シェイリーン・ボーンが語る「ORIGIN」と羽生結弦に対する想い | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

主にCBCのためにフィギュア・スケートの記事を書くPj Kwongさんから「シェイリーン・ボーンの取材に成功した」と連絡を受けたのは先週の月曜日(9月17日)でした。

 

羽生選手の8月の公開練習時、日本のメディアの取材を受けたのは、ブライアン・オーサー、トレイシー・ウィルソン、そしてジェフリー・バトルだったと知って、それをクオンさんに伝え、ファンはきっとシェイリーンの振り付けに関する情報も欲しがるに違いない、と彼女の取材を勧めていたのでした。

 

それがタイミングよく実現し、オータムクラシックの直前に公開できるようにクオンさんが頑張りました。まずは動画が出回ったかと思いますが、トータル・パッケージとしてCBCのサイトに載ったのがこちら:

 

The evolution of Yuzuru Hanyu: How one of the best ever keeps developing

 

ぜひアクセスしてあげてください!

 

私のブログを読んでくださっている皆さんはすでにご存じだと思いますが、クオンさんは羽生選手を心からリスペクトしていて、羽生選手もクオンさんに特別、楽しい動画インタビューを提供したりしています。

 

クオンさんはレポーターとしてのお仕事の他、語学の才能に長けていることから様々な国際大会で場内アナウンスの役目も数多く、果たしています。2014年のソチ五輪、そして今年の平昌五輪で羽生選手が優勝した時、名前を呼ぶことが出来たのは自分のキャリアの中でも「最高に嬉しかった瞬間ランキング」のトップに入ると言っています。

 

そんな彼女とシェイリーン・ボーンのインタビューなら、きっと楽しく、濃い内容のものになると期待していましたが、やってくれましたねえ!聞いてて本当にウキウキするような、シェイリーンの「ユヅ語り」、そして新しいプログラムに対する思い入れ。

 

当初は私が聞き取り・翻訳を担当しようと思ったのですが、オータムクラシックが始まると目が回りそうに忙しくなって、全然、公開に間に合いそうにありませんでした。そこで、大変厚かましいとは思ったのですが、スーパー翻訳者のシエナさんにお願いして、快諾して頂きました。

 

シエナさんの記事はこちら:

Pjさんのシェイリーンインタ全訳:Originについて

 

とんでもなく限られた時間の中で作業をしていただいたにも関わらず、出来上がったシエナさんの翻訳は珠玉の作。すっきりとまとまり、つくづく私が請け負わなくて良かったと思わされるものでした。クオンさんもすぐにご自身のツイッター「公式の翻訳」とアナウンスされていましたね。シエナさん、ありがとうございました!

 

 

 

 

 

オータムクラシックでの羽生選手の演技を観る前であれ、観た後であれ、このインタビューを聞く・読むことで楽しみは倍増したと思われます。

 

私が最初に受けた印象としては、シェイリーンは何と感情豊かに羽生選手のことを、このプログラムのことを語るのだろう、ということがありました。動画を見ているだけでも彼女の溢れ出るようなパッションが伝わってきます。

 

原点には確かに羽生選手の憧れの二人、ジョニー・ウィアーとエフゲニー・プルシェンコへのトリビュートがあるが、それは同じ曲を使って、同じような振りのプログラムを滑る、ということでは決してない。全く違う世界を繰り広げ、羽生結弦独自のプログラムを創り出してこそ、本当のオマージュになるのだ、という意気込みがうかがえます。

 

滑りも体型も人格も全く違うのに、動きをなぞってもそれは不自然になるに決まっている。だからこそ、シェイリーンはあの曲を聞いて自分なりの全く新しいインスピレーションを探したのでしょう。

 

シェイリーンにとっての羽生結弦像は「特別な、この地上のものではない、超越した存在」だそうです。そんな彼が自分の手で、新しい世界を創っていく、「古事記」に描かれているような神々の物語に羽生選手を主人公として据える、そんなイメージでプログラム作りが進んで行った。

 

ところでクオンさんのインタビューを見終わって、もうちょっとだけ掘り下げて聞きたいな、と私が思った部分があります。

 

「プログラムの中でも特に気に入った箇所は」という質問に対するシェイリーンの答えが本当に素敵で、しっかりと彼女の言いたかったことを理解したかったのでした。

 

オータムクラシックの後、とてもラッキーなタイミングでシェイリーンに直接話を聞く機会が出来たので、クオンさんにも了解を取って、何点か確認させてもらいました。(質問を考えるにあたって、お手伝いしてくださったSさん、ありがとうございました!)

 

以下がその概要です。

 

 

*********

 

「『古事記』を参考にしてごらん、と提案してくれたのは夫(ミュージシャンであり、映画製作に携わっているBohdan Turok氏)だった」ということでしたが、これはシェイリーンが最初はギリシャ神話を想定してテュロックさんと話をしていた中で出て来たアドバイスだったそうです。羽生選手の文化背景により近い方がこのプログラムには適しているから、と。

 

テュロックさんは日本が好きで、独自で色々と調べたり、勉強なさっているとのこと。シェイリーンが羽生選手のアイスショーに出演した時に帯同して、家族三人でこの春は日本にも行っていますね。

 

ところで「古事記」をインスピレーションにしようと思うのだけど、とシェイリーンが言った時、羽生選手はどんな反応だったのでしょうか?

 

「(驚いたように)目を見張った(his eyes went big)」と、シェイリーンは笑っていましたが、おそらくそれは異なる文化背景を持つ彼女の方かからそのような提案が出て来たことに少しびっくりしたからだと思う、ということでした。

 

 

そして私が一番聞きたかった「シェイリーンのお気に入り箇所」について。

 

"There’s one right before the end of his circle footwork that I love, when he just holds, and he’s arching back and leaning into his knees."(サークル・フットワークが終わる直前、ぐーっと背中を反らせて、深く膝を沈み込ませるところ)ってクオンさんとのインタビューで言ってますが(10:06辺り)、ここは比較的我々に分かりやすい。

 

ということで次は:

 

②最初のポーズについて

 

これはまたインタビューの別の部分で "That’s the vision I had ... from the ground up developing this world of his" (06:20辺り)というイメージがあるって確か言ってましたよね?そういう感じですか?何か、地から上に向かって段々、クリエイトしていく?

 

ここでシェイリーンの答えが興味深かった。

 

そう、オープニングのポーズから、何かが持ち上がって行くような感じ。地から上に、というよりももっとさらに下から、"underground"から出て来るような。だから彼は最初、目線を下に向けているでしょ?いや、たぶん、そうしてるはず(と笑う)。

 

え、もしかしてまだオータムの演技は見ていないとか?と聞くと、まだ時間がなくて全貌は確認できていないけど、そこかしこはインスタグラムとかで見た、ということでした。

 

ところで始まって間もなく、頭を二度、「ガッガッ」と振るしぐさがありますけど、あれも何かが目覚める、みたいな感じ?と聞くと、「そうそう、そういう感じ!」とテンションが上がっていました。

 

③じゃあエンディングのポーズは?

 

あれはね、私が「彼が両方の世界に手を伸ばしている」ということを表現したかったの。片手は地に、そしてもう片方は"World of Spirits” に。

 

"I wanted both! (どうしても両方、入れたくて)"一生懸命考えた挙句、ああいうポーズになったの。

 

いや、十分素晴らしいと思いますけど。。。ちなみに上に手を伸ばしているのは「Heavens=天」と言わずに「World of Spirits」が出てきたのも面白かった。まあ要は、精霊が住む世界、ということなのかな。両方を支配するのが羽生結弦、とか?

 

 

④そしてここが一番気になっていたところ

 

クオンさんのインタビュー(10:40辺り)で "There’s another moment where he reaches…. And then he takes. It’s almost like he’s touching somebody’s back and… and… feeling…. For the first time. It’s like a child for the first time it touched them. It’s like a human.. thing!! Touch!! That…. Makes you feel alive and…. Makes you feel…. Love"って言ってましたが、あれは正確に言うと、どこらへんなんでしょうか?

 

ああ、あれはね、ちょうど後半、彼がイナバウアーに入る前のところ。そこから3Aに行くんだったわ、確か。

 

そう、で、あそこでは私が自分を例にとって言ってるんだけど、

 

彼がスッと手を伸ばして、そしてその手で私の背中をぐっと触って来たら、どんな感じかしら、

 

って言いたかったの。

 

「子供を初めて触るような」というくだりはどういう意味?

 

そう、私たちが初めて赤ちゃんを触る時、赤ちゃんも初めて人間として、「TOUCH」ということを経験する時、そういったものをイメージしているの。あそこは彼が神から人間へと移行して、「触る」という、ごく人間らしい感覚を初めて体験している部分。

 

学術研究にもあるでしょ、子供は赤ちゃんの時からスキンシップをしてもらうことですごく影響を受ける。受ける子と受けない子ではその後、違いが出て来るって。

 

触ること=愛だから。

 

と、ここまで一気にまくしたててくれたシェイリーンでした。

 

***********

 

 

ああ、すっきりした。

 

私が一番、気になっていた④のポーズはおそらく、今回のオータムの演技ではちょっと最後の方が忙しくなっていた感じがしたので、今後、どんどんプログラムが練れて行く中でよりいっそう、情感たっぷりに表現されてくるのだと思います。

 

ゾクゾク。

 

そしてつくづく、クオンさんのインタビュー動画や、直接話をしてみて、シェイリーンの抗い難い魅力、明るいエネルギーを感じました。彼女と羽生選手が起こす化学反応はこれまで数々の名プログラムを生んできた訳ですが、興味深かったのは彼女が「ユヅはとってもプライバシーを重んじる人だから」、たとえ一緒に創ったプログラムでも最終的に彼が何を考え、演じるかは彼のみぞ知る。

 

"He won't share that,. I don't think he shares all the details, but he'll show it"

 

(心の内は)誰にも言わない、詳細は誰にも言わないだろうけど、見えるようにはしてくれる。

 

ここ、すごくグッと来ませんか?

 

シェイリーンがいかに羽生選手との関係の中で、踏み込んではいけない領域を尊重しているかが表れている。

 

とことん、全てを開けっぴろげにして理解し合うような関係も良いけれど、「触れないでおく」ところは残しながらも創作のプロセスはちゃんと成り立つ。二人は全く別の次元でしっかりとつながっているのだから。

 

 

そう考えると、いつかシェイリーンと羽生選手が一緒に滑るプログラムが出来上がらないかな、と考えてしまいます。そんなものが実現したら、私はたぶん、全てをかなぐり捨てて観に行きます。

 

 

(ちなみに、シェイリーンとの会話が終わる前に「あなたとヴィクター(クラーツ)が私にとって、最高のアイスダンス・チームだったから」と告げちゃいました。グフフ。)