味噌汁はなぜすぐ腐る?-菌と人間の熾烈な戦い- | 『食品業界ホントのところ』

味噌汁はなぜすぐ腐る?-菌と人間の熾烈な戦い-

ちょっと刺激的なタイトルにしてみました(笑)


味噌汁。
昔からよく、味噌汁は小さい鍋で、おでんやカレーは
大きな鍋で作れと言われます。

それはなぜでしょう?
実は、味噌の中では熾烈な戦いが起こっているのです。


「うに味噌」に「あおさ」「こんぶ」「わかめ」を使ったヨウ素料理スペシャル。大根と豆腐も入れて出来上がり。
味噌汁、朝から心が躍ります。





まずはみその作り方をおさらい致しましょう。
一般的な自家製みそは以下のようにして作ります。

①大豆をよく洗い、水に一晩つける。

②煮る。圧力鍋の場合は20~40分、普通の鍋なら8~10時間

③塩と麹をよく混ぜておく。

④大豆が茹ったら粒が残らないようよく潰す。

⑤③と④をよく混ぜ、容器に空気が入らないように詰めていく。

⑥表面に軽く塩を塗るか焼酎を塗る。


という工程を踏みます。 



地方によってバラエティが豊かなのでこれ以外の方法
でもおそらく自家製味噌を作っているものと思います。

たとえば、大豆はゆでずに蒸すとか、みそ玉を作って
麹をまぶしてしばらくしてから桶に仕込んでいくとか。

一応、最もポピュラーな家庭で作るものということで
この作り方を例に出しました。



では、このみそ。
内部では何が起きているのでしょうか?



川中島の戦い

味噌中の戦い



まず、麹とは何か、というところを抑えたいと思います。
麹というのは、実は麹菌というカビなのです。

この麹菌は毒性は全くなく、たんぱく質やデンプンを
分解する酵素というものを持っております。

この麹菌を米に生やし、米の分解を始めたところで
乾燥して麹菌の生長を止めてしまいます。

たまに、九州などでは醤油の実のもとと称して緑色の
麹が売られていたりしますが、それは、麹菌を最後まで
成長させたもので、胞子が付いたものなのです。

麹菌の胞子は茶褐色や緑、黄色などの系統の色を
しておりますので、特徴的な一種毒々しい色になるのです。


この酵素を利用して、大豆の中に入っているたんぱく質や
脂質を分解し、うま味や甘味のもととなるアミノ酸や、
やはりうま味や甘味のもととなるグリセリンを作り出します。

また、カビの一種であるがために抗生物質の一種を
作っていると言われております。



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こんな感じで米に麹菌を生やします




分解が始まったころ、みそ造りの工程で空気にいた微生物が
落下してゆで大豆の中で増え出します。

ただ、大量の塩を振りかけているので、人間を
殺してしまうような悪い菌はなかなか生えません。

ゆで大豆を容器に入れる際に空気を抜いて
容器に詰めて欲しいと書いてあったかと思います。

それは、嫌気性菌である乳酸菌を、味噌の中で増やす
ためです。



乳酸はそれ自体が腐敗を防止する保存料となる
もので、日本酒やワイン、ヨーグルト、醤油などに
含まれています。


こうして乳酸菌を増やしていくと、塩と乳酸で雑菌の
繁殖がほとんどできなくなります。


ヨーグルト
ヨーグルトも乳酸菌の力でできてますよね




さらに、みその表面では酵母が活発に動き出します。
ただ、産膜酵母が働くことがあるので、
みそを切る=みそを混ぜて産膜酵母を中に入れ込む
必要があるのです。

醤油の回でもご紹介したとおり、産膜酵母は酸素が
豊富にあるところですと悪臭を放つことがあるので、
酸素があまりない味噌の中のほうに突っ込んでしまう
のです。

これによって、酵母がアルコールを作り、さらに雑菌が
繁殖できないようにしていくのです。

みそにアルコールがある、というのを知らなかった方は
結構いらっしゃるかと思いますが、酵母が作るアルコール
じゃあ足りないので、保存料や酒精という名でアルコール
添加が多くのみそにはなされているのです。




徳利
アルコールは酵母のおかげで作られます。



このように、みそには塩、抗生物質、
乳酸 、アルコールが含まれており
ちょっとやそっとでは腐らないようにしております。


普通では考えられないほどの防御態勢と言っていいでしょう。、


そうまでして恐れているものとは一体なんなのでしょうか。






私は大好きなのですが、醤油会社で働いていたときには自粛しておりました


その答えは『枯草菌』。いわゆる納豆菌の仲間です。
この枯草菌、恐ろしいことに
ゆでても、塩漬けにされても、乳酸につけられても、
アルコール漬けにされても死にません

まさに、最強最悪の菌です。
ゆでたら元気になってしまいます。


納豆菌ももともとは、わらなどに住み着く土壌菌で、
わらをわざとゆでて他の菌を殺し、そのゆでた藁に大豆を放り込み、
ほかの菌がいなくなったところで納豆菌のみを生やすということを
して作っておりました。



さて、話を戻しまして。枯草菌。
毒を作るわけでもないので動きを止めるだけで済ませてしまいます。


それを可能にするのが、塩漬けや、乳酸、アルコールなどの
菌が嫌がる成分を味噌の中に作る、ということなのです。
ちなみに、納豆菌も枯草菌とほとんど同じ動きをします。

みそも塩分が足りなかったり、混ぜが足りなかったりすれば
納豆になってしまいます。




川中島の戦い
枯草菌や納豆菌との大戦!!



よって、大体のみその中では枯草菌や納豆菌の抑え込みに成功します。
成功しなかった場合にはみそにならず腐ってしまうか納豆になってしまうか
します。


しかし、それはあくまでも押さえ込んでいるだけなのです。
ひとたび解放されれば大暴れします。


それがみそ汁なのです。
みそ汁は、過熱されるとはいえ、枯草菌や納豆菌にとっては、熱は
全く問題ありません。それどころか、そのショックにより分裂を
はじめてしまいます。

塩分や乳酸、アルコールもみその時よりも大幅に落ちますので
みそ汁に放たれた枯草菌や納豆菌は大暴れします。

このように、熱に強い菌を『耐熱菌』と呼びます。
これらの耐熱菌は大暴れをし、味噌汁の中身を分解し始めます。
それによって、アンモニア臭や、不潔臭、いわゆるすえた臭いを
作り出すことになるのです。


昔の人々は経験的に知っていたんでしょうね。
すぐに臭いがおかしくなる、性状がおかしくなるなど
腐敗の状況をみそ汁は示しました。

それにより、『みそ汁は小鍋で作れ』 というお話ができた
のだと思います。もちろん、似すぎてみその花がさいてしまう、
というのもあるのでしょうけれど。


それでは今日はこれにて。



                                             

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