未来からの生還 臨死体験者が見た重大事件 ‥ 4 | inca rose*のブログ

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第九章    新たな意欲

約一週間後、レイモンドがわが家を訪ねてきたとき、彼の知性とユーモアのセンスというものを、私もすぐ理解した。彼は、ドアいっぱいにクレヨン画が描かれた。時代物の青いポンティアックに乗って車寄せに入ってきたのだ。その線画は、彼の小さな息子さんたちが描いたのだという。有史以前の原始人が洞穴に描いた絵、といっても通じそうな作品だった。

わが家にリビングルームを一目見ると、彼は大いに気に入った様子だった。そこには7脚のロッキング・チェアがあった。そのあとすぐに分かったことなのだが、レイモンドは真剣に考え事をするとき、いつもロッキング・チェアにすわる習慣があったのだ。
彼は、垂直な背もたれと大きな揺り子がついたオーク材の椅子を選んだ。私はすり足で床を横切り、彼と面と向かうかたちで、布張りの回転式ロッキング・チェアに腰を下ろした。その場所で、私たちはゆらゆら揺れながら八時間ほど過ごし、私の身に起こったこと、そして一般的な臨死体験のことなどを話し合った。

『かいまみた死後の世界』はまだ出版されていなかったが、レイモンドはすでにいくつもの新しいアイデアを抱えていて、つぎの本に取り掛かっているところだった。
その二冊の本の話をする前に、彼は私の体験についてインタビューしたいと言った。そうすれば、自分が出版しようとしている体験談のせいで、私の話が色あせたなどと言われることもないだろうから、と彼は説明した。

彼のインタビュー方法は、じつに単調なものだった。彼は、自由回答式の質問を投げかけ、その答えを聞いても表情一つ変えないのだ。私が自分の体験と、そこからの急展開について話しているあいだ、彼は感情をいっさい面に出さなかった。聞きもらしたことがないかどうかという点だけを、しっかりと確認していただけだった。このインタビューの方法のねらいは、話を飾らさせないことだった。短く、自由回答式の質問を投げかけ、他人の臨死体験については触れずにいることで、レイモンドは、私の体験談が他人のものに影響を受けないようにしていたのだ。

レイモンド式の単調なやり方が、真実を引き出すのには最良の方法ではあるというのは理解できたが、私はなんだか落ち着かなかった。自分の体験を話して聞かせるあいだ、相手は驚きのあまり口をぽかんと開けている、という状態に慣れきっていたからだ。だがレイモンドの場合は、私が話しているあいだ、無表情なままじっと椅子にすわって耳を傾けていただけだった。私が光の大聖堂のことに触れたときも、警戒や驚きの表情はいっさい見せなかった。
「うん、うん、そういう話は以前にも聞いたことがあるよ」と彼は答えるのだ。知識の講堂の話をしたときでさえ、彼はまゆ一つ動かさなかった。

私は彼に、霊界の美しさと輝かしさについて、そして、あの世界の光のすべてに知識が詰まっているということについて語った。あの神々しい霊たちの信念、つまり私たち人間は「力強い霊的存在」であり、地上にくるという大いなる勇気を見せた存在なのだ、ということも話した。

私は彼に語ったつぎの言葉を、一語一句違わずにおぼえている。
「あそこでぼくは、世界と宇宙のことをすべて学びました。世界中の、ありとあらゆる物事の運命を知ったんです。中には、とても単純な物事もありました。たとえば、雨水です。海へもどるという運命をたどらない雨水など、一滴もないということを知っていますか?  私たちがやろうとしているのは、そういうことなんですよ、レイモンド。私たちは雨滴と一緒で、その源、つまり私たちがやってきた場所にもどろうとしているだけなんです。

地上にやってきた者は、勇者です。というのも、私たち人間は、宇宙全体と比べればあまりにも限られた一つの世界の中で、自ら進んで試みようとしているのですから。あの世の霊たちに言わせれば、地上にいる人間は自分自身を大いに尊重すべきなんだそうです」

「きみは狂ってなんかいない」と彼は言った。
「きみの話ほど繊細にわたったものははじめてだが、きみの話と同じ要素を持った体験談なら聞いたことはある。きみは狂ってなんかいないよ。人とは少し違った体験をしただけなんだ。まったく違う人間が住む新しい国を発見して、そんな場所が存在するとみんなに信じてもらおうと必死になっているだけのことだ」

彼のその言葉を聞いて安堵感が広がり、私の心の中でこり固まっていたものが溶けていった。私と同じように、この「新しい国」を見てきた人間がいる、ということがはっきりしたのだ。新たなエネルギーがわいてきた。もう一度やり直そう、もうだれも自分のことは止められない、と思った。

レイモンドとは、ほとんど毎日言葉を交わすようになった。そんなある日の電話で、彼が、私が例の箱に現れた未来の出来事についてまだ話していないということを思い出した。話してくれるかな、と彼はきいていた。そこで、私たちは会う約束をした。
二日後、サンディと私はレイモンドの家を訪れた。私たちはリビングルームに通され、そこにレイモンドがソーダ水を運んできてくれた。それから私たちは、例の十三個の箱と、その中から現れ出たビジョンについて話し合った。

九○年代に中東の砂漠で戦争が起こり、大軍隊が滅ぼされ、その地域の様相を変化させることになる、という話もしたし、ソ連の崩壊と、ソ連が共産主義に取って代わる政治体制を模索しているあいだ、食料を求める暴動や、政治的混乱が起こる、ということも話した。それから、世界中の大国が小さく分割され、次々と小国が誕生することになる、という話もした。本書ですでに紹介してきたように、あの霊的存在が私に見せてくれたそれぞれの箱の中身を説明していったのだ。

私たちの話し合いは、いく晩にもわたった。レイモンドはロッキング・チェアを揺らしながら、時折メモを取っていた。それに、うなずきながら、私の話のほとんどを書き取っていた。レイモンドの数多くの特性の一つに、彼が聞き上手であるという点があげられる。人間は話好きだ、ということを知っている彼には、ある人物から真実を引き出す最良の方法は、その人が話そうとする内容を吸収することだ、と分かっていた。だから、彼はひたすら聞き役に回り、私は話し役になった。

やがて、私は彼にショックを与えることを口にした。世界が崩壊し始める日、私たちは一緒にいる、と話したのだ。そのときになれば、私が箱の中で目にしたビジョンすべてが現実になるということが分かるだろう、と。
「場所はどこだね?」とレイモンドがきいた。
「ソ連です。ソ連が崩壊するときですね」と私は答えた。「ソ連にいるそのとき、この話がすべて本当だったということが分かるんです」

「分かった」と彼は言い、ノートになにかメモを取っていた。彼が私の言うことを信じていないのは、よく分かった。自分自身でさえ、なかなか信じられないことだった。七○年代、ソ連は閉ざされた国で、アメリカ市民が旅行ビザを取るなど、かなりむずかしいことだった。それに加え、私は合衆国政府で国家機密に関わる方面で働いていた経験があったので、公的な訪問以外のかたちでソ連を旅行する機会など、ほとんどありえないと思われた。それに、レイモンドの本はソ連では出版禁止にされ、破壊活動分子と考えられていたのだ。

でも確かに私は、箱から現れたビジョンの中で、一人の顔が見えない男と一緒にモスクワの街角に立っていた。人々が食料を求めて列をなしているところを、一緒にながめていたのだ。あの夜、レイモンドと一緒に腰を下ろしているとき、このきわめて重大な機会に私とともにいる男はレイモンドに違いない、という気持ちになったのだ。
この場面は、現実のものとなった。一九九ニ年、レイモンドと私はモスクワを訪れたのだ。共産社会崩壊直後のことだった。そして、踏みにじられたロシア人たちが、店でなにか食料が得られるかもしれないというわずかな期待を胸に、街角で列をなしている姿をながめることになったのだ。そのとき、十五年ほど前のあの夜のことを思い出したレイモンドが、驚いたような顔で私のほうに振り返った。「これだよ!」と彼は言った。「きみがあの箱で見たビジョンというのは、これのことだよ!」

こういった研究に取り組んでいることから、レイモンドは数多くの人々にとって、唯一理解を示してくれる存在になっていた。もうお分りのように、あのころ世の中というのは、ほとんどだれもこの手の体験談について語ろうとしなかったし、もし語りだそうものなら、狂人扱いされてしまうのが落ちだったのだ。人々は、なんとしてもレイモンドと連絡を取ろうとした。彼は、理解を示してくれる医学博士だったのだから。

電話の向こうの人々の声は、哀訴していた。そんな声を聞くレイモンドの顔は、苦痛でゆがんでいた。彼らが、自分が死にかけたときの話をするや、いつもレイモンドは手を口にあて、「ほう!」と言いながら、そのショックを身振りでも表していた。彼は心の底から、そういった人々のことを気にかけていて、まるで家族の一員のような口調で話してくれる人間なのだ。
そういった電話に答えるために、彼はたびたび夕食の席を立つことがあった。相手にあとでかけなおしてくれるよう頼むことなど、一度もなかった。

私は、レイモンド側だけの話しか聞いていないが、彼はこんなコメントをつけながら答えていた。「ええ、たくさんの人が、そのトンネルの出口で、すでに死んでいる親戚に会ったと話してくれました」とか、「臨死体験中は、体を離れるというのが一般的です」など。
レイモンドがほかの人と臨死体験について語っているところを聞いていると、私の心は慰められた。電話の向こうの人々が、私と同じように自分の体験に当惑しているということが、手に取るように分かったからだ。私は、気持ちがますます落ち着いていくのを感じた。

レイモンドと打ち解けていくにしたがって、自分が目撃した未来の予言について、さらに詳しく話すようになっていった。すでに書いてきたような、チェルノブイリや戦争についての話だ。彼は、そういったビジョンが現実のものになると信じていたわけではないだろうが、少なくともその内容を書き留めておいてくれた。のちに、ビジョンが現実のものになり始めたとき、それが大きな助けとなったのだ。













『未来からの生還     臨死体験者が見た重大事件』
著 . ダニエル・ブリンクリー/ポール・ペリー共著

から抜粋。