。