コロナな日々32~鬼滅の刃とZ世代

 

●青沼陽一郎「『鬼滅の刃』はなぜこれほど日本人の心に響くのか 過去の名作アニメを踏まえつつ、日本人の琴線刺激する物語と要素」

(JBpress https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62663

 

 「『鬼滅の刃』をひと言で説明しろと言われると、とてもシンプルだ。鬼退治のお話、と答えればいい。それもタイトルが連想させるように、“刀”で鬼を斬る。昔話にある「桃太郎」といっしょだ。そこに“鬼”に家族を殺された主人公の〝親弟妹の仇〟の要素が加わる。見せ場は刀を抜いた鬼退治のチャンバラ。実は、日本人が集団的意識のように好む舞台設定が基調になっていて、それがわかりやすい。」

 

 「鬼は人を食い殺す。このあたりは『進撃の巨人』といっしょだ。ただ、死なないまでも鬼に襲われた者は鬼になる。父を亡くした主人公の少年が炭を売るために山を下り、翌日に戻ると母と弟、妹たちが鬼に惨殺されていた。唯一、命を取り留めた妹のひとりはそこで鬼になって主人公を襲おうとするのだが、そこはどうにか踏みとどまって、兄と旅に出る。鬼を倒し、妹を人間に戻す方法を見つけるために――。」

 

 「兄弟が旅に出て敵を倒しなら、失われた弟の身体を取り戻そうとする。そんな話ならば、やはり『鋼の錬金術師』にあった。主人公たちは“錬金術”と称して、各自がそれぞれに会得したいわば魔法の技を繰り出す。『鬼滅の刃』でも主人公とその仲間たちは、独自の剣の技、流儀を持ち合わせている。『鋼の錬金術師』の作者は女性だが、『鬼滅の刃』の作者もまた女性である。」

 

 「さらには、ロールプレイングゲームの要素が加わる。親兄弟の仇を倒すために主人公が成長し、強くなり、仲間も増える。そして鬼の首領が繰り出す敵を倒し、そのラスボスとの対峙がやってくる(はずだ)。しかも、成長は師弟関係と修行によってもたらされ、鬼を退治する「鬼殺隊」という軍隊的組織に所属しては、上司の薫陶を得て出世していく。」

 

 「しかも、その時代を大正の日本としているところに、奇妙な親和性を抱かせる。明治維新からおよそ半世紀が過ぎ、西洋的なものと日本固有の文化が融合して独り歩きを始めた時代。鬼退治に向かう主人公やその組織の仲間たちは、当時の軍服のような洋装仕立ての隊服の上に、それぞれがオリジナルな半纏を着て、刀を差している。」

 

 「『鬼滅の刃』も深夜放送ではなく、タブレット端末を使って視聴し、ブームになったとされる。それだけ利便性と情報伝達量は増し、私が子ども頃のよりも、ずっと世界は小さく、そして近くなった。それでも、この“日本的なもの”に共感を抱く。家族の仇をとる。妹を守る。鬼を倒す。刀で己の道を切り開く。そうしたかつての日本人のアイデンティティのようなものが好まれる。混沌とした時代に日本人らしさを求める。」

 

 なるほど。『鬼滅の刃』がなぜこんなに流行っているのか、全然分からなかったのだけれど、これで分かった。テレビなどでチラ見する限り、全然刺さらず、見る気がしない。しかし、若い子たちを中心にとても盛り上がっている。それに乗れず、正直寂しい思いもあったのだけれど、なぜ自分には刺さらないかという理由もはっきりした。

 

 個人的に、最も好きなアニメは、「宇宙戦艦ヤマト」と「新世紀エヴァンゲリオン」である。世代的には「ガンダム世代」なのだけれど、ガンダムは刺さらなかった。この理由は分かっている。「日本海軍オタク」だからである。

 

 「日本海軍」が好きなので、最も刺さるのは艦隊対艦隊の戦闘シーンである。駆逐艦を中心とした水雷戦隊対水雷戦隊でも、戦艦対戦艦でも、高速航空母艦を中心とした機動部隊同士の艦隊決戦でも良い。見ているだけで、なぜか泣けてくる。だから、ヤマトや「スター・ウォーズ」が好きだ。エヴァが好きなのは、日本海軍的な要素が多分に含まれているからだと思われる。

 

 「鬼滅の刃」はチャンバラなので、はなから見る気がしないのである。それが分かって、すっきりした。

 

 

●2020年11月7日(土) 日本経済新聞 朝刊8面 オピニオン

「ショッピファイ旋風と雇用」

 

 カナダの電子商取引(EC)システム会社「ショッピファイ」がおもしろい。「サイト作成や顧客管理、決済、配送などECに必要な機能を用意し、月額29ドルからという手ごろな価格で提供する」。SNS(交流サイト)と連携しやすく、リアル店舗にも対応。「175ヵ国に進出し、アパレルや本、雑貨、飲料などを売る100万を超す事業者が利用している」という。

 

 記事では、ショッピファイと巨人「アマゾン・ドット・コム」とを対比させているけれど、注目点は雇用を生み出すチカラにあるという。ショッピファイは、「手軽なシステムとノウハウ共有で起業を促し、小売ビジネスへの参入者を増やしている」。一方、「アマゾンの看板とルールのもとでの商品販売は事業者の自由度に限界がある」。

 

 記事によると、今後、小売りで重要となるのは「Z世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)」の動向だという。彼らの特徴は、①行動の起点はスマホ ②通販サイトのカスタマーレビューより、SNSで情報発信するインフルエンサーの意見を信頼する ③共感できる商品づくりや地域活性化への関心が強い。

 

 当ブログ【名著百読23】でも紹介した望月智之「2025年、人は「買い物」をしなくなる 次の10年を変えるデジタルシェルフの衝撃」(クロスメディア・パブリッシング/2019年11月)が想起される。今後、リアル店舗で買い物をする機会はどんどん減るだろう。服や雑貨、本などはもちろん、保存のきく定番の食料品(米、パスタなど乾麺、インスタント麺、レトルト食品、冷凍食品、スナック菓子など)や飲料(水、お茶、コーヒー、ビール、酎ハイなど)も、スマホで購入する時代になる。

 

 リアル店舗で最後に残るのは、保存のきかない生鮮食料品(野菜、魚、肉など)や生ケーキなどと、すぐ食べたい物(弁当、おにぎり、菓子パン、ガム、キャンディなど)、すぐ飲みたい物(コーヒーや清涼飲料水、ビールなど)だけになるだろう。つまり、百貨店もスーパーもコンビニさえも、商品棚が不要になり、店内スペースに余剰が生じてくる。それをどう使うか、もしくは閉店するか。本当に激動の時代がやって来てしまった。