専制政治と独裁政治というのは混同されることが多いのですが、実際には明確な違いがあります。

 

専制政治とは、支配者が独断で自分の思うままに物事を決める政治のことを言います。そして、支配者層と被支配者層とに身分的に区別された社会で、統治者と被統治者が完全に分離しています。

 

独裁政治とは、一個人や少数の人または一つの党派が絶対的な政治権力を独占している政治体制のことを言います。専制政治とは違い、統治者と被統治者の身分は同一です。

 

一般的には、クーデターなどで独裁者となることが多いのですが、民主主義的な手続きによって独裁者が生まれることもあります。その典型例は、ナチスドイツのアドルフ・ヒトラーです。

 

 

先日、朝日テレビ系列で放送された「池上彰のニュースそうだったのか2時間SPで、経済体制(資本主義、社会主義)と政治体制(民主主義、独裁)という軸で各国を以下のようにポジショニングしていました。


国家ポジショニング


上述のように民主主義でかつ独裁ということはあり得ることですので、政治体制の軸で民主主義の反対としては、独裁ではなく専制の方が当てはまるような気がします。

 

もう一つの軸である、経済体制は資本主義寄りか社会主義寄りかということでポジショニングを行っていました。

 

ここで、社会主義というのはどういうものなのかを確認してみます。社会主義とは、生産手段の共有化や社会福祉制度によって生産物や富を民主的に分配して、平等な社会を実現しようとするものです。

 

この各国のポジショニングについては、少し疑問符が付くようなことが幾つかありました。

 

資本主義寄りなのか社会主義寄りなのかを判断する時、どのような要素を重視するかによってポジショニングは異なってきます。

 

番組では、日本が欧州の国よりも資本主義的だという理由は、欧州よりも格差が大きくなっているからと説明していました。しかし、実際には日本は世界の中でも格差が小さい国です(詳しくは「日本の富の集中度は世界最低水準」 参照)。

 

所得上位10%人口の資産が国の総資産に占める割合は、上の図の欧州のどの国よりも日本は低くなっており48.5です。

 

欧州各国は、英国54.1%、ドイツ61.7%、フランス53.1%、スウェーデン63.6%、ノルウェー65.8%、デンマーク67.5%、フィンランド54.5%、ギリシャ56.1%、ロシア84.8%となっています。

 

欧州の国は税金が高く、社会保障を厚くして所得の再分配をしようとしていますので、そういった理由から日本の方が資本主義的だと言うのであれば納得ですが、格差が大きいから欧州各国よりも資本主義的だと言うのは正確ではないような気がします。

 

日本よりも所得を再分配する制度になっていても、結果として日本よりも資産の偏りが大きいということは、それだけ所得の格差が大きいということが考えられます。

 

所得の再分配を鑑みて、日本が欧州各国よりも資本主義の色合いが強いということであれば、上の図のようなポジションになるのは納得できると思いますが、格差が大きいということで日本が欧州各国より資本主義寄りだというのは誤っているのではないでしょうか。

 

余談ですが、北欧をはじめ欧州の国々は税金や社会保険料などが高いため、共働きをしないとまともな生活ができないというのが実態です。欧州では、日本よりも女性の社会進出を支援する制度が整っていることは確かです。しかし、欧州は結婚して子供がいる女性も働かないと生活していけないということも、女性の社会進出が進んでいることの要因になっています。

 

 

また、北朝鮮が社会主義国の中で最も社会主義的だということになっていますが、富の公平や分配という観点から見ると、他の社会主義国どころか資本主義の多くの国よりも富が偏在していると思います。

 

北朝鮮だけでなく中国もそうですが、富が民主的に分配されていないという点では、形の上では社会主義国家となっていますが、実態は一部の特権階級に富が集中してまるで行き過ぎた資本主義のような格差があります。

 

池上彰氏の説明は分かりやすいとは思いますが、随所にこのようにいい加減なところがあったり、巧妙に大事なことを隠して嘘を混ぜ込んだりしています。だから彼の出演する番組には、そういったことを指摘されないように各分野の専門家が呼ばれていないというのは納得ですね。


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