将棋のプロ棋士として八段まで上り詰めた橋本崇載さんが,38歳の若さで突然引退を発表し,さらにその引退の理由が,「生まれたばかりの子を配偶者に連れ去られたこと」であったことが,大きく報道されています。

 

 

 

 

 

ヤフーニュース/「妻が息子連れ去った」橋本崇載八段 大好きな将棋を捨ててまで訴えた異常事態

 

 

 

 

 

将棋のプロ棋士となり,しかもプロの世界で八段まで上り詰めた方が,それまで打ち込んだ将棋の世界を断念せざるをえなかったことは,生まれたばかりの幼い子を連れ去られた精神的ショックがどれほど大きかったのかを,如実に物語っていると感じます。この問題の重大さを改めて感じました。

 

 

 

 

 

私が担当させていただいた離婚後単独親権違憲訴訟では,東京地裁令和3年2月17日判決が出されて,「親による子の養育は,親にとっても,子にとっても,人格的な利益であり,それは両親が離婚することになっても,妨げられてはならない。」と判示されました。その判示は,民法が採用している離婚後単独親権制度は,決して離婚後単独養育を意味するのではないことを確認した内容です。

 

 

 

 

 

この東京地裁令和3年2月17日判決は,これまでえてして,「離婚後単独親権なのだから,離婚後単独養育なのだ」と考えられてきた社会常識に対して,「民法の趣旨は,そうではないのだよ」と警告を鳴らしたものと,私は考えています。

 

 

 

 

 

橋本元八段を突然襲った子の連れ去りの悲劇は,いわば「離婚後単独養育」を前提として,「子を連れ去れば,離婚後に子の単独親権者となり,子の単独養育者となれる」という行動ですが,その行動は,東京地裁令和3年2月17日判決の立場からすると,連れ去られる側の親と子のそれぞれの人格的な利益を侵害する違法行為である,ということになるはずです。

 

 

 

 

 

日本の社会と司法の世界が,1日も早く東京地裁令和3年2月17日判決が打ち出した「離婚後共同養育」の世界を実現するための認識を創造してほしい,と願っています。そして,二度と橋本元八段のような悲劇が生まれないような社会制度へと転換されるべきであると考えています。

 

 

 

 

 

そのような願いを込めて,日本がハーグ条約を批准する前に国会でされた質問を引用して,今日のブログを閉じたいと思います。その質問の内容は,質問から約8年が経過した今日においても,未だに私達が「子の連れ去り問題」を解決できていないこと,解決できないままであれば,今後も悲劇が起き続けることを示しているからです。私も,悲劇の終焉のための一助となりたいと考えています。

 

 

 

 

 

第183回国会(常会)(平成25年)に浜田和幸議員が参議院議長に提出した質問主意書には,以下の内容が指摘されています。

 


 

 

 

 「ハーグ条約及び親権の在り方に関する質問主意書
 

 

 

 

 

国際結婚が破綻した夫婦間の子供の扱いを定めたハーグ条約の加盟承認案と国内手続きを定める条約実施法案が,衆議院で審議入りした。両法案に関連して,親権の在り方について以下質問する。
 

 

 

 

 

一 調停や裁判による離婚の場合,国内の家庭裁判所では,連れ去った親の側に親権が与えられ,連れ去られた側の親は月一回程度の面会しか認められない判決が圧倒的に多く,その面会も理由を付けて拒絶され,子に全く会えなくなった苦痛から自殺する親もいる。」