悪魔を造るTBSひるおびのフェイクニュース | マスメディア報道のメソドロジー

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マスメディア報道の論理的誤謬(ごびゅう:logical fallacy)の分析と情報リテラシーの向上をメインのアジェンダに、できる限りココロをなくして記事を書いていきたいと思っています(笑)

小池知事と川井議長



【センセーショナリズム】をビジネスに多用するマスメディア【スケイプゴート】【悪魔化】する際には、ある事実に対して【情報操作】【心理操作】【倫理操作】を行うことでその内容を見かけ上変質させるのが常ですが、ときにこれが行き過ぎて事実自体を捻じ曲げることがあります。2017年7月3日、TBSテレビワイドショー「ひるおび」は、まさにこの絶対にやってはいけない【フェイクニュース/捏造報道】を流し、特定の個人の行動を貶め、その尊厳を著しく損ねる行為を犯しました。私が考えるに、これは放送倫理・番組向上機構(BPO)で審議されるべき事案であると考えます。以下、このフェイクニュースとその関連報道について分析していきたいと思います。(写真はいずれも時事通信社の報道映像をスクリーンショットで引用)



意図的なフェイクニュース

都議選の翌日である2017年7月3日、「ひるおび」は都議選の結果について話題にしました。司会者の恵俊彰氏から都議選の結果に対する見解を質問されたコメンテイターの三雲孝江氏は次のように回答しました。

三雲孝江
やっぱり初登庁の時のあのイメージの悪かった方達がみんな落ちたというか、あのイメージのまんまちょっと来ちゃったんだなと。

恵俊彰
「写真撮らない」って方、落ちちゃったんでしょ。

三雲孝江
落ちました。はい。

このやり取りで出演者が取り上げているのは、2016年8月2日に東京都庁に初登庁した小池百合子東京都知事が、川井重勇東京都議会議長に対して知事就任の挨拶に出向いたときに、マスメディアからリクエストされた写真撮影を川井議長が断ったという事案です。この当時、ワイドショーはこの他愛もないやり取りの映像を異常なまで何度も繰り返し、川井議長を悪魔化すると同時に小池都知事を東京都庁という伏魔殿にたった一人で切り込んだヒロインであるかのように演出しました。

三雲氏の見解は、「都知事との写真撮影を拒否すると、イメージが悪い人間として認定されて都議選に落選する」という理不尽な原理に共感する恐ろしいものであるかと思います。ただ、これは個人の見解であるので表現の自由に守られる発言であると考えます。問題はこの後に展開されたこの件に関連する次のやり取りです。

[映像キャプチャー]

アナウンサー
中心人物となるべき人が落選しているんですね。それがこちら中野区の川井都議会議長。まぁ、この川井議長なんですけれども、去年8月小池知事就任あいさつで握手拒否もあったということなんですけれども、それをごらんいただきましょうか。

ここで画面に映ったのが、都庁内において川井議長に歩み寄る小池都知事の姿です。体の後ろに手を組む川井議長に対して、小池都知事は手を差し出したところで画面が切り替わり、小池都知事はひきつった笑顔を見せながら差し出した手を元に戻しました。すなわち画面を見る限り、小池都知事は握手を拒否されているように見えます。そして報道陣が「記念撮影などを・・・」というリクエストを出すと川井議長は「あなたの要望に応える必要はないんだから」と回答し、記念撮影なしに小池都知事が戻っていく映像が映し出されます。

恵俊彰
ね~、三雲さん、これ印象的でしたもんね。

三雲孝江
ね~、握手くらいすればいいじゃないね~。ご挨拶なんだからね。しっぺ返しですね。

恵俊彰
それだけやっぱり厳しいんですね。今回はね。

田崎史郎
そうですね。だからやっぱりテレビでわりとこう取り上げられてしまった人が次々と落ちてますよね。

恵俊彰
印象的ですものね。

田崎史郎
印象的です。

恵俊彰
それがやっぱ伊藤さんまだ続いてたんですね。この熱が。

伊藤惇夫
だからやっぱり頭の黒いネズミたちが落っこったということですね。

以上のトークは川井議長が小池都知事の握手を拒否したということが前提で進められたものです。印象で都議会選挙が行われることには大きな問題があるかと思いますが、この一連の報道における最大の問題は何かといえば、映し出された映像とは異なり、実際にはこのとき川井議長と小池都知事は丁寧に会釈をかわしながらしっかりと握手していたのです。

小池知事と川井議長

「ひるおび」はこの握手の映像をカットして映像をつなぐことで、まるで川井議長が握手を拒否したような印象映像を造り、「握手拒否もあった」と捏造したのです。番組は映像を編集する際に両者が握手を交わしていたことを把握していたことは自明なので、まさに「ひるおび」は意図的にフェイクニュースを流していたと言えます。

実際に小池都知事と川井議長が握手していたことを知らない視聴者にとってみれば、握手を拒否した川井議長は極悪の頭の黒いネズミであり、わざわざ挨拶に出向いたにも拘らず握手を拒否された小池都知事は可哀想なヒロインであると言えます。ところがこのやり取りはまったくの捏造なのです。当然のことながら、このような捏造報道は放送法で禁止されています。

放送法第二章第四条
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

「ひるおび」の放送は、明らかに放送法第二章第四条の二項と三項に抵触する放送法違反です。ここに強く抗議する次第です。



マスメディア批判はタブー

公共の電波を使ってフェイクニュースを放映するTBSテレビに対して、国民は大いに批判して抗議する権利がありますが、巨大な【第四の権力】に対して個人の抗議では自ずと限界があります。したがって、国民の代表である【国会議員】がこのようなマスメディアの捏造報道について問題視し、改善を要求するのが最も効果的であると考えます。

しかしながら、マスメディアは、【言論の自由】を楯にしてけっして国会議員のマスメディア批判を受け入れません。言論の自由が保障されている中、言論の自由を声高に叫ぶことで論敵に言論抑圧者の印象を植え付ける戦術は【言論の自由の主張 I'm entitled to my opinion / I have a right to my opinion】と呼ばれていますが、まさに日本の一部マスメディアはこの戦術を使って政治家による批判を回避し、堂々と【偏向報道】を続けています。そしてこの番組でも、国会議員によるマスメディア批判を小バカにして嘲笑い悪魔化しています。

[映像キャプチャー]

アナウンサー
さらにマスコミについて問われて二階幹事長、「どういうつもりで記事を書いているのか知らないが、我々はお金を払って買っている。そのことを忘れてはダメだ。落とすなら落としてみろ。マスコミが左右すると思ったら大間違いだ。」という発言もありました。

恵俊彰
大変なことになってまいりました。

コメンテイター
だんだんトランプ大統領みたくなってきましたね。

恵俊彰
ね~、メディア対大統領みたいなそんな感じになってきましたね。

アナウンサー
さらに麻生副総理もマスコミについてこのようなことを発言しています。映像です。

麻生太郎副総理(録画映像)
大事なことはみんな国会議員とか都議会議員というのは言ってりゃいいのと違うの。ここにいるマスコミの人達は言ってるだけだから。責任は何もとらんわけですから、この人たちは。ねぇ、それは事実でしょう。それで、しかも言ってる内容はかなり部分、情報が間違ってる。ねぇ、事実でしょう。間違いありませんよ。俺、書かれてる本人だからよく分かるよ。読んだら、これも違う、これも違うなと思ったら、多分他の人も違うんだよ。そんなものにお金まで払って読むかと。

恵俊彰
だんだん矛先が変わってきましたね。確かに。

田崎史郎
いつもそうなんですけれども、マスコミ批判したっていうこと自体がダメなんですよ。困り果てるとすぐマスコミの批判をしているんですね。でも本来なら自分たちが種をまかなければそういうことにはならなかったわけですよ。

恵俊彰
そこで小泉さんのおっしゃった「自分たちがまいた種なんですよ」は拍手なんですけれども

田崎史郎
これだと失笑買うだけでしょ。

恵俊彰
書いてることが嘘だもんってなったらね。

(中略)
伊藤惇夫
そうですね。フェイクニュースが流行っているからって、あぁいうこと言われるとですね、むしろ反発が強まるし。

マスメディア批判をする二階俊博自民党幹事長と麻生太郎副総理を散々小バカにして批判した「ひるおび」ですが、少なくとも実際にフェイクニュースを流した「ひるおび」に対しては麻生副総理の言葉はすべて当たっていると言えます。また、他者を散々批判するにもかかわらず、マスメディア批判だけは絶対に許容しないというマスメディアの驕りが田崎氏や伊藤氏のコメントからわかります。マスメディアを批判できない社会は、マスメディアが支配する社会と同値です。マスメディアが【悪魔の証明】を首相に求め続け、それを首相が証明できないことを批判する現在の日本の状況は、驕り高ぶるマスメディアが【言論の暴力】を振るう極めて深刻なレベルであると考えます。

そもそもこの番組は、秋葉原で都議選の演説妨害に抗議した安倍晋三自民党総裁を徹底的に批判しています。憲法に神経質なマスメディアが、自民党という政党の言論の自由が侵されている憲法違反の現場を堂々と見過ごすばかりか、違反行為を正当化しているのは許容できません。まさに、違法行為を批判することを言論の暴力で【タブー視】していると言えます。



ポピュリスト=ワイドショー=情報弱者の三位一体

三雲氏の見解によれば、「今回の都議選は小池都知事の初登庁の時のイメージで決まった」とのことです。こんな不条理が真実ならば日本にマトモな政治家は育たず、国は滅びていくかもしれません。しかしながら、残念なことに、都議選の結果を見れば、この三雲氏の見解をけっして否定することはできません。ここで、私達が最も注意すべき点は、小池都知事の初登庁の時に自民党議員に対して悪いイメージを造ったのは、記念撮影を拒否する映像を繰り返し流し、それを徹底的に批判した「ひるおび」に代表されるワイドショーであると言うことです。まさに、ワイドショーによる情報操作・心理操作・倫理操作に見事にハマった可能性がある有権者の投票行動の結果を、有権者の重い意思であるとして今ワイドショーが報道しているのです。

そもそもワイドショーの政治報道が一体どのようなものかと言えば、政策の是非を論理的に問う【争点型フレーム】の報道はほとんど皆無であり、政策を提出している政府関係者の人間性を倫理的に問う【戦略型フレーム】の報道がほとんどであるといえます。もっぱら、伊藤惇夫氏や鈴木哲夫氏のような政局しか語らない政局巷談家が戦略顧問として君臨するワイドショー番組は、ポピュリストの選挙戦略本部そのものであり、視聴者にその戦略ゲームを垣間見させることで、無意識のうちにポピュリスト側に引きこんでいます。

三雲氏の見解が正しいとすれば、今回の小池劇場は、政治家(メディアが最大の味方を公言するポピュリスト)とマスメディア(ワイドショー)と情報弱者(一部のワイドショー視聴者)の【三位一体】が造り上げた茶番に他なりません。民間放送局という私的な情報伝達機関が、情報をそのまま伝達することなしに捏造を行い、一定の政治的方向に大衆を誘導しているのは、マスメディアが危惧する「戦前の軍国主義」と類似する極めて危険な行為であると言えます。

ワイドショーに操作されている情報弱者の一人でも多くの方が、その支配から解放されることを強く希望するところです。

小池知事と川井議長