ビル・ミッチェル(MMTer)翻訳紹介まとめ part1 | 批判的頭脳

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先日も触れたが、最近私は、経済学101(海外の経済学者のブログ記事etcを翻訳・紹介するサイト)の方に参加することとなった。

そちらでは、主に第一世代MMTerであるビル・ミッチェルの翻訳に携わっている。(第一世代MMTerには、他にもランダル・レイなどが居る。富国と強兵を読んだ方なら、レイの名前には聞き覚えがあるだろう)

今回は、既に翻訳済みのミッチェルの記事のうち、3つの記事(というより記事群)を一部抜粋や要約を行いつつ紹介したい。
How to discuss Modern Monetary Theory(MMT(現代金融理論)の論じ方)
MMT is what is, not what might be(MMTが論ずるのは『現実が何か』であって、『現実がどうあるべきか』ではない)
Deficit spending 101(赤字財政支出 101)
の三本だ。


ビル・ミッチェル「MMT(現代金融理論)の論じ方」(2013年11月5日)

『問題なのは、現実を把握するうえで常識に頼るのはむしろ危険な場合があるということと、公共の議論においてすべての意見が平等に扱われるように見えてしまうことだ。個人的な体験を一般化してしまう私たちの性質、つまり、あたかも経験が一般的知識を構築するかのように考えてしまう性質が公共の議論を支配している。マクロ経済の領域はこの種の誤った推論の主要な舞台の一つだ』

『主流経済学者はその反政府的また自由市場的なバイアスを働かせることにより、もともと民間の債務危機だったものを、国家の債務危機だったということに上手に再構築させていった。』

『公共の言論空間は、財政緊縮だけが実行可能な回復への道だというような主張に占領されているし、IMFやOECDのような主要な国際機関も財政緊縮が経済成長を妨げるということを認めようとしない。...帰結としてIMFは、自身の計算が誤りだという事を認めざるを得なくなり(IMF apology article)、その記事が指し示す事実は驚くべきものだったのだが、こうした告白は支配的な論説にほとんど影響を齎さなかった。』

・世界金融危機以前、主流派経済学は"景気循環の終わり""大いなる安定"を喧伝していた(バーナンキ、ルーカスetc)。
・その上で総需要調節としての財政政策を否定し、金融自由化、労働市場自由化といった愚を犯した。

・『経済は我々から分離され、我々の努力を認識し、その努力に応じて報酬を与える道義的裁定者』であるという経済観に、右派のみならず、左派も乗っかってしまっている。
・その結果、左派も「財政赤字を減らすとしても、その速度を下げよう」といった程度問題の議論に陥っている。

『大いなる安定は世界金融危機によって完全な停滞に陥った。...このとき、自己制御的市場という考えが神話であることが暴かれ、主流派経済学理論の体系全体が信用性を失うことになった――大学で教えられ、研究論文で学術的に用いられる支配的なニューケインジアンモデルは、どれもこの危機を予測できるようにはできていなかったし、危機に対する実行可能な解決法を提示できるものでもなかった。

最終的に、王様は裸だということが明らかになったのだ。』

『我々にとっての赤字は、その原資を見つけなければならないものだと理解されている。ところが、我々の代理人である通貨発行権付き政府にとっての赤字は、私たちの消費・貯蓄選択の原資となるものなのである。』

『財政赤字自体は善でも悪でもないが、非政府部門の消費意欲が現存する生産資源を十分かつ確実に利用するほど十分でないときには必要。』
『財政黒字自体は善でも悪でもないが、資源に余力があり黒字が成長の足を引っ張る状況においては有害である。』

『自国通貨をもつ政府がその貨幣を貯蓄するという考えが無意味。貯蓄とは将来の支出を確実にするための支出行動で、金銭的制約を持つ政府ではない存在に適用されるもの。政府は支出のための資金をあらかじめ用意しておく必要がないので”貯蓄”の必要性は全くない。』

『ある特定の政府純支出の水準に伴うインフレーションリスクは、赤字分と同額の債券を発行した場合と発行しなかった場合を比較しても違いはない。インフレーションリスクは、支出に関する金融的取り決めではなく、支出自体によって決定する。』


ビル・ミッチェル「MMTが論ずるのは『現実が何か』であって、『現実がどうあるべきか』ではない」(2017年4月20日)

『「MMTは、アカデミーの世界における経済学の思考法のレジームチェンジを行おうとしていたのであって、実際の金融システムの運用法に対するレジームチェンジをしようとしていたのではない」』

「MMTは、学問の世界における経済学の思考法のレジームチェンジではあるが、実際の金融システムの運用法のレジームチェンジというわけではない」』
『MMTは現実と非常に強い関係を持っている。一方で、主流派経済学は、現実の大部分を扱えない。』

『したがってMMTへと移行すること自体がより良い世界であると考えるのは、現実への誤解に基づいている。すべての形態及び規模の金融システムは、既にMMTに準じて運用されているのである。』
『事実として、我々は既にMMT的世界に生きているのである。』

・ミッチェルは「米大陸の考古学」「成人のニューロン新生」「ピロリ菌と胃潰瘍」等を引用して、科学のパラダイムシフトの類型を示している。


ビル・ミッチェル「赤字財政支出 101 – Part 1」(2009年2月21日)

『中央銀行の政府からの独立という論があるが、財務省と中央銀行のオペレーションを分離する実質的な意義はない。この統合された政府部門が、その経済における金融純資産のポジション(勘定単位での)を決定する。...この両者の組み合わせが金融純資産の水準を決めている。』

『中央銀行のオペレーションは非政府部門の金融資産を準備預金から債券に、あるいは逆に債券から準備預金へとシフトさせるのみに過ぎないので、中央銀行は実質的に金融純資産にはかかわっていない。』
『政府財政赤字は民間の金融純資産を...増加させる、黒字は逆に働く。』

『国内民間セクターの貯蓄を増やすことを目指すならば、純輸出が赤字とすれば、全税収は総政府支出よりも少なくしなければならない。つまり、財政赤字(G>T)にする必要がある。』
『政府があらかじめ支出しておいてくれないと民間部門は納税することができない』

『税...は単に、民間から支払い能力を奪いたいという政府の意向を反映して、非政府部門から流動性を枯渇させるだけのものなのだ...政府が黒字の時、民間貯蓄はその額だけ減少することになる。』

『少し考えれば「紙幣+準備預金(マネタリーベース)+民間が持つ国債」が非政府部門の金融純資産となるとわかる。非政府部門は、自身の純貯蓄形成のための資金と政府に対する納税のための資金の双方の供給を政府に依存している、というのが会計的な事実である。』


ビル・ミッチェル「赤字財政支出 101 – Part 2」(2009年2月23日)

『政府支出は、民間銀行が中央銀行に持つ口座に信用を与えることによってなされている。このプロセスは、何か先行する収入(つまり税や借入)と関係しているわけではない。また、この信用付与によって政府資産は何ら減少しないし、政府の支出能力が減じることもない。』

『家計、すなわち貨幣の使用者(user)は、使用者であるがゆえに支出の前に第一に資金を調達しなければならない。全く逆に、政府、すなわち通貨の発行者(issuer)は、必然的にまず支出...することによって、後日必要に応じて民間口座からの引き落としができるようになるのだ』

『政府は小切手を切ることなどで銀行口座に信用を与えるか、現金を出すことで支出(経済に金融資産を導入する)を行う。この支出は収入に制約されない。自国通貨を持つ政府は、支出に関しての金融的な制約はない。』

『徴税は、政府が支出するために必要な収入だというのがオーソドックスな理解だ。しかし真実はその反対だ。政府が支出することが、非政府部門に収入を提供し、それによって人々が納税義務を履行することを可能にしているのだ。』

『納税負債を決済するのに必要な資金は、政府が支出することによって非政府主体へと供給されている。...納税義務を課すことが非政府主体における政府貨幣の需要を創り出しており、このことによって、政府が経済的・社会的政策プログラムを運営できるようになっている』

『失業が発生するのは、民間部門が全体として、他の条件を一定とした場合、労働者を欲しつつも、稼得分の全部は支払わないことで貨幣を稼ごうとするからだ。その結果、モノやサービスの売り手のところに望まない在庫が蓄積し、ひいては産出と雇用の低下につながる。』

『こうした状況では、名目賃金(あるいは実質賃金)をカットしても、そうした賃金カットが民間部門の純貯蓄需要を取り除いて支出を増加させるのでもない限り、労働市場の失業がなくならない』

『もし政府が租税分と非政府部門の貯蓄需要を満たすのに十分な支出を行わないと、不足の兆候として失業が現れることになるだろう。我々の考えでは、いかなる時も民間の支出(貯蓄)決定は所与なのだから、失業の原因とは常に政府純支出の不足だ。』

『政府純支出の水準が不十分であっても失業が増加しない状態が持続する場合もある。...その場合のGDP成長は民間債務の拡張によってもたらされている...問題は...所得に占める債務元利払いの水準が一定割合を超えたときに、民間部門が”借入余力を使い果たし”てしまうことだ。』

『そうなると、民間部門は不安定性回避のためにバランスシートを再構成しようとする。結果として債務の拡張に頼っていた総需要は減速し、経済全体が傾く。ここに至り、財政の歯止め(不十分な純支出水準)の問題は、失業という形で顕在化し始める。』

『重要なのは...人々が雇用を希望しつつ、それまでのような消費水準(もしくは、さらなる債務形成)は望まない状況でも、政府が支出を行い、財・サービスを購入すれば完全雇用を維持することが出来るということである。そうしないと失業や不況が生じることになる。』

『不況経済では、資本側にも労働側にも多くの遊休資源があるため、財政赤字の拡張がインフレを促進するとは考え難い。...失業者は、定義によって”市場価格”がついていない。その労働力への需要がないからだ。価格のないサービスの購入は、何らインフレ促進的な行為ではない』


ビル・ミッチェル「赤字財政支出 101 – Part 3」(2009年3月2日)

『(a)財政赤字は金利に対して下落圧力をかける動態を持つ......(b)政府債務発行は政府支出の”資金調達”をするものではない......債務発行は、...金融政策をサポートするために行われるものだ。』

『(財務省が司る)政府赤字は、民間部門における金融資産ストック累積量を決定する。そして中央銀行は、こうしたストックの組成を、紙幣や硬貨(現金)、ないし(交換尻決済に用いる)準備預金、および政府債券の中で組み替える。』

『政府部門から非政府部門へ流れるあらゆる支出は、非政府部門に現金・準備預金・債券の形で残っている税負債(the taxation liabilities)を取り上げるものではない。したがって、...金融資産の蓄積は、累積財政赤字を反映したものであるということが分かる。』

『垂直の線の一番下は税で、ごみ箱に繋げることで、何かをファイナンスしているのではないことを強調している。税は民間部門の金融収支を減じるが、何ら政府のプラスになるわけではない――その減少分は請求されるものの、どこかへ流れるわけではないのだ。』

『中央銀行は銀行システム内の流動性を管理することを通じて、短期金利を...公式目標に合致させる。......中央銀行のオペレーションは、準備預金・現金・証券の組成を変更する...非政府部門の金融純資産を変化させないのである。』

『短期的...目標金利は...中央銀行によって公定歩合とサポート金利の間に設定される...こうした構造は...短期金利が流動性変動と共に変化できる範囲としての回廊(corridor)ないし幅(spread)を作り出す。このspreadこそが中央銀行が日常業務で管理しているものだ。』

『公開市場オペレーションを通じた流動性管理のための主要な手段は、政府債務の売買である。オーバーナイト資金市場における競争的圧力によってインターバンク金利が望ましい目標金利より低くなってしまう場合、中央銀行は政府債務売却によって流動性を取り除く。』

『このような公開市場介入はオーバーナイト金利を引き上げる。......債務発行は、金利維持を実現するために作られた金融政策手段......債務発行が財政の一側面であり、赤字財政支出の資金調達のために必要なものだと主張するオーソドックスな理論と全く以て対照的なもの』

『政府支出(財政赤字)は、中央銀行による流動性管理を考慮しない場合は...超過準備(現金供給)を発生させることになる。......事後的に生じる超過準備の押しつけ競争によって、オーバーナイト金利は下落圧力を受ける。』

『そうした取引は水平取引であり、必然的に総和はプラスマイナスゼロなので、銀行間取引は、システム全体の余剰を解消できない。よって、もし中央銀行が現在の目標オーバーナイト金利を維持しようとするなら、流動性余剰を政府債務売却によって除去しなくてはならない。』

『政府債務の発行は、政府支出の資金調達に用いられないのに、なぜ行われているのか? 要するにそれは、中央銀行による(特定のオーバーナイト金利の保持を目的とした)準備預金操作のために行われているのである』

『政府支出や、中央銀行による政府証券(財務省債券)購入は流動性を追加するし、租税や政府証券売却は流動性を除去する。』
『政府支出Gは準備預金を加え、租税Tは準備預金を除去する。......もしG>T(財政赤字)であれば、準備預金は全体で増加することになる。』




この記事紹介が、皆様のMMT理解の向上の役に立てば幸いである。

(以上)