司法試験問題の明治大学における漏洩/法科大学院制度 | なか2656のブログ

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昨日(9月8日)から大きく報道されているとおり、明治大学法科大学院司法試験の試験委員(考査委員)である青柳幸一教授(67歳・憲法)が同大学院の学生の20代の女性1名に対して、司法試験の本試験の問題を事前に教え、しかもその問題に対する答案練習(添削)も行っていたとのことです。


(青柳幸一明治大学教授。Huffingtonpostより)

法務省は8日に同教授の試験委員(考査委員)を解任し、東京地検特捜部に刑事告発したとのことです。試験委員は非常勤の国家公務員であるため、守秘義務の観点から捜査が進むことになります。

また、法務省はこの問題の漏洩を受けた女性について、採点の対象外とし、今後5年間、司法試験および予備試験の受験を禁止する行政処分を科したとのことです。

・司法試験漏洩、地検特捜部が捜査 明大教授認める|日本経済新聞

・司法試験問題漏洩 法務省、明大教授を告発 守秘義務違反疑罪、東京地検特捜部が捜査|産経新聞

・青柳幸一教授、法務省が告発 司法試験の問題を教え子に漏らした疑い|Huffingtonpost

法曹を育成する場である法科大学院の教授が東京地検特捜部の捜査を受けるとは、世も末といった感があります。

また、明治大学はそもそもフランスの法律学を源流とする大学であり、「人権を重視する法曹」を育成することが、明治大学法学部および同法科大学院の眼目であったはずです。

ところが今回、法務省に漏洩事件で刑事告発されたのは、よりにもよって憲法の学者であったそうであり、明治大学の根幹中の根幹の部分が腐敗していたとは大きな驚きです。

憲法は大まかに、「人権」と「統治」の二つの部分に分かれますが、後半の「統治」とは、国会・内閣・裁判所などの国家作用のことであり、古めかしい言い方をすれば、行政法とあわせて、「国学」という分野になります。

安倍政権が憲法違反の立法を行おうとしているなか、この青柳なる憲法学者は、“国学者“としてあまりにもたるみ過ぎでしょう。

また、明治大学法科大学院の青柳氏のページをみると、この青柳なる学者は、「人権の基礎理論」や「マイノリティの人権」などの人権分野が主な研究テーマであったようです。

(明治大学法科大学院サイトより)
http://www.meiji.ac.jp/laws/teacher/aoyagikouichi.html

この青柳氏がどのような意図で50歳近く年の離れた若い女性1人に司法試験の本試験の問題を教えて、なおかつ答案練習までしたかはまだ不明です。

しかし少なくともその結果として、その20代の女性は法務省からの行政処分により、法律家としての道は事実上絶たれたといってよいでしょう。これは重大な人権侵害です。(明治大学は「女性法曹に強い」ことも売りだったはずですが。)

青柳なる人物は専攻は何で、大学院で何を教え、何を実践していたのか。地検特捜部、法務省そして明治大学は徹底的に調べるべきです。

そして、現在、法務省および文科省は、全国に法科大学院が多すぎるとして、その閉校を強力に推進しているところです。

つまり、司法試験の最終合格率が悪い法科大学院には検察官・裁判官などの教員の派遣を取りやめるであるとか、補助金をカットするなどの兵糧攻めを行っています。

ところで今回、明治大学法科大学院は司法試験の本試験そのものが試験委員の教授から学生に漏洩するという最悪規模の不祥事を起こしました。

これは法務省・文科省は即刻、強制的に廃校とすべきです。そうでなければ他大での類似の犯罪の発生を許します。

なお、2007年の第一回新司法試験が実施された際にも、慶應大学法科大学院の試験委員であった教授が、出題範囲を学生に教えるという不祥事を起こしました。うえの新聞記事には記載されていませんが、一橋大学法科大学院でも同時期に似たような事例が発生したとされています。

法科大学院制度は、大学にとっても、大学の生き残りを賭けた壮大なレースです。ですから、ばれなければやってしまえと考えるモラルの無い教員が出てくるのでしょう。

2度あることは3度あると言います。

法科大学院制度はやはり理念倒れの無理な産物だったのであり、制度そのものを廃止すべきです。曽野綾子氏などのど素人を検討委員にして司法制度改革を行ったこと自体が間違っていたのです。

法科大学院制度ができる前の司法試験(旧司法試験)は、法科大学院という高額な学費を要する大学院に2年ないし3年通う必要もありませんでした。それぞれの受験生が、自分の予算と時間にあったスピードで勉強することができました。

旧司法試験は、法科大学院のような教授陣によるアカハラもありませんでした。法科大学院のように、司法試験にまったく無意味な「学問研究」のために課題やレポートを強要してくる無能で有害な教授なども存在しませんでした。

旧司法試験においては、文科省が「司法試験予備校みたいなことするな」と法科大学院に対して、論文答案の書き方などの指導を禁止する通達を出すという本末転倒な事態は発生していませんでした。

つまり、法科大学院制度を主軸とした現行の司法試験制度に比べて、旧司法試験制度は、金銭的にも、時間的にも、学習環境の観点からも公平・公正であって、なにより合理的・実践的であり、しかも今回の問題漏洩事件のような醜悪な不祥事も発生しません。

司法制度改革の検討委員会において、佐藤幸治教授、高橋宏志教授、鎌田薫教授などの大学関係者達は、「司法試験予備校による『点による選抜』には問題点がある」とし「点ではなくプロセス重視」だとして、法曹養成には予備校ではなく大学院こそがふさわしいと主張しました。

つまり、司法試験予備校より大学教授である自分達のほうが有能だ、そして司法試験というおいしいパイを予備校から奪い、法律系の大学教授たちのメシの種にしたいと主張したのです。

しかし、法科大学院制度が崩壊し、今回のような醜悪な漏洩事件が起きた現在、司法試験予備校と法科大学院の教授陣とで、人格的にも、教育能力としても、その両面においてどちらが優れていたかは火を見るより明らかでしょう。

敗者は市場からさっさと退場すべきです。

2004年に開始した法科大学院制度が機能不全となったことに合わせ、弁護士の数が乱造されたことも相まって、現在、食えない若手弁護士が大量発生するとともに、法曹の社会的地位が急落し、法科大学院だけでなく法学部の人気すら低下しています。(そして、法科大学院をスルーして司法試験を受けるこのできる「予備試験」制度の受験生数のみが年々伸びて人気を博しています。)

このようなわが国における法律学の地盤低下は、日本社会を、司法制度改革意見書が理想として掲げた「『法の支配』の貫徹」から、政治権力者や暴力団などの「人の支配」へと時代を逆戻りさせてしまうことにつながりかねません。

明治大学法科大学院などのような巨大な不祥事を起こした大学院は即座に強制的に閉校とするとともに、国は法科大学院制度を廃止し、従前の司法試験制度に戻すべきです。

■補足
昨日のネットなどのニュースによると、昨日(9月8日)の参議院の安保関連法案の特別委員会に、日弁連憲法問題対策本部副本部長の伊藤真弁護士が参考人のひとりとして招致され、答弁を行ったそうです。

・安保法案 参院特別委 参考人質疑で賛否の意見|NHKニュース

伊藤真氏は司法試験予備校の伊藤塾の長であり、2000年頃の司法制度改革の検討会議においては、法科大学院制度推進派の大学教授達から、「弁護士などの学力低下の元凶」とやり玉にあげられていた人物です。しかし、90年代ごろから自民党などの憲法改正の動きに積極的に反対してきた、数少ない弁護士です。

参議院の特別委員会で憲法に関して参考人招致され、答弁を行う司法試験予備校・伊藤塾の伊藤真弁護士と、司法試験の本試験の問題を漏洩して地検特捜部に刑事告発された青柳幸一・明大教授(憲法)とでは、人間として、あるいは教育者としてどちらが立派であったか、言うまでもないでしょう。


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